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映画について書いたもの

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映画評や映画文化にまつわる文章。
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#ホラー

Crimes of the Future(監督:デヴィッド・クローネンバーグ/2022年)

本当に好きなものについて書くのは難しい。クローネンバーグの映画はその類いである。 1980年代半ば、小学生のころにテレビではしばしばホラー映画の特集番組が放送されていた。世の中でそれが流行していたかどうかも知らない、ただただ怖いもの見たさで指の隙間から見ていた子どもだった私の脳裏に強烈に残ったのは、襲いかかってくる殺人鬼やゾンビではなく、裂けた腹部にビデオテープを押し込める様である。夜に見ている悪夢そのままのイメージに吐き気を覚えてうっとりしたのは、思えば自覚する以前に自分

『NOPE/ノープ』(監督・脚本:ジョーダン・ピール)

まず、映像に関わる学芸職という立場を横に置いておくと実はこういうものが大好物で、だから擁護するということではないが、ホラー映画はそもそも社会派なのである。よって、ジョーダン・ピール監督を「社会派ホラーの名手」と評の冒頭で安易に書いてしまうようなことは決してするまい。 だが、ここまでの短いキャリアをもってして「サスペンス映画の名手」とは言っても差し支えないだろう。優れたサスペンス映画とは何かについては『サスペンス映画史』(著者:三浦哲哉/2012年)をお勧めするが、ごく簡潔に、