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プッシャーの責任病巣を脳画像から探す!

どうも、脳卒中の歩行再建を目指す中上です!

こちらnoteでは、臨床での悩みや疑問に関して学んだことをアウトプットしていきます!

前回は非麻痺側で押すプッシャー症状(以下:Pushing)がなぜ起こるのかという部分を身体軸という視点からまとめてみました!

プッシャーに対する身体軸に関する記事はこちら!

今回は、Pushingを呈する脳卒中患者では脳のどの部位が問題になるのか?その責任病巣についてまとめていきます!

*臨床経験での解釈なども含めて記載しています。正確な情報発信に努めていますが、より正確な情報を詳しく知りたい方は原著論文を是非お読みください。

そもそもPushingにおいて脳機能を知る意味とは?

そもそもPushingとは大きく3つの問題点が生じることが報告されています。

① 姿勢傾斜
② 押す現象
③ 修正への抵抗

脳卒中患者において、なぜ姿勢の崩れだけでなく、非麻痺側での押す現象が生じるのかというと、身体軸のズレの認識が大きな要因となります。

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では、実際に我々は普段どのように身体軸を把握しているのか?というと、大きく3つの感覚情報(前庭感覚・体性感覚・視覚)の統合によって身体軸の認識がなされています。

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では、Pushingの方がなぜこの身体軸のズレが生じるのかを考えた場合、身体軸の認識に関わる脳機能部位がPushingの責任病巣になると理解できます。

そして、それらを理解することは病態把握だけではなく、脳のどの部位がどういった役割を持っているのかを考えることで他の症状の評価や治療にも応用することが可能です。

つまりPushingをみた際には身体機能としての姿勢の崩れや、非麻痺側で押すことだけをみるのではなく、身体軸をどのように認識しているのかの脳機能を絡めて考えていくことが重要となるのです。

それでは実際にPushingを呈する脳卒中患者において脳のどの部位に問題が生じるのかをみていきます。

Pushingにおける脳の責任病巣とは?

脳のどの部位がPushingの責任病巣になるのかは、これまで多くの報告がなされてきました1)。

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しかし、上記を見た際に、かなりの多くの脳部位でpushingを呈するケースが存在し、本当の責任病巣を把握するのが難しいのも実際です。

そこで、それらを解明すべく、同じような脳部位の損傷においてPushingがでるケース・でないケースを比べ、それぞれの病変を差し引きすることで、Pushingの責任病巣をみる解析方法があります。

Karnathら2)は左右半球例を用いて、Pushingのあり・なしを見た際に、Pushingを生じる群では視床の後外側部に病変が集中し、逆にPushingが生じない群は視床の前内側部の領域に病変が集中していたことを報告しています。

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さらに、病巣が大きく、視床外側に加え上部の白質まで病変が及んでいるケースにその傾向が強くみられていました。

その他には、Johannsenら3)は、視床損傷がない症例におけるPushingの責任病巣として、島葉の後部中心後回の皮質下、上側頭回の一部、下頭頂小葉の一部の損傷が特異的な病巣であったと報告しています。

これらの領域を考えた場合、Pushingの原因となる身体軸のズレに重要な感覚入力部位(視床や一次体性感覚野、頭頂葉や島皮質)の障害がPushingに大きな影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。

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これらの報告から、視床の後外側部、島皮質身体認識における軸の把握に重要な部位だと言えます。

視床後外側部(VPL核)は、一次体性感覚野(3、1、2野)、二次体性感覚野(頭頂弁蓋部)、さらには島皮質との神経ネットワークがあることからも感覚情報の処理とpushingの関係性があることが理解できます。

つまり、Pushingを呈するケースを見た際には、これら感覚入力に関わる脳部位がどのように損傷を受けているのか?出血なら血腫が、梗塞ならどの血管領域が障害を受けているかを、実際の脳画像と照らし合わせてみる必要があるということです。

プッシャーに関する脳画像の見方についてはこちら!

では、Pushingに関する脳機能はそれだけみていけば良いかというと、実はその他にもみるべき部位があります。

プッシャーは感覚入力による問題のみか?

実際のPushing症例を見た際に、必ずしも上記部位の損傷(視床や島皮質)に現局されるかというと、そうでないケースも臨床場面ではみられます。

Abeら1)は診断名からPushingを呈するケースを5つの型に分類しました。

ここでは前述した様々な報告を示唆する1〜4型(感覚機能を含む)と、運動機能を含む5型があったとしています。

1型:中大脳動脈(MCA)領域梗塞
2型:視床病変
3型:島後部まで及ぶ被殻出血
4型:広範皮質下出血
5型:脳室拡大・脳萎縮を伴う内包・放線冠梗塞)

ここで重要なことは、運動機能に関与する5型(脳室拡大・脳萎縮を伴う内包・放線冠梗塞)を考えた場合に、Pushingの原因が身体軸形成の感覚入力部以外に、運動麻痺などに関わる出力部の損傷にも身体軸の形成やそれらを制御する機能になんらかの影響を及ぼすことが考えられます。

運動麻痺とPushing出現には関連性があることも報告4)され、実際の臨床場面でも運動麻痺を呈するケースにおいてPushingが難渋することをよく経験します。

さらに、阿部ら5)はこのPushingの予後をみた際に、回復が遅延したケースの特徴として、前頭白質病変との関連性があり、その部位は皮質脊髄路(運動麻痺に関わる神経経路)と上縦束にあると報告しました。

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以上のことを踏まえると、Pushingを呈するケースを見た際には、感覚機能のみならず運動機能を含めた、それぞれの脳機能を把握した上で、なぜそのケースにおいてpushingが生じているかをリーズニングするスキルが重要となってくるのです。

では、これらPushingを呈するケースにおいて臨床の中でどういった評価や治療を選択していくべきかについては、下記セミナーでまとめていますので、是非そちらもご覧ください!

pushingに関する【評価セミナー】復習動画はこちら!

pushingに関する【治療セミナー】復習動画はこちら!

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引用・参考文献

1)阿部浩明:Contraversive pushingと脳画像情報.PTジャーナル44:749-756,2010

2)Karnath HO,et al:Posterior thalamic hemorrhage induces “pusher syndrome”.Neurology 64:1014-1019,2005

3)Johannsen L ,et al: “Pusher syndrome” following cortical lesions that spare the thalamus.
J Neurol 253 :455-463,2006

4)Abe H,et al:Prevalence and length of recovery of pusher syndrome based on cerebral hemispheric lesion side in patients with acute stroke.Stroke 43:1654-1656,2012

5)Abe H,et al:Delay in pusher syndrome recovery is related to frontal white matter lesions.Int J Neurol Neurother 4:065,2017


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