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要介護・廃用症候群を考える⑤ フレイルの特徴と予防について考える
本日も「臨床BATON」にお越しいただきありがとうございます!
230日目を担当します、ミッキーです。よろしくお願いします。
7月になり、梅雨から暑い季節に移り変わっていくところですが、体調には気を付けて今日も患者様のリハビリを行っていきましょう!
〇はじめに
僕がフレイルを知ったきっかけは恥ずかしながら2019年秋に来た実習生からでした(当時は新型コロナウィルスなんてなかったなあ…としみじみ思い出されます…)。
実習生のひとつ前の実習先がフレイルについて力を入れて取り組んでいた病院だったようです。そこで学んで見学記録に書いていました。それを添削しているときに「フレイル?」と感じたのを覚えています。
僕の勤めている病院は生活期なので様々な疾患からフレイル、要介護、廃用症候群となってしまう患者様を多く見てきました。
その点から皆様にフレイルについて深く知っていただき、患者様のリハビリに役立てていただけたらと思い、今回の記事を書くことにしました。
〇フレイルとは
フレイルの定義は以下のようなものです。
「加齢に伴う症候群(老年症候群)として多臓器にわたる生理的機能低下やホメオスタシス(恒常性)低下、身体活動性、健康状態を維持するためのエネルギー予備脳の欠乏を基盤として種々のストレスに対して身体機能障害や健康障害を起こしやすい状態」を指すことが一般的である。
葛谷雅文:老年医学におけるSarcopenia&Frailtyの重要性.日老医誌 46 : 279―285, 2009.
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葛谷雅文:老年医学におけるSarcopenia&Frailtyの重要性.日老医誌 46 : 279―285, 2009.より改変
ここからフレイルとは健康と要介護の間の状態であり、要介護の手前であることがわかります。
また、フレイルは3つの面があると考えられています。
3つの面とは身体的フレイル、心理・精神的フレイル、社会的フレイルの概念です。
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西原恵司,荒井秀典,健康長寿社会におけるフレイルの考え方とその意義,予防医学,第60号,2019,1,9-13
この点からフレイルは身体的、心理・精神的、社会的な視点を持ったより広い考えであることがわかります。
〇なぜ予防する必要があるのか?
ここでは医療・介護の視点と患者様の視点からお伝えします。
<医療・介護の視点>
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医療・介護の視点からは医療費・介護費の減少というものがあると思います。
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社会保障費はこのように大きな割合を占めており、なるべくフレイル・要介護にならずに長く健康で過ごしてほしい。また、要介護の一歩手前であるフレイルになっても要介護に進まずに健康に戻ってほしいという視点があると思います。
このようにフレイル・要介護にならないように、要介護が進まないよう、廃用症候群にならないように取り組んでいるところがあります。
<患者様の視点>
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患者様にも、もちろん医療費・介護費を抑えて生活しようという気持ちはあるでしょうが、長く健康に暮らしたいという視点が大きいのではないでしょうか。
高齢になっても充実した生活を送りたい。今後も長く自分のことは自分で行えるようにしたいという視点は多くの人が思っているものだと思います。
〇心理・精神的フレイルと社会的フレイルとは
先にこちら↓でもお伝えしたように
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フレイルには多面性があります。
その中からここでは心理・精神的フレイルと社会的フレイルについてお伝えします。
身体的フレイルのうちの運動器障害の問題に関しては過去にサルコペニアとロコモについて書いた僕の記事にもあるので興味があれば読んでください。
(別途100円かかりますがご了承ください)
低栄養についての記事は過去にこちらの記事がありますのでご参照ください。
(別途100円かかりますがご了承ください)
〇心理・精神的フレイル、社会的フレイルとは
心理・精神的フレイル、社会的フレイルについては明確な定義、評価基準はまだ確立されていないようでした。
フレイルの心理・精神的要因では上記に挙げたように軽度認知障害(MCI)、認知症、うつといった症状があたることが多く、社会的要因では独居、閉じこもりといった状況があたります。
心理・精神的要因や社会的要因はフレイルの改善に重要であることはわかっていても定義や評価が難しいようです。
言葉や数字ではあてはめにくいですが医療職としては経験から分かる点も多いのかなと感じます。
MCIや認知症がある方が今まで興味のあったことや趣味に対して興味を失ってしまうこと、そうすることで社会的なつながりや友人との付き合いが減ってしまって閉じこもりがちになってしまう。
パートナーが亡くなって独居になった方が閉じこもりがちの生活になり、MCIや認知症になってしまった、ということも少なからずあることでしょう(男性に多い?)。
また、精神・心理的要因や社会的要因は身体的要因にも関わってきます。
認知症のある患者様が閉じこもりがちになると動く機会が少なくなり、筋肉量の低下(サルコペニア)や持久性の低下といった身体的な問題が起こることがあると思います。身体的な要因が関わることによってより精神・心理的要因や、社会的要因が悪化することもあると思います。
そのように身体的要因、精神・心理的要因、社会的要因は関わり合っています。
長くなりましたが評価・予防方法について以下でお伝えしていきます。
〇評価方法
フレイルに対する統一した評価基準はないためにここでは日本版フレイル基準を紹介します。
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フレイルの評価基準の5つの項目のうち、3項目以上該当した場合をフレイル、1~2項目該当した場合を前フレイル(プレフレイル)、該当項目が0の場合は健常となります
しかし2と3は主観的なものであり、少しわかりにくい印象です。
そのためここではフレイルチェックを紹介したいと思います。
①指輪っかテスト
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指輪っかテストは、フレイルに影響を及ぼす状態である「サルコペニア」の危険度を測るテストです。両手の人差し指と人差し指、親指と親指をそれぞれ結んで輪っかを作り、ふくらはぎの一番太いところを囲んで診断します。
囲めない=サルコペニアの危険度が低い
ちょうど囲める=サルコペニアの危険度が普通
輪っかに隙間ができる=サルコペニアの危険度が高い
②イレブンチェック
身体的、心理・精神的、社会的の3つの面(栄養、口腔、運動、社会性、うつ、認知面など)を評価できる11の質問からなっています。
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このようなテストがあり、簡単に評価ができるようになっているので評価してみて下さい。
〇予防方法
最後に予防方法についてお伝えします。
⑴たんぱく質の摂取と運動
日本人高齢者の平均蛋白質摂取量は 0.8 g/kg/日程度とされているが,サルコペニアがある場合には 1.5 g/kg/日程度の蛋白摂取が必要とされる.
荒井秀典:フレイルの意義, 2014,日老医誌, 51,497-501
(皆さんご存じかもしれませんが)この2つは筋力を保つのに必要です。
筋肉を作るための栄養であるたんぱく質の摂取が少なければ運動をしても筋力が保てません。逆に運動が少なければたんぱく質の摂取をできていても筋力が保てません。
2つはどちらが欠けても身体的なフレイルの端緒となってしまいます。
運動の方法に関しては上記の4月と5月の記事で詳しくお伝えしています。
⑵持病、慢性疾患の管理
持病の中でも高血圧、糖尿病といった生活習慣病は将来、脳卒中や糖尿病が悪化することでの機能低下を招くことがあります。そうしたものがあると身体的、ひいては精神・心理的要因への影響も起こります。健康であることがフレイルの予防につながります。
⑶認知機能低下を含む精神・心理面への対応、社会的つながりを持つこと。
認知機能が低下するとこれまでの人間関係の維持が難しくなる、運動の機会が減ってくるということも考えられます。認知機能が低下すると周囲の手助けや介護が必要になるため身体機能が問題なくても要介護となることがあります。
以下のようなこともあるため注意が必要です。
近年,認知症に至らない程度の軽度の認知障害と身体的フレイルが合併した状態をコグニティブ・フレイルと呼び,単独のフレイルの状態に比べ,より認知症や要介護になりやすい可能性が指摘されている.
神﨑恒一:認知症とサルコペニア・フレイル,日本内科学雑誌,107巻臨時増刊号,105-106
また、趣味の活動や、スポーツ、ボランティア活動といった社会的活動(いわゆる横の関係)をすることで人との関わりを保つことが重要とされています。より活動的な場合には町内会や勤め先の企業や業種主催する団体への参加や宗教組織の集まりの参加を続けることで身体的要因、心理・精神的要因にもより良い影響があります。
また、市や街では健康セミナーなど社会的関わりを保てる活動が多く行われているのでそういった情報を知っておいて紹介するのもいいかもしれません。
このように身体的要因、心理・精神的要因、社会的要因はつながっていて相互に影響し合うことでフレイルの予防につながっていくので生活期のリハビリをする際には特に重要です。
以上で今月のブログを終わります。
次回は小徹さんの「回復期リハビリ病棟について」です。
臨床BATONどうぞ!
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