山形県西川町がNFTで切り拓く「地方創生」の最前線
皆さんは「NFT」という言葉を耳にしたことがありますか?
NFT(Non-Fungible Token)とは、デジタルデータに発行者や所有者を証明する技術のことです。音楽やゲーム、チケットなどをブロックチェーンに登録し、不正コピーや改ざんを防ぎながら、発行者と所持者を可視化できます。
この先進技術を地方創生に取り入れているのが、山形県西川町(にしかわまち)です。人口約4,700人の小さな町ですが、月山スキー場に年間15万人が訪れ、豊かな自然の魅力を誇る一方、高齢化や人口減少の課題に直面しています。そこで西川町は、自ら収益を生み出す「かせぐ課」を設置し、“デジタル住民票NFT”や公共施設の“命名権NFT”などを次々と発売。2025年2月時点でNFT販売額は約800万円に達し、手数料を差し引いても600万円ほどが町の新しい財源になっています。
「かせぐ課」が生んだNFTプロジェクト
西川町では2024年度に「かせぐ課」を設置し、行政として自ら稼ぐ手段を多角的に模索しています。住民税や交付金といった従来の収入に加え、NFTなどの新技術を活用することで、より柔軟かつ安定的な財政基盤を築くことが狙いです。その中でも注目を集めているのが「デジタル住民票NFT」の発行や、「命名権NFT」「講演チケットNFT」といった大胆な取り組みです。NFT発行での売上は800万円近くに達しており、プラットフォーム手数料20%を差し引いた約600万円が町の新たな収益源となっています。
1. デジタル住民票NFT
2023年に第1回分(1,000枚限定)を1枚1,000円で販売したところ、わずか1分で完売。所有者は「デジタル住民」として町長や町職員が参加するオンラインコミュニティに参加できるうえ、町内温泉を無料で利用できる特典もついています。購入者が実際に西川町へ足を運ぶきっかけづくりとなり、2024年9月末時点で延べ約1,915人が町を訪れるなど、大きな誘客効果を生み出しています。
2. 命名権NFT
さらに、公共施設(公園やカヌーセンターなど)の命名権をオークション形式でNFT化。150万円や130万円といった高額ながらも落札され、税収以外の新たな自主財源を確保する成果を上げています。落札者が付けた名称を看板に掲示することで、SNSなどを通じた話題づくりにもつながりました。
3. 町長・副町長チケットNFT
2024年には、菅野町長が講演を行う権利や、内藤副町長に面談で何でも相談できる権利をチケットNFTとして販売開始。自治体が自ら発行する「転売可能なチケットNFT」は国内初の事例とされ、ゴールド講演チケット(50万円)やスタンダード講演チケット(5万円)、副町長面談チケット(1万円)といった複数の価格帯が用意されています。購入者は期限内に権利を使えば、実際に町長や副町長と直接コミュニケーションを取れるという、他では得られない体験を得ることが可能です。
NFTを活用するメリットとは?
1. 簡単な権利譲渡
紙のチケットと違い、NFTはブロックチェーン上で管理されているため、譲渡や転売がデジタル上で簡単かつ安全に行えます。たとえば、「町長の講演を依頼する予定が合わなくなった」といった場合でも、他の人に権利を売ることができるわけです。
2. 信頼性の高い所有証明
NFTはコピーが難しく、改ざんのリスクを大幅に減らせます。所有履歴がブロックチェーン上に残ることで、「誰がいま権利を持っているのか」が自動的に記録されます。そのため、「偽物チケットが出回る」といったトラブルを避けることができます。
3. 新たな収益モデル
西川町が発行するNFTの売上は、町の財源として計上されます。特に高額NFT(例:講演チケットNFTのゴールド50万円、命名権NFT130万円・150万円など)は数が少なくてもまとまった金額を生み出し、行政サービスに還元が可能です。また、NFTの二次流通が活発になれば、継続的なロイヤリティ収入を得られる可能性もあります。
地方創生とデジタル化の融合
西川町の事例の興味深いポイントは、単なる“お金集め”だけが目的ではないことです。住民票NFTや講演チケットNFTといったプロジェクトを通じて、全国各地、さらには海外からでも西川町に関わる機会を提供しています。実際に温泉に訪れる人が増えたり、西川町の知名度が上がったりすることで、観光消費や移住検討などの波及効果が期待できます。
自治体職員の皆さんが参考にできる点は、「NFTで○○円を稼ぐ」という数字だけではなく、「どうやって外部の人たちとつながり、地域への愛着を育んでもらうか」という視点です。NFTには、購入者がコミュニティに参加したり、イベントの特典を楽しんだりできる仕掛けを組み込みやすい利点があります。オンラインとオフラインを連携させれば、外部の人材や企業と町内のプレイヤーが出会うチャンスが増え、観光だけでなく新たな事業創出にもつながりやすくなります。
自治体初のチケットNFTが示す未来
今回の町長・副町長チケットNFTは、自治体が管理するチケットとしては日本初の事例です。首長レベルの講演や面談をNFT化するのは、まだ他に類を見ない新しい試み。今後、ほかの自治体でも「市長や議員の相談チケット」「自治体主催イベントの優先席NFT」など、さまざまな応用が考えられます。もちろん、NFTはまだ発展途上の技術であり、ブロックチェーンの仕組みやウォレット操作に慣れていない人も少なくありません。西川町の取り組みでは、販売プラットフォームとして「HEXA」を活用し、クレジットカード決済に対応するなど、初心者でも取り組みやすい工夫がなされています。自治体側も住民や購入者に十分な説明をし、トラブルが起きないようにサポート体制を整えることが大切です。
まとめ:NFTが生み出す自治体と外部との“新しい結びつき”
山形県西川町のNFT活用事例は、地方創生とデジタル技術が融合した好例と言えます。税収や交付金だけでは賄いきれない部分をNFT販売で補いつつ、新たな人の流れや地域ファンを作るという一石二鳥の取り組みです。
特に、デジタル住民票や講演チケットNFTといった“リアルな体験・特典”をセットにすることで、オンラインだけにとどまらない現実の経済効果を得ている点が興味深いところです。NFTをどう使うかは自由度が高く、命名権や住民参加型の投票券など多様なアイデアが生まれています。
「ハードルが高そう」「怪しいのでは?」と感じる方もいるかもしれませんが、西川町の事例をじっくり研究すれば、単なるブームではなく持続的な地方創生の一手として十分に可能性を感じられるでしょう。地域の独自の資源や課題とどのように組み合わせれば面白い企画になるのか、ぜひ一歩踏み込んで考えてみてください。
私が運営するコミュニティ「Metagri研究所」では、一次産業や自治体におけるNFT活用を日々実証実験しています。興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にご参加いただけると幸いです。
一緒にNFTを活用した未来の地域づくりを考えてみましょう。
(本記事は、西川町の公式リリースやNFTマーケットプレイスHEXAでの販売情報、各種報道資料などを参考に執筆しました。)
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