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延命とお渡し会

お笑いという素晴らしいコンテンツがある限り、
私は死ねない。お笑いに延命されている。
知らない間に寿命を延ばされている。

なので、悩んで悩んで、ボロボロ泣きながら自死を諦めた。

お笑いと延命 │ 果物
https://note.com/notjuicy_fruits/n/nab8b660ff15c


結婚を考えていた人と音信不通になり、長期間の無視で心が折れた私は、去年から生きづらいままただ日を過ごしているだけであり、お笑いを見るためにぼんやりと生きている様を延命と表現していた。

年末、M-1決勝前。
飛び込んできたのは、私の住む大阪で開催される、漫才過剰考察のサイン本お渡し会のお知らせだった。

既に1冊所持していたが、サイン本を手に入れるのは随分とハードルが高く。職場付近の書店では、購入のために整理券を配布していた(Xで見た)。
郊外の書店も先着順で、開店と同時に行く必要があったらしい(知人から聞いた)。

お渡し会の応募の締切は決勝後だった。
連覇すれば倍率も上がる。
でも、もし当選したら直接お礼を言いたい。

希望の無い日々で、生きる支えになったのは間違いなくお笑いがあったから。令和ロマンを初めとした芸人さんたちがいたから。

早めに応募したと思う。

12月25日、正午に当落の発表だった。
職場で業務をこなしながら、緊張で手を震わせながら時刻ぴったりにサイトを開いた。

当選していた。

「え、あ、やったあ…!」

静かなオフィス内に声が響いた。

あ、会えるんだ。

少し報われた。抱えてきた絶望が何割か浄化されたような、君が生きてきたその日々は無駄じゃなかったぞ、と位の高い(神様みたいなぼんやりとした)存在に言われているような、そんな気がした。
虚無なクリスマスを唯一彩った、最高のプレゼントだった。

そして詳細画面には確かに、整理番号1番と書いてあった。

何度か見た。


正気か?
何百人と当選者がいる中で、1番な訳がない。

早速近くのコンビニで発券しに行った。

1番だった。

だめすぎる。
ずっと死にたかった人間が、1番をもぎ取っていい訳がない。たくさん劇場に行って、長く応援している人を差し置いて、大阪会場でくるま大先生が最初に本を渡す人間が、私でいいはずがない。

(上記の投稿で初めて延命という表現をしたので、くどいかもしれないがお付き合いいただきたい)

1番という大きな数字を前向きに捉えられず、その間ぼんやりと自死も考えたが、連覇を見届け、ポケモンのネタを見て、お渡し会のために1ヶ月半耐えた。


そして今日。最近覚えた技術で髪を巻き、普段着ているロリィタを封印し、SUZURIで購入した「売れきってから描く絵」のトートバッグにM-1のガチャガチャで手に入れた優勝トロフィーを付けて、会場のグランフロント大阪まで辿り着いた。

もちろん先頭に並んで、定刻を待った。
手足の震えは最後まで治まらず、気持ちを落ち着けるための深呼吸も役に立たなかった。

開始直前、トートバッグを見せたかったのに、手荷物はパーテーション前の椅子に置いてくださいとアナウンスがあった。

冷静に考えてみれば、お渡し会イベントで、手荷物を持ったままは進めんよな。ファンじゃなくて危険物持って突撃するために来てる人がいるかもしれないもんな。

先頭の特権だったのか、イベント開始時のくるま大先生&スタッフさんたちのご挨拶もうっすら聞こえていた。
結果的にこれで緊張が増した。

定刻になり、書店の方に誘導されて、パーテーションの向こう側にいるくるま大先生とご対面する。
ちゃんと言わなきゃ。私の支えになっ…………


ご本人だ…!!!
いつもの太い黒縁のメガネをかけ、私が机の前に向かうのを目で追ってくださる。

「こんにちは〜」と大先生からのご挨拶。書店内のスペースで行っており、そこまでの大声は出せないので、ご様子で話すときのようなゆったりとした口調だった。

「初めまして」と声を絞り出す。

「どうぞ」
ご本人からのサイン本の手渡し。

「ありがとうございます…」


テンポ感が大事な空間で、言葉に詰まった。
その2拍くらいの瞬間も待ってくれていた。

「あの、ずっと生きるのがしんどくて、去年から」

絶対に1番で話してはいけない暗いメッセージだったと思う。ご本人も「え〜っ」と驚いていた。

「でも、M-1とポケ-1とこれで、何とか生きられました」

漫才過剰考察の序盤で、希死念慮が止まらなかったと仰っていた当人に向けて、あなたのおかげで生きている人間がいますという感謝を伝えられたのが嬉しかった。

お互い目を合わせて、くるま大先生も相槌を打ちながらちゃんと聞いてくれた。

伝えられたのはそれだけだった。思ったよりも対話の時間は短く、もう一度「ありがとうございます」と添えた。


握手会くらいの、10秒程だったと思う。
でもきっと、私が延命してきた意味がこの10秒にあったと思う。

次は、ご様子のステッカーが送られてくるまで
生きてみようかな。

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