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大腿転子部骨折術後のレントゲンとそこから考えるリハビリ Part②

おはようございます(^ ^)

本日も臨床BATONへお越し頂き、ありがとうございます。

245日目を担当するのは理学療法士のゆーすけです。


大腿転子部骨折術後で跛行を認めるが、何をどう評価してどう治療していいかわからない人

「そもそも術後になぜ跛行が起こるの…。跛行を認めた時に歩行訓練のみの治療となってしまう…。疼痛は治ってきたのに跛行が変わらないのはなぜ…。」

こういった疑問にお答えします。


★はじめに

早期歩行を開始したとしても、即ADL上で自立することは困難で、必要な距離を必要な時間で安全に移動できる状態になることが求められます。開始当初は歩行器やバギーなどの歩行補助具を使用してでも移動が可能となったとしても、病院から環境が変わるにあたり歩行補助具の使用がなくても移動自立することが求められるようになります。大腿骨転子部骨折術後の跛行としてドゥシェンヌ歩行やトレンデレンブルグ歩行が臨床の中でよく遭遇する現象だと思います。

トレンデレンブルグ歩行は患側立脚期に反対側に骨盤が下がる現象を言い、主に中臀筋の筋力低下と言われています。

ドゥシェンヌ歩行は患側立脚期に体幹を患側に傾ける現象を言い、中臀筋筋力からくるトレンデレンブルグ歩行の代償と言われています。

私自身、臨床の中で感じるのはドゥシェンヌ歩行において疼痛を回避していることもしばしば多いと感じています。早期歩行を開始した際にドゥシェンヌ歩行を呈した患者様で疼痛の程度が比較的強く、手術侵襲として外側の筋・筋膜の伸張をなるべく避けていることが考えられます。

一方でトレンデレンブルグ歩行は術後早期よりもある程度経過した患者様で多い印象がありますが、臨床の中では術後早期よりトレンデレンブルグ歩行を呈するケースも遭遇します。


★術後早期よりトレンデレンブルグ歩行を呈する症例様って?

まず術後早期よりトレンデレンブルグ歩行を呈する症例様は私の中で大きく2つに分類されます。一つ目は疼痛をあまり訴えない症例様、二つ目は条件を変えていくと疼痛を訴える症例様です。疼痛をあまり訴えない症例様は炎症が落ち着いてくると疼痛を訴えないようになることが多く、認知症を呈する症例様が多い印象を受けます。二つ目の条件を変えると疼痛を訴える症例様というのは、平行棒や歩行器・バギー等の両上肢支持下での歩行ではトレンデレンブルグ歩行を呈するも疼痛を訴えませんが、平行棒や手すりを片手支持に変えたり、杖歩行にすると疼痛を訴えることがあります。このような症例様は両手支持下では歩行が可能でも片手支持になると歩行困難となるため、病棟内での移動はできてもいざ自宅へ退院する為に杖歩行を獲得しようとすると困難になります。

治療展開として中臀筋の筋力トレーニングや立位での荷重訓練を行うことでトレンデレンブルグ歩行の改善に努めることが目標になると思いますが、そもそもなぜ条件を変えた際に疼痛が発生するのかを考えていきたいと思います。

そもそもトレンデレンブルグ歩行とは患側立脚期に反対側に骨盤が下がる現象を言います。つまり、患側下肢で支持できているできていないにも関わらず患側下肢に荷重が乗っている状態です。術後早期では疼痛が比較的強いため、患側下肢に荷重を乗せないように歩行される方が多いですがこのような症例様では荷重を乗せること自体への抵抗はありません。

ここからわかることは両手支持から片手支持に変えることで疼痛が発生する要因として荷重量ではないということです。

では疼痛部位はどこかということになりますが、訴えとして多いのは術創部付近になります。術創部付近というと骨折部ではないかという転位への危惧が浮かぶと思いますので、疼痛部位をもう少し詳しく見ていきます。私自身は「大転子と腸骨稜の間」、「大転子上」、「大転子より遠位」の3パートで見ていきます。

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ここで注意したいのが大転子上での疼痛がある場合は転位の可能性が考えられるため、荷重開始後のレントゲンを確認していきます。

この3パートの中で私自身が一番多く臨床で遭遇するケースは「大転子と腸骨稜の間」になります。そしてその中でも大転子の直上であることが多いです。大転子上と大転子直上では全然違うものとなってきます。大転子上であれば転位のリスクを考えますが、大転子直上では筋組織になる為転位のリスクを考えません。しかしこの二つの部位は隣接していることから、鑑別していないと単に術創部付近の疼痛=リスクと捉えて、術後早期の歩行では積極的な荷重を控えるような判断になってしまいます。まずは疼痛部位を3パートの中から明確にしていくことが評価として大事になります。

では、大転子直上に疼痛が発生する場合はどんなことが考えられるのかについて考えていきます。

大転子直上では中臀筋と小臀筋があります。小臀筋は中臀筋の深部に位置して中臀筋に覆われています。小臀筋は大転子の前方に停止し、中臀筋は大転子の後方に停止しています。大転子直上で疼痛が発生しているということは、この両筋のどちらかもしくはどちらにも起因している為大転子直上の前方・後方で圧痛があるかを確認していきます。

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このような症例様では股関節の回旋・内転方向への可動性が低下しています。よくあるケースは伸展-5°で軽度外旋位で固定されています。そのような状態では中臀筋や小臀筋の長さ調節が行えておらず、緊張が高まっています。筋肉が常に短縮位にあることで循環不全から疼痛が発生していると考えます。このようなケースでは身長性が低下しているため他動的に股関節を内転方向へ動かすと強い抵抗を示します。

ここで話を両手支持から片手支持に変えた際の疼痛に戻しますと、片手支持になると患側下肢に荷重がよりかかると共に中臀筋や小臀筋は強制的に身長されるような刺激が入ることで疼痛は発生していると考えます。


★リハビリ展開

そもそも、トレンデレンブルグ歩行は歩行の中でどの時期に起こる問題かというと荷重応答期になります。荷重応答期は荷重を受け継いで重心を高く持ち上げていくフェーズとなりますので、そのタイミングで骨盤が反対側に下がらないように中臀筋や小臀筋が筋活動を起こせる状態になっている必要があります。中臀筋や小臀筋の身長性が低下していると、筋発揮が困難であることは言うまでもないのでまずは治療展開として身長性を獲得していくことが最優先となります。治療ポジションとしては側臥位を選択します。このようなケースでは股関節は軽度屈曲・外転・外旋していて、最終的には内転方向への可動性、回旋の自由度、立脚後期での股関節伸展角度を獲得したい為です。まずは大腿部の重みを介助しながら内転方向へのストレッチを加えていきます。緊張が高まっているため身長速度が速いと収縮を招いてしまいます。内転が0°〜5°に達すると次に内旋方向へのストレッチを加えていきます。つま先はベッド方向、踵は天井方向を向くようにストレッチを加えるイメージです。この二つが獲得されると次はそのポジションで自動運動での内外転・回旋運動を行います。

この治療展開の中で中臀筋・小臀筋の長さが得られます。この展開を抜きにして外転トレーニングや荷重訓練を行ってもなかなか疼痛が除去できず、筋力も向上してきません。まずは長さを出していくことで、筋肉自体の循環も改善し片手支持した際の疼痛が除去されていきます。

そのさきに始めて杖歩行をトライしていくことがADL向上に繋がると考えています。


★さいごに

大腿骨転子部骨折患者様の術後早期の歩行では疼痛を伴った異常歩行を呈することが多く、積極的に荷重していいものか悩むことや、荷重をためらって歩行獲得が遅れることがあるのではないでしょうか。大腿骨転子部骨折は高齢者での受傷が多く、また高齢者はベッドや車椅子生活が長ければ長いほど、歩行再獲得が困難になることも事実です。

症例様によって疼痛や異常歩行の原因は異なりますがレントゲンをみて、疼痛部位の確認と筋発揮状態を整理していくことで治療展開が明確になり歩行の獲得に繋がると考えています。

大腿骨転子部骨折術後の異常歩行を呈する患者様に悩む皆様の臨床に少しでも繋がれば幸いです。

最後までお読み頂きありがとうございました。

次回の臨床BATONは、橋本一平さんです!

今回のテーマは「家に帰りたいを叶える為に必要動作を考える 〜坂道動作を見るために必要なポイント 基礎編〜」です。皆さんお楽しみに!それでは、橋本一平さんお願いします!







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