歩行分析に必要な床反力の考え方
どうも!脳卒中の歩行再建を目指す理学療法士の中上です!
・なぜ人がバランスを崩さず歩き出すことができるのに、脳卒中患者は姿勢が崩れるのか?
・なぜ脳卒中患者は歩くスピードが早くならないのか?
・なぜ方向転換の際に左右への動揺が強くなるのか?
これら問題を【下肢ないし体幹の支持性低下】と捉え、体重移動の練習やバランス機能の練習をすることはありませんか?
そして実際に治療介入として、股関節や体幹などの中枢部の筋活動に着目して治療をすることは臨床場面でも多くあると思います。
2019年には体幹治療のシステマティックレビューにおいても歩行速度の増加やバランス機能向上への影響は多数報告されています1)。
支持性という観点からみた際にはこれら機能を考慮する必要がありますが、果たしてそれだけで十分でしょうか?
実はこれら機能と合わせて重要なのが、重心を制御するために必要な床反力の理解になります。
今回は歩行分析シリーズとして『歩行における床反力の特徴』について重心コントロールに必要な機能についてまとめていきます。
【歩行分析シリーズ】
・重心位置を把握する
・重心位置を具体的にみるポイント
・重心コントロールに必要な感覚入力
これらを理解することはADL場面などでの歩行の安定性(転倒予防に対して)にも関与するため、是非最後までお読みください。
そもそも床反力とは?
床反力とは読んで字の如く、床から生じる身体に対する反力(外力)です。
床反力は接地している身体から生じ、立位や歩行場面では接地面である足部から生じる床反力の合成成分として表されます。
その際に臨床的視点としてはこの合成成分が前足部に強いのか、踵などの後足部に強いのか、それらによって関節に加わる力が異なるため、大まかにでも把握することは非常に重要となります。
私はこれらを把握するためには例えばキッキング動作などで、どの部位に力が入りやすいか(底屈位でのキッキングなのか、しっかり背屈位をキープしたまま踵部でプッシュできるかなど)をみることが多いです。
これらはバイオメカニクスの研究などでも、どの部位に力がはいるかでその際に優位に働く筋活動が変化することも報告されています2)。
そして、重要なことはこの床反力によって、重力を常に受ける我々の身体重心は崩れることなく制御されることが可能となるのです。
そして、歩行という場面においてはこの床反力が常に一定ではなく、上下前後左右と絶えず変化することが床反力計などからも測定され、臨床場面では適切に把握することは非常に困難になります。
しかし、これら床反力が歩行場面においてどのように働き、それによって重心制御に関与しているかを理解することは、特に脳卒中患者の歩行機能を考える上でも非常に重要な要素になってきます。
では、歩行時に床反力はどのように変化するのか、具体的にみていきましょう!
歩行時の床反力の特徴
歩行時の床反力を考える際にみるべきポイントはどの方向の力かを見ることです。
床反力は前述したとおり上下左右前後と多数の方向から生じ、結果的にはひとつの合成成分として表されます。
特に歩行などでは床反力計での測定が主となり、矢状面からみた床反力の上下成分をみることが非常に多いと思います。
これら上下成分は立脚期の安定性や遊脚側の下肢運動にも大きな影響を与えるため必ず考える必要がありますが、それらは歩行セミナーの中で詳しくお伝えしていきたいと思います。
今回は主に水平面としての左右の床反力成分を考えていきたいと思います。
1.立脚初期の床反力外側成分
立脚初期である踵接地に伴い、床反力は側方成分としてまず外側方向へ作用します。
これは、踵接地にまず踵骨の外側が接地し、重心が側方へ移動することからもイメージはつきやすいと思います。
立脚初期では、支持脚下肢の接地に伴い身体重心もそのまま外側に倒れることになり、床反力成分はそれを押し返すというよりはそのまま外に流れるということがわかります。
この外側成分に対して踵接地に伴う筋活動としては、大殿筋上部線維が働き、股関節外旋位を遠心的にキープし、立脚初期に起こる重心下降や側方動揺に対応することになります。
多くの片麻痺患者さんはこの時期の外側成分に対して、大殿筋や股関節での制御が困難となり、骨盤が側方へ崩れたり、重心が下降することで股関節や体幹が屈曲方向に崩れることを多く経験します。
それに対して、脳卒中患者の多くは下肢を過伸展で接地させ、側方動揺に対して反対に押し返す力を強めるケースがあるのも特徴の一つです。
そうすることで麻痺側立脚期に重心移行がスムーズに行われず、結果立脚期の安定性に繋がらないこともあるため、これら接地時の床反力成分を理解しておくことは非常に重要な要素になります。
2.立脚中期に向けての床反力内側成分
立脚初期以降は、後足部(踵骨の形状)の特性よりヒールロッカー機構により荷重応答期に向けて足部は底屈します。
重要なのはその際に距骨下関節が回内し、荷重が内側方向へ偏位します。
それに伴い床反力も内側方向へ力をかえ、常に内向きの力を働かせながら、重心を前方へと移動させていきます。
この時期は特に中殿筋や小殿筋などが作用することで、骨盤の安定下および上方への床反力増大により重心を上方へ持ち上げる力に働きます。
※大殿筋から中殿筋へ筋の働きの作用が変換する相になります。
3.立脚後期で再び床反力内側成分が上昇
その後は、反対側の立脚期への重心移動に必要な立脚後期に移行し、さらに床反力の内側成分を働かせる必要があります。
この時期は特に立脚側の前足部荷重(足趾伸展位の可動域や足部底屈作用によって)によるフォアフットロッカー機構が重要となり、それによって内側成分を引き出します。
方向転換時にみるべき床反力のポイント
上記は直進歩行における床反力成分になるのですが、実際のADL場面では直進歩行だけでなく、方向転換を有する歩行場面も多くあります。
では、その方向転換時には床反力はどうなるのでしょうか?
方向転換という要素を考えた場合、足を出すステップ位置は直進歩行に比べ変化します。
特に方向転換においては、スピンという形の足をクロスさせる形での支持する場面が多くあります。
では、実際にその際の床反力成分はどうなるのかをみていくと、
・軸足側:内側方向
・遊脚側:外側方向
の床反力が生じることになります。
そして、実際にこれら床反力の変化はそれに伴う身体重心を制御する際の筋活動にも影響を及ぼすため、床反力がどういった方向の力として作用するかを臨床場面では考慮する必要があります。
これら方向転換におけるバイオメカニクス的要素やそれらを制御する脳機能はADLでの歩行機能獲得を考える上では非常に重要な要素となります。
歩行セミナーではシリーズ化を通して歩行における知識を得ることと、実際にそこからどう臨床応用していくべきかの治療のポイントをお伝えしています。
次回は臨床場面でも評価指標にあげられるTUG(Time up and go test)とこれら床反力などの関係性から、歩行の安定性や速度増加のための治療介入について実施します。
興味がある方は下記よりご参加ください(セミナー参加ができない場合も動画配信で視聴可能)
引用・参考文献
1)Van Criekinge et al:The effectiveness of trunk training on trunk control, sitting and standing balance and mobility post-stroke: a systematic review and meta-analysis.Clin Rehabil. 2019 33(6):992-1002.
2)熊本 水賴:二関節筋 運動制御とリハビリテーション.医学書院.2008
3)C John,et al:Contributions of muscles to mediolateral ground reaction force over a range of walking speeds.J Bio2012 45(14):2438–2443.
4)Michael S Orendurff et al:The Kinematics and Kinetics of Turning: Limb Asymmetries Associated With Walking a Circular Path. Gait Posture. 2006 23(1):106-11.