10分でわかる胚細胞性腫瘍 germ cell tumor
ポイント
胚細胞性腫瘍において、とにかく大切なことは、各組織型の特徴を捉えて、どのように組織診断するかである。70%を占めるジャーミノーマは放射線が効きやすく予後が良いが、他の組織型(NGGCT)は症例数が少なく標準的治療は未だ確立していない。
発生
始原生殖細胞に由来すると考えられている腫瘍。
本来なら胎生期に生殖堤に達して性腺原基を形成する始原生殖細胞が、何らかの遊走異常により脳へ達して腫瘍化したとする説が有力だが、脳のES細胞から発生したとする説もある。
分類
ジャーミノーマ(germinoma)
奇形腫(成熟・未熟)(teratoma)
絨毛癌(choriocarcinoma)
卵黄嚢腫瘍(yolk sac tumor)
胎児性癌(embryonal carcinoma)
混在することもある。約70%がジャーミノーマで、他は10%以下
疫学
欧米より東アジアに多い
原発性脳腫瘍の2.7%、小児脳腫瘍の15.3% (日本 脳腫瘍全国集計)
10代(診断年齢中央値は15-19歳)、男性に多い
松果体部に発生するジャーミノーマはほぼ男児
女児に発生するジャーミノーマは視床下部・下垂体後葉に多い
症状
松果体部→中脳水道閉塞→水頭症→頭蓋内圧亢進症状
松果体部→中脳四丘体の圧迫/浸潤→上方注視麻痺
視床下部・神経下垂体→視力視野障害やホルモン分泌障害 (80-90%で尿崩症)
画像
80%以上が視床下部・下垂体後葉と松果体。基底核にも。
画像診断と組織型は関連しにくい
ジャーミノーマであれば脳血管撮影の放射線被曝でも著しく縮小してしまう
診断
まず血清もしくは髄液腫瘍マーカーの測定(AFP、 HCG、β-HCG) (推奨度1A)
基準値の国際的なコンセンサスはなく、施設・論文により異なる
その後、生検術±水頭症治療(脳室ドレナージ術または内視鏡的第三脳室開窓術)
診断確定のためには病理組織による診断を提案する。(推奨度2C)
病理診断
<ジャーミノーマ>
細胞密度の高い腫瘍、敷石状に配列する大型腫瘍細胞と間質に多数浸潤する小型炎症細胞 = two cell pattern
腫瘍細胞は、大型核と淡明な細胞質をもつ。大きな核小体が見える。細胞質はグリコーゲンが豊富でPAS染色陽性。
免疫組織学的には、placental alkaline phosphatase(PLAP), c-kit, podoplanin, Oct 4, NANOG陽性
<胎児性癌>
大型の上皮性細胞がシート状、索状、腺管状に増殖。核異型が強い
Cytokeratin, CD30, Oct4, PLAPが陽性
<絨毛癌>
出血を伴いやすい腫瘍
βHCG, cytokeratin, EMAが陽性
<奇形腫>
胎児期の三胚葉成分からなる腫瘍でしばしば嚢胞を伴う
皮膚、気管支、軟骨、骨、脂肪組織、平滑筋組織、中枢神経組織など 無秩序に混在
未熟奇形腫は未熟な組織成分が含まれる
一部成分が悪性腫瘍としての形態を示すことが稀にある(悪性転化を伴う奇形腫)
<卵黄嚢腫瘍>
上皮性腫瘍がシート状、索状、乳頭状に増殖
腎糸球体に類似する構造を作ることもある(Schiller-Duval body)
細胞質にはPAS染色陽性の好酸性硝子滴がみられる
αfetoprotein(AFP)、SALL4, cytokeratinが陽性
治療
ジャーミノーマ;放射線治療(23.4Gy 全脳室or全脳) + 化学療法(CARE 4週間隔 3回)
外科的治療のタイミングは複雑
重要なのは化学療法と放射線療法
3歳未満は放射線療法を控える
化学療法はシスプラチンやカルボプラチンなどの白金製剤を中心としたレジメン (CARE or ICE)
NGGCTに対する標準的治療は未だ定まっていない
予後
日本では松谷らが提唱する3分類が用いられる。
ジャーミノーマは95%を超える5年生存率
【予後良好群】ジャーミノーマ、成熟奇形腫
【予後中間群】未熟奇形腫、悪性転化を伴う奇形腫、
混合腫瘍のうちジャーミノーマあるいは奇形腫が主体のもの
【予後不良群】絨毛癌、卵黄嚢腫瘍、胎児性癌、
混合腫瘍のうち上記3腫瘍要素が主体のもの
参考文献
中枢神経原発胚細胞腫瘍(CNS germ cell tumor)診療ガイドライン
脳神経外科学 第13版 金芳堂
太田 富雄(原著) 松谷 雅生 野崎 和彦 (編集)