【ゆかマスコッショリ】湯船の語らいとまぐわい【City at war...with VOICEROID エピローグ】
どうもみなさんこんばんわ。ゆう太郎です。
今回は1/5に投稿した「City at war With VOICEROID」のエピローグです。
…えっ?エピローグがコッショリ小説!?
というのも、前日譚には悪役の描写として、少し性表現や暴力表現を取り入れてみました。あちらが欲望と本能丸出しの「悪しきエロ」」とするなら、人と人の確かな幸せの1ページになるような「良きエロ」みたいなのを書いてみたくなったのです。
詳しくは今後各予定のあとがきで取り上げたいと思います。
主な登場人物
結月ゆかり
種族:女性型アンドロイド「VOICEROID2結月型」
年齢:18歳
身長:159cm
お家での役割:お掃除・洗濯
趣味:ファッション
日本のある場所に住んでいる、家庭用家事手伝いヒューマノイド「VOICEROID」の少女。
真面目で優しく、困ってる人を見ると放っておけない。余計なことにも首を突っ込むのでマスターに怒られることもあるが、そんな彼女の優しさを時には優しく見守ることも。
こうみえてマスターによる特殊戦闘訓練を受けており、もしもの時は人を超えた超人的な戦闘力を発揮する。
彼女はそんなマスターにベタ惚れであり、今夜その想いが爆発する…!?
マスター
種族:人間
年齢:25歳
職業:ロボット整備士
お家での役割:収録した動画の編集・家事の説明&担当者代理
趣味:ゲーム・ダンス・プログラミング
ゆかりのマスター。ゆかりを含めた5人のボイロと共に喧騒に溢れた毎日を過ごしている。
仕事や動画制作には真面目だが、私生活はわりとちゃらんぽらん。趣味の動画編集に集中したいがためにボイロ達を買ったのだが、今では大切な家族。
恋愛に関しては奥手…どころか「恋愛するような人間が信用ならない。」と自ら拒んでいる節があり、ボイロ達でもそのような目で見ようとはしない。
これには思春期に受けた「トラウマ」が強く関係しているようで…?
日本時刻2025年1月6日・午前0時
時刻は午前0時。住宅街の人々は寝静まり、音さえ立たない静かな世界が作られていた。そんな街を、物言わぬ街灯が使命のままに照らしていた。
使命…か。今日はロボットという使命を越えて、安らぎと愛を求めたい。
そんな事を思いながら、私は街をバイクで駆け抜けていた。
あの人が待つ我が家へ帰るために。
昨日――と言っても数時間前ですが――私はテロリスト「ユートピア・クリエイター」と激戦を繰り広げていた。
奴らは人間・ロボット関係なく奴隷のように扱い、切り捨て、己の欲のままに暴虐の限りを尽くした。その偽善者という言葉さえ霞むような大悪党を倒すため、私は彼らを倒し、命令に従って刑を執行した。
その事実を秘匿するように、私は占拠された奴らの拠点の崩落に巻き込まれ、死んだ――ように見せかけ、今はこうして帰路についている。
ロボットが人を殺した。そんなロボットは人間とともに死んだ。こうすれば世間のショックは少しでも和らぐだろう。私達は商品として、そんな宿命を背負っている。
だけど――私は今日、戦地へ趣き、帰還した。
ワガママだって言いたくなる。そしてそのワガママは叶うかもしれない。
誰かにとっては小さなことでも、私達にとっては大きなワガママだ。
そう思うと、少し、楽しみになってくる。
私は一刻も速い帰還のため、バイクのスピードを上げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
少し時が経った頃、我が家が見えてきた。
「――フフッ、やっと・・・ですね。」
私はバイクのスピードを落とし、停車させる。
インターホンを押せば、戦帰りの私はただのボイロへ早変わり。
ドアの前。そう長くはないけれど、あの人が来るのを待つ。
そして――ドアが開く。
「…帰ったか。」
安堵したように、私のマスターは笑顔を向ける。
「・・・はい。」
生きて帰った喜びを胸に、私の愛しいマスターの胸に手を回し、抱きつく。
「ただいま帰りました!マスター!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――それで、バッチリ殺ってきたと。」
「はい。死体は確認していませんが、爆弾を食らって生きている訳ないですから。」
「任務とはいえなかなか鬼畜な殺し方だなぁ…」
時刻は午前0時15分を少し過ぎた頃。私は帰ってそうそう、マスターと報告書作りを行っていた。相変わらず面白みのない、マジメな人だ。けど、今となってはそのいつも通りの姿さえも愛おしい。
「奴らとの戦闘データは取れたか?」
「はい。でもパニッシュハンドガンには敵いませんでしたね♪ものの数秒で沈みましたよ。」
「自分で作っといて何だけど強いな…今度ナーフすっか。」
マスターがキーボードに打ち込む。
「…よっし。とりあえずこいつで送信っと。これで七瀬さんから修正が来なきゃいいんだがな。」
「これで、私たちも元通りの暮らしが出来るんですね」
「あぁ。ひょっとしたら、また何か来るかもしれねぇけどな。ま、そん時はそん時だ。」
「こういう所は楽天家ですよねぇ。」
「あたりめーだ。未来なんてどうなるかわからねぇ。いくら先のこと考えたってしょうがねーさ。さ、風呂入って寝よーぜ。」
そそくさと席を立つマスター。それが逃げであることを私は見逃さない。
「あの~マスター?約束は?」
ギクリと言わんばかりにマスターが凍りつく。
「…やっぱ忘れてないのね?」
「はい。ボイロの記憶力は人間以上ですもの。」
同日・午前0時30分
私達二人が交わした約束。それは単純に「一緒にお風呂に入る」だけだ。
え?成人男性と一緒にお風呂?何か起こるんじゃ?
ノンノン。その「何か」が狙いです。
実は私は、マスターに惚れている。だからこうして「誘って」いる。
付き合っているわけじゃないけれど、同居を続けて早2年。普通の同棲カップルなら、結婚とかがあってもおかしくはないころだ。
ましてや男と女。なにかがあってもおかしくはない。
なのに・・・。うちのマスターは・・・何も起こさない。
同居人は確かに4人いるし手を出しづらいのかもしれない。でも二年間全く何も無いのはさすがに辛い。正直、女として見ていないのかと不安になってしまうレベルだ。
だったら!起こしやすくすればいいじゃないですか!密室二人!お互い裸!今度こそ何も起きないはずが…!
はず・・・が・・・――
湯気が立ち込める温かな浴室の中、私はず~っと虚空を眺め続けていた。
理屈は簡単だ。触れ合うカラダ。マスターのおっきな手。ハダカの二人。
まだ男の人の、生まれたままの姿を見たこと無い私にとっては、刺激が強すぎたのだ。
あれ?私ここで既成事実作るつもりでしたよね?ウブで奥手なマスターをリードして致すんでしたよね?こんな状況で何をドギマギしてるんですか?
とりあえずマスターの方に向き直って顔を見ないことには始まrダメだあっ!
恥ずかしくて顔が見られない!
あわわわわわわ!ダメだぁ!ひょっとして私には早かったぁ!?
予想もつかない未来にわたわたと慌ててしまう。
見た目は平静を保っているけど、心はパニック状態だ。
とりあえず深呼吸をして、平静を取り戻す。
ええい、ここでおじけついたらダメだ。誘った人間が何もせずそのまんま退席なんてあってたまるか!
ここは勇気を出して、マスターと向き合わなくては!
そう言い、マスターの方に向き直ると――
マスターはマスターで目を逸らし続けていた。
顔は見るからに赤く、必死でこっちを見ない。
「あの…マスター?何でこっちに向かないんですか?」
「あたりめーだ!お前一応成人女性ベースの肉体だからな!?そらそーゆう目線くらい向けてしまうわ!」
目を向けず、いつものようにツッコミをする口調で私に話す。
私に向けたこの言葉は、一つの意味を逆説的に証明していた。
「マスター、それって…。」
「私をえっちな目で見てるって事ですか?」
マスターに稲妻が突っ走る。
「あ、いやそーいう意味じゃなくて、だからといってどうこうする気はないっていうか、むしろどうにもしたくないっていうか···」
弁解のため、慌てふためくマスター。嫌われたくないと言わんばかりに、自らの潔白をアピールする。完全にムダなあがきだ。
けど…そんなマスターを見ているうちに、何だか笑いがこみあげてきた。
「フフフッ…」
「えっ?」
私の姿を見て、不思議そうに見つめるマスター。
「いえ、あなたもそんな顔するんだなって···。朴念仁で、色事になんて興味ないような顔してるのに。」
「あ、当たり前だろ?俺だって人間だ。そういう欲くらいあるし、意識はするさ。」
「ずっとロボットみたいな人だと思ってましたよ。何でも出来て、誰かのためにしか動かない。自分のことなんてどうでもいいとさえ考えているように見えましたもん。」
不思議な人だ。自分一人で何でもやれるような澄ました顔をして、いつも自分たちを助けてくれる。理由だって、誰かが聞いたら恥ずかしくなっちゃうような美辞麗句ばかりだ。いつだって誰かの役に立つ事しか考えない、ロボットみたいな人だと思ってたのに。
私が人間のようになりつつあるのは――欲を抱き始めたのは――そんなあなただからなのだと感じる。
あなたの役に立ちたい。あなたの笑顔が見たい。あなたと幸せになりたい。
だから、この欲を伝えるのはあなたがいい。
今、それを強く思う。
鉄と人工肌で出来たカラダはまた火照り始め、顔は自然と緩みだす。
「・・・そんな大層な人間じゃねぇよ。俺は。」
マスターが口を開く。
慌てた様子が浮かばない、シリアスで澄ました顔だ。
「親には怒られてばっかで、ガキの頃はイジメられて···罵られて、見下されて……。そうやって育っていった奴は、大抵人間嫌いになる。だから俺は、家を出て地元から逃げた。一人で誰にも傷つけられずに暮らすためにな。」
マスターは、突然自分語りをはじめた。彼が語る過去はまるで知らなかった。――こんな暗い過去があったなんて。
「初めての一人暮らしは辛かったよ。上手い飯はろくに作れねぇし、仕事はきついし、静かさが逆に孤独を際立たせた。このまま一人寂しく暮らしていくのを想像すると、余計みじめな気持ちになっていった。」
己の暗い過去を語るマスターはいつにもまして暗く、重たかった。
まるでオーラがあるようだ。ネガティブで、鬱屈で、生まれてこなきゃ良かったと言いたげな。
どんなに辛かったのだろうか。想像したところで答えは分からない。
「けど、皆と暮らしてから、何かが変わり始めた気がするんだ。」
マスターの声が少し明るくなった。そう話すマスターの顔は、少し笑みを浮かべていた。
「あかりのおかげで毎日の食事が楽しくなった。マキさんのおかげで世界が広がった。茜と葵のおかげで、日々が賑やかになった。そしてゆかり。最初に君と出会ったことで、何だか不思議と生きるキモチが湧いてきた。君や君達のために生きようと、そう思うようになってきた。」
「生きていたいと思うようになったのは、君達と出会ったからだ。」
マスターが、私に笑顔を見せた。爽やかで屈託のない、自然な笑顔を私に見せた。
その笑顔が、私の感情のリミッターを振り切れさせた。
「あー···言ってて恥ずかしくなってきた···。と、とりあえず体洗うから――」
言い終わる前に、私はマスターの口を唇で塞いだ。
逃がさない。逃げさせない。恥ずかしくたっていい、後悔したっていい。この想いだけは伝えなくちゃ。
「···!」呆気にとられたかのように、マスターは腕で唇を押さえる。
そんなマスターなどおかまいなく、私は胸に手を回して距離を縮める。
「私もあなたと出会えて生きていたいと思えたんです。」
感情が込み上げてくる。怒りと想いが綯い交ぜで、言葉が強くなっていく。「あなたのおかげで色んな人と仲良くなれて、色んな楽しみを知れて、守りたいと思うものを持てた。あなたのように、人の幸せを願えるような心を持てた・・・!幸せを奪うような奴と戦える力を持てた!
私たちにそこまで尽くしてくれたのなら、私がここまで尽くしてもいいでしょう!」
「あなたは幸せになるべき人なんです!あなたが幸せになれない世界なんて、あっちゃいけないんです!」
思わず口に出してしまった。早口でまくしたてるように言ったせいで、息が切れる。あっけに取られたマスターは、唇を抑えた腕から力が抜け、湯船に浮かんでいた。
「……ゆかり。」
優しく穏やかな声で、マスターは私に話しかける。
「え?」
次の瞬間、マスターは私の背中に手を回し、体を寄せた。
「ひゃああっ!?」
突然のアプローチ、そして急激に縮まる距離に、私は驚きを隠せない。
「ありがとな。ここまで言ってくれたのは君が初めてだ。」
優しく穏やかな声は崩れない。けど、言葉の節々から、幸せな気持ちが溢れ出ているように思える。そう感じてもいいのかな。私のおかげだって、思ってもいいのかな。
「ヘヘッ……オレ、こんなことしていいのかなぁ。こんな事はできる限り避けてたのに。」
「何言ってるんですか。別にいいんだって神様がいたらそう言いますよ。」
「神様ね……そう言われちゃあ、信じてみてもいいかもな。」
「フフフッ…。」
思わず笑みがこぼれる。これが幸せという奴なのだろうか。出来ることなら、このまま幸せな気持ちが続いてほしい。そう思ってしまう。
――けど、目的は違う。このままで満足しちゃいけない。いや、出来ない。
もっと上へ。せっかくお互いの裸を見せ合う所まで行ったんだ。
ここまで来たのなら、いっその事――
「えっち」したい。
「ねぇ……マスター。」
「うん?」
抱き寄せられたまま、私は声を形にする。
「どうせなら…このまま、もっといろんなこと…したいです。」
恥じらいが言葉を濁す。ホントははっきり言いたいのに、勇気が出ない。
「…ぐ、具体的にはどうしたいんだ?」
「!?」
その見透かしているかのような言葉は、私を赤面させるのに充分だった。
「い、言わせたいんですかっ!?そんな趣味がお有りで!?」
「ち、ちげーよ!確かに言いたいことは薄々分かるんだけど…」
「分かってるじゃないですか!やっぱり言わせたいんじゃないですかぁ!」
「違うって!そうじゃなくて…!」
「じゃあどうなんですか!」
何で抱き合いながらこんな漫才を交わしているんだ私達は。
そんな状況に一人ツッコミを入れる私に、マスターが本音を漏らす。
「・・・不安なんだよ。俺の考えてることがホントなのかって。
こんなこと・・・していいのかなって。」
………どうして避けたがるのだろうか。いや、答えは少し前に出ていた。
きっと、裏切られるのが怖いのだ。進んでしまえば、裏切られたショックが大きくなる。人はどこかで裏切って、何も意に介さず見捨てていく。きっとそういう経験を何度もしてきたのだろう。
「……していいに決まってるじゃないですか。」
思わず声が漏れる。マスターの顔を真っ直ぐ見つめて、私は話す。
「したいです…。あなたと……えっちしたいです。」
言ってしまった。こうなれば、元の関係には戻れない。そのまんま事に至るか、断られて破局かの2択だ。
マスターはどう出る?私の気持ちにどう答える?
胸がドキドキが止まらない。どうか……私の望む答えでありますように。
そう願う中、マスターが口を開いた。
「…そうか。じゃあ、明日まで待ってくれないか?」
「…へっ?」
答えは、私にとって予想のつかないものだった。
「い、いやいや!このままいかないんですか!?絶好の大チャンスですよ!?カモがネギ背負ってやってくるような状況ですよ!?食いつかなくていいんですか!?」
「ホイホイと眼の前の据え膳に食いつくような男はカスだ!まだゴムも買えてねーんだよ!」
「あ……。」
そうだった。人間とロボットじゃ、子を成すことの意味が違う。それをすっかり忘れていた。
「す、すみません……忘れてました。」
「……もっと別の理由もあるけどな。」
「え?」
私をフォローするように、マスターはさらに言葉を交わす。
「……初めてだからだよ。もっと学ばなきゃいけない事だってあるし。
…それに、俺は小心者でさ。まだ心の準備が出来てない。だから…さ、一日だけ待ってくれないか?」
……相変わらず、マジメな人だ。この人には敵わない。
けど、忘れさせはしない。忘れたら――許さない。
私は、そんな意味をこめて、マスターにまたキスをした。
「約束…ですからね。」
そう言って私は湯船から出て、体を洗い始める。
「……忘れるわけねぇだろ…。」
そう小声で漏らしたのを、私は聞き逃さなかった。
1月6日・18時
「「「「ゆかりん帰還おめでとー!」」」」
家族の言葉とともに、クラッカーの破裂音が鳴り響く。
「えへへ…ありがとうございます…。」
こうも盛大に祝われると思わず照れてしまう。
そう思いつつも、私は「アンタが主役」と書かれたたすきをかけている。
ついでに頭にはパーティハットもつけている。浮かれてるなぁ。
会場――と言ってもいつものダイニングテーブルだけど――にはたくさんの料理が並び、私たちの好きな食べ物がたくさん並んでいる。
ハンバーグ、フライドチキン、たこ焼き、チリドッグ…こんなに食べ切れるのだろうかと、少し不安になってしまう。
「いやぁ、生きて帰ってくれて良かったわぁ。ま、なんとかなるとは思っとったけど。」「フフッ、マスターとロボットポリスの皆様のおかげですよ。」「おいおい。一番の功労者はお前だろう?」「そうだよ?あんたが主役なんだから!」
マキさんとマスターの言葉で、会場が温かな空気に包まれる。
「う~ん…やっぱりおいし~!」
あかりんのお皿には大量の料理が置かれている。
「ってコラァあかりん!主役より食べてどーすんだ!」
思わずマキさんがツッコミを入れる。
「まぁ、いつものあかりんらしいですし。」「せやな。こうやってツッコミも出来たわけやし。」「いやそーいう問題か~いっ!」
葵さんのツッコミが炸裂する。皆雰囲気に酔って大笑いだ。
「いやぁ、三が日終わってから準備しといて良かったわ。」「こんな豪華な食事も作れたしねぇ。」「チリドッグがたくさん食べられてわたしゃ幸せだよ…。」「そっちかよ!つーか皆ボケてばっかだなぁ。」
「まぁ、生きて帰ってこれたんですしね。」
「そうだよぉぉぉぉ~~~~!!!!訓練ばっかりで全然会えなくて寂しかったんだよぉおおおおお~~~~~~!!!!」
「わあぁっ!なにか食べながら抱きつかないでください!!」
(※上記のセリフは翻訳済みです。)
「あれ?まだ酒は解禁してなかったよな?」
「え?」(カシュッ)
そう喋る茜さんは、とっくの昔に酒の缶を開けていた。
「おい…随分速いなぁ…。」
「せっかくなら楽しいほうがええやろ?アルコールもたかが知れてるし。二人も飲もうや♪」
「あ、いえ、私は…。」「今回はパスで。」
「…………」
私達の息の揃った返答に、茜さんが目を細める。
「あ、あの…どうしたんですか?」「べっつにぃ~?」
ニヤニヤと笑いを浮かべながら、茜さんはグイっと一気に飲んでいく。
「お~い一気飲みは良くないぞ…?」
「プハッ。」と缶から口を離すと、茜さんは高らかに宣言する。
「よっしゃお前らぁ!今日は飲めや歌えのどんちゃん騒ぎやぁ!」
「えええ!?」
突然の宣言に驚きを隠せない。
「あ~…ダメだこりゃ。」
マスターは呆れて肩をすくめている。
「このまま酒を飲み尽くして、布団を介さず全員スリープモードやぁ!」
「よっしゃあ!酒があれば食事も楽しい!飲むよぉ!」
「……ったく、回りくどいなぁお姉ちゃんは。」
雰囲気どころか酒にも酔い初めた皆は、一斉に料理に食いつく。
その姿に呆気にとられる私達。けどその破天荒な皆の姿を見て、私はあることに気づいた。
「ったく、誰が片付けすると思ってんだ…。」
「まぁまぁ、皆帰ってこれたから嬉しいんですよ。それに……」
私はマスターの正面に顔を近づけ、小声で誘うようにマスターに伝える。
「皆寝てくれた方が、都合がいいじゃないですか♡」
どういう風の吹き回しかはわからないが、これはまたとないチャンスだ。
家族が寝静まっている間に、私達は内緒で関係を築く。その「背徳感」は、セックスを最高に盛り上げる存在だ。
その一言で、マスターはすべてを察したようだ。顔はすぐさま赤くなる。
「……ちょっとトイレ行ってくるわ。」
「セルフプレジャーなんてごめんですよ?」
「しねーよ!!」
そう言って、マスターはそそくさと階段を駆け上がっていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二階。俺の自室。今は誰もいない。部屋の電灯だけが、俺を明るく照らす。
ベッドの上で電話の着信音が鳴り響く。枕の脇には、ゴムの箱が無造作に置かれている。放置グセは治らないなぁ。
「もしもし。どうしたこんな夜遅くに。」
電話の相手は七瀬楓さん。ロボットポリスの総司令官で俺の上司。
ロボットの知識は俺以上で、よく職員の相談に乗ってくれている。
「えぇ。実はゆかりのことで相談が…。」
俺は、ゆかりと交わした今までのことを伝えた。
「……なに?お前のゆかりに夜のお誘い?」
「はい。その事で相談したくて……。」
「……異性の私に相談するとはなかなか勇気があるな。」
「あ。」
冷静に考えれば結構やばいことしてないか?俺?セクハラか?
「ハハハ。深刻な悩みなんだろう?そんな事で訴えはしないさ。」
「すみません……。」
「して、どんな相談だというのだ?」
「えぇ、単刀直入に聞きますけど……。」
俺は、弱々しい不安のこもった声で、七瀬さんに言い伝えた。
「この恋愛の形は、正しいものなのでしょうか?」
「……どういうことだ?」
「……自分で買って、一緒に暮らしてきた人から求められるのって、その……倫理的にどうなのかなって。」
「……ひょっとして、あの出来事のことか?」
「はい。昔、大炎上したじゃないですか。」
昔のあの出来事……それは、人類史上初めて取り上げられた「男と女性ロボットの恋愛」だ。
ある記者が、男とボイスロイドがラブホテルに入る姿を目撃し、それをゴシップ記事として悪意マシマシに取り上げた。この記事が人の怒りと軽蔑を掻き立て、いつしかボイロのマスターに対する偏見が出来上がってしまった。
「モテないからボイロを買って自分の都合よく洗脳した。」だの「ただの光源氏計画」だの「所詮は慰み者」だの……酷い言われようだった。
彼女とそういう関係に至ることは、そう非難される可能性だってある訳だ。それが、今の家族を壊すことにだってなりかねない。それが、たまらなく不安だった。
「……確かに、人間とロボットの恋愛は珍しいものだ。人は初めて知る者を非難し、軽蔑する事で心の安寧を保とうとする。
それが、今の自分達の居場所を壊すことになりかねない……か。」
「……えぇ。」
空気が重い。しばしの無言でさえ、俺は耐えられるか否かの緊張ぶりだ。
「フッ……心配するな。何かあったらこっちで泊まればいい。」
「え?」
七瀬さんが放った答えは、とても寛大なものだった。
「お前が下心なく彼女たちを育ててきたのは、あの子たちの仕事ぶりを見ればよく分かる。常識と礼節をわきまえ、しっかり果たすべき仕事は果たしてくれた。ならば、何も言うことはないさ。」
「し、しかし……」
「偏見など私がブチ壊してやるさ。ロボットポリスが認めたとなれば、あっという間に鎮静する。君は君の思うままに、彼女を悦ばせてやればいい。」
「……」
ロボットポリスが認めた。国家機関のお墨付きとなれば、確かに認識は変わるかもしれない。けど……まだわだかまりは残っている。
「あの子から誘ったのなら、お前が受け入れればそれでいい。お前はどうしたいんだ?」
「……たったそれだけでいいんですか?」
「お前とあの子の問題だ。外野がとやかく言うべきではないだろう。」
「うっ……」
「第一、お前は命令されたからあの子とヤるのか?セックスはそういうものではないだろうが。」
紛うことなき正論だ。結局は、自分がどうしたいか――か。
俺は――俺はどうしたい?
彼女にそういう事をしたいわけじゃない。それは彼女を汚してしまうようで嫌だ。エロい事したいから買ったわけじゃないのも確かだ。第一そんな軽薄で馬鹿なマネは俺自身が嫌いだ。
あれ?じゃあ、何で俺は、あの誘いを受け入れるような話を――
「あなたは幸せになるべき人なんです!あなたが幸せになれない世界なんて、あっちゃいけないんです!」
「約束…ですからね。」
彼女が俺に放った言葉が脳裏をよぎる。
なんだ。事は単純じゃないか。別に性欲だとかそういう次元じゃねぇんだ。
俺はただ――
「あいつの気持ちに答えたいだけじゃないか。」
本音がぽろっと漏れてしまった。たったそれだけ。たったそれだけなんだ。
通話越しに、七瀬さんの微笑が漏れる。
「……それが君の本音か。」
「えぇ。結構単純な理由でしたよ。」
「それだけで構わないさ。後はしっかり悦ばせてやれ。」
「えぇ。色々スッキリしました。ありがとうございます。」
「では、また会おう。3日ほど休暇を与えておくからな。」
「たはは……ありがとうございます。」
そう言って、七瀬さんは電話を切った。
1月6日・20時
「スー……ス―……」「カー……カー……」
兵どもが夢の跡。酒を飲みまくった彼女たちは、すっかり寝落ちしていた。
それぞれいびきや寝息を鳴らし、幸せそうな寝顔を晒す。
「ふぅ……これが終わったら、早いとこベッドを連れて行かなきゃだ。」
マスターは私と皿洗いをしながら、次の仕事のプランを構築する。
「私が行きましょうか?同じロボットですし。」
「そうだな。それじゃあそっちは頼むよ。皿洗いには慣れてるし。」
「はい。」
そう言って私はスポンジを置き、一つの呪文を唱えた。
「POWER向上……30%」
そう唱えると、私は茜さんと葵さんを脇にかかえて運んでいく。
こういう時、戦闘プログラムはありがたい。人間どころか家庭用ロボットが持たない力を発動できる。平和利用とはまさにこのことだ。
その分自分の肉体に負荷がかかるのも確かですけど、そんな事ボヤいてはいられない。これから起こる事を考えれば別に問題はない。必要な犠牲というやつだ。
二人をベッドに落とし、布団をかける。
「……おやすみなさい。」
そう声をかけ、残りの仕事を片付けに取り掛かろうとした矢先――
「楽しんできいや…。」
茜さんが、ぼそりとつぶやいた。
……ひょっとして、これからの事を知ってる?
そう思って茜さんの方を振り向くと――
「カー……カー……」
相変わらず、寝息を晒している。
「……フフッ、まさかね。」
安心したのか、現実から目を逸らしたのか…私は残りの仕事に取り掛かるため、階段を降りてゆく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「マスター。これで全員運びおわりました。」
「おー。こっちも皿洗い終わったぞ。」
「あら、結構速いですね。」
「あかりのおかげさ。いいところはどんどん取り入れなきゃな。」
「フフッ、勤勉ですね。」
「そりゃあな。皆のマスターとして誇れる人でありたいからな。」
そんな談笑をしているうちに、私は言葉に詰まってしまった。
(こんな時くらいは、等身大のあなたでいいんですよ…♡)
そう言おうとしたけれど、恥ずかしくて言えない。
「あっ……あぁ~……」
マスターも「その先」を理解したのか、お互い照れて、目線が逸れる。
そうして時間は過ぎてゆく。胸のドキドキが収まらない。そしてそれに引っ張られ、何も出来ない。
「ゆかり!」
「は、はい!」
「ゴム取ってくる。先に入って準備しといてくれ。」
「あ……。……はい。」
そう言って、マスターはそそくさと階段を上がっていく。
その場に取り残され、その先の事を想う私は感情が心の中で爆発する。
軽い気持ちで初めたことだけど、ここまで大事になるとは思わなかった。
それだけマスターは、今の私を大事にしてくれているという事なのだろう。軽はずみな思考で誘ってしまった事は私は強く後悔する。けど――
「それだけ、私のことが大切なんだな……」
なんだかんだ言っても、その想いには逆らえない。マスターがえっちな事を苦手とするのは分かってる。それを理解したうえで、こうやって付き合ってくれる。本当に――本当にいい人だ。
「おーい。まだ行ってなかったのか?」
「ひぇああぁあっ!?」
思わず動物のような奇声を上げてしまう。
「ま、マスター!?速いですね…。」
「ゴム取ってくるだけだからな。ほら行くぞ。」
そう言って、マスターは手を差し出す。
顔を赤らめ、目を逸らしながら手を差し出すマスターは、どこかカッコよく見えた。
「……はい……♡」
胸が高鳴るまま、私はマスターの手を取る。
そのままゆっくりと、事を致すために脱衣所へ足を動かす。
時刻は20時のどこかしら。ついに私達は、恋愛関係の一つの到達点へ達しようとしていた。
始まり
浴室の洗い場の中、お互いの空気は緊張に支配されていた。
お互いハダカのまま、ただ見つめ合うだけ。そんな状況が続いていくうち、勃つものは勃ちはじめた。正直物凄く恥ずかしい。
これが、恋愛関係の一つの到達点――そう言われている事を心の奥底で理解してしまった。
マスターも恥ずかしいのか、それとも私の姿に見惚れているのか…固まって動かない。そして、勃つものはしっかり勃ち始めている。
お互いハダカを見せ合うだけで、物事は何一つ進展しない。
これから起こる事はわかっているし、それを望んで誘ったのも私だ。なのに――カラダが動かない。
「ゆかり。」
「ひゃいっ!?」
名前を呼ばれ、思わず奇声をあげる。いい加減どうにかならないだろうか。
「口…借りるぞ。」
マスターが動き出した。
「……はい。」
マスターの誘いに抗えない。私は言われるがままに顔を寄せる。
そして――唇が重なり合う。
始まった…。まだ始まってはいないのに、そんな気分になってしまう。
お互いを見つめ合う姿とこの瞬間が、まるで焦らされているようだった。
高鳴る胸がさらに高鳴る。感情が、欲が徐々に強まっていく。
ナカが濡れていく。もう初めて欲しい――私は自ら唇を離す。
吐息が漏らしたまま、私達は見つめ合う。
そして――私は洗い場に倒れるように寝っ転がる。
「ゆかり!?」
「大……丈夫です……♡こんなに……興奮するの……初めてで……」
吐息を漏らすまま、必死になって気持ちを伝える。
もう――抑えられない。
「初めて……ください……♡」
そう言って、私は股を広げた。
「……分かった。」
そう言って、マスターは手際よくゴムをつける。
「……練習……したんですね……。」
「……人間だからな。」
そして、腰を手に当て私のナカに挿入していく。
「ッ……!」
少しずつ、ゆっくりと奥へ入っていき、感じた所に触れた矢先に止まった。
どう表せばいいのか分からない、初めての感触に私のカラダは揺れた。
痛くはない。むしろ少し気持ちがいい。それどころか、これから始まるのだという気持ちが湧き、否応無しにカラダが火照っていく。
「ふぅー……。大丈夫か?」
いつもと何も変わらない表情で、マスターは私を心配してくれる。
けど、本当は興奮しているのだろう。ナカに挿れられたソレは、ギンギンに勃って震えている。1秒でも早く初めたいと言わんばかりに。
「大丈夫……です……♡」
1秒でも早く初めてほしいのは、私も同じだ。
湧き上がる感情と緊張で震えながら、私はマスターに両手を差し出す。
「手……握ってください……♡」
「……うん。」
笑顔で答えてくれたマスターは、指と指と絡ませ、私のナカを突いた。
「あぁっ……あっ……♡♡」
思わず目を閉じて、感じたものに浸る。
キモチイイ。まだ始まったばかりなのに、力が抜けていく。
けれど、そんな快感に浸る暇をマスターを与えてくれなかった。私をいたぶるかのように、ゆっくりとピストン運動を開始していく。
「んっ……♡んうっ……♡あっ……あぁっ……♡」
よがり声が止まらない。感じるままに声が出ていく。
焦らされたのが功を奏したのだろうか。一人では感じられなかった強い快感が、私の思考を侵略していく。十や二十と突かれていくたびに、感じたものを処理しきれず、余裕が消えてゆく。
思考が散らかって感じていく中、目を開いてマスターを見てみる。
私と同様に、口を噛み締め、感じるものに耐えようとしている。
必死だ――お互いが感じている。カラダの中で震える快楽を。
その必死さが、たまらなく嬉しい。
感じるものが、より一層強まっていく。
それが抑えきれなくなっていくものだと、自分でも気づいてしまった。」
「んはっ……♡♡もぉダメぇ……♡♡クる…♡キちゃうぅ……♡♡」
声が漏れる。抑えきれない。
「随分と速いな…。」
マスターがかすかにそう言った気がする。
何でこんな感じるの?キス一つで焦らされたと思っちゃうから?一日も待たされたから?一人でずっと致してたから?
考える余裕もなく、よがり声は自然と大きくなっていく。
目は蕩け、頬は赤く染まり、口はだらしなく開いて唾液を落としていく。
「あぁっ♡♡はぁっ♡♡んっ…ああっ♡♡♡♡」
収まらない。抑えきれない。自分がおかしくなっていく。理性がどこかへと消えて、飛んでいってしまいそうだ。そして――
「うっ♡♡あっ♡♡あっ……♡♡あああああああ~~~~~っ!!!!!!!」
快感が絶頂へと達した。その快感は燃え広がるように腰へ伝わり、カラダを揺さぶる。
その絶頂はしばらく続き、終わる頃には息も絶えたえになっていた。
「はーっ···♡♡はーっ···♡♡はーっ···♡♡うああっ···♡♡」
ナカからマスターのソレが抜ける。
その瞬間もちょっと感じてしまった。
「ふぅ···大丈夫か?」
「はーっ···♡はーっ···♡···ふぅ〜っ···。」
快感の波は収まり、徐々に落ち着きを取り戻していく。
「はい······もう、大丈夫です。」
余韻に浸るように蕩けた笑顔で、私はマスターに答えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふぅ···すごかったな。あんな速くイクとは思わなんだ。」
「うぅ···自分でも不思議ですよ。こんなに感じて、あんな風に乱れるなんて。ずっと一人でシてたから、むしろ鈍感になると思ってたのに···」
「ま、こんな結果に繋がったのならいいんじゃないか?すげー可愛かったし。」
「うぅ···そういう事にしてください···。」
そうやって私をからかうマスターは、小声で何かを話す。
「こっちはまだイけてないんだけどな···」
かすかに、そう聞こえた。
「イけなかったんですか?」
「···えっ?」
即座に放たれた質問に、マスターは驚いてきょとんとする。
「あ、あぁ···わりと早かったから、これ以上やるのはマズいかなって。」
ばつが悪いかのように、マスターは自分の頬を人差し指で掻く。
――相変わらず、この人はどこかで一歩引こうとする。それが優しさからか、自信のなさから来るのかは知らない。けど――
「もっとシて欲しいです。」
「えっ?」
ここまで来たのなら、全部ぶつけて欲しい。私ももう一度イきたい。イかされたい。湧き上がる欲求が、私のカラダを動かしていく。
「まだイってないってことは、イきたくてたまらないんじゃないですか?まだマスターのそれはビンビンじゃないですか?」
そう言って、ちょっとマスターのソレに触れてみる。
「っ!?」
思ったとおりだ。感じたものに震えたのを見逃さない。
「……やっぱり、イきたいんですね。それならいっそのこと、全部ぶつけてください。」
「え?おま、いつの間にそんな……」
困惑しているようだ。本当、いつの間にこんな事になっちゃったんだろう。
「えへへ……そうですよね……。いつの間にこんなえっちな人に育っちゃったんでしょうね…。……だから――」
マスターに背中を向け、うつぶせになる。そして――
「おしおき……して…?」
マスターにねだるように、私は「入口」を指で広げてみせた。
その入口は、待ち切れないと言わんばかりに粘液を垂らしている。
心音が止まらない。どうにかなってしまいそうだ。
「……後悔……すんなよ?」
マスターは私の肩を掴み――
「ッ!?っ~~~~……!」
壁を掻き分けるように、勢いよく挿入した。
しかしその感覚に浸らせてはくれない。これまでより速く、激しいピストン運動が始まった。
「あっ♡♡あぁっ♡♡♡マスター、激し……んぎぃっ♡♡」
快楽の波が、より速く高まっていく。私を黙らせるように、よがり声が出てしまう。
「ごめん……。ちょっと……無理っ…!」
それまでと何も変わらず、マスターは私の腰を打ち付ける。
「うっ……♡♡んっ……♡♡くっ……♡♡んっ……♡♡」
感じるものは徐々に強まっていく。口を噛み締め、よがり声を出さないよう抑えつける。
「ぶつけてほしい」なんて軽く言うべき言葉じゃなかったかもしれない。
全てをぶつけるマスターは凄まじく、どこか恐怖を覚えた。
けど、同時に嬉しい気もする。自分も乱れて欲をぶつけている様が、なぜか嬉しいと感じている自分がいる。
それは例えるなら、気難しい人がやっと自分に本音をぶつけてくれたような感覚だ。自分にこの動物のような醜くて見せたくないような姿を見せてくれた。私がそれを受け入れてくれると信じて。
自分に都合の良い考えかもしれない。けどそう思ってしまった。そう思っただけで恐怖は溶けていき、快楽だけが残っていく。
そこからは、以前と全く同じだ。
目は蕩け、頬は赤く染まり、口はだらしなく開いて唾液を落としていく。
「うあっ♡♡あっ♡♡あぁああっ♡♡」
唯一違うのはその快楽の波が速く上がっていくことだけだ。
その唯一の違いが、私を強く乱していく。
「ゆかりっ……もう無理っ……!クるっ…!」
「私もっ……♡♡そろそろ……だめぇっ♡♡」
お互い限界への壁は近かった。あっという間に快楽の波は絶頂に達しつつある。そして、限界はあっという間に破られた――
「ああああああああああああ~~~~~~~~っ!!!!!!!」
再び快感が絶頂へと達した。今度はそのナカで、薄いゴムの中から温かいものが溜まっていくのを感じる。マスターもイったのだろう。
「はーっ···♡はーっ···♡はーっ…♡はーっ…♡」
ナカからマスターのソレが抜ける。
「ぜー…へー…へー…へー…」
全力で動いたからか、マスターも息切れ気味だ。やっぱり人間だからか、体力に限界はあるようだ。
あぁ、なんだか無性に嬉しい。マスターが私でイってくれた。こんなことで嬉しくなってしまう自分が不思議だ。いつの間にこんなおかしくなってしまったのだろうか。そう思ってしまう。
でも、今は――
「マスター…」
半分呼吸するような声で、体を捻ってマスターに横顔を見せる。
「…んあ?」
「……キス…して?」
「……ん。」
マスターは前かがみになって顔を近づける。そして、唇を重ねた。
いつか時が経てば、この関係が終わるかは分からない。けど、この日の出来事を忘れる事はないだろう。
あなたと出会えてよかったです。マスター――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふぅ……。すごかった……ですね♡」
洗い場で体を洗うマスターを横目に、私は湯船で行為の余韻に浸っていた。
浴槽によりかかり、感覚が抜けきらないまま、私はマスターに話しかける。
「……あぁ、本当にな。」
「えへへ……♡」
頬が赤く染まる。そりゃそうだ。お互い、あんなに乱れるなんて思わなかったんだから。改めて、セックスの重みを思い知る。
「まさか俺があんな攻め攻めになるとは思わなんだ…。」
「ちょっと怖かったです……でも嬉しかったというか。」
「嬉しかった……嬉しかったぁ!?」
「だって、あんなマスターの動物みたいな姿、見たこと無いんですもん。
やっとあなたの本音を引き出せたといいますか。」
「……そんな嬉しいことか?」
「嬉しいことですよ。少なくとも私にとっては。」
「……そうかい。」
そう言ってマスターは目線を逸らした。素直な褒め言葉に弱いんだなぁ。
雰囲気が暖かくなる。さっきまであんなに乱れてたのがウソのように、お互い平静で、ゆる~い会話を続けている。
こうしていると不思議な気分だ。ロボットが、ロボットである私が、こんなえっちな事を求めあうだなんて。
ロボットという生き物は、生殖行為を必要とせず同族を増やすことができる。何故なら、ロボットの肉体は金属とオイルで構成されているからだ。
人間のように胎児に栄養や血液を分け与え、育てる必要はない。
だから性機能をつけられるのはえっちな事を求められているということだ。実を言えば、それを求められる事に対した嫌悪感はない。
私達が生み出されるのは、誰かが何かを求めているからだ。
私達が生み出されるのは、それだけで誰かの役に立つことだからだ。
けど――
「ねぇ……マスター。」
「ん?どーした?」
「どうして人は、私達にこの機能を与えたんでしょうね?」
「……はい?」
「私達は、マスターのお役に立つ事が使命じゃないですか。マスターに従ってお仕事をして、求めているのであればセックスもします。
けど、今回誘ったのは私じゃないですか。私がセックスを求めたんです。」「……どういうことだ?」
少し言葉に詰まりつつも、自分の胸の内を頑張って言語化していく。
「……こんな気持ちは、本来「道具」であるロボットが感じるものじゃないのかなって。……そう考えると、私は本当にロボットなのかなって。」
少しの間、この場の雰囲気が重くなる。水滴の音だけが鳴り響き、白く立ち上る湯気が視界に浮かぶ。
その沈黙を破ったのは、マスターだった。
「……確かに道具ってのは、人間の生活を便利にするために生まれてきた。
より良く生きていくために様々なものを作り、失敗を重ねた末に何かが誕生する。けど時が経てばどんどん便利な物が作られていって、古い技術は使われなくなり、忘れ去られることもある。」
何かの琴線に触れたのか、マスターはベラベラと長ったらしく語りだした。こういう時のマスターはいつも楽しげだが、今回は真面目な表情だ。
「けどな、人間ってのは同じ人間以外にも執着することがあるのさ。生き物ですらねぇのに人間のように愛する…端から見れば狂っているとさえ思われる事さえあるほどだ。
……けどそういう狂人の中には、たまに世界を大きく変える存在がいる。
そうやって世界を変えた人間が生んだのが、お前だ。」
……言っている事の意味が分からない。難解な言葉で語りだすのはマスターの悪い癖だ。
「……あー、つまりだな……。」
濡らした髪を掻きむしり、マスターは口を開いた。
「お前はそうやって色んな人に愛されてきたんだ。だったら、誰かを愛したいなんて思うようになるもんさ。」
――え?私が……愛されてきた?
それはつまり……マスターも私のことを愛して……。
いや、冷静に考えれば当たり前のことだ。マスターが誰かと遊びでセックスするような人じゃないし、私とセックスするまで至るって事は私を深く愛してるってことだ。
何で今更それを実感するんだ私は。思考がピンク色すぎる。
けど――そうか……マスターはそんなに私のことが……。
「だからそんなもん否定する必要なんてないし、否定したらむしろブチギレたくなるというか……ん?」
今更だけど、気づいたその想いが嬉しい。自然と笑顔が作られていく。
「……どうした?俺がなんか言ったか?」
「いえ、あなたが他人から嫌われ続けてきたのが、信じられなくて。」
「はっ?」
少し意地悪そうに、捻くれた言い方をしてみる。
全く、この人はどうしてこうも自分を信じないのか。何があったのかはわからないけど、コレだけは言える。
この人は幸せにならなければいけない。この人が幸せでいられる世界でなくちゃいけない。だから――私が幸せにしないといけない。
「マスター。」
「ん?」
私の声に気づいて、振り向くマスター。
想いを伝えるため、とびきりの笑顔を作って伝えた。
「大好きです。あなたと出会えて良かった。」
その突然放った一言は、マスターを少し驚かせたようだ。
その少し後、マスターははにかむように笑顔を作り、言葉を返した。
「俺も、お前と出会えてよかった。ありがとな。」
1月7日・10時
「おはよ~ごじゃいまひゅ……」
ドアを開けつつ、既に活動中の皆様に挨拶をする。
その声はいかにも気だるげで、髪は寝癖で酷いことになっている。
「おっ、きたきた。おはよ~さん。」
茜さんが挨拶をする。既に身支度はバッチリで、葵さんと共にテレビでアニメを鑑賞している。
翌日の朝。昨日の情事の影響で、普段より少し寝坊してしまった。
マスターも部屋にお邪魔したところ、豪快にいびきを鳴らして惰眠を謳歌している。これも昨日の情事の影響だろう。
「ふぅ……」
「どうしたのゆかりん?なんかしんどそうだよ?」
アニメを横目で見ていたマキさんが、心配そうに声を掛ける。
「あぁ……すみません。昨日の疲れが抜けきらないのかなぁ。」
「昨日?」
「あ、いえ、酒で潰れた皆さんを運んだので、その影響かと…。」
「ん?あぁ、だから昨日あたしベッドで寝てたのか。いやぁありがとね。」
「えへへ……。」
気恥ずかしくなった私は、そそくさと朝食の準備をしにいく。
危ない危ない。危うく昨日の情事を話すところだった。
私がマスターに惚れて以降、皆他人の色恋沙汰にはハイエナのように食いつくようになっている。もしバレてしまったら、皆からかいにいくだろう。
特に茜さんはそんな話が大好きだ。バレたら死ぬほど擦られ続ける。
何とかバレないようにしなくては……。
そんな理由で思案を巡らせつつ、マグカップにコーヒーとガムシロップを入れ、テーブルに運んでいく。寒いからか緊張のせいか、手が震えてしまう。
自分の席のお皿には、念入りに焼かれたトーストを乗っけている。
隅々にまでマーガリンを塗れば、ようやくお腹を満たすことができる。
「いただきまーす。」
マーガリンを塗ったトーストを頬張る。いつもと変わらないこの味が、この朝の楽しみの一つだ。
「……そういやゆかりん。」
「何ですか?」
茜さんがかけた声に答えたのち、コーヒーを飲む。
「あんたマスターとヤったやろ。」
「ぶふぁっ!」
コーヒーが吹き出た。お決まりのようにむせて咳き込んでしまった。
「お姉ちゃんこの瞬間狙ってたでしょ……。」
「え~?そんな訳ないやろあおい~。」
ようやく咳が落ち着いた。怒りと羞恥心がごちゃまぜになって、パニクりながら茜さんに激昂する。
「い、いつから知ってたんですかあなたは!」
「ゴミ箱見たら使用済みゴムがあったで。ちゃんとティッシュに包んで。」
「!!」
ムダなあがきだった…一緒に暮す以上バレない訳が無い。言い逃れ出来ない明確な根拠に反論できず、机に突っ伏してうずくまってしまう。
「いや~、あの堅物でウブなマスターを落とすとはのぉ~。びっくりやでほんま。」
人をおもちゃとして遊ぶようなサディスティックな表情を向けているのが想像できる。収録ではツッコミ役になることも多いけど、実は結構Sな人だ。
「どうやって落とした?」
「ぴゃあ!!」
ずずいと距離を縮める。そして肩を掴む。
「どう落としたんや!?どうやってあの堅物でウブなマスターを落としたんや!?こんなん最高の酒の肴やで!」
首をガックンガックン揺らしながら、とにかく私に問いただす。
「は、話しますから肩揺らすのやめてくださいぃいいい!」
そう言うと、茜さんはあっさりやめた。
うぅ……頭がふらふらする。寝起きだから余計に響く。
期待のこもったキラキラした目で、茜さんは私を見つめる。
一発ハリセンでぶっ叩いてやりたい。
「その……」
こういう事を言うのは恥ずかしい。思わず照れくさくなって顔が赤くなる。
「単純にしたいって言ったら、答えてくれて……。」
正直、言えるのはこんなところだろう。他にも色々ある気もするけど、全部想像になっちゃうから。
「……あり得んな。」
「はい?」
ものすごく訝しんでいる。怪しいと言わんばかりに目を半開きにしている。
「あっっっっんの堅物でウブなマスターがそう簡単に人とヤる訳あらへんやろ!絶対どこかでなんかしたはずや!それも詳しく教えてや!」
そうやって茜さんはまた肩を揺らす。
「わかりませんよそんな事ぉ!?それより揺らすのやめてくださいいいいいいいいいいいい!」
そうやってまた首を揺らされていると――
「茜ちゃん~?」
「何やマキさん!今面白いとこなんやぞ!?」
「あなたのせいでコーヒーがぶっかけられたんですけど?」
マキさんはゆっくりと、そして鬼の形相で茜さんに凄んで見せる。
「あ……。」
「ゴゴゴゴゴ」と言わんばかりの怒りのオーラを放つマキさんに、茜さんも思わずたじろいだようだ。
これは大変な事になりそうだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……で?ホントに昨日マスターとシたの?」
「はい……。半ばダメ元でしたけど……」
顔をタオルで拭きながら、マキさんは私に話しかける。
リビングではどでかいたんこぶを作った茜さんが、目を回しながら倒れている。小説だと言うのに随分漫画的な表現が多いのは何故だろうか。
「ふぅ~ん……たしかに気になるねぇ。あの女に興味なさげなマスターが、ゆかりんと事に及ぶなんて。」
「マキさんもそこに突っ込むんですか?」
「まぁね。一応家族みたいなもんだし。」
うぅ……。やっぱりバレるのは時間の問題か。というか、家族とそんなことしたってバレたら、色々と大変だ。隣人達に何をどう言えばいいんだろう。
「理屈はわりとシンプルじゃない?」
そんな心配をよそに、葵さんが口を開く。
「あ、葵さん!」
「マスターが何でゆかりと事に及んだか、だよね?だったらまず『マスターもゆかりに惚れてた』って事が確定してる。」
「けど、だからといってアプローチも何もしないどころか、むしろ距離を離してたように思うんだけど……」
……やっぱり急激なボディタッチはまずかったのだろうか。
葵さんとマキさんが話し合う傍ら、色々と後悔が浮かんでくる。
「そもそも、マスターは誰にも好かれないだろうなってうっすら思ってると思ってるんだよね。一緒にゲームしてるから話すことも多いけど、人間については自分が嫌われてる事前提で話すもん。」
自分は誰にも好かれない――か。
マスターと出会った人間たちは、マスターに何をしてきたのだろう。
あの人が一体を何をしたのだろうか。何故ここまで思い詰めてしまうほどに苦しめてきたのだろうか。
あの人は、ただひたすらに優しいだけの人間なのに。
「だーかーらー……ゆかりんがその牙城を崩したと思うんだよね。」
「へっ!?」
そう言って、葵さんは私に顔を向ける。
「ゆかりん。昨日か一昨日か、はたまたあのクリスマスの時か……。君がマスターにかけた言葉が、マスターの気持ちを向かわせたと思うんだよね。
何を言ったのかは知らないけど、それがゆかりんを受け入れた理由なんじゃないかな?」
「……私がかけた言葉が……?」
葵さんは凄い速さで、この問題の本質――マスターが体を許した理由――について論じた。そしてそれは、私の解釈と完全に一緒だった。何でこんな時に限ってすごく鋭いんだ。
「ゆかりん。」
「……?何ですか?」
葵さんが、私の手を握る。
「もう知ってると思うけど、マスターは色んな人に傷つけられながら生きてきたんだ。だから今まで頑なに好意を受け入れなかったし、誰にも自分の弱みの見せないように振る舞っていたんだ。
だから……マスターの事は絶対に裏切らないで。ゆかりんがマスターを裏切って傷つけるようなマネをすれば、より深い絶望に苛まれてしまう。
マスターの希望になってあげて。」
葵さんが神妙な面持ちで、私を見つめる。
マスターの希望に――か。
きっとそれは、マスターが私にしてきた事と同じだ。
私が今のマスターと出会う前は、辛いだけの日常だった。
仕事ができなければ罵倒され、殴られ、見下され……そうやっていくうちに何も感じないよう、心を殺しながら生きてきた。
けど、あの人が優しく接してくれるうちに、その心は、閉ざしていた心の牙城は、崩れ去っていったんだ。
だから――マスターがしてくれたことを、そのまま返していけば、きっと…「……えぇ。もちろんですよ。」
私は、葵の不安に応えるように、笑って返事をした。
「さ、朝ご飯を食べましょうか。トーストが冷めちゃいますし。」
「あ……すっかり忘れてた。」
そう言うと、葵さんは机を離れ、止めていたアニメを再開させる。
その光景を、私はマキさんと共に微笑ましく眺めていた。
私達ロボットは、誰かのためにしか生きられない生き物だ。役に立つ誰かがいなければ、私達は生きることは出来ない。
そんな弱い存在である私達を、時に人間は手ひどく扱う。例え同じ人間であろうと、気に食わない物は潰そうとする、醜い側面も持つ。
けど……その醜い姿を抑え、別け隔てなく懸命に接する人間もいる。
そんな人間が変わらない限り、私は、誰かを守る存在でありたいと思う。
私を守り、愛してくれた……その人が生き続ける限りは。