内廊下恐怖症
俺の住んでいるマンションは内廊下だ。
内廊下は怖い。
それは俺が出た時に、誰かが出てきて鉢合わせになるかもしれないからだ。
俺はそれが怖くて怖くてたまらない。
しかも気を遣うから嫌なのだ。
「あっ...どうも、こんにちは...」
これで挨拶を返されるならまだいい。
でも大抵の奴は無言だ。
「あっ...どうも、こんに...」
俺が全部を言い終わる前にスッと目の前から去っていきやがる。
何なんだあのやろう、ちょっと可愛かったけど。
そんな俺だから、家から出る時は必ずドアスコープで外の様子を確認する。
さらには耳をそば立てて誰かが出てきそうな気配がないか、少しの物音も漏らさずジッと耳を凝らすのだ。
そして完全な安全確認が取れたところで、意を決してドアを開ける。
でも開ける時はソッとだ。
サッと開けてそのタイミングで誰かが出てきたら、もう後戻りができない。
でもソッと開ければ、誰かが出てきた時にスッと閉めることができる。
俺はそれで何度か命拾いをした。
でも俺はもうそんな気遣いと恐怖にはうんざりだ。
だから考えた。
外から鳴らすインターフォンがあるなら、家の中から外に向かって鳴らすインターフォンがあってもよいのではないかと。
自分の部屋の中から内廊下に向かって「すいませ〜ん。何号室の◯◯ですけど〜、今から出まーす。」と呼び掛けるのだ。
それを聞いた住人は、俺の部屋の扉が開いて閉まるまで部屋の中で待機する。
そうすることで住人同士が鉢合わせするなどという惨事を防げるのだ。
それにしても俺が挨拶をしているのに返事をしない野郎は何なのだろうか。
そんなに俺が気に食わないのか。
部屋の中では隣に気を遣ってAVもイヤフォンで音が漏れないように見ているし、あんたに迷惑は掛けていないはずだ。
逆にあんたはどうだ。
前に野球を見ていたらしく「いけー!よっしゃー!打ったー!」とか、うるさいんだよ、あんた。
あんたの方がよっぽどうるさいんだよ。
まぁそれはいい。
とにかく内廊下のマンションは緊張の連続ということだ。
今日も内廊下のマンションに帰る。
あー、エレベーターで鉢合わせってのも気まずいんだよなぁ。
あー、やだやだ。
もう家に帰りたくねぇ。
ホテルにでも泊まるか。
こればかりは不要不急じゃないから許されるだろう?
え?不要不急ですか?
そうですか。
えぇ、大人しく帰ります。
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