追悼オナニー

死ぬ奴はクソだ。
いずれ全員死ぬ、だからみんなクソだ。
俺もお前も。


「かけがえのないものが嫌いだ」
貝木泥舟の言葉を思いだす。
失ってしまうととりかえしがつかないし
空いた隙間は埋まらない。
仮に、埋めようとして
なんらかの贋物を手に入れても
失った本物と比べ続けるだけの
くだらない毎日が始まるだけだ。


いつもはシカトしてる知らないケータイからの
着信を受けた。
これが俗にいう
「虫の知らせ」ってやつなのだろう。
友達が死んだって。
ふーん死んだのかバカな奴、え?嘘だろ?
マジかよ、はぁ?
はぁ?うっわクソすぎる、マジで言ってんの?
ハァァァーーッ、クソ!マジクソ!
何考えても思考が
あちこちに弾けてまとまらない。
辞めた紙タバコを弄って吸って、
時間を使うことに努力した。
こんな感じのガチめに狂った夜が来た。


「死ぬ」を考えないで付き合えた
唯一の人間だったのかもしれない。
人はいつか死ぬの、
「いつか」が来ないヤツだと思ってた。
だけど結構簡単に、死んだね。
心不全だった。
『声掛けても起きないから
愛犬(毒チワワ)をベッドに投げたら
映画みたいに手がぶらーんって。』
お嫁さんはずっと泣いていた。
娘たちもずっと。
若くてズリるのが上手そうなお嫁さんと
逆に天使みたいな娘ちゃんたち。
世の中の幸せが全部詰まったような生活を遺して
(放棄して、と言ってもいい)
ひとり勝手に箱の中で
キンキンに冷えてる男にイラっとした。
コイツを偲んで泣いてる人を見るたびに、
口紅ひかれて薄っすら笑ってる
タイのゲイみたいな顔になった友達に
心底ムカついて
生きてる時より少し嫌いになって、
棺の蓋に釘が打たれた時
「あー、死んだ」とついに思った。
ようやく涙が少しだけ、本当にちょっとだけね。
いや、泣いてないかもしれない。
絶対泣いてない。
腹いせに祭壇に備えてあった
赤マルボロを盗んでやった。
クッソ不味いな、あの煙。


葬儀屋が生前のヤツを紹介をしてたけれど
9割が嘘だ。
『誰とでも気さくに話をする
朗らかで優しい人でした』
『家族のことを何よりも大切にする
愛の深い夫でありパパでした』
全然違うね、スケベなだけだった。
お嫁さんと付き合ってる時に何股もしてた男だ。
デカパイだったからって
結婚を決めたような男だ。
誰かに因縁つけらてもビビりで喧嘩できねえから
俺を煽って焚きつけて相手を殴らせてた
狡い男だ。
そもそもこの男とは出会い方が最悪で
大学寮に入寮した初日に
俺のベットで勝手に寝てたのがコイツ。
まだ俺に人の心が無かった頃だったので
寝てるヤツの膝の上に
5キロのバーベルを叩きつけて
入学式前に1ヵ月入院させた。
それ以来ずっとヤツの足は変で
その足で
ずっと
一緒に悪い事をして笑って
一緒に先輩にブチギレられて
一緒に大学卒業して
一緒に旅行して
勝手に帰郷しやがって
勝手に結婚しやがって
勝手に
勝手にパパになりやがって
勝手に
死にやがった。クソが。


さっきまでキンキンだった男が
1時間程度でアツアツの骨になった。
拾ってる間ずっとこれがヤツだったと思えずに
それじゃあアイツはどこに行ったのかと
もう無くなっちゃったのかと。
アイツ今頃煙になって~って
ミッシェルみたいでかっけえなだとか。
最初で最後の大切なお別れの最中ずっと
こんな感じで心がふざけきっていた。
ふざけたかった。
たぶん認めたくないって
現実として受け入れたくないって
心が心を防衛していたのだろうね。


おふざけついでに。
パイオツがデッッッなお嫁さんより
遺品分けで託された品が
Calvin KleinのEternityでさ。
死んだ癖に永遠とかふざけてんのかコラと
思いましたよね。


生物なんてものは
勝手に産み落とされて
勝手に繁殖して
勝手に死ぬ。
なんとなく生きてる今日も
その流れの中のたったひとつの
一瞬でしかないのだけれど
確かに居たとか
確かにあったというものが
一つくらいはあってもいい。
今までは意識しなかった
出会いとか別れも
自分のためというよりは
相手が俺の前に確かに居たという
証明をするための儀式なのでは。
このクソムカつく世の中で
それでも大切だと思えるほんの僅かな人たちぐらいは
「確かに居たぜ」と俺が言ってやらなきゃね。
できれば
死ぬ前のお前に
そう思ってやりたかったぜメーン。


not so fond adieu .
(さよならは好きじゃないんだけどね)




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