地獄を見てるのかと思った。(6)
「すみません、高梨さん。社長と話をしたのですが体制が整っていないため雇用するのはむずかしいという結論が出ました」
荒木さんからのメッセンジャーが来た。
あたしはその時すでに自分で見つけてwebエントリーした会社から書類審査落ちの連絡を2社から受けていた。
ああ、そうか。まあ新しい事業立ち上げの社員募集といっても、やるかどうかはまだ具体的にはっきりしてはいないとも先週言っていたっけ。
そんなもんか、とあたしは荒木さんを気遣い、検討しようとしてくれたことに対してお礼を言った。
数日後、ネットバンキングに入金があったとの報せがメールできた。
20日だし前職の給料振込だ。
あたしは確認のため、パソコンを立ち上げた。
「え...」
桁数を何度も数える。
「2万、円」
年末に仕事が見つかればいいと思っていたのは、前職の給料がいつも通り振り込まれると踏んでいたからだ。
しかし、入っていたのはたったの2万。何度見直してもその数字は変わらない。
「ガス代と電気代で終わっちゃうやつ。」
血の気が引いた。
これはヤバイ。少なくとも10月には仕事を始めないと、生活が出来ない。
この日からはもう必死だ。
朝から晩までパソコンに張り付き、暇さえあればハローワーク。
とにかく、仕事を見つけなければ。
子どもたちとも話す余裕がない。
彼らが帰宅しても
「ごめんね」と思いながらパソコンに張り付いて求人を見つけては応募する。
今だけは
今だけは
話してあげられなくてごめんね、向き合えずにごめんね。
と思いながら、履歴書を書く。求人を探す。
自分はいったいどうしたらいいのか。
辛い
疲れた
しんどい
逃げたい
その気持ちだけで一週間走り抜けた気がする。
あたしはよく頑張っていたと思う。
思いとは裏腹に
「聴覚障害者を雇う体制が整っていないというのが、弊社の結論です。申し訳ありません」
製造会社から来たメール。
面接をするまえからコレか…普通求人なら仕方がないのかな。
しかしこのときは、このメールを見て、なんだかザワっとした。
「そうではありませんように」と、思いながらあたしは荒木さんのメッセンジャーを開いた
「お疲れ様です。私が採用されないことについて『体制が整っていない』との理由をお知らせいただき、会社が事業の体制が整っていないからだと思っていました。しかし、このお話は荒木さんが人を探しているということだったので、違うなと思いお聞きします。『体制が整っていない』というのは『聴覚障害者を雇用する体制が整っていない』という意味だったのでしょうか? 」
「先日はありがとうございました。そうですね。聞こえない方に付ける職員の配置や施設の整備が出来ていないということです。わたしもこんなに準備が必要だなんて思わなくて、申し訳ないことをしました」
当事者に会うこともせず
「設備だとか職員の配慮ができていない。これでは働かせることが出来ない」と当事者でない人が決めるんだ・・・。
「そうですか、面接も会うこともせずそういうご判断をされたということですね。お話いただき、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
と、送信して、あたしは荒木さんとのメッセンジャーのスレッドを消去した。
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