好きすぎて気付けばアンチだった
2020年7月15日、アイドルグループZOCが活動休止を発表しました。
感じたのは、虚無感。
今日までずっとZOCのアンチだった。
なのに全然嬉しくないし、あるのは虚無感だけでした。
なんなんだこの感情は?
そう思った時に思い至ったのが、「アンチなんてめんどくさいこと人生初でやってるのって好きすぎたからじゃないのか」ということでした。
●孤独を孤立させないとは何だったのか
「ZOCとは”Zone of Control”の略、ウォー・シミュレーションゲームやシミュレーションロールプレイングゲームで用いられるゲーム用語です。簡単にいえば、ゲームにおける「支配領域」の概念のことです。そこに、常に提唱している「孤独を孤立させない」の意味を持たせ、このユニットにおける「ZOC」とは"Zone Out of Control”とし、孤立しない崇高な孤独が共生する場所と定義します。ZOCは固定したり、流動的になったり、弾性的に様々な形で形成される。そしてZOCは、ZOCが影響を与え受ける全ての存在と繋がって存在します。私はZOCのプロデューサーではありません。一緒に戦い、一緒に遊ぶ、同じ心に黒い穴の空いた共犯者です。そして、わたしたちZOCの共犯者に、あなたもなってほしい」
超歌手 大森靖子
このZOCを定義する文章を、グループ始動時に読んだとき、すごくわくわくしたのを覚えています。
「独り」でいることを良しとして共生するグループ。
だから、靖子ちゃんを筆頭に、藍染カレン・香椎かてぃ・戦慄かなの・西井万理那・兎凪さやか・葵時フィンなんだって納得した。
カレンちゃんは、ずっと引きこもりながらアイドルのダンスを見てコピーしてきた「ワンルームロンリーダンサー」と謳われて、「独り」で踊っていた彼女がグループで踊るなんて楽しみでしか無かった。
かてぃちゃんはミスiD2017のSFになったときに知って、発想が面白くてチャーミングで、何よりハイセンスな絵を描く彼女が見せるアイドルが楽しみだった。
戦慄かなのちゃんは言わずと知れた少年院上がりでミスiD2018のサバイバル賞。育児放棄や児童虐待に関するNPO法人も立ちあげる彼女なら、きっといろんな「孤独」を掬いあげられるんだろうなと思った。
にっちゃんは、深夜番組『ほぼほぼ』に出演していたときに知って、「生ハムと焼うどん」が休止してアイドルが見れていなかったから、ZOCとして活動してくれるのが嬉しかった。
さやぴは、ミスiD2018のときから知って、「自撮り詐欺」と呼ばれる自撮りを上げながらどんどん可愛くなって可愛さを追求している姿と、女の子の可愛さを肯定する姿がまさにアイドルだった。
葵時フィンちゃん。彼女のこともミスiD2019で知りました。夢はお母さんのために家を建てること、と言っていた彼女が、自分のための夢としてアイドルを見つけたのかな?と思ってすごく楽しみにしていました。
なるほど、このメンバーだから「孤独を孤立させない」が謳えるし、体現してくれるんだなと素直にそう思った。
発表から1ヶ月は本当にそう思っていたので、この時の僕はただ純粋にファンでした。
●葵時フィン、脱退
ZOC結成の発表が2018年9月、フィンちゃんの脱退はそれから約1ヶ月後の2018年10月でした。
ただの脱退だったのなら、それほどショックも受けなかったかもしれない。
でも、僕はどうしても、辞めていくフィンちゃんに戦慄かなのちゃんが向けたTwitterのリプライがショックだった。
勝手な期待だったのかもしれないけど、1番人の痛みや孤独を理解しているんだろうなと思っていたかなのちゃんが、そんなことを言うの? と思ってしまった。
僕らのようなただのファンには推し量れないレベルのことが、あのときのグループ内では起きていたんだと思います。当時の靖子ちゃんのブログも読んでそれも察していた。
(過ぎたことだから引用はしません。読まれたくないかもしれないので……)
でも、それでも、「孤独を孤立させない」と謳って結成されたアイドルが、結成発表1ヶ月でメンバー間の確執を表面化させ、脱退したメンバーに「逃げた」「戻ってくるな」と言っていることのショックや困惑が、どれほどのものだったか分かりますか?
孤独を孤立させないって、なんなんだろう。
フィンちゃんの「孤独」はどうなるんだろう。
ZOCって、「孤立しない崇高な孤独が共生する場所」じゃなかったの…?
●戦慄かなののSNS
次にショックだったのは、フィンちゃんのときにもショックだったかなのちゃんのSNSの使い方だった。
気に入らないことを言われたら徹底的にリプライして、かなり強い口調で相手のことをやり込めようとする姿が本当に本当にショックだった。
僕の中のかなのちゃんは、頭が良くて、NPO法人を立ち上げて理事を務めるだけの行動力もあって、罪を犯しても償って活動している強い女の子だった。
ミスiDの動画のとき、水に顔をつけて何秒耐えられるかチャレンジしますって言って、全然長くない時間で顔上げて「無理!」って笑ってたかなのちゃんが可愛くて好きでした。(今探したら動画なかったから消えちゃったのかな)
その彼女が、Twitterでファンやアンチ問わず喧嘩のようなことをしているのを見て、本当にショックでした。
それに、勿体ないと思った。
本当にただのオタクの押し付けなんだと思うし本人からしたら大きなお世話なんだって分かってて言うけど、育児放棄や児童虐待のNPO法人の理事をしてるアイドルが、たくさんの人に見られる場で暴力的な言葉を使うのが本当に本当に勿体ないと思ってしまいました。
マジで面倒なオタクの押しつけでしかないことは重々承知だけど、ほんとに、きっと本人にも怒られるんだろうけど……
それでもやっぱりショックだったんだよ…(無限ループ)
●兎凪さやか、脱退
2019年12月。
こうやって書いてるだけでも、まだあれから半年強しか経ってないんだと驚きます。記憶に新しい人も多いと思います。
さやぴ脱退の理由は、未成年飲酒と喫煙。
こう言っては何だけど、芸能界やアイドル業界では腐るほど目にする「よくある」不祥事。
もちろん行為それ自体は許されるものではありません。誰にも迷惑かけてなかったとしても、有名人=公人なのだから与える影響なども考慮したら、一般人が犯すより重く捉えられる要素も多分にあるとは思います。
それでもやっぱり、「孤独を孤立させない」のなら、ダメなことをやってしまった彼女を離さないでいてほしかった。
ダメなことも償ってやっていける姿を見せてほしかった。
現に戦慄かなのちゃんはそうじゃないのか、とも思った。罪を償ってアイドルタレントとして活動する彼女というロールモデルが身近にいながら、さやぴのやったことを受容することはできないのかな? と思いました。
さやぴのやったことくらい許せよ、と言ってるのではないです。
受容……ただ、やってしまったことを受け容れて、彼女の「孤独」と共生するZOCが見たかった。
たったそれだけでした。
さやぴが辞める2ヶ月前、2019年10月に出したシングルの収録曲「A INNOCENCE」の歌詞が、ぐるぐる回って仕方なかった。
誰にも言えない人生を
抱きしめさせてよ
汚れても泥まみれで進んだのを
不純だなんて思わない
やり直さない消さなくていい
そのままで素敵な君なんだ
気づかない馬鹿な世界をちょっと変えたい
僕だって
イノセンス -「A INNOCENCE」歌詞抜粋
じゃあさやぴの人生も抱きしめてよ。
フィンちゃんのことも。
抱きしめてあげてよ。
だってファンにはそれができない。
近くで見てたZOC自身が、さやぴを受け容れて抱きしめてあげることって本当に無理なのかな?
●言動の不一致がずっと苦しかった
「孤独を孤立させない」
「誰にも言えない人生を抱きしめさせてよ」
そうやって謳うのに、歌うのに、それをメンバー間で体現してくれたことがあったのかなとずっと思っていて。
「あたしの有名は君の孤独のためにだけ光るよ」
そうやって歌ってくれた靖子ちゃんが作ったグループだし、「超歌手・大森靖子」は、ファンへの向き合い方はスタンスの体現でしかなかったから、ZOCにもそれを期待してしまっていました。
靖子ちゃんのスタンスは、一人一人とは向き合うことしかできないから、ライブやってても一人対多数のファンじゃなくて、「1対1」を複数やっているというもので。
だから、「あたしの有名は君の孤独のためにだけ光るよ」という歌詞を歌っても説得力があって、本当にそうだな、そう思って活動している人なんだなと思えた。
だけど、ZOCにはそれがなかった。
辞めていくメンバーや、たびたび炎上するSNS。このグループが謳っている「孤独を孤立させない」って、いつどんな形で実感させてくれるんだろう。待っても待っても、好きになれない、推してるって言えない、そんな中で曲も聴いてMVも見てライブも行って、それでも「孤独を孤立させない」が体現されることはなくて。
そして、2020年7月15日。
僕がずっとずっと追いかけて見続けて落胆してもまだ次があるかもって期待して、好きすぎて「アンチにならざるを得なかった」アイドルグループは、活動休止を発表しました。
虚無感。
それは、持ち続けた淡い期待が、もう今後叶えられる可能性をほとんど断ち切られてしまったことへの疲弊に他ならなかった。
僕は自称・ZOCのアンチです。
でも、大好きだったから、彼女たちが「孤独を孤立させない」を体現する日を心待ちにしていたから、その理念に反することが起きてもひたすらウォッチし続けて、そうじゃないだろ!早く「孤独を孤立させない」を見せてくれよ! って叫んでた日々は、アンチじゃなかったのかもしれません。
メンバーの誰かに凸ってクソリプとかDM送ったこともなかったし、やってたことは本当ひたすら曲を聴くMVを見る作品を見るライブに行く、だったしね。今思えば息を潜めてアンチなのかファンなのか分かんないことしてたんだなと思います。
「成長過程見せるのがアイドル」って、歌ってくれてたじゃん。
だからずっと信じてた。期待してた。SNSで炎上しても、アイドルだと信じられない言葉を使うところ見ても、辞めるメンバーがいても、いつの日かZOCがアイドルとして世界中の「孤独」たちと共生する世界を作るのを夢見てたんだよ。
もしくは、まだ夢見てるんだよ。
僕はZOCが嫌いでした。
でもそれは現在のZOCに対してであって、未来のZOCに期待してたから、過去未来現在の時空を超えたレベルで言えば、きっと大好きでした。
でもそれって反転した愛でしかなかったんだよな、ドラマ「カルテット」(2017年)で有朱ちゃん(吉岡里帆)が言ってた「大好き、大好き、大好き、殺したい!」ってセリフそのままのことをやってただけで、何も褒められることもないし愛が反転したら嫌いでいていいのかってことでもあるし、でもそれがせいいっぱいでもあって本当に本当に最悪なんです。僕の在り方は…
「みんな嘘つきでしょ。この世で一番の内緒話って、正義は大抵負けるってことでしょ? 夢は大抵、叶わない。努力は大抵報われないし、愛は大抵、消えるってことでしょ。そんな耳障りのいいこと口にしてる人って、現実から目そむけてるだけじゃないですか。だって、夫婦に恋愛感情なんてあるわけないでしょ。そこ、白黒はっきりさせちゃだめですよ。したら裏返るもん、オセロみたいに。『大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、殺したい!』って! え 違います? 」 (ドラマ『カルテット』第5話-2017年)
活動休止してしまった今、僕ができるのは嫌いで居続けながらずっと忘れないで、ZOCが本当にZOCになる日を期待し続けることだけです。
だからこれからもアンチでいます。
最も面倒くさくて意味わかんない愛を拗らせ続けた末のファンのことをそう呼ぶならずっとずっと「アンチ」で居続けます。
感情の責任のとり方と、ZOCへの愛憎を込めて。
待ってます。
いつまでも。