出産に望むのは「安全」それだけかーどうなる?お産⑧
産婦人科医が不足する現状で母子安全なお産を守るためには、医療資源の集約化は仕方ないと納得した私。
https://note.com/noubisya/n/n153fdac76c8a
気になる「帝王切開率」の上昇
とはいえ、どうしても気になることがある。帝王切開率の上昇だ。日本産科婦人科学会の調べで、1001施設(有床診療所を除く)での帝王切開率は、21・9%(2008年)→27・7%(20年)に増えた。
13年の東京大学の別の調査では18・5%(全国の医療機関対象)。都道府県別で14%~25・6%とばらつきがあった。特に「予定帝王切開率」(帝王切開の施術日をあらかじめ決めておく帝王切開分娩)は、分娩担当医師数や新生児集中治療室(NICU)の病床数が少ない県、診療所での分娩が多い県で高い傾向にあった。
帝王切開率は、訴訟リスクの回避や、出産までの予定が立てやすく、世界的に増加傾向にある。世界保健機関(WHO)は、理想的な帝王切開率を10~15%としている。自然なお産に比べ、手術や麻酔に伴う危険があり、次回の妊娠にも影響があるため、医学的に不必要な施術は避けるべきとしている。
(※日本産科婦人科学会調査の1001施設は病院が多く、ハイリスク妊婦を抱えているために帝王切開率は、元々他よりも高い環境にある。)
お産ができる施設が減る中で、望まない分娩誘発(陣痛促進剤の使用など)や予定帝王切開が、私の町でも増えていないか。
「遠くから来る妊婦の予定を立てやすい」「空きベットの調整」「1施設に集中する分娩を少ない医師でこなす」「医師の勤怠管理」……。そういった医学的な理由以外のことで、増えてはいないか。疑問を正直にぶつけてみた。
県の担当者は言った。
「あなたは出産に何を求めているの? 安全ではないのですか?」
私は答えに詰まってしまった…。
「あなたは出産に何を求めているの?」
国の調査によれば、2019年は日本全国で妊産婦29人、新生児755人が亡くなった。出産は今も母子ともに「命懸け」だ。現代人にとって、産後赤ん坊を抱けることは当然のように思ってしまうが、ついこの前まで、日本でもそれは当たり前ではなかった。今も世界では年間30万3000人の妊産婦が亡くなり、年間270万人の新生児が生後1ヶ月以内に亡くなっているという(WHO調査)。
妊産婦、新生児死亡率の低さというのは日本の医療界が必死に築き上げてきた成果だ。日本でも、出産で母や兄妹の誰かを亡くすことが珍しくない時代があった。そのことを知らない私が、『自然分娩は神聖で特別』と扱うのは気をつけたい。戦争を知らない世代が「戦時中は良かった」と言うような話にはしたくない。
母子安全に分娩を乗り越えられることは最善のケアだ。それは間違いない。
でも……、モヤモヤしてしまう。
県によると、助産所や自宅で出産した人は18年で46人、19年は62人。最近はコロナ禍で、病院での立ち会い出産や家族の面会ができなくなり、分娩を扱う助産師への問い合わせが増えているという。定期検診を受け、母体管理が順調なら、病院以外を選ぶ妊婦もいる。
一方で、日本ではまだ1割未満だが、合併症のリスクが指摘されていても「無痛分娩」を利用する人もいる。
女性は「安全」だけで産む場所を選択しているわけではない。
周産期にも「包括ケア」がほしい
県で説明を受けた終末期のビジョン「地域包括ケアシステム」には、かかりつけ医や病院、ケアマネージャーなどが高齢者に寄り添い、個人に沿った「より良い死」を整えてくれているように感じた。
しかし周産期は、妊娠、出産、子育てのそれぞれの支援が断続的で、県から示されるビジョンもない。私は、周産期にも連続性のあるケア「より良いお産(周産期)」も考えてくれたら良いのに、と思う。
※今回の記事の「番外編」を同時公開しました。
https://note.com/noubisya/n/n336aa9e102ea
長くなりますが、お時間の許すときにお読みいただけたら幸いです。今回の記事を編集する過程での葛藤を書きました。
(⑨回へ続く)
こちらの記事は、「朝日新聞・滋賀県版」「滋賀夕刊・長浜版」に寄稿しています。両紙に掲載後、随時noteを更新して参ります。ぜひ、ご意見・ご感想をお寄せください。
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