ふり返れ、2020年。 〜番外編〜
本編の前に番外編を書いている。本編の方に本気で向き合う元気が出れば頑張ろうと思う。
何の話かといえば、2020年に聴いていた音楽を振り返ろうということだ。今までも何度か書いてきたが、僕は日本のヒップホップとアイドルソングをメインに嗜んでいる。ここでは本編がヒップホップ、番外編をアイドルソングとする。「ここでは」とか言われても、とか思われても。
2020年、アイドルソングを振り返れ(自主的に)
PCのローカルデータが飛んだ際、HDDに入れていた音楽のデータ自体は無事だったがAppleのオフィシャル音楽管理ソフト「ミュージック」のプレイリストの情報が飛んでしまった。2017年から、その年に買った or ダウンロードした音楽を年ごとにプレイリストにまとめていたのだが、その情報が消えてしまったのだ。
曲データのタグとして発売年を入れてたり入れてなかったりするが、とりあえず「2020」で検索をすると今年買ったものを大体網羅することができた。96作品。なんか例年より多い。
CD購入でなくダウンロード購入することも増えてきた。音楽の聴き方が15年くらい遅れている。僕がサブスクサービスを使うようになる頃には、世の中はどんな音楽の聴き方をするようになっているのだろう。聴きたいと思ったら音楽データがどこからか飛んできて、デバイス無しで直接脳内で再生、だろうか。
話が番外編の番外編になるところだった。振り返ろう。順不同、思いつき順だ。
WACK夏の三部作
・BiSH『LETTERS』
・EMPiRE『SUPER COOL EP』
・BiS『ANTi CONFORMiST SUPERSTAR』
今年のWACKは素晴らしかった。今年の、というか今年も素晴らしかった。特にこの3枚のEPは「WACK夏の三部作」と勝手に呼んでいる。
3枚はこの順番で、通して聴くのがいい。不思議なまとまりが出てくる。今年じゃないと出なかったであろう悲壮感とか焦燥感、それに対して希望を見出そうとする雰囲気が3枚に共通してある。
WACKの他グループが今年出したアルバムも軒並み良かった。各グループの配信ライブも一通り見たが、GO TO THE BEDSとEMPiREのパフォーマンス力が抜群だ。
楽曲に感化され、2020年にWACKのグループが発表した曲のみを使い自作でメドレーというかミックスを作り、11月上旬はそれを結構な頻度で聴いていた。とんだハッピー野郎だ。
・CARRY LOOSE 『COLORS』
これもWACKのグループなんだけど、別枠紹介にさせてほしい。
7月20日からニコ生で「CARRY OF MAJOR」という企画をやっていた。アテも無い中、メジャーデビューするまでCARRY LOOSEのメンバーが共同生活を送り、その様子を24時間生中継するというものだ。寝姿や化粧する姿を毎日配信するアイドルってもう、アイドルなのか分からない。仕事から帰って夕飯を食べながら見たり、休みの日にぼんやり見たりしていた。とにかく2020年の夏はCARRY LOOSEと過ごした夏だった。
続けているうち、見るからに行き詰まり感が漂い、結果、メジャーデビューは叶わず10月31日にグループは解散してしまった。『COLORS』は日付変わって11月1日配信。解散後に発表された曲ということになる。
歌唱力は良いレベルだったと思うのだが、元メンバーのうち2名がすでに事務所を辞めてしまい、おそらくもう二度と見ることはできないグループになってしまった。配信を続けることでメンバーの素の部分が見えてきて、魅力的なグループになってきたのに。と思っていたがそれもごく一部のファンの感想でしかない。
ウルウ・ルの声は唯一無二だし作詞力は僕の知る限りアイドル界でも随一だった。残念でならない。
・CY8ER 『東京』
解散つながり。前作『ハローニュージェネレーション』も良作で、中田ヤスタカっぽい楽曲だな〜と思っていたところでメジャーデビューし、中田ヤスタカから楽曲提供というアイドル界のヒップホップドリーム的な展開が熱かった。夢が叶ったね、というだけであってヒップホップは関係がない。
年明けに武道館ライブを行い解散することが決まっているが、セルフプロデュースでここまで成し遂げたのは素晴らしいの一言。解散後メンバーはどうするのだろう。特にやみいさんはもっとメディアへの露出が増えるべき逸材だと思っている。
・sora tob sakana 『deep blue』
解散つながり。このグループも、デビューから終始良曲を提供し続けてくれた。すごいのは、曲を聴くと「魚が空を飛んでる感」を感じられるところだ。
ラストアルバムとなった本作は、今までの活動を凝縮したような名盤。アイドルと思って聴かない方がいいのかもしれない。ポストロックか、シューゲイザーというか。エレクトロニカでもある。
無機質さを要求されるアイドルってちょくちょくいるけど、やはり難しいのだろうか。sora tob sakanaはけっこう色々なメディアで紹介されたり話題になったりしていたグループだけど、売れ方が足りなかったらしい。音楽で売れるのって大変だ。世知辛い。
この辺の路線はMaison book girlに任せるしかないのか。
・でんぱ組.inc 『愛が地球救うんさ! だってでんぱ組.incはファミリーでしょ』
解散の話が続いてしまったので明るい1枚を。
アルバムタイトルは相変わらずだけど、ポップスとしての強度を増してきたでんぱ組の1枚。推しが卒業した後、グループを引き続き追いかけようか迷ったけど追ってよかったと思わせてくれた。毎年立ち読みしかしなくて申し訳ないことでおなじみの、ミュージックマガジンのJ-POP部門トップ10にも入っていたアルバムだ。
いわゆる電波ソングの流れを汲む曲もところどころあるのだけど、それはグループの根幹を成す部分なので大いに結構。電波ソングから離れたM-5『生でんぱ』と、上に貼った2曲が素晴らしかった。
貼った2曲の作詞作曲はどちらも諭吉佳作/menという、17歳の女性シンガーソングライター。『形而上学的、魔法』のライブ映像ではでんぱ組と一緒にステージに立って歌声を披露していて、加工された状態でも上手いのがわかる。歌手の歌が上手い。すごく当たり前のことを言った。2曲とも音のハメ方が独特すぎてすごく歌いづらい。よく乗りこなしたぞ、でんぱ組。
こんな曲、10代じゃなきゃ思いつかないだろうなとオジサンは思ってしまいました。理論とかよりも感性で作曲しているっぽい。2021年はもっと色々なところで諭吉佳作/menの名前を聞くことになるかもしれない。
アルバムでは上述した2曲の提供だけど、メンバーの根本凪が諭吉佳作/menの曲に惹かれたとのことで、このアルバムの初回生産盤でソロ曲の提供を受けている。これもまた良い。やはり歌うのが難しい曲だけど、メンバー随一の歌唱力を持つ根本凪がバッチリ歌い上げている。
・SAKA-SAMA 『君が一番かっこいいじゃん』
ちょっと目を離した隙に、僕が知っているSAKA-SAMAではなくなっていた。でもこの路線は好きだ。
寿々木ここね以外のメンバーが昨年卒業し、サポートメンバーで朝倉みずほが入って、そのまま2名体制でアルバムを出すという思い切りの良さ。そのアルバムが2枚組28曲という内容なのも含めて、もうアイドルのやり口ではない。朝倉みずほの紆余曲折ぶりというか、歴戦の猛者ぶりは非常に頼もしいものがある。BELLRING少女ハートのアルバムは未だにたまに引っ張り出す。
ポップスというよりも歌謡曲に近い曲が並び、SAKA-SAMAの2人の、どこか諦めたような達観した歌声が曲調によく合っている。サポートメンバーって、いつまで務めるのだろう。今の体制はこれはこれで面白いので、またメンバーを増やしてアイドルっぽさを増すよりは2人組ユニットとして続けてくれることを期待している。
・APOKALIPPPS 『APOKALIPPPS GRAFFITI』
前回の記事でも書いた、APOKALIPPPSが11月に出したアルバム。ここ2ヶ月に限れば一番よく聴いている。どうやら配信もしていなくて、一般流通もしていなくて、グループの通販サイトで買うしかない。我ながらよく見つけたものだと思う。
ちなみに昼間に注文したら、日付変わって深夜2時に発送通知のメールが来た。運営スタッフの働き方大丈夫か!
このグループは現在の7名体制が好きなんだけど、7名での音源はYouTubeに上がっていない。7名で踊っている曲のMVはあるけど、音は旧体制のものを使っていたりする。アルバム出したばかりなのに!でもそのアングラ運営っぷりも良い。アルバムが14曲66分という、これまた時代に逆行するようなボリューム感なのも良い。
曲が粒揃いというかまとまりがないというか、バラエティに富みすぎている。1曲目から順番に聴かなくてもよろしいタイプのアルバムだ。メンバーも変わったので既発曲の再録がメインなんだけど、初回発表時からは明らかに質が良くなっているように感じる。音質という面でも、歌唱力という面でも。
わりとマイペースに活動しているようだが、ZOCを兼任している西井万理那(a.k.a. にっちやん)と、小忙しくしているぱいぱいでか美の都合がいかにつくかが今後の活動のカギになる気がしている。
でもにっちやんはグループの発起人だし、でか美さんはプレイングマネージャーということなのでグループへの愛着はそれなりにありそうだ。今後もグループとしてあまりまとまらずにいてほしい。
頭をカラにしたいときにはもってこいのアルバムだ。APOKALIPPPSに限らず、インディーズアイドル特有の「何も言ってない歌詞」が相変わらず好きだ。いい事を歌い出したらおしまいだ。
APOKALIPPPSメンバー個々の活動も少し追い始めたところ、宇佐蔵べにが所属している別ユニット、FRUN FRIN FRIENDSもなかなか面白い。
MV編集や、曲によっては作詞作曲もDIYだ。メンバー2人ともそれぞれ違う方向性で賢いというかセルフプロデュース力に長けている。
特に宇佐蔵べにのセンスが、サブカル野郎ホイホイという感じがして好みだ。レコードのみを使ってDJをしていたり、MIXTAPE(本当にテープ)を8本出していたり、ゆるい絵も書くしキレキレの振り付けもする。
この人もまた、アイドルのくくりで語りきれない人材なのかもしれない。
・PIGGS 『HALLO PIGGS』
2020年の夏がCARRY LOOSEなら、春はPIGGSだった。4月にグループ名とメンバーの発表、同時にYouTubeでの生配信企画をスタートさせたPIGGS。
メンバーが共同生活を送り、毎晩100個の課題に挑んでいく。家の中でできるゲーム的なものが多かったが、この企画は2020年じゃないと生まれなかっただろう。
当時の僕は毎日在宅勤務で、あまりにも体を動かさないのでさすがに定時後に少し外を歩き、帰宅して夕飯、PIGGSの配信が始まる。という1日のスケジュールだった。
アルバムの発売もデビューライブも当初の予定から遅れる中、曲の発表よりも先にメンバーの人間性が明らかになっていくという展開は新しかった。アルバムは一般販売に先駆けてクラウドファンディングのリターンとして出たので、お布施代わりにと思って買ったのだがこれがどストライクだった。
M-4『Love Cats』やM-10『Moonage Driver』の、90年代の土曜夕方アニメのED曲っぽさが大好きだ。懐かしさこそあれ、古臭さはない。王道サウンドではないけど聞き覚えがある感じ。
M-5『とらえる』は今年一番よく聴いた曲かもしれない。
「全身全霊っていつも報われないことある」
「心臓破りの坂でこそ速度あげる」
それぞれ1番と2番のサビ冒頭の歌詞だが、これは今年有数のパンチラインだ。疾走感あふれるトラックに、歌詞の通り、置いていかれないよう歌い上げるメンバーの声。それによって自然と応援ソングとして仕上がっていました、という狙いすぎていない感じ。どれもが良いバランスだ。
今年のご時世と相まって、忘れられないアルバムになった。ヒップホップ部門と合わせても年間ベストの候補だ。「俺レコ大」の新人賞と、「俺アイドル楽曲大賞2020」の二冠を差し上げます。
PIGGSは12月に新作EPを出していて、これもまた良いんだけどデビュー作が良すぎて…という感が否めない。ちょっと王道ロックサウンドに寄ってしまい、その路線ならWACKのアーティストを聴いちゃうなぁという。
番外編と銘打ったのに
長い。長いよ。日本語ラップ編はどうなることやら。というかいつになることやら。