農業土木の粋を尽くした謎の水路に迫る
農業農村工学の魅力を伝えるチャンネルをつくりました。
第1号の動画は、とりあえず実験で装備やパソコンに一切お金をかけずに挑戦してみました。
結果は、見てのとおりのカクカク動画ですが、クオリティを気にしていては、いつまでも実行に移さないと思うので、勢いで投稿しました。
動画のクオリティはへっぽこですが、内容は結構面白いと思っているので、それが伝わるよう解説用のnoteを書くことにした次第です。
では、補足と解説をしていきたいと思います。
今回は、熊本県御船町にある、松向水路の紹介をしています。
この松向水路は、集落にある石碑によると第二次世界大戦の戦中から戦前にかけて、集落の山を切り開いて約20haの農地を造成するのにあわせて建設された小さな水路です。
受益面積がそう大きくないこともあり、本当に少しの水を送るだけの小さな水路なのですが、サイホンの原理や、水路橋、水路トンネルといった農業土木の粋を尽くして作られています。
それもそのはず、この造成された農地は小高い丘陵地に位置しており、水源が全くないのです。
水は延々と山々を縫うように水路を流れて、この棚田に流れ着くのですが、水源は数キロも離れた隣の山都町にあります。
水源まではただ遠いだけでなく、山もあれば谷もあるので、その部分は水路橋や水路トンネル、そしてサイホンで水を届けることになります。
そのなかで特にすごいのが、今回紹介したサイホンです(ヘッダーの画像を参照のこと)。
最初、この水路を訪れたときは渇水期で水がありませんでした。水路の上流に向かって歩いてきたのに、突然下向きのとても長い暗渠が現れたもので、その時はとても混乱しました。
あとで、地元出身の知り合いに詳しい話を聞いて、それがサイホンだと分かったのですが、そこまでして水を送り、米を作ろうとした人々の当時の苦労や、事業にかける思いはいかばかりであっただろうと感慨深く思ったものだ(灌漑だけに(笑))。
水路は、受益地の近づくと枝分かれし、また小さなサイホンを経て撮影スタート地点の棚田にたどり着きます。
この水路、私たちが知るきっかけになったのは、熊本地震後の調査の時でした。熊本地震による落石や、崩落により長らく通水不可能だったのですが、ようやく4年の歳月をかけて復活したわけです。
※被災時の様子と、調査時のずんだれた私の様子は熊本県のアーカイブに保存されています。
https://www.kumamoto-archive.jp/post/58-99991jl000078b
周辺は、高齢化の進む中山間地域で、耕作の条件も平地に比べると非常に悪いと言わざるを得ません。復旧を待つ間、かなり農地の荒廃が進むのではないかと心配していたのですが、美しい棚田は4年前と同じ姿をとどめていました。
農地の近くにある集落には、水路の建設を記念した石碑が立てられており、建設に至る苦労などが刻まれています。地域の人たちの農地と水路への思い入れが、営農再開へとつながったのかなと、碑文を読んでまた感慨に浸るのでした(灌漑だけに(笑))。
さて、ノリと勢いで始めたこのチャンネル、とりあえずとうどうが飽きるまではカクカク動画を上げていくことになると思う。