TRPGシナリオ製作術 【オン・ザ・レールから考える没入感3種】
ゲーム用語における「オン・ザ・レール」(On the Rails)とは、主にストーリー主導のゲームデザインやシナリオ構成において、プレイヤーがあらかじめ決められた進行ルートに従って物語やイベントを進めていく形式を指します。
この用語は鉄道のレールに乗った列車が決められた軌道から外れないように進むことになぞらえており、プレイヤーの自由度が限定されている状況を意味します。
ストーリーベース:開発者やゲームマスターが用意したストーリーやイベントが順番に進行し、プレイヤーはその流れに沿って行動する。
選択肢の制限:プレイヤーの選択肢が限られ、自由に物語の流れを変えることが難しい。ほとんどの重要な決定は、既に決められている場合が多い。
予測可能性:ストーリーの展開がある程度予測しやすく、驚きや分岐が少ないことが多い。
特に、テーブルトークRPGやオープンワールドゲームと比較すると、オン・ザ・レールのシナリオではプレイヤーの行動がより管理され、物語の緊密な展開が重視されます。
オン・ザ・レールのデザインは自由度が低いと批判されることがある一方で、緻密に作りこまれた物語を体験させるためには有効なアプローチでもあります。映画や小説のような体験を提供したい場合、オン・ザ・レールの構造は没入感を高め、強力な物語やキャラクターにフォーカスするのに適しています。
プレイヤーが深く関与し、共感できるストーリーを体験するためには、このような制約も時には重要な要素となります。
上記のものはChatGPTの回答を引用したものです。
最近ゲーム関連記事でたまたま拝見した『オン・ザ・レール』について、TRPG目線で良し悪しの考察をしていきます。
# 自由度の制限とTRPGは矛盾してる?
TRPGの良さからかけ離れたゲームデザインに見えるオン・ザ・レールですが、果たして本当にTRPGの良さを潰してしまうゲームデザインなのでしょうか?
ⅷ 悪いオン・ザ・レールの例
PCたちは、多大なる精神的ストレスにより、身体中の筋肉が硬直してしまい、指先一本も動かせないという状況だった。
目の前では、共に冒険してきた仲間たちが怪物に食われていくのが見えるが、それを止める手段は無かった。
全ての仲間たちが食い散らかされた。
PCたちはあまりの悲しさと悔しさに涙が止まらず、怪物に復讐するという使命に満ち溢れる。
ようやくPCたちは身体の自由を取り戻し始めたが、その時すでに怪物はPCたちに狙いを定め、舌舐めずりをしていた。
怪物との戦闘です!
というCoCのシナリオがあったとしたら、これはTRPGシナリオとして適切だとは思えません。
1つずつ振り返ってみます。
そもそも、多大なる精神的ストレスを負った人間が全員緊張病を発症するでしょうか。
CoCのルールブックには10や20の発狂内容が記載されていますし、そもそも緊張病の主な症状は体の硬直以外にも異常な興奮やオウム返し、昏迷も含まれます。
にも関わらず、緊張病の症状が発症してしまうことが確定しているため、仲間たちを助けることも出来ません。
シナリオ側の都合も分かりますが、これはオン・ザ・レールの悪いところが出ています。
次に悪い描写は、仲間が食い散らかされた場面で悲しみや悔しさを覚えて、怪物への復讐を使命とするPCたちの描写です。
悲しい、悔しいといった感情は、仲間たちというキャラクターとの人間関係や、PC本来の性格や思想、そしてPLの考えによって千差万別だと思いますし、復讐を使命とするかどうかもPC次第です。
仲間たちが喰われて何を思うのか次第で、その後の行動も変わってくるはずですが、復讐が使命になるということは、怪物を倒すという行動に制限されてしまうということです。
そして、最後に怪物との戦闘が始まりますが、怪物と戦闘するような状況になる前に、態勢を立て直すために一度撤退するという選択肢は存在しないことになってしまいます。
これがクライマックスのシーンで、怪物に対抗する手段もあって、PCたちが怪物と戦闘する覚悟が決まっているならまだ戦うという選択肢も分かりますが、そうでない場合もあると思われます。
戦闘ですと言われたら、行間を読んだPLは戦うのかなと思ってしまいそうですし、戦闘ラウンド開始ですと言われたら、戦闘中に逃げるシーンなのかなと思ってしまうかもしれません。
何らかの力によって、PCたちの体や思考が操作されていて、PCたちの主導権がKP側にあるのだとしたら、オン・ザ・レール的な上記の描写でも問題無いかもしれませんが、そうでないなら上記の描写はCoCシナリオとしてオン・ザ・レール過ぎです。
ⅷ 描写を見直すと……?
先程の描写を修飾せずに端的に描写すると、以下のようになります。
PCたちの前に怪物が居て、仲間たちを捕食しています。成功で◯◯、失敗で◯◯のSAN値を減らす正気度ロールです。一時的狂気、不定の狂気の処理をします。
処理を終えたところで、PCたちの行動を決めて下さい。
ということになりそうです。
更に筆者の好みに改変してみます。
PCたちの前に怪物が居て、仲間たちを捕食しようと迫っています。成功で◯◯、失敗で◯◯のSANを減らす正気度ロールです。
一時的狂気、不定の狂気の処理は一旦置いといて、PCたちの行動を決めて下さい。
発狂したPCは、怪物と戦闘することを選ぶと『異常な暴力衝動』を覚えたことにしますし、怪物から逃げることを選ぶと『パニックで逃げ出した』ことにしますし、仲間たちを助けることを選ぶと『自己犠牲を妄信してしまった』ことにします。または、別の発狂内容をロールorチョイスで決めて構いません。怪物に説得を試みるのも自由です。
PCたちの行動を決めて下さい。
という描写が筆者の好みです。
これは発狂してしまったPCにだけ、どのレールに乗るか選んでもらう描写です。発狂していないPCには更にたくさんの選択の自由があります。
発狂してしまったPCだけにオン・ザ・レールしてもらうことでCoCの発狂を楽しんで貰いつつ、どのレールに乗るか選ぶことでPCの人物描写も楽しんでもらうのが狙いです。そして、そもそもオン・ザ・レールを拒否する選択もあります。
その後、戦闘ラウンド処理をするのか、怪物から逃げ切れるかどうかの判定のシーンになるのか、PCの選択に沿った描写に分岐してシナリオを進めていきます。
ⅷ 確ロスNPCとオン・ザ・レール
では、仲間たちというNPCを確定で怪物に食われることにしたい場合はどうでしょうか。
これは非常に簡単で、既に喰われていればOKです。TRPGでNPCを確定でロストさせたい場合は、PCが物理的に関与出来ないタイミング、つまり描写外で既に死んでおく必要があります。
喰われる寸前のNPCとのエモいやり取りを描写したい場合、もう下半身が無いぐらい喰われていないといけません。NPCが生き残りそうな状態だと、PLに「問答無用で助けたいです」と宣言される可能性があり、本当に問答無用で助け出された場合は確定ロストするはずだったNPCが生き残ってしまう可能性があります。
『助けるという行動宣言は出来ません』と、PCの行動宣言を真っ向から否定することはオン・ザ・レールですが、余りにもTRPGそのものを否定してしまいますし、なんとか助け出したあとに『瀕死のNPCは助かりません』と確ロス描写をするのは、PCのNPCを救いたいという気持ちと、実際NPCを救った頑張りに対して、報酬ではなく罰を与えてしまう『矛盾した報酬』ということになります。
更に、瀕死のNPCがその場では助かったとしても、確ロスという運命は変わらないため、後に死んでしまうシーンを用意しないといけませんが、それはシンプルに二度手間です。シーンとして『NPCが死んでしまう』という狙いが重複したシーンを2回描写する必要は無いはずです。
更にもし確定ロストのNPCと会話するシーンを描写したい場合、まず怪物をどうにかしてからでないと無理なはずです。なぜなら、今まさに怪物はNPCを食べようとしている状況なのにも関わらず、PCとNPCが会話している間、怪物は隣で黙って待ってないといけなくなるからです。もし怪物の動きを止められる装置やアイテムがあるのだとしても、PCもNPCも悠長に会話している暇は無いはずです。
つまり、確定ロストNPCとのエモいシーンを長尺で描写したい場合、『怪物にNPCが喰われそうになっている』シーンは不適切であり、形見のアクセサリーをPCに投げたり、PCに手を差し伸べたりする短尺にしないと無理が生じます。
怪物をどうにかしてからエモいシーンを描写するシーン構成もありますが、瀕死のNPCと長く会話し続けるシーンは、漫画やアニメでよくある『意外と喋れる瀕死キャラクター』という現象と同じです。瀕死のNPCと長尺で会話しようとすると、折角のエモいシーンが台無しです。
# オン・ザ・レールに向いたシーン?
『自由度の制限』、『驚きが少ない』という点がデメリットだとして、そのデメリットが関係ないシーンであれば、それはオン・ザ・レールに向いているシーンだと言えるでしょう。
シナリオ内のシーンを考えてみれば、PLやPCが驚くシーンは中盤以降のシーンに多いと思われます。序盤に大きな驚きをもってくることもありますが、それは1つのシーンで、そのシーンで中盤に突入するシーンだけなのではないでしょうか?
そして、選択肢が多くなってくるのも中盤以降に多くなるのが必然です。序盤に大きな分岐があるシナリオを書くことは可能ですが、序盤の分岐を大きくルート分けするシナリオはもう、オン・ザ・レールというテクニック以前にシナリオ制作上級者です。
ということはつまり、オン・ザ・レールのメリットであるところの『ストーリーが予測しやすい』という点と『小説や映画を楽しむ時の没入感』という点を考慮すれば、自然とオン・ザ・レールテクニックを序盤に持ってくることが有効なのではないかと思われます。
ⅷ TRPGで最もよくあるオン・ザ・レールはHO制度
HO、ハンドアウトをシナリオに設定することは、PLに対してオン・ザ・レールテクニックを使用していると言うことが出来ます。
TRPGをある程度遊んだ人からすれば当たり前ですが、あえてHOに違反したキャラクターを作ろうとはしません。キャラクター制作時における選択肢が制限されているとも言えるHO制度ですが、広く受け入れられています。
『小説や映画を楽しむ時の没入感』と書きましたが、実は没入感にも種類があります。今までのnoteの記事でも没入感は大事だと書きまくりましたが、ただ没入感といっても、アプローチが分れています。
『小説や映画を楽しむ』タイプの没入感は観客としてシナリオを観ているときの没入感という意味です。
TRPGにおいてのPLは観客でもあり演者でもあります。PLが観客目線の時に没入感を高めようとする場合、『小説や映画を楽しむ』タイプの没入感が必要なわけです。
ちなみに演者目線の時に必要な没入感は『RPを楽しむ』タイプの没入感であり、これはPLが制作したPCの気持ちにPLが同調している時の没入感です。憑依型と言われるPLさんは、この手の没入感を得るのが上手い人たちなのかもしれません。
さらにちなむと、『ゲームを楽しむ』タイプの没入感もあります。自分にとって丁度良い難易度のゲームを遊んでいる時のゾーン状態を、没入感と言い換えることが出来るからです。
こちらをTRPGシナリオで表現するのは至難の業ですが、シナリオ内のギミックを解いている時や、危険な戦闘ラウンド中や、重大な結果を決めるダイスを振る瞬間などに感じることが出来るかもしれません。
ゲーム的に失敗したくない気持ちが高まることで、PCを操作しているゲームプレイヤーとしてストーリーに没入する状態です。
話を戻して、HO制度というシナリオ制作テクニックは『小説や映画を楽しむ時の没入感』と相性が良いです。というか、物語が始まる前から没入感を発生させるのは、このタイプの没入感以外にあり得ません。まだセッションが始まっていない段階で、エモいRPをしたり、シナリオギミックを解くことは出来ないからです。
逆に、シナリオを開始する前から没入感に助走をつけることが出来るため、HO制度は大人気になったわけですね。HOの内容を見て、ストーリー展開を予想しつつも、良い意味で裏切られてビックリドッキリした瞬間の没入感の高まりは、HO制度によって十分に助走があるからです。
シナリオのストーリーラインの表現方法の一つとしてハンドアウト制度は生まれましたが、これが受け入れられた要因は、ハンドアウト制度が面白いからです。
またまたちなみにのお話なんですが、遊んでいるPLにとって没入感のタイプはあまり関係ありません。シナリオが面白いかどうかが重要なので、PL側で没入感の種類を意識している人は稀だと思います。
ⅷ おまけ:タイプ違いの没入感を重複させると相乗効果?
2種類の没入感を重複させることが出来るかどうかについてですが、これは可能なんですけど、実は余り意味がありません。
シナリオを工夫して『小説や映画を楽しむ時の没入感』と『RPを楽しむ』2種類の没入感を覚えられるシーンを作ったとしましょう。でも、喋っているPLが『RPを楽しむ』没入感を得ており、それを聞いているPLは『小説や映画を楽しむ時の没入感』を得ているはずです。この2種類を本当の意味で同時に覚えてもらうのは「俺(私)のRP最高にカッコイイ!」っていう、演者でもあり観客でもある時になりますが、これは事前にシナリオの要所要所で『このシナリオ楽しい!』とか『GMもPLも最高!』という気分になってないと、例えシナリオの山場でも「俺(私)のRP最高にカッコイイ!」とはなりませんので、そもそも2種類の没入感を組み合わせるという方法より、しっかりシナリオを面白いものにすることに注力しないといけません。
そして、「俺(私)のRP最高にカッコイイ!」と簡単に思っている人は、シナリオとかGMとか他PLとかどうでもいいナルシストPLの可能性もあります。
自然と「俺(私)のRP最高にカッコイイ!」と思えるようなRPを、シナリオ側で引き出すことが重要なのであって、それは没入感を重複させようとする努力とは無関係のところにあります。
『ゲームを楽しむ』タイプの没入感と他の没入感は、更に意味が無いというか、相性が悪いとまで言えます。
というのも、シナリオのゲーム要素に過集中しているゾーン状態になったとして、その瞬間のPLは観客でも演者でもなく"プレイヤー"です。そのゾーン状態中に観客目線や演者目線に切り替わってしまうと、そこでゾーン状態は解除されます。その人の集中力をゲームに全部使っている状態なのに、それ以外の没入感が混入することで集中がキャパシティーオーバーするからです。
しかも、TRPGでのゾーン状態というものは、スポーツやゲーム用語としてのゾーン状態と違ってかなり曖昧なものですし、客観視的な目線も残っています。この没入感は長続きしないため、重複させるのではなく、別のタイプの没入感に素早く切り替える方が良いと思います。
ⅷ オン・ザ・レールな会話シーン
例えば、以下のようなシーンを想像してみてください。
PCとNPCは何とか怪物の追跡を振り切り、とある部屋に逃げ込むことが出来た。
その時、NPCがPCの肩を掴んで言った。
「お前は逃げるべきだが、俺はあの怪物に両親を殺されているから復讐しなきゃならない」
「あの怪物は銃弾でひるむが、殺すには呪いを込めたナイフが必要だ。逃げるだけなら、この銃を使えば大丈夫だ」
NPCがアサルトライフルを渡してくる。
「俺は自分の部屋にナイフを取りに行く。二手に分かれて、怪物を混乱させよう。俺が囮になって怪物の気を引くから、俺に構わずすぐに脱出してくれ」
PCはどのように行動しますか?
上記のシーンの中で、オン・ザ・レールのメリットをPCは享受しています。NPCが状況説明、怪物に対する対抗手段の説明、これからの行動指針を話している間、PCにRPする時間を与えないことで、シナリオがシンプルになっています。最後に行動宣言を促しているため、NPCを止めるために説得したり、質問したり、NPCに言われた通り脱出を目指すことが出来ます。
普通というか、当たり前のことかもしれませんが、オン・ザ・レールというゲームデザインテクニックは凄く浸透しているので、自然にコントロール出来る人がいるのもおかしなことではありません。上記のシーンがオン・ザ・レールだと気付かずに、上記のようなシーンを書いている人もたくさんいると思います。
もし、オン・ザ・レールではないシーンに変更しようとした場合、怪物も怪物としてPCとNPCを探している状況であることを、TRPGとして処理するかどうか改変する余地がありそうです。
例えば、怪物もステータスが決められていると思いますので、NPCのセリフの後にダイスロールをして、怪物がPCとNPCの逃亡先を察知することが出来たら、逃げ込んだ部屋に怪物が乱入してくるシーンにすることができます。
TRPGとして、そのようなシーン構成になっているシナリオもたくさんあるかもしれません。
しかし、その場合は、
・「お前は逃げるべきだが、俺はあの怪物に両親を殺されているから復讐しなきゃならない」
・「あの怪物は銃弾でひるむが、殺すには呪いを込めたナイフが必要だ。逃げるだけなら、この銃を使えば大丈夫だ」
NPCがアサルトライフルを渡してくる。
・「俺は自分の部屋にナイフを取りに行く。二手に分かれた方が怪物も混乱するはずだから、安全なはず。俺が囮になって気を引くから、俺に構わず、すぐに脱出してくれ」
の三か所のどこかに怪物突入ポイントがあるはずですが、怪物が突入してきたら、それ以降はNPCと悠長に会話している暇はありません。
・「お前は逃げるべきだが、俺はあの怪物に両親を殺されているから復讐しなきゃならない」
の直後に怪物が乱入してきてしまった場合、まだNPCから『怪物は銃でひるむが、倒す場合呪いのナイフが必要で、そのナイフがNPCの部屋にある』ことと、『まだNPCがPCにアサルトライフルを渡していない』ことになります。
NPCから情報を知らされていない、そして銃も渡されていない状況で怪物が乱入してきた状況で、PCは行動を迫られることになります。それは、3つ全てのNPCのセリフを効いている場合と違って行動の選択肢が大きく変わる可能性があり、シナリオ分岐点になる可能性があるということです。
TRPGとして怪物がどのタイミングで乱入してくるかをダイスで決定するギミックは面白いと思いますが、シナリオの内容は複雑になります。
怪物に襲われながら、NPCが「この怪物は銃弾でひるむが、殺すには呪いを込めたナイフが必要だ!」、「自分の部屋にナイフがある!」、「この銃を使え!」とアサルトライフルを渡す、という行動をさせることは出来ますが、怪物の乱入タイミングでNPCがどのように説明するか分岐するぐらいなら、最初からオン・ザ・レールにして、NPCとの会話が終了するまで怪物が乱入してこないことにする方がシンプルです。
もしくは、最初から怪物が乱入してくるシーンに調整するべきです。
勿論、オン・ザ・レールにするべきかどうか一概には言えません。上記の例では良くないとしますが、シーンの内容次第ではゲーム的要素を足すことが『面白い』に繋がることも十分にありえます。
しかし、上記の例でいくのなら、シナリオはGMに対する演出指示書でもありますので、ストーリーラインをシンプルに出来るなら、シンプルにした方が分かり易いはずです。
シナリオ作者はTRPGのゲーム的要素を足すか引くか、こういう視点でも考える必要があります。
ⅷ ゲームのイベントシーンはオン・ザ・レール
ゲームのイベント中に敵が攻撃してきて、イベントが中断になってしまうゲームを遊んだことはありますか?
例えばオープンワールドのゲームに起こりがちな事故ですが、これはかなりダルいですよね。一旦敵を倒してからでないとイベントを再開出来ません。
逆に、イベントが始まったときにムービーシーンがスタートするゲームは、オン・ザ・レールテクニックが使用されています。
ムービーシーンが長いとゲームとして退屈、という意見がありますが、オン・ザ・レールテクニックが使用されているので、ムービーシーンが多いことによる退屈さは改善しようがありません。別の要素で退屈さを回避しないといけないということです。
ムービー中にも楽しんでもらいたいということで、ゲーム業界に現れた『クイックタイムイベント(QTE)』は、賛否両論となっています。QTEとは、バイオハザードなどでよくある、ムービーシーン中に何らかのボタンを押さないといけないイベントシーンのことです。
批判的な意見として、ムービーシーンを通じてPLに何らかの感情の想起をしてもらいたいのに、QTEに集中してしまってシーンの内容が頭に入ってこないという意見も一理あります。高揚感や恐怖感からくる緊張を煽るギミックとして、QTEは優秀なシステムであるという意見も一理あると思います。
ゲームのイベントが始まったとき、画面が暗転してローディング画面に入って、目的地に到着したところからシーンが始まるゲームを遊んだことはありますか?
いちいちゲーム内で移動するのを省略している点で楽ではありますが、画面が暗転してローディング画面に入ると暗転したモニターに自分の顔が映ります。実はこの瞬間、没入感が大きく削られてしまいます。
では暗転ではなく明転して、画面が真っ白になるローディング画面はどういう意味があるのでしょう。これはモニター画面にプレイヤーの顔が映らない配慮も込められていると思います。しかし、ゲームプレイが一旦途切れることには変わりないので、没入感が損なわれるのを完全に阻止することはできません。
TRPGでは、イベントシーンも地続きになっていることが普通です。何らかのイベントが始まったときにローディング画面に移行する必要が無いので当然ですが、これはコンシューマーゲームなどと比べて没入感を維持することが勝手に出来ていると言い換えることができます。
没入感が維持出来ているのであれば、多少オン・ザ・レール的な展開にして、没入感を犠牲にすることもありえると考えることができます。
つまり、TRPGとオン・ザ・レールは、シーンの内容次第で有用であるということです。実は相性が最悪というほどでもないんですね。
ⅷ オン・ザ・レールの基準はアドベンチャーゲームにある
オン・ザ・レールの弱点は『この先のストーリー展開が予想しやすい』ため『驚きが少ない』という点です。
では、それを上回るほどの驚きをストーリーに追加すれば良いだけだとも言えます。しかも、PLがある程度ストーリー展開を予想している状態なので、PLの予想を作者も想定しやすいです。
オン・ザ・レール的なシーンによって、PLに先の展開の予想をさせてしまうという方法があります。これはゲームシナリオでよく行われる手法です。
あえて最初から最後までオン・ザ・レールの一本道にすることで、プレイヤーにストーリーを予想させつつ、良い意味で裏切って驚きを生む。この流れで面白いと言われているゲームジャンルがあります。それはアドベンチャーゲームと言われているジャンルのゲームです。ギャルゲーや乙女げーも含まれています。
ギャルゲーにも乙女ゲーにも選択肢はあってエンド分岐もありますが、基本的に選択肢は非常に制限されているうえに、エンド分岐に関わる選択肢しか現れません。
そして、プレイヤーもアドベンチャーゲームに『小説や映画を楽しむ時の没入感』を求めて遊んでいます。
この状況はオン・ザ・レールの独壇場とも言える環境です。シナリオのテーマやコンセプト、伏線の回収、綿密な物語を壮大なエンディングに向けて表現するのにうってつけのゲームデザインテクニックだからです。
では、TRPGでも同じことが可能かどうか考えてみましょう。アドベンチャーゲームとTRPGの違いを見つけることが出来れば、そこがオン・ザ・レールの都合が悪いところです。
しかし、違いらしい違いはあるのでしょうか。
挙げていけばキリがないぐらい挙がりますが、大きな違いだと断言は出来ません。
ストーリーで何らかの問題が発生して、その問題に主人公が向き合うことになるのは一緒です。TRPGはPLの発想次第で選択肢が無限にあると言うこともできますが、めちゃくちゃ俯瞰的に見て『エンド分岐に関係のある選択肢』と『エンド分岐に関係の無い選択肢』の2種類しか無いとも言えますし、『エンド分岐に関係の無い選択肢』は選んでもストーリーラインに影響がないため、ぶっちゃけ選んだことにならないと言えます。これはアドベンチャーゲームで選択肢が出てこない時と一緒です。どちらもストーリーに合わせて伏線が張られていき、伏線回収の末に感動的なエンディングに辿り着きます。
要するに、アドベンチャーゲームとTRPGはかなり似ているということです。しかし、完全に違うところがあります。それは、1人のPLとPCで物語が進むのがアドベンチャーゲームなのに対して、TRPGシナリオは複数のPLとPCがいる場合があることです。
この違いに注目すると、アドベンチャーゲームの文脈で表現できない面白みは、複数のPLとPCがいるという点に集約されそうです。逆に、ソロシナリオはアドベンチャーゲームと一緒だと言えます。そして、ソロシがアドベンチャーゲームと一緒なのは悪いことでは全くなく、『小説や映画を楽しむ時の没入感』に特化しており、その没入感を極めることが出来るという利点があるということです。
複数のPLとPCがいるときは、『小説や映画を楽しむ時の没入感』タイプに頼るだけでなく、『RPを楽しむ没入感』や『ゲームを楽しむ没入感』という幅広いアプローチが出来るということです。
これらの違いについて分かり易いのは、複数PLの時のシナリオで、クライマックスで誰かがロストしそうな状況に追い込まれてしまったときのシーンを思い浮かべてみると分かり易いです。
大体のTRPGシステムでは、ゲームルールとして誰が遅くて誰が速いか決められています。敵と味方が動く順番的に、動くのが遅いPCがロストしないと全員が生き残るのが難しい場面になってしまったとしましょう。
この時、自分のPCが遅かったのが運命だったと諦めて、安全策として自キャラを犠牲にすると提案するPLも居れば、「うるせぇ! 全員で生きて帰るんだよ!」と難しい全生還を提案するPLも居れば、「私のキャラクターはここで死ぬべきだから、私が犠牲になる作戦で行こう」と提案するPLも居るはずです。「俺のキャラクターは速いし、こういう技能も持ってるから、こういう作戦だと生存率高くならないかな?」とGMに提案するPLも居るでしょう。
この瞬間、誰もが『ゲームを楽しむ没入感』を感じているはずです。
そして、誰かの作戦で行くことが決まって、ダイス結果で運悪くPCの誰かがロストしたとしても、運良く全生還したとしても、そこからは『RPを楽しむ没入感』に浸る時間です。
皆で満足いくRPが終わったところで、エンディングとなりますが、この面白さは複数人でないと成立しません。KPCとPCのタイマンシナリオだったとしても、複数人だからこその楽しみというものとは少し違ってきます。
感想戦ではGMも一緒になって『楽しかったねぇ!』とか『あの時のRP良かった!』とか『あの時のダイスで実はこうなってて』とか、そういう会話があるのがTRPGの良いところです。
これらの面白いところはアドベンチャーゲームにはありません。
(アドベンチャーゲームは別の良い所がありますが)
つまり、『複数人シナリオ』とオン・ザ・レールは微妙に衝突する時があります。PCの誰かにとっては都合の良いレールでも、PCたちを全員同じレールに乗せると不満が発生する場合があります。
オン・ザ・レールというゲームデザインは一人用のゲームで扱われるゲームデザインテクニックですので、複数人を想定したテクニックではありません。
とあるシーンでは有用とも言えるオン・ザ・レールですが、複数人参加出来るシナリオで転用する時は、それぞれが望んだレールに乗せてあげることを考えましょう。
複数人シナリオも、視点を変えれば、PLそれぞれのアドベンチャーゲームが同時進行していると考えることが出来るわけですので、複数人シナリオでもオン・ザ・レールにするべきシーンはあるはずです。
# オン・ザ・レールと没入感タイプまとめ
オン・ザ・レールというゲーム用語はあまり一般的ではないので、知らず知らずの間にテクニックとして吸収しているシナリオ作者さんも大勢いらっしゃると思いますが、ゲームデザインテクニックであることを知ることで、よりコントロールしやすくなったかと思います。
一見するとTRPGに相反する効果があるテクニックですが、状況に合わせて使うことでPLのストレスを大きく減らす効果もあり、没入感を高める一助にすることも出来ます。
特に、アドベンチャーゲームに影響されたタイマンシナリオなどを書いていらっしゃる方であれば、もう自然と出来ているテクニックのはずですので、より上手くコントロールすることが出来るはずです。
更に、没入感にタイプがあることに注目すると、よりストーリー構成にこだわることが出来ると思います。
この記事が誰かのシナリオ制作の一助になれば幸いです。