多店舗化の阻害要因を陸戦の原則で解題してみる
すでに外食はコロナ禍の打撃で出店どころの話ではない状況で、むしろ多くのプレイヤーが撤退戦を行っている最中である。
しかし、一方で異なる領域/市場への展開を進めているプレイヤーもおり、当然収益を得るために、形態は違えども「出店」をすすめることになる。
ここで老婆心ながら、出店、ひいては多店舗化について、私が過去に経験してきたことを、陸上戦闘の原則として知られる5つの原則になぞらえて、その阻害要因を解題してみる。
特に深い意図は無いが、ゴーストキッチンなどを展開するにしても、拠点(店舗)を構えるという意味では同じであるので、ある程度参考にはなると思うところ。
これが参考になるのは、本部側で店舗の運営支援をしたり、マネージする職務・職階に属する人になるだろう。
①地形戦力化の原則~出店立地を「戦力化」する
『陸上戦力は海上・航空戦力と比較して地形の影響を多大に受ける。地形は部隊の位置的な優位、視界、射界、偽装、隠蔽、掩蔽などに影響する。従って地形を戦力として取り込むことが可能であり、特に築城はこの効果を高めるために行われる。』
⇒ 物件特性や地理的要因は、その店舗の戦闘力の根幹の一つ。「築城」はまさしく出店であり、多店舗化前提の出店の場合、その「築城(出店)」には、次の出店/展開への意図と意思が含められているべきである。
⇒ 複数の店をある地域に出店する場合、顧客の生活動線等を考慮して当該商圏をどのように制圧(チェーンストア理論では”商盛圏”化とか自社の”ドミナント”化)するか?を意図して出店立地を検討確定すべきである。
②兵力吸収性の原則~広域になればなるほど、その広さが我が方の「力を吸収する」
『作戦地域が拡大すればするほど、作戦線は伸長して戦力の密度は低下し、兵站の負担は増大し、指揮統率はより困難になる。特に敵地へ侵攻する場合、この性質は顕著となる。「山は兵を飲む」と古来より戦訓として伝えられている。』
⇒ これは前記の解題の通りで、ドミナント外への進出はドミナント内よりも資本を消耗するので、充分な資本(人的、物的)を確保して臨むべき。ここで言う”消耗”とは、単に物流費や交通費のみならず、店舗と本部の間のコミュニケーションギャップの積み重ねによる(本部側の)判断ミスが生むものが比率としては相当高い、というのが私の経験上の感覚である
⇒ 故に、本部側の主要な人員は、ドミナント外出店をした時は、現場とのコミュニケーションを意識して一定の濃度以上に保ち、判断ミスを生まないように留意して行動すべきである。
③作戦固定性の原則~本部と現場の軋轢
『陸上作戦は後方支援に基づいて行われており、かつ後方支援は道路・鉄道・水路・都市などに基づいて行われているため、作戦は固定的な性質を持つ。また後方支援は厳密な計画に沿って業務が進められるために簡単に変更ができない。』
⇒「本部=後方支援」と考えれば判りやすい。作戦を固定的にしているのは「人」ではなく、「仕組み/物流などのインフラ」であるといえる。故に、計画の立案には、スケジュールや投入する資本に柔軟性を持たせる事が重要となる。
④局地的独立性の原則~「全てを掌握」することはできない
『陸上戦力は海上・航空戦力に比較してその指揮統制に限界がある。作戦地域各地で同時多発的に戦闘が起こり、同時進行で事態が進み、また現場指揮官は自己の判断に基づいて行動するためである。大規模な陸戦になればなるほどこの性質は高まり、全体の戦闘をすべて一元的に完全掌握することはできない。』
⇒ 出店エリア/地域ごとに、どの程度の精度の作戦を担当させるかは重要な判断となる。指揮命令系統の確立と、判断を委任する領域の設定が重要となる。
⇒ つまり、職位/責任範囲を明確に規定し、その範囲での判断を委任できる人財を充当しておかないと、全体を掌握・統制することは出来ない。
※情報共有の為のツールの整備(ビジネスSNSなど)による本部から現場指揮官への判断支援体制確立は、当然行っておくべきこと※
⇒ 特に、ドミナント化出来ていない出店エリアの現場指揮官(エリアマネジャー)は、ドミナント圏の現場指揮官よりも経験値の高い、イレギュラーへの対応力のある人財を充当しなければ、当該地域を掌握できない、ということ。
⑤精神力依存性の原則~最後は「人」
『陸上戦力の最小単位は一人の人間であり、一人ひとりの判断の蓄積で戦闘行動は進行する。これらをすべて把握することは不可能であり、個々の現場指揮官とその指揮下にある兵士たちの高度な士気、強固な意思、各員のチームワークと各級指揮官のリーダーシップが重要となる。』
⇒ 最終的には、店長やエリアマネージャーの力量こそが、多店舗化を支える基礎になる。
⇒ ここを蔑(ないがし)ろにした急速出店で収益悪化を招いた例は、掃いて捨てるほどあり、こと、この部分についてのみ言えば、世界は教訓に満ち満ち溢れているのだが、失敗者が跡を絶たない。
※これは、単店、数店での成功で有頂天になって判断力を失ってしまっているとしか、言いようがないので、救いようが無い。
⑥補遺
とはいえ、最後の最後は、経営者の”人間力”といいますか、人柄のようなものが決定的なのかな、と、思います。
特に、厳しい判断が迫られるような状況(短時間に、生死を分けるような判断が迫られるとき)では、MBAホルダーだの外資系コンサル出身というような能力的側面よりも、人柄がいい方が、生存率が高いように思います。
でも、それを判断するのは、あなた自身であり、そういう重大な判断を、ゆめゆめ他人に委ねてはいけません。
逆に言うと、MBAとか外資系コンサル出身という”レッテル”は、前段に書いた”自分の運命に関わる重要な判断のミス”の言い訳にするにはうってつけ、とも言えますね(これ、皮肉ですよ)。