ギリシア神話に登場するミダス王をご存知だろうか?
ミダスは「触ったものを黄金に変える力」を神に求めた。力を得た当初は大喜びのミダスであったが、触れたものは何でも、それこそ食べ物や飲み物、果ては人まで金にしてしまい、結局後悔してその力を無くしてもらうという物語が有名である。
最近なら「葬送のフリーレン」に登場する、”黄金郷のマハト”のほうがイメージしやすいかもしれない。 自身の持つ「万物を黄金に変える魔法」で、一つの都市すら丸ごと金に変えてしまうなど、凄まじい力を持つ魔族として描かれている。
(劇中の設定としては、厳密には物質の「金」とは少し違うようだが)
では、このような「物質を金に変える力」が実在したなら?
…あまり良いことづくめという訳にはいかないらしい。
「金に変える」とは?
そもそも世の中に存在するもの、つまり物質は原子で構成されており、その原子は電子、陽子、中性子のブレンドによって成り立っている。全く性質の異なる水素も酸素も金も、すべてこれらの数や配分によって元素としてやっていけている。
では金でないものが金になるとき、物理的には何が起こると言えるだろうか?
この動画では”物質が金に変わること”を3つの視点から解釈し考察している。
金より軽い元素、つまり水素や炭素などが、どこからか電子や陽子、中性子を得て金になる場合
物体の全粒子を並び替えて金にする、すなわち質量はそのままの場合
物体を同じ体積の金に瞬時に置き換えてみるなら?
アヒルが金になると起こること
1.の結果としては…まあ冒頭の引用箇所がすべてである。
金というのは密度が高く、金属の中でも割と重たい部類になる。上記の例ではアヒルを金に変えていた。余談だが、このアヒルは投稿元であるチャンネルKurzgesagtのマスコットである。このようなテーマでは度々酷い目にあう。
物質を構成する原子がいきなり金になってしまうというのはどういうことか。
アヒルは概ね有機化合物からなり、酸素や炭素といったあまり電子などを持たない軽い元素で構成される。
原子や分子にはそれぞれ”ちょうどいい感じ”の配置があり、軽い原子はそれぞれが小さいのも相まって、どちらかというと密度は低く、出来上がる物体も軽くなりやすい。
一方、金はそれらよりも単純に原子一個あたりが大きく、さらに密度も高くなりやすいため、体積が小さくとも重い物体になりやすい。
そんなアヒルと金の変換が行われるとどうなるか?
結果として、アヒルの密度はいきなり33倍にもなり、金の原子はお互いに十分なパーソナルスペースを得るためにも瞬間的に押しのけあい、結果爆発に至る。なんとそのエネルギーはTNT火薬0.5トン分にもなるようだ。これは落雷に比肩するエネルギーの大きさである。
もうちょっと上手くいかないの?
確かに、これでは力の使い方としてイマイチな感じがする。
もう少し仮定を変えて、うまく金にする方法はないだろうか?
2.及び3.の結果については、ぜひ動画を確認してほしい。そして動画のサムネイルにもあるとおり、ろくでも無い結果になるのは目に見えているが、もしも地球に対してこの力が働いたらどうなるだろうか?
この動画に限らず、Kurzgesagtに投稿されている動画には、ありがたいことに、なんとそのほとんどに有志の手によって日本語翻訳とその字幕が設定されている。
この動画についても例外ではなく、全編にわたって音声は英語であるが、字幕を頼りつつ、是非とも視聴していただきたい。
余談
Kurzgesagtの普段の動画は人体の免疫であるとか、あるいは宇宙物理、その他にも地球温暖化に関する話題などを、科学的な厳密さと動画でのわかりやすさのバランスに苦心しながらも、視聴者にとっての体験と学習を重視しながら動画を作っている。が、たまにこういうハメを外す(?)ような動画があるのが魅力の一つだと思う。
この動画のような、ちょっと奇妙なテーマが見たければこのあたりがいいかもしれない。
”What Happens if the Moon Crashes into Earth?”
(地球に月をぶつけたらどうなる?)
”What if We Detonated All Nuclear Bombs at Once?”
(一度にすべての核爆弾を爆発させたらどうなる?)
おしまい