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農業×web3の真価を問うフェーズ~3年間の実践から見えてきた本質的価値~
2021年半ば、世界でNFTやDAOといったweb3技術への期待が高まる中、私は「農業×web3」という新しい領域に踏み出しました。
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当時は、農産物にNFT(web3技術の一つ)を紐付けて販売すれば付加価値が生まれ、農家の収益向上に直結するのではないか――そんな素朴な期待がありました。
しかし、3年近くの実践を通じて見えてきたのは、まったく異なる景色でした。今回は、農業web3をキーワードに活動するコミュニティ「Metagri研究所」の取り組みから見えてきた、web3技術が農業にもたらす本質的な価値について考察します。
当初の仮説と現実のギャップ
2022年6月、最初のNFTと農業を掛け合わせた実験としてスイカNFTの販売をスタートさせました。
その後、トマト、シャインマスカット、餅つき、イチゴ、マンゴーと、様々な農産物でNFTを発行していきました。
当初の仮説は単純でした:
NFTによって希少性や特別感を演出できる
デジタルの価値を付加することで、農産物の販売価格を上げられる
新しい販路として機能する
しかし、実際に取り組んでみると、NFT完売の難しさや思ったほど単価を引き上げられないなど、現実的な課題に直面することになります。農産物とセットでNFTを提供すること自体は技術的には簡単でしたが、それだけでは本質的な価値は生まれないことが分かってきました。
見えてきた本質的価値
1. コミュニティを通じたイノベーションの土壌作り
最も重要な発見は、web3技術が「イノベーションの土壌」を作り出す手段として機能するということでした。
Metagri研究所のDiscordコミュニティには現在1,000人以上が参加していますが、特筆すべきは参加者の9割が農業従事者以外だという点です。農家はもちろんですが、エンジニア、マーケター、福祉事業所の運営者、塾講師、デザイナー、学生/高校生など、多様なバックグラウンドを持つ人々が、農業の課題解決に関心を持って集まっています。この「異分野との交差」が、従来の農業界では生まれにくかった新しいアイデアや取り組みを生み出す土壌となっています。
2. デジタルアイデンティティによる価値の可視化
もう一つの重要な発見は、web3技術が「農家の活動や取り組みを可視化する手段」として機能するということです。
従来の農業界では、有機農法への取り組みや技術革新への挑戦といった価値ある活動が、適切に評価・認知されにくいという課題がありました。web3技術、特にNFTやトークンによる活動証明は、これらの「見えにくい価値」を可視化し、適切な評価につなげる可能性を持っています。
3. リスキリングプラットフォームとしての機能
予想外だった発見として、web3技術への取り組みが、農家の方々の新技術適応能力を高める「リスキリングプラットフォーム」として機能したことが挙げられます。NFTやDAOといった概念を理解し、実践する過程で、参加者たちは自然と最新のデジタル技術への理解を深めていきました。結果、Metagri研究所で精力的に活動するメンバーは、生成AIやメタバースを率先して活用されています。
Metagri研究所で活動する農家5名が、生成AIの特集記事で日本農業新聞に掲載もいただきました。
課題と今後の展望
web3の現実的な課題
ウォレット作成・管理の煩雑さ
日本におけるweb3普及の遅れ
NFTやDAO活用による収益化モデルの確立の難しさ
将来への期待
公的認証との連携※
有機農法認証
技術者認定
補助金採択状況の記録
環境価値の可視化
カーボンクレジット
持続可能な農業実践の証明
SDGsへの貢献
新世代の農業エコシステム構築
Z世代の価値観との親和性
デジタルネイティブ世代の農業参入促進
グローバルな展開可能性
※公的認証として活用する具体例はブログで詳しく紹介しています。
結論:本質的価値とは何か
3年間の実践を通じて見えてきた「web3×農業」の本質的価値は、「技術そのもの」ではなく、「技術がもたらす新しい関係性の構築」にあります。
異分野の知見を持つ人々との協働
見えない価値の可視化と適切な評価
次世代の農業を担う人材育成の基盤
web3技術は、単なるデジタル化やマーケティングツールではありません。それは、農業という古い産業に新しい可能性を吹き込み、持続可能な未来を築くための「手段」として機能する可能性を秘めています。
Metagri研究所の挑戦は、まだ始まったばかりです。しかし、この3年間で見えてきた可能性は、確実に農業の未来を明るく照らすものだと確信しています。これからも実験と実践を重ねながら、農業界におけるweb3技術の真価を追求していき
ます。そして、その過程で得られた知見を、より多くの方々と共有していければと考えています。
今回も最後までお読みいただきありがとうございます。