TRPGシナリオ製作術 【サブプロットは交差が鍵!4つのコツ】
プロットとは、物語のまとまりのことです。ただまとめるのでは意味がないので、プロットは物語のコンセプトに沿ってまとめることになります。
では、メインプロットとサブプロットというものはどういう事なんでしょうか。同じプロットなのに、メインとサブに分けることにどのような効果を期待しているのでしょう。
今回はここを掘り下げてみます。
メインプロットとは?
物語の主要な流れ
メインという言葉の感じから、『主な』プロットであると解釈することができそうです。主なプロットということは、物語の本筋を担う部分かもしれません。
例えばゲームの話だと、ドラクエは魔王を倒す、ファイナルファンタジーは世界を救う、ポケモンはポケモンマスターというか殿堂入りを目指す、どうぶつの森はスローライフを楽しむ、ということです。
漫画になると、ワンピースはルフィが海賊王になろうとする話、鬼滅の刃は禰豆子を人に戻そうとする話、ヒロアカは出久くんがヒーローを目指す話、ゴールデンカムイは杉元がアイヌの隠し財産を探す話です。
なにを当たり前な事をと思われますが、メインプロットというものは、永遠に主人公が関わり続ける物語の根幹です。
メインプロットには側面や背面がある
ここから先は意外なメインプロットの属性ですが、メインプロットをどこから見るか、もしくは読者に見せるかによって側面、背面と呼べる部分も存在します。
彫像のようなもので、見る視点が違えば違う装飾が見え、光の当て方で影の出方も変わるようなイメージです。
『セーブ・ザ・キャットの法則』という脚本技術書では、メインプロットには捻りを加えろと書かれています。
ゴールデンカムイの場合は所謂『ダブル主人公』構成なのですが、杉元がアイヌの隠し財産を探す話でもあるし、アシリパが己の出生を追う話でもあります。アシリパさんがシンプルにヒロインではないというのが実は大きなポイントです。もし仮にアシリパさんがダブル主人公ではなくヒロインとして描かれていたら、アシリパさん関連の話をサブプロットにすることも出来たはずです。
変わり種として、どうぶつの森から説明してみますが、どうぶつの森に関わらず、主人公に箱庭を遊ばせるスタイルのゲームには『プレイヤーの物語』が存在します。読者であるあなたはどうぶつの森で急遽負うことになった借金をどうやって返しましたか? 魚釣りや虫採りでしょうか、果物でしょうか、それとも手広く稼げる事は一通りやりましたか? 返済時期に住人との交流はしましたか? プレゼントで貰った家具をこれ幸いと借金の返済に当てましたか? 落とし穴というアイテムを見つける前にシャベルで穴を掘って住人を囲ったりしましたか? ハチに追い掛けられて半狂乱になりましたか? プレイヤーの数だけ、物語があります。
これはオープンワールドのゲームでも同じことが言えますが、プレイヤーの人数だけ物語があります。スローライフを楽しむという『どう森のメインプロットの側面』とは、それぞれのプレイヤーによるゲーム内コンテンツへの触れ方によって違いが生まれます。皆さんはどのようにスローライフしましたか? もしくはスローじゃなかったかもしれません。ちなみに筆者はカブの存在を当時は知らなかったので、筆者にとってカブはどう森の知らない側面であると言えます。
『どうぶつの森はプレイヤーが主人公そのものだから、メインプロットの例えとして分かりづらい』とするなら、オープンワールドになって久しいゼルダの伝説を見てみましょう。ゼルダの伝説はシリーズによってストーリーが変わりますが、根幹はゼルダ姫の伝説という伝記物語の中で、リンクが世界を救うお話です。リンクが主人公なんですが、リンクはゼルダ姫と関わって世界を救うことになります。勿論、メインプロットは『リンクが世界を救う話』なんですが、『ゼルダ姫が世界をリンクに託す話』という側面もあります。ゼルダ姫の物語への関わり方はサブプロット的なのではと思われる方もいらっしゃるでしょうが、ゼルダの伝説のストーリーで描かれがちなサブプロットは『救うべき世界の救うべき人々との交流』というところにあります。そして、オープンワールドになってからは、プレイヤーの数だけ山あり谷ありの冒険活劇という柔軟な側面も持つようになりました。
プロットは芸術の根幹に近いテクニック
メインプロットに捻りを加えろという『セーブ・ザ・キャット』の言葉は、つまりメインプロットの側面や背面も見せろということです。光を当てるのか、視点を変えるのか、見せるためのありとあらゆる技術が応用出来ます。
例えば、光の当て方です。物語のどこに光を当てるのかで、影が落ちる場所も変化します。物語の陰も変化します。善悪の善に光を当てれば、悪に影が落ちます。悪に光を当てれば、善に影が落ちます。
見る視点によってもプロットから感じる雰囲気は変化するでしょう。物語をどのキャラクター視点から見せるのか、筆者はコントロールすることができます。ヒーローである主人公目線はシンプルだし王道なんですが、『シャーロックホームズ』は助手のワトソン視点で描かれる名探偵シャーロックホームズという構成ですし、『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』はフーミン目線から見たマサルさんという構成です。
光の陰影や視点が変われば、同じメインプロットでも見え方が変わります。錯視的なテクニックも応用出来るかもしれません。色彩や配置によるデザインテクニックも応用出来るでしょう。画面配置による安定、不安定という考え方や、色に感情を想起される美術分野のテクニックはまさに、読者心理のコントロールに役立つということです。
これは、メインプロットという存在が『物体と表現しても差し支えない"質量を持った"物語の根幹』であり、『人間の感情を想起させる芸術分野共通の目標に近い存在』だからです。
物語に伏線を張る時のテクニックに音楽のコード進行に関するテクニックを応用するのは難しいですが、メインプロットの構想を練ったり、メインプロットの側面をどのように見せたりするのかについては、音楽のコード進行を考えている時の感覚が応用出来ます。『序盤は歌詞に合わせてシンプルな強進行だけど、やっぱサビはエモく小室進行っしょ。だけどイマドキっぽく代理コードで部分転調仕込んで……』といった感覚が応用出来るのは、人の感情を想起させたいという目標が同じだからであり、人の感情を想起させたいというのはつまり、コンセプトという考え方にも近しいのです。
これは、意外と盲点なプロットに対する考え方だと思いますが、人を楽しませたい、感動させたいというテクニック全般がプロットに転用出来るということは、音楽や美術だけではなく、お笑い的な話術や詐欺的な話術、ダンス、スポーツ、科学や数学といった学問、歴史、オカルトなどなど、ありとあらゆる分野の『面白い』から技術を拝借出来る可能性があります。
サッカーをプレイする上で面白いところはどこなのかと考えると、チームプレイや役割分担がサッカーの面白いところだと思います。でもそれって、TRPGもチームプレイと役割分担が楽しいところなので、サッカーとTRPGの楽しいところは共通する部分があると言えます。物語の執筆は一人でする場合が多いでしょうが、物語にとって登場人物たちが織りなすチームプレイと役割分担は読者を感動させる上で必要不可欠であり、登場人物が無く舞台設定しかない物語など存在……はするかもしれませんが、かなり厳しいでしょう。ということは、執筆もサッカーもTRPGも面白いところを共有出来る部分があるということです。もちろん全て共通するわけではありません。
人を感動させたいという事は、深掘りすればするほど色々な分野で共通することになり、プロットぐらい脚本の重要な根幹技術になってくると、その他の芸術分野に限らず、ありとあらゆる物事にまでも共通し始めるということです。
サブプロットとは?
脚本上の感覚としては『一方その頃』という人物設定を付与するということ
これはダブル主人公のゴールデンカムイを例に出したことで混乱してしまうかもしれませんが、物語の都合でダブル主人公が離れ離れになって『一方その頃』のシーンをやっているという意味ではありません。
舞台設定と人物設定というものがあって物語になります。自然に考えると、物語の舞台上で主人公たちだけが動いて、主人公たちだけが世界を変えているのは不自然です。日々色々な人物が物語の世界で生活しているし、その人々の中には世界の変化に携わる人物もいるでしょう。とある街を舞台設定として用意した場合、その街に住む人々も一旦『舞台設定として生えた』ことになるはずですが、その中から名前や生い立ちを設定すべき人物が『人物設定として改めて定義』されます。逆に言えば、名前や生い立ちが設定されずとも、無名の人物はたくさんいるはずです。
サブプロットとは、『人物設定が定義された』人々の中から『物語に影響を与えるキャラクター』に対して『プロット』を"人物設定として付与する"ということです。そうなんです、設定を付与する感覚なんです。主人公たちがメインプロットを進めている『一方その頃』、その人物はどのようなプロットを進んでいるのか考えておくのが『サブプロット』の考え方ということになります。
サブプロットはメインプロットと"交差"する
メインプロットはコンセプトに沿った内容で構成されるべきですが、ではメインプロットに沿ったシーンだけやっていれば良いのかというとそれはちょっと違うんじゃないかと思いますよね?
ゴールデンカムイでは非常に魅力的なキャラクターがたくさん登場しますが、特にサブプロットとして分かり易いのは谷垣、土方、鯉登の三人でしょう。彼らには彼らの独自ストーリーが伺えます。絶妙に主人公サイドの杉本や敵対サイドの鶴見中尉と違ったストーリーが描かれているのです。
三人に共通したテーマは恐らく「自分とは何者なのか」という物です。そして、このテーマはメインプロットの杉本、アシリパとも共通しているどころか、登場キャラクターほぼ全てのテーマだと思います。実はどんなキャラクターも『私はこういう人物だ!』と言わんばかりにイキイキと自分に正直に生きている様が描写されているんですよね。そこにきて「俺は不死身の杉本だ!!」というセリフがめちゃくちゃ効いているというのが格好良いストーリー展開です。
そんなキャラクターたちと出会って別れて金塊を巡る戦いを通して、アシリパさんが『自分は何者なのか』の答えを見つけ出していく物語なのですが、谷垣はアシリパに影響されて人生を左右する決断を、鯉登少尉は軍人としての自分、鶴見中尉との関係性にある自分という状況に悩む物語を、土方は最後まで自分を貫き通す生き様を、ストーリーとして表現されています。
アシリパは自分という存在に悩みに悩むことになりますが、そのようなキャラクターたちとの交流の上で、自分という存在を決めることになり、杉本もまた自分自身の立場を決めることになります。
サブプロットを持ったキャラクターたちが様々な思惑で行動していきます。メインプロットだけでは到底出てこないシーンが出てくるのは、このサブプロットがあるお陰です。サブプロットの一方その頃や回想シーンがあるからこそ、メインプロットの工夫が際立つということになります。
杉本が関わらない戦闘シーンは基本的にサブプロット持ちの登場キャラクターたちの思惑が衝突したことによる『自分の立場を証明するため』のぶつかり合いのシーンであると言えるでしょう。この戦闘シーンを全てカットすることは出来ますが、カットしないからこそ生まれる感動が間違いなくそこにあります。
物語の全体を通して悩むアシリパさんというメインプロットに交差する形でサブプロットが展開されていますが、主人公じゃないキャラクターたちのサブプロットが綿密に絡み合ってメインプロットのアシリパさんの悩みに交差して渦巻いていることが分かります。
このサブプロットの交差っぷりは長時間ストーリーを展開し続けられる漫画媒体だからこそ出来る濃密なサブプロットなんですが、TRPGシナリオに落とし込む場合は映画脚本としてのサブプロットを参考にすることになるでしょう。
映画は2時間しかない、ではサブプロットはどうする?
漫画とは違って、映画は2時間の映像で観客を感動させなければいけません。漫画とは違って映像なので、情報量を増やせるというメリットがあるものの、サブプロットにサブプロットを交差させるような濃密なサブプロットを展開する時間はありません。ではどうするのかというと、サブプロットの数と、交差させるタイミングを出来る限り完璧なものになるよう調整する必要があります。
三幕構成という脚本技術が存在しますが、三幕構成とは『序盤、中盤、終盤』に物語を分けて、それぞれに意味を持たせるという技術です。
序盤は舞台設定と人物設定、物語の謎や問題、物語のテーマの提示をする時間です。
中盤は主人公が謎や問題をどうにかしようとしているのを、コンセプトに沿って観客を楽しませる時間です。
終盤は謎や問題がどのように劇的に解決されるのか、主人公がテーマに対してどのように向き合うのかを見せる時間です。
この三幕の区切りに注目すると、序盤と中盤の間、中盤と終盤の間になります。この区切りにサブプロットを交差させると良いという考え方があります。
たった二回の交差でサブプロットの効果を最大限発揮しないといけないとなると、これはとてつもなく大変なことだと分かります。ですが、この交差という言葉の意味を大げさに捉える必要はありません。
サブプロットの"交差"とは?
メインプロットを変化させる展開のこと
例えば、とある会社員の女性が居たとします。仕事はそこそこ出来ていますが、職場と家の往復ばかりで休日は疲れて家でゴロゴロ。彼氏無しで、友達は既婚者が増えはじめていますが、自分は推しのイケメンVtuberに投げ銭するのが趣味です。
この女性に何も起きなかったら、そのまま年を取って、もしかしたらいつかは推し活も辞めちゃって、独身のままおばあちゃんになっちゃうかもしれません。
ここにサブプロットを交差させるとどうでしょう。
とある日、いつものようにイケメンVtuberに投げ銭していると、XにDMが届くのに気付きます。確認してみると、そこには押しのVtuberの裏垢らしきアカウントで「〇〇商事の〇〇先輩ですよね? 後輩の〇〇です。話があります」と一言書いてあります。
〇〇商事に努めている主人公の名前が書いてあり、後輩の〇〇君は勿論心当たりがあります。〇〇君は女性社員にも男性社員にも人当たりが良く人気のイケメンです。言われてみれば、推し活していたVtuberと後輩君の声が似ている事にも気付きます。
どんな話があるのだろうとドキドキしながら、次の日出社してみると、後輩君が終業時間に声を掛けてきて「実は、先輩に折り入ってお願いがあります。最近案件も貰えるようになってきたんですが、マネジメント出来る気がしなくて……仕事の出来る先輩にマネージャーをお願いしても良いですか? こんなこと先輩にしか頼めなくて……」と頭を下げてきました。
これは物語が始まった感ありますよね、三幕構成で言えば、これで序盤が終了して、中盤に向かうわけです。この脚本のタイトルは『推しのVtuberにマネージャーになってくれと懇願されちゃいました』といった感じです。勿論現実ではこんなこと起こらないのかもしれませんが、物語はファンタジーを描くのも自由なので、リアルかどうかは置いといて先の展開を書いていきます。
タイトルにマネージャーと書いてるのですから、コンセプトはマネージャー業務です。中盤以降はVtuberマネージャー業務の喜劇、悲劇を書くことになるでしょう。
案件配信に遅刻しそうだからモーニングコールしてみるも電話に出ない後輩君のため、貰った合鍵を片手に冷や汗ダラダラで後輩君の家に突撃する主人公。
クソしょうもないお気持ちDMにイライラする主人公をなんとかなだめる後輩君に対して、ちょっとドキッとしてしまう主人公。
手違いに手違いが重なって不運にも配信に主人公の声が少し乗っちゃったせいでリスナーたちが「ストーカーかも……」とか「これは匂わせ」とか大騒ぎしてしまうも、「正直に言うと、ギャルゲ起動しちゃった」と誤魔化そうとする後輩君。
大きな案件を貰って見事成功させ、仕事よりも達成感を感じて喜び合う二人。
グッズ販売が上手くいかなくて段ボールに囲まれながらしょんぼりする二人。
そんな二人が中盤で書かれる中、職場で後輩君に言い寄る『後輩の激かわ女性社員』を目撃した主人公が、思わず嫉妬しちゃって恋心に気付く。ここで中盤の真ん中が終了するわけです。
ここから先はその女性社員の登場と主人公の恋心のせいで、マネージャー業務がドンドン大変になっていきます。
案件の打ち合わせでわざわざ隣町の喫茶店に来ていた主人公と後輩君でしたが、なんと運悪く『激かわ女性社員』に目撃され、職場では「もしかして後輩の〇〇君好きなの?」なんてセクハラ上司に言われて驚愕し、「たまたま喫茶店で会いまして……」と言い訳するが「いい歳して若い子好きなんだ」と犯罪セクハラ発言まで追撃でかまされて、その場はどうにか怒りを抑えるも、冷静になって後輩君に迷惑はかけまいとラインやディスコードで連絡することを決定し、内心ちょっと悲しくなりながらマネージャー業務を続けていきます。
しかし、ここでまた後輩君が大きなコラボ配信前に連絡が取れなくなり、何度も電話するが出ず、倒れてたりするかもと心配になってきます。
主人公は葛藤します。直接会わない約束を自分からしておいて、ここで後輩君の家に駆け込んでいいのか、もし職場の人間に目撃されたら、誤解されるならまだしも身バレの危険だってある。後輩君が今まで頑張ってきた活動が終わってしまうかもしれない。とはいっても遅刻するのは後輩君の自己責任の面もあるがぁ? とキレる時間もあることでしょう。
そんな状況でも、家に向かう事を決意した主人公が、慌てて後輩君の家に突撃するが、なんと後輩君の家の前で『激かわ女性社員』と出くわしてしまい、「あれぇ~、先輩どうして休日に"彼"の家に来たんですかぁ?」と言われ、内心大パニックになってしまったところで中盤が終了するわけです。
ここで中盤が終了したという事は、サブプロットが交差するタイミングです。
もしこのまま交差しなかった場合、主人公は大パニックのまま言い訳しているうちにコラボ配信が始まってしまうかもしれません。無理やり激かわ女性社員を押し通って彼の家に突撃してしまえば、合鍵まで持ってることが知られるでしょう。さらに言えば、どちらに転んでも後輩君に迷惑を掛けるかもしれないし、マネージャー業務も続けられなくなるかもしれません。
このままじゃいけない、どうしようと悩んでいるうちに、時間は刻一刻と迫ってしまいますし、もしここで何も起きないと主人公は『元の生活に逆戻り』してしまうかもしれません。
といったところでサブプロットを交差させるという寸法です。
玄関から後輩君が慌てて出てきて、主人公の事を抱きしめて「ごめん! 連絡来てるの気付かなかったよ、〇〇」と呟き、『激かわ女性社員』に向かって「実はこういうことなんだ」と断言し、主人公を家に連れて帰るわけです。
心臓がドキドキ、バクバクの主人公を連れ帰った後、大慌てで配信環境を整えた後輩君が耳を真っ赤にしながら「急に抱きしめてすみません! でも実はずっと黙ってましたけど、先輩のこと好きですから!!」と一言言ってからコラボ配信が始まっちゃうわけですね。
ここから先の終盤はエピローグ的な感じです。Vtuberとして上手く行き始めた後輩君が主人公を正式にマネージャーとして雇用して、専業になった主人公がバリバリ働いて案件をもぎ取り、後輩君もバリバリと活動を頑張り、『激かわ女性社員』はホストをストーカーした挙句ホストを刺して逮捕され、セクハラ上司はセクハラが露呈して解雇された挙句集団訴訟され、休日はロケハンやオフイベントで主人公たちは各地を飛び回ることになります。
忙しくも充実した日々の中、主人公が「あの時遅刻しそうになって大変なことになったのは、〇〇君が全面的に悪いんだからね」と釘を刺したところで、後輩君が「ごめん! でもあの時、俺もパニックになって良かったと思ってるよ!」と幸せなキスをして終了です。
この脚本のテーマは水戸黄門とかアンパンマン的な「最後には正義が勝つ」といった感じです。それでも、物語として丁度良くまとまっていませんか?
そして、この展開は『どこかで見た事ある』かもしれませんが、これこそが映画脚本的な三幕構成という考え方に対してサブプロットというテクニックを適応するのが王道として使われていることの証拠です。
ゴールデンカムイレベルのサブプロット構成は真似できなくとも、三幕構成の区切りの二か所にサブプロットを交差させるのは真似できそうですよね?
三幕構成のタイミングにこだわる必要も無い
三幕構成の考え方はとてつもなく分かり易くて取っつきやすいテクニックです。短編のTRPGシナリオを書く場合も相性抜群です。ですが、サブプロットをどこに差し込むのか、サブプロットを複数用意しても良いのか、といったことになってくると、それはそれで出来るはずです。
その場合は、三幕構成の区切りを無視する必要もあるでしょう。そもそもTRPGシナリオで長いシナリオを書こうとした場合、三幕構成を発展させたり改良したりする必要もあるでしょう。先ほどの例でも、一旦中盤の真ん中に区切りを入れたのは、三幕構成を発展させた『ブレイク・スナイダー・ビート・シート』と呼ばれるテクニックに基づいています。
交差のコツは、メインプロットの変化量、メインプロットとの距離感、サブプロット同士の位置関係、時間差変化
先程の例だと二回の交差タイミングで劇的に主人公の環境が変わりました。ですが、これは三幕構成というテクニック的に丁度良いからです。交差することで状況が変化する、というルールさえ守れば、メインプロットの変化量は自由です。もちろん、大きく変化する方が意外性や驚きも増えるでしょう。
小さい変化もまたアリです。メインプロット側のキャラクターにとっては小さな意味を持つセリフだったとしても、サブプロット側にとっては大きな勇気や決意あるセリフだったりするのはエモいですよね。
交差するときの事前のサブプロットの動きも工夫し甲斐があります。先ほどの例だと、推しのVtuberという遠い地点から急にガツンと衝突したあと、メインプロットの主人公と寄り添っていましたが、『激かわ女性社員』の登場で少し距離が離れてしまいます。ですが、二回目の交差で再びガツンと衝突します。この『遠い所から急に来て交差する』とか『交差する前に離れている』というサブプロットの距離感はセオリーです。付け加えるなら、近い所に居たサブプロットが軽く交差したのをキッカケに大きく離れていくという展開もよくあります。例えるなら、ちょっとしたことで主人公と喧嘩になったキャラクターが、そこから大きく離れてしまって、主人公の日常に少しだけ変化があるような展開です。
複数のサブプロットがある場合、それぞれの位置関係も工夫出来ます。先ほどの例だとイケメンは一人でしたが、二人のイケメンに挟まれて私どうなっちゃうのー? というタイプの展開では、二人のイケメンがメインプロットに対して付かず離れず動くことがあります。片方のイケメンAが交差したことで、もう片方のイケメンBがリアクションするように離れたり交差したり、そのリアクションに対するリアクションでまたイケメンAが交差したり離れたりという感じです。
イケメンサンドイッチ系の物語は主人公が振り回されることになりがちですが、サブプロットの交差という考え方から当然のこととも言えるでしょう。
なんなら裏でイケメンAとBがサブプロット同士で交差することもあります。大抵の場合、サブプロット同士の交差を後からメインプロットの主人公が知ることになるでしょうが、知ったことでメインプロットが変化するのならそれは交差ですし、変化しないのなら交差ではないということです。
変化する時間軸を遅らせることもあります。主人公の頭の中で、過去言われたセリフがリフレインするような描写はまさしくこれです。言われた当時は変化しなかったメインプロットが、時間差で変形していく展開もまたセオリーです。
TRPGにサブプロットテクニックを落とし込む
TRPGのメインプロットは仮想のものである
TRPGというものは、PLとPCに自由意志があります。筆者としては、想定されるメインプロットというものを考えることは出来ても、PCたちが本当にそのメインプロットをなぞってくれるかどうかは分かりません。
そのため、ガチガチにメインプロットを固定するのではなく、TRPGにおけるメインプロットは大体こんな感じとゆるめに設定しておくことになるでしょう。
ゆるいとは言え、メインプロットに対して交差するサブプロットをコントロールするのはシナリオ筆者です。メインプロットとの距離感、サブプロット同士の位置関係についてはコントロール出来ます。ですが、交差したことによるメインプロットの変化量と、時間差変化はPCに依存します。
それでも、変化するしないを選択するのもまたPL、PCの選択ですので、交差させることに意味があると思う必要があります。
間違っても、PLやPCの意志を無視して無理やりメインプロットを変化させるのは止めましょう。メインプロットはあくまで仮想のもので、PLやPCの意志を無視してまでメインプロットに沿わせるのはTRPGではなくなってしまいます。
TRPG特有のサブプロット活用
メインプロットが仮想の物である。そして、メインプロットがPLやPCに依存して変化していくということは、いわゆる『本筋から外れる』という展開もありえます。TRPGではこの『本筋から外れる』ことについて頭を悩ませることもあるでしょう。
ここでサブプロットの出番です。何らかのサブプロットを交差させることで、メインプロットが本筋に戻るように変化させることができるかもしれません。これはなかなかオシャレなサブプロット活用法ですし、TRPGだからこそ発生する問題を想定したサブプロットの交差ということは、小説や漫画ではなかなか起きないサブプロットということなので、目新しさもあることでしょう。
もちろん、前述した通りメインプロットのコントロールはPLとPCが握っているため、必ず戻るかと言われればそうではありません。ですが、サブプロットは人物設定の一部ですので、本筋に戻そうとPCに接触してくるのはNPCということになります。『不思議な力で』とか『気付くと』といった摩訶不思議な出来事を匂わせるのではなく、NPCがセリフでPCと接触する展開に持っていけるばかりか、交差したことによってメインプロットではなくサブプロット側が変化するという面白い展開も起こり得ます。交差でサブプロット側が変化するようなことは、脚本を筆者が全て管理する映画や漫画では起こり得ないことです。
この場合、PCやPLがサブプロット側であると言い換えることも出来ますが、NPCの誰かがメインプロットを担当するという考え方を当てはめると、先程の『PLやPCの意志を無視して無理やりメインプロットを変化させるのは止めましょう』という問題を無視することが出来てしまって、TRPGとして危険なことをしようとしている事に気付けない可能性もあります。
というのも、サブプロットの基礎に戻るのですが、メインプロットを変化させるためにサブプロットは存在します。メインプロットの側面や背面を見せるだけではなく、サブプロットが交差することによる変化も楽しんで貰うためにサブプロットという考え方が存在します。そして、サブプロットはメインプロットの創意工夫を際立たせる存在であり、平たく言うと脇役です。
PLやPCに脇役をやらせようとすることになりそうなので、PLやPCをサブプロット側に据えるのは良いこととは思えません。
まとめ
メインプロットとサブプロットについて解説してみました。
最近取り上げるテクニックのお話は基本的に全てを説明出来ているわけではなく、まだまだ筆者も研究段階です。
もしこの記事を読んでメインプロット、サブプロットに興味が出てきたら、筆者以外の方の記事や書籍なども凄く参考になる事でしょう。
この記事が誰かのためになれば幸いです。