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セミノンフィクション小説「悪行の履歴書」(1)

第1章 忌まわしい泡の思い出 第1回 ダブルスコア


「ジリリリ・・・」

「うっさいな、もう!」

社員募集広告の事業からから始まった日本最大、世界屈指の大手複合メディア企業「リーチパーソン」。そこに勤務するあたしの一日は、けたたましい目覚まし時計のベルで始まる。
スマホのタイマー? ありゃダメだ。音量MAXでも絶対起きない。

あたしはその会社に20年ぐらい前に派遣社員として入って、やがて直接雇用の契約社員となり、15年ほど前に正社員になった。会社での肩書きはヴァイスプレジデント。何だかカッコ良いけど何年か前に会社の業績が傾いて外資のハゲタカファンドが乗り込んできたのでこんな肩書き。日本風に言えばいわゆる「部付部長」、部長とついているけど部下を評価する権限は無いのに何故だか威張り散らしている面倒なオッサン、相撲で言えば部屋付き親方、そんな感じの肩書きだ。

目覚まし時計でも起きない全裸で横に寝ている男はホストのユウキ。洋彫りのサソリを左肩に入れている。専門中退のプーからホストになったものの全然売れず、あたしの担当ということでなんとか食い繋いでいる。
1年前、あたしがたまたまストレス解消に入ったホスクラでヘルプについた時からこの男を狙っていた。頭は本当に悪いけど、とにかく首筋が美しい。ま、頭の悪さといったら、あたしも高卒だから人のことはそんなに言えないけど。
あたしが太客になってから、ユウキはナンバー入りしてやっと寮から出られるようになったらしい。世間じゃ担当に棄てられないように貢ぐ女もいるというが、あたしはホストにそんな情は起こらない。逆にいつでもあたしの方から棄てることができる。

44歳のあたしと22歳のユウキ。ダブルスコアーだけど、セックスも話も相性は抜群で若さいっぱいで愛してくれる。とてもこんなに歳が離れているとは思えない。禁じ手の枕、あたしを愛しているかは知らないしそんなはずもないし逆にそんな情も要らないけど、会社の年下の男の子よりは楽しいし、何より安心できる。
というのは、5年前に社内の29歳の子と酔った勢いでセックスしたら中出しされた上に社内に言いふらされて一時期とても困ったことがあったわけ。もちろん、このあたしだから上に手を回して地方支社に飛ばして気づいたら頭がおかしくなって辞めちゃったようだ。
若い子は好きだけど、こういうヤッた自慢が多いから困る。
同世代の男?話が合うのはYouTubeで昔のテレビを観た・観ないという世話話だけだ。

さて、今日でやっと週末、金曜日。
でも今日は月初の週末ということもあって朝から営業本部全体の会議があるんだよなあ・・・やれやれ。

(続く)

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