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セミノンフィクション小説「無力の力」(5)

第2章 俺の城 第1回 1993年8月、札幌・すすきのの事務所にて


「一郎アニキ、おはようございます!」

16時だというのに、「おはようございます」とはな・・・業界人かよ。

「おう、なんかヤバい電話無かったか!?」

「いえ、無いです!」

「っていうか、そのアニキってのは止めろって言ってるだろ」。

「ハイ!アニキ!!」

・・・俺がこの札幌・すすきので事務所を構えて何年経っただろうか。
俺は薄野(すすきの)興業という会社を興し、俺を入れて3人で回している。
電話番と経理以外の事務全般は、この藤堂という大学生に任せている。この会社の社員は俺以外では俺の親戚筋の年配女性1人とやはり年配の男性1人だ。
その二人に大箱のスナックとソープの日々の運営を任せている。俺は主に管理とトラブル対応、昔とった杵柄で不動産取引も少々行っている・・・数年前とは違い全くカネにはならないが。

この藤堂には夏だけのアルバイトで東京から帰省している期間だけこの事務所に居てもらっているが、慶智大生の割に人は良いが頭がすこぶる悪い・・・だが、そこがこいつの可愛いところだ。下手に知恵がついているもんなら生意気言うだろうから半殺しにしかねない。
もちろん求人広告を出して来てもらったわけではなく、幼馴染のスナックのママのいとこだと言うので紹介してもらった。口を割ると命取りになる仕事をしているのでそこらの知らないヤツを雇っちゃマズイのだ。

「おう、お前腹減ってないか?」

「ハイ!朝から何も食べてません!」

「じゃあ、もう16時だから、スナックの方に言ってまかないでも作ってもらうか?」

「ハイ!」

(続く)

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