絶望の黒色

トオルは気持ち悪かった。
朝、会社に向かう人の群れが。
駅の階段を降りて地下鉄のホームに向かう群衆。
皆、同じ格好をしている。
暗い格好。
まるで工場に送られる一商品のようだ。
皆、同じ格好。
誰一人して原色の服なんかいやしない。
皆、紺やグレーのスーツに身を包んで、足並み揃えてザッザッと一方向に向かって歩いている。
誰一人として上を向いていない。
皆一様に下を向いて目的地に向かっている。
トオルは踵を返した。
気持ち悪くて、そしてこの群衆に取り込まれている自分に心底嫌気が差したのだ。
毎日毎日同じ。
ここを数十時間後にはまた帰ってくる。
そしてまた明日も明後日も...
これじゃまるでロボットだ。
だからトオルは逃げ出した。
会社をサボった。
当然、クビになった。
でもトオルは清々しい気持ちだった。
あんな気持ちの悪い群衆から抜け出た自分の勇気を褒め称えていた。
やがて3ヶ月が経った。
トオルは未だ再就職先が決まらない。
さすがに焦っている。
貯金も底をつきそうだ。
トオルは後悔していた。
あの職場を逃げ出したことを。
そして自分は結局この環境からどうあがいても抜け出せないことに絶望していた。
自分で一人、何かを成し遂げる力も能力もない。
そのくせ一丁前に会社を逃げ出した。
しかし見てみろ、今じゃこのザマだ。
また勤め先を探している。
結局、俺は社会のお世話になるしか生きる道がないんだ。
どうあがいたって歯車でしかないんだ。
自分だけは特別だなんて間違っていた。
自分だけはあの環境から逃げ出して自由に生きられるなんて思っていた。
でも勘違いでしかなかったんだ。
もう俺には戻るしか道はない。
どうあがいても死ぬまで歯車なんだ。
今日も駅の構内には絶望の黒色が渦巻いている。

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ごめんなさいね〜サポートなんかしていただいちゃって〜。恐縮だわぁ〜。