【短編③】ハスキー

河原で遊んでいると、突然にして現れた白と黒の生き物。

左右に揺れながら、ゆっくりとこちらを目がけて進んでくる。

なぜこのようなところに君がいるのか、不思議でしかたなかった。

つぶらな瞳で、まっすぐにこちらを見つめてくる。

眉間にシワを寄せているが、それは怒っているのではない。

自然に、眉間にシワが寄るのである。

4本の足はとても立派だ。

心なしか、ふわっとした毛に覆われながらも垣間見える筋肉が、美しく見えた。

のっしのっしと近づいてくる。

歳は15歳といったところか。

若く見えた。

すぐにでも走り出しそうなのに、ずっと同じペースで近づいてくる。

石でも投げれば逃げるのだろうか。

私は、よくわからない君に向かって、石を投げた。

少しだけ立ち止まって、また歩き始めた。

石を投げても怖くないなんて、どういうことなのか。

健気でたくましくて、しかし怯えているようにも見えるその生き物が、ゆっくりと近づいてくる。

よくよく見てみると、白と黒のバランスがとても良い。

こんなにも鮮やかな、バランスのとれた調和は見たことがない。

そのとき、遠くから声がした。

「そいつ、ハスキーだぞ!」

ハスキーとはなんなのか、よくわからなかった。

ひとまず、ハスキーという生き物がいることを知った。

「肉食だから、食われちまうぞ!」

そう言われて、自分が置かれている状況がわかってしまった。

この、ハスキーと呼ばれる生き物は、私を食べようとしているのだ。

もうすぐそこまで来ている。

まったくペースを変えようとはしない。

その体つきは、近づくほどに美しさが際立つ。

鮮やかさに見とれているうちに、食い殺されてしまうのだろうか。

遠くから、石が降ってきた。

ハスキーに向けて、さっき叫んだ少年が、石を投げていた。

ハスキーがそちらに気を取られた瞬間に、私は全速力で走った。

そして近くの岩陰に身をひそめた。

遠くからハスキーを覗き込んだ。

ハスキーは、一度見失った私を探した。

元々いた位置のにおいを嗅いでいた。

そして、私のいるほうへ向かい出した。

なんという、正確ににおいを察知する鼻だ。

また同じペースで歩き出した。

なんだか怖くなってきた。

どんどん近づいてくる。

今度は、ペースを変えてきた。

早歩きで、テンポ良く跳ねながら、こちらに近づいてきた。

あっという間に、すぐそこまで来てしまった。

そしていよいよ、私の目の前に白と黒のそれは姿を現した。

とうとう、食われてしまうのか。

そう思った。

ところが、ハスキーは私に頭を下げるだけで、なにもしてこなかった。

拍子抜けした私は、ハスキーの頭をなでた。

ハスキーは気持ちよさそうに、目を閉じていた。

この生き物は、本当に恐れているようなものなのか。

ただ、仲良く遊びたいだけなのではないかと考え始めていた。

「おい! なにやってんだ! 食われるぞ!」

また、さっきの少年が叫んだ。

私は、我に返り、再び全力で逃げた。

今日は、河原に自転車で来ていたので、自転車のほうに向かった。

自転車に乗って、ハスキーから逃げようとすると、ハスキーはものすごいスピードで追いかけてきた。

ハスキーは、一声出した。

太くて、遠くまで響き渡るようなたくましいものだった。

何か言いたげなハスキーがなんだか気になって、私は自転車を止めた。

そして、人に話すように、ハスキーにこう言った。

「ごめん。僕は君といっしょにはいられない」

そういうと、とても悲しそうに、ハスキーは去っていった。

ハスキーの後ろ姿は、友人を失ったかのような、しょぼくれた感じがして、ずっと見守っていなくてはいけないような気がして見続けた。

私は、白と黒の生き物にさよならを告げた。

夕日の沈む姿が、ハスキーの悲しい姿と重なった。

君はどこに行こうとしているのか。

また、誰かに恐れられ、逃げられてしまうのか。

誰かと通じ会えるときが訪れるならば、きっと幸せになれる。

このときの私には、ハスキーが何を伝えようとしていたのか、よくわからなかった。

「おい! よかったな! 食べられなくて!」

少年が、こちらに近づいてきた。

見間違いかと思ったが、少年には指が2本足りなかった。

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