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City at war With VOICEROID バックストーリー

どうもこんにちは。ゆう太郎です。
今回は上記動画「City at war With VOICEROID」の前日譚をここに記そうと思います。動画では書ききれなかった設定が結構豊富なので、こちらに記載しておこうかと。
(※青年誌程度の性的表現・残虐表現を含みます!)


主な登場人物

結月ゆかり

  • 種族:女性型アンドロイド「VOICEROID2結月型」

  • 年齢:18歳

  • 身長:159cm

  • お家での役割:お掃除・洗濯

  • 趣味:ファッション

日本のある場所に住んでいる、家庭用家事手伝いヒューマノイド「VOICEROID」の少女。
真面目で優しく、困ってる人を見ると放っておけない。余計なことにも首を突っ込むのでマスターに怒られることもあるが、そんな彼女の優しさを時には優しく見守ることも。
こうみえてマスターによる特殊戦闘訓練を受けており、もしもの時は人を超えた超人的な戦闘力を発揮する。
かつてはその力を買われ、国家プロジェクトに関わったこともあるほどで、
その筋では名のしれた凄腕の戦士。

マスター

  • 種族:人間

  • 年齢:25歳

  • 職業:ロボット整備士

  • お家での役割:収録した動画の編集・家事の説明&担当者代理

  • 趣味:ゲーム・ダンス・プログラミング

今までに紹介したボイロ達のマスター。5人のボイロと共に喧騒に溢れた毎日を過ごしている。
仕事や動画制作には真面目だが、私生活はわりとちゃらんぽらん。趣味の動画編集に集中したいがためにボイロ達を買ったのだが、今では大切な家族。とはいえ一癖あるボイロたちに悩まされている部分もあり、特にゆかりから向けられている好意にはかなり戸惑っている。
プログラミングスキルは割とスゴく、ボイロたちに戦闘スキル一式を身に着けさせたのも彼の技術の賜物。
国家公務員とコネクションとのコネクションを持ち、それがこの戦いに参加する要因となる。

七瀬楓


立ち絵:ミラーイメージ「お姉さん組み合わせ立ち絵素材」
  • 種族:人間

  • 年齢:28歳

  • 職業:国家ロボット軍事組織「ロボットポリス」将官

  • 主な職務:所属のロボットの管理・戦力分析など

  • 趣味:ゲーム・メカニクス鑑賞・プログラミング

国家によるロボットの軍事組織「ロボットポリス」28歳の若き司令官。
ロボット知識への造作の深さとたぐいまれなプログラミング技術から、28歳の若さで将官についた異例の天才。
とはいえ心は若く、イベントごとや行事にはノリノリで参加し、部下との直接的なコミュニケーションが大好き。普段は威厳など皆無。
A国X州に現れたテロリストの鎮圧に派遣され、惨敗。過去に協力し大きな武功を築いたゆかり達に協力を申し出る。
ロボット愛が非常に深く、大学時代はそこから友人関係が築かれ、いつの間にやら恋人も出来ていたほど。
その恋人は行方をくらましており、今も帰りを待ち続けている。

テロ組織「ユートピア・クリエイター」

A国X州にある街を占拠したテロ組織「ユートピア・クリエイター」に所属する悪党ども。当初は「理想郷実現のため、腐敗した国々を断罪する。」ために暴動を起こしては逃亡する、弱小テロ組織でしかなかった。
しかし、ある事件から軍隊では歯が立たないほどの戦闘ロボットが導入され、A国X州を占拠してからはロボット工場の設立や街の魔物を洗脳して戦力に取り込む…などの蛮行を行い続けている。
街を占拠してからリーダーは戦力強化の傍ら酒池肉林の日々を楽しんでおり、毎週人間の女性を攫っては弄んでいたり、豪華な食事を楽しんでいたりしている。

魔物「オーク」

世界各国で伝えられている、人知を超えた伝説の生物「オーク」を現代の科学技術で具現化したもの。
豚のような顔をした一般兵だが、性格は気前よく豪快な気のいいあんちゃん。肉体の仕組みは人間とほぼ同様で雑食性。人間が食えるものはオークも食える。ただし豚肉は苦手。
街で人間・ロボットと共に平和な日々を過ごしていたが、ユートピアクリエイターに支配されてからは、大多数が戦力として洗脳・使役されている。

本編

◇プロローグ◇

季節は冬。空気は冷え込んでいながらも、人々は日々の営みを絶やさない。
都会はすっかりクリスマスムード。人々はいつしか神の生まれし日である事を忘れ、暖かな時を過ごしていた。
その温もりは崩されないと思いながら…。

A国X州Y市。人間とロボット、そして魔物が共存し合う不思議な街。
街灯が街を照らす中、多彩な人々がまるでわだかまりもなく気軽に言葉を交わす。
一つは人間とロボットのカップル。
「これからどうするー?」「ゲーセンいかねー?」「またそれー?せっかくのクリスマスだよ?」「じゃーどうする?」「…ったく、察しの悪い奴。」もう一つはオークの職人。
「よう、ハワード。」「おう、バート。そいつはチキンか?」「おうよ。せっかくのクリスマスだからな。家族で一緒に食うのさ。」「へへっ、家族愛が深いようで。」「いや、去年は嫁が間違えて豚肉買っちまったからな…。」「うおっ…そいつは気の毒な…。」

その平和な時を、裏路地で横から眺める者が一人。
「爆弾はしっかり巻き付けたな?」通信が聞こえるのは低くノイズがかかった男の声。「はい…。」青年は虚ろな声で話す。その目はまるで死んだ魚のようだ。
時限爆弾を巻き付けた青年は、人混みに紛れて消えていく。
そして数分…。

(ドゴオオオオオオオオンッ!)

爆発音が鳴り響く。
「な、何だぁ!?」「おいっ!あそこだ!」
チキンを投げ出し、二人のオークは爆発音の源をたどり着く。
その姿は凄惨という言葉がよく似合う光景だった。
巻き込まれた人間は黒焦げになり、その横では機械の少女が泣き叫ぶ。
その奥には文字通り身を散らした、さっきまで人だった物が転がっている。
平和な日々が崩れ去った瞬間だった。
それからすぐ、軍隊の行進のような一糸乱れぬ足音が聞こえ始めた。
「今度は何だ!?」「…おい、ウソだろ…!?」
その足音の正体は、大量のロボットたちだ。数はゆうに万を超える。
その姿をモニターで眺めながら、男は語る。

「さぁ…派手なクリスマスパーティの始まりだ…。」

男はマイクを持って攻撃命令を下す。
平和な街は、神ではなく人が流す血で染まり始めた。

◇日本・後日◇

所変わって日本。日はまだ明るい。
その一介の大きな家には、機械の少女が不満を募らせていた。

「今日はクリスマス…。街は活気に溢れ、隣のお家はホールケーキを食べてる…。なのに…なのに…!」
「何で私達は何もしてないんですかああああああああっ!」
大きな声で紫髪のVOICEROID「結月ゆかり」は怒る。その胸は平坦である。
「そう言うなよ。誕生日は派手に祝ったし、パソコン修理でお金は派手に取られちまったし。ほら。ケン◯ッキー買いに行くぞ。」
低くも明るい声で、ゆかりのマスターはそう言って席を立つ。
「何でこんな時期にケンタッ◯ー何ですか!鶏の丸焼き買いましょうよ!」
ゆかりがマスターの腰に抱きつく。
「うちにそんな金はありません!」
「マスターが安いゲームポンポン買うからでしょう!」
「人の好意に甘えてんじゃねーよ!」

ぎゃーぎゃーわめくゆかりとそれを引きずって身支度するマスター。
その光景をコーヒー片手に眺める青髪の少女がいた。
彼女もまたマスターと共に暮らす少女「琴葉葵」だ。
「やれやれ。なんか所帯じみてきたねぇあの二人。」
「ほんまやのぉ。で、何でコーヒー飲んどるんよ。」
「あの二人のイチャイチャで砂糖吐きそうだから中和してる。」
「何を言うとるんや!?」
ピンク髪の葵の姉「琴葉茜」はよく出来た関西弁でツッコミを入れる。
「いや~平和ってのはいいもんだねぇ。」
スマホを見ながら、黄髪の少女「弦巻マキ」はそう言った。その胸は豊満である。
「どうしたのさ急に深そうなこと言って。」
「いやさ、このニュースを見たらそう思っちゃって。」
マキがスマホを見せると、そこには衝撃的な文言が広がっていた。

「先日午後7時、A国X州Y市をテロリスト『ユートピア・クリエイター』が占拠。その後、A国軍が日本のロボットポリスと協力して奪還作戦を開始。現在も予断を許さない状況が続いている…。」

「うわ…ひどい話やな…。」
「最近戦争は起こってないみたいな話聞いたけど…。」
「まだまだ悪いやつはいるもんだねぇ…。」
「ひょっとしたら、私達もこういう所に行くのかな…。」
一瞬空気が凍りついた。
本当に起こるかもしれないと、誰もが一瞬そう思った。
なぜなら彼女たちは、一度同じような戦いを経験しているからだ。

実は彼女たちは、こう見えて高い戦闘能力を有している。
「バトル動画を作りたい」というマスターのとても安直な理由で、過去に使われていた戦闘ロボットの技術を蘇らせたのだった。
最初はバーチャル空間で動画を撮っていたのだが、それがロボットポリスの目に止まり、何と国家プロジェクトに参加する形となったのだ。
彼女たちはその事を軽く考えていたが、ここで全員がその意味に気づく。
自分もこの戦いに参加するかも知れない・・・ということを。

「・・・ま、そんな事考えないほうがいいよ。なんかゲームでもしよ?」
「あ、じゃあXbox ◯ne持ってくるからソニ◯ク・ザ・ファイ◯ーズやろう!」
「ブレへんなぁ葵は…。」
「せめてスマブラじゃない?」

ギャーギャー騒くゆかりを引き摺りながら、マスターはコートを着て靴を履く。しかしその直後…。

(ピンポーン…)

インターホンが鳴った。何の変哲もないインターホンだ。
しかし、リビングにいる少女たちには違って聞こえた。
「口は災いの元」そんな言葉が葵の脳裏をよぎった。
ドアを開けるマスター。そのドアの前には、見覚えのある人間が。
「・・・また貴方ですか。」
「すまないな…。また、あなた方の助けが必要そうだ。」
深刻そうな面持ちで、スーツに身を包んだ女性「七瀬楓」はそう言った。
並々ならぬ危機の予感を感じる。
正直、もう彼女達を戦わせたくはない。
けど···
「とにかく上がってください。話だけでも聞きますよ。」

◇数分後・リビング◇

テーブルに座る七瀬。その右手には緑茶の入った湯呑みが置かれている。
俺の後ろにはお盆を抱えるゆかりんがいる。ありがたい話だ。
「さて、本日ここへ駆け込んできたのは他でもない。A国X州Y市の件についてだ。」
「あぁ、最近ニュースで話題の奴ですね?」
「ユートピアなんちゃらとかいう奴等がそこを占拠したんでしたっけ。」
「あぁ、既にA国軍が奪還作戦を開始している。我がロボットポリスも協力を要請されてな。だが…。」
「だが?」
「ものの一日で軍隊は壊滅した。」
「なっ!?」
面食らうのも無理はない。何せA国の軍隊は世界最強と言われている。
A国が世界の覇権を握り続けているのは、その強大な軍事力にあると言っても過言ではないのだ。
しかし、そうではない事は俺も分かっている。
「A国の軍隊はまだ人間の部隊が中心だからな。それにロボットとの戦いは前例がない。従来の対人武器しか武器がないわけだ。かといって対戦車ライフルを街中でぶっ放すわけにもいかない。」
「そして何より、ロボット兵は自爆特攻も辞さないし、それが許されるだけの数がある。A国軍は対応が分からないまま、数で押し切られたわけだ。」
「日本のロボットポリスはどうなったんですか!?」
ゆかりが身を寄せて質問する。
「各隊の精鋭をつぎ込んださ。我が国の威信と人命をかけてな。
・・・だが、敗走した。」
「・・・!」
ゆかりと七瀬さんの表情が曇る。大方七瀬さんは誇りを砕かれた怒り。
ゆかりは助けに応えられなかった彼らへの同情だろう。
誇りか…。少しわかる気がする。同じ技術者として。

日本のメカニクス産業は、今やA国と肩を張るどころか追い越していると言われている。それらは効率化や経済発達といった言葉では括れない。「ヒューマノイド」を新たな人種として作り上げた事が最大の要因だ。
まるで人間のように怒り、喜び、悲しみ、楽しむ…。そのこれまでにないアプローチは世界に大きな影響を与えた。
その「心」は、時に限界以上の力を引き出し、大きな成果を出す事さえある。人間以上のポテンシャルを持つロボットならなおさらだ。
そうした「心の力」は彼らに通じなかった。それは「心の力」の敗北という事だ。挫けてしまうのも無理はない。

「それで、私達の家を訪れたのは一体なぜ?」
「…すまない。感傷に浸っている暇などありはしないな。」
涙を拭き、彼女は雄弁に話し出す。
「かつてあなた方が関わった国家プロジェクトの事、覚えているか?」
「えぇ。Dワールドの件でしたね。」
「あの後、あなたは我々に彼女たちの戦闘システムのソースコードを送ってくれた。我々もそれに沿うようにヒューマノイドを制作し、訓練を行った。
だが、敗走した。彼らは口々に言ったよ。
『俺たちじゃ力不足だ。あの人が来てくれれば…。』とな。」
「……」
「だからこそ、再びゆかり達の手を借りようと?」
「…あぁ。悔しいが、力不足なのは我々も痛感した。彼らには実戦経験がまるでない。初めての戦場に怯えるばかりで、銃口もロクに合わせられない始末だ。」
銃口もロクに合わせられない精鋭。いかに平和が長く続いたかを物語っているようだ。
彼女の拳に力が入る。
「だから…だから頼む!また私達に力を…!」
「彼女を再び戦地に行かせるのなら、お断り願います。」
「!!」
七瀬さんの息が詰まる音が聞こえる。
頭を下げる七瀬さんを目の前にしても、これだけは譲れない。
そう思いつつも、俺はゆかりに目を向ける。彼女は目に涙を浮かべている。
俺はとても残酷なことをしているのだろう。だけど………譲れない。
「これは私達民間人が出る幕ではありません。民間人である我々に頼るのは、国防の威信に関わる行為でしょう?あなた達国家公務員がやるべき事ではありません。何より…」

「家族を危険に晒すのはごめんだ。」

この場の空気が凍り付く。まるで時間が止まったように。
やっぱり俺は残酷な事をしているのだな。その事を強く実感する。
これだけは譲れない。彼女たちは俺の大切な家族だ。危険に晒すのは絶対に避けたい。
だけど…この事でより多くの命が削られていくのは耐えがたい。
「…ですので、私達が現場へ出向いて彼らを教…」
「行かせてくださいマスター!」
俺の声を遮り、ゆかりが叫ぶ。距離が近いので耳へのダメージがデカい。
「行かせてください!このまま罪のない人が死んでいくなんて耐えられません!」
「ダメだ!とても危険なことなんだぞ!お前だって死んじまうかも知れないんだ!」
「でもこのまま人が死んでいくのを黙ってみていろって言うんですか!?」
「分かってるよ!でもこれは俺たちがやるべき事じゃない!もっと別のやり方で何とかするべきなんだ!」
「人を救うのにやり方も何もないでしょう!」
「あるわ!ただ悪者を倒せばいいってもんじゃねえんだよ!
例えその場は救えても、元凶を倒さなきゃ何の意味も…!」
「なら何で私を助けてくれたんですか!?」
また俺の声を遮り、ゆかりが叫ぶ。だが、その言葉は俺の心に重く響いた。

俺が彼女たちを購入しようとしたのは、単に生活のためだ。
けど「捨てボイロ」という存在を知ってからは考えを変えた。それが誰かを救うことが出来るんだから。
誰かひとりを助けたところで、何か意味はあるのか?そんな考えが何度も脳裏をよぎった。けど・・・。

息を切らすゆかり。その目には一切の曇りが無い。
「…はぁ。親は子に似るってのはこういう事かねぇ。」
完敗だ。まるで敵わねぇ。
「…いいぜ。」
「…え?」
拍子抜けした声でゆかりは驚く。
「行ってこい。皆を救ってきな。」
「…マスター…!はい!」
驚いたような顔は一瞬で消え去り、笑顔へ変わる。
そしてとびきりの笑顔で、俺の言葉に応えた。
その光景を、ただあっけに取られて見続けていた楓は、声を漏らす。
「…すまない。ゆかりさん。どのように礼を尽くせばいいのか…。」
「れ、礼なんかいいですよ。助けになりたいだけです。」
やっぱり照れくさいようだ。今どきこんな正直な言葉、悪く受け取られがちだけど、その好意はきっと伝わるだろう。
「…とはいえ、まだ彼女を戦地へ送る訳にはいきませんなぁ~。」
ちょっと意地悪そうな顔を浮かべてみる。
「…え?さっき許可してくれたじゃないですかぁ!」
「あーちょっとお静かに!ここから先はビジネスの時間だ!」
そう言って俺は席に座り直し、咳払いをしてから――
「これから4つの条件を提示させていただきたい。」
神妙な面持ちで言い放った。
「あぁ。助けを乞うんだからな。何がお望みだ?」
「まず、私を教官としてロボットポリスに迎え入れて頂きたい。これで国防の威信はある程度保たれるでしょう。」
「それくらいならお安い御用だ。何とかしてみせるよ。」
「2つ目。これから私の家族を任務に派遣する際、私をナビゲーターにする事。3つ目は趣味の動画編集はやれるままにすること。最低でもこれだけは飲んでください。」
「…あぁ、その代り教育は受けてもらうぞ?」
「もちろんですよ。そして4つ目。報酬は700万一括払いで。我々の一年分の年収です。」
少々冷や汗を垂らした後、彼女は言った。
「…分かった。何とか上に掛け合ってみるよ。」
「わかりました。じゃあ契約書作ってくるんで待っててくださいね。」
そう言って、俺はパソコンを取りにいこうとする。
「待ってくださいマスター!」
俺の袖をゆかりがつかむ。
「どうした?」
「この契約パートいらないのでは!?」
「・・・突然のメタ発言やめない?」

◇同日夜・リビング◇

「…という訳で、明日私はロボットポリスへ向かう事になりました。」
「「「「えええええええええええええーーーーっ!?」」」
皆から驚きの声があがる。急な話だししょうがない。
「すごいよゆかりん!まさか皆を助けるヒーローになるなんて!」
私の妹「紲星あかり」が手を握る。豊満な胸が羨ましい。
「まさかまた国家プロジェクトに参加することになるなんてな。
これでうちらの懐も温まるわ。さすがやのぉマスター。」
「助けを請われても仕事は仕事だ。こっちだって生活がかかってんだしよ。ついでに環境も良ければ転職して、もっと生活を良くしてやるさ。」
「いよっ!大黒柱ぁ!」
「ハッハッハ!…今の時代そんなこと言ったら怒られるからやめな?」
「急に冷静にならんといてや!怖いわ!」
見事なツッコミに周りの空気が温まる。
「あのさ、雰囲気崩して申し訳ないけど…。」
不安が入り混じったような顔で、葵さんは話しだした。
「ゆかりん。戦う相手は私達みたいな一般市民でも親友でもない。正真正銘の悪人だよ。それも平然と人を殺し、命を弄ぶような極悪人だ。
そんな奴らと戦うこと・・・分かってる?」
この場の空気が一瞬にして凍りつく。
そしてこの場の人たちが、事の重大さにようやく気づいた。
普段はおちゃらけた葵さんの真面目な言葉は、やっぱり心の奥深くに刺してくる。葵さんはかつて半グレに買われ、奴隷のような扱いを受けてきた。だから、こういう言葉はやっぱり重みが違う。時々それを忘れそうになる。
・・・けど、だからこそだ。

私は買ってくれた今のマスターは、とても優しかった。
家事の教え方は丁寧だし、ビジネスライクな関係からスタートしてくれたおかげで「上司」としてとても付き合いやすかった。
けど時々、私達の知らない世話の焼き方をしてくれる。話を聞いてくれたり、一緒にゲームしてくれたり…。まるで理由がわからなかった。
何で自分みたいな人にこんな優しくしてくれるのか。一度それを聞いてみた。すると、こんな答えが帰ってきた。

「そりゃあ君はひどい扱いを受けてきたからな。その分教えてやらねーと。「幸せ」って気持ちをな。」

あの人は不思議だ。一人で暮らすのも手一杯のくせに私達を買って、自分が困ってるのにも捨てようとしない。
自分が食べるのにも困ってるのに、私達を幸せにしようとする。
あんな人になりたいと。強く思い続けてきた。
だから――

「大丈夫です。私達のマスターがついてますから。」

私は笑顔でそうやって応える。あの人が持つ「心の力」を、私は信じたい。

「・・・」
少しばかりの沈黙がこの場の空気を支配する。
「・・・フフッ、」
第一声を上げたのはマキさんだ。
「そっか。そうだよね。あたし達のマスターだもんね。
あの人の技術ならきっと大丈夫だよ。」
この場の空気がちょっとずつ暖かくなり始める。
「・・・そうやな。きっと大丈夫や。あいつは正直訳わからんけど、うちらの事は絶対守ってくれるもんな。」
皆マスターの事を強く信頼している。それだけで、この戦いは負ける気がしない。
「・・・そうだね。うちのマスターならそこまでしてくれるよ。
でも危なくなったらすぐ逃げるんだよ?死んだら元も子もないからね?」
「大丈夫だよ!うちのマスターならそこら辺も何とかしてくれるって!」
「むしろそこら辺はロボットポリス側の出番ですよ。色々口は出すかもしれませんけど。」
「あー確かにやりそ―!」
皆笑い出した。雰囲気がまた暖かく変わる。
「それじゃあ、私お風呂入ってきますね。明日早いですから。」
「おっ、行っといでー。」
そう言って私は席を立つ。そして呆然マスターを横目で見る。
今日は、私が皆と過ごす最後の一日かも知れない。
・・・そう思うと、少し、わがままも言いたくなっちゃう。
「マスターも一緒にどうです?」
その言葉に全員が注目する。
マキさんは驚いたような顔で、あかりんと葵は頬を赤らめて口を抑え、茜はまるでギャグマンガのような驚愕っぷりを見せる。
当のマスターは、気づくのに遅れて、振り向くのが遅れる。
そして―――
「いやいいよ。俺は徹夜で作業するから。」
マスターが即答すると、皆気の抜けて漫画のようににズッコケた。
私もショックで文字通り石になりそうだ。小説なのに。
「何やってんのさマスター!今日が最期かも知れないんだよ!
最期のわがままくらい聞いてあげなよ!」
「そうだよ!鬼かアンタは!」
あかりんと葵さんがブチ切れてマスターに向かって叫ぶ。
「何でオメーラが切れてんだよ!」
「キレるわ!お前はこいつを女としてみてへんのか!?」
「だから入らねーんだよ!第一最期にする気もねーし!」
その言葉に場がちょっと静まる。
「・・・やっぱり、これからの戦いに向けてなにかするの?」
「当たり前だろ?ゆかりは絶対に死なせねぇ。最期の願いなんて叶えさせるかよ。」
「相変わらず・・・だねぇ」
ちょっと呆れたようにマキさんは言う。本当にその通りだ。

あぁ、やっぱりいい人だ。この人は本当に。
だからこそ、あの人に見せたくない所も見せて欲しくなっちゃう。
あの人に「カラダ」を求められたい――――
そう思いながら過ごした夜は、一度や二度じゃない。

「・・・わかりました。じゃあ一人で入りますね。」
その言葉に場は騒然とする。
「ええの!?せっかくの最期の願いをあっさり取り下げて!」
「そうだよ!ちょっと願えばかなったかも知れないんだよ!」
茜さんとあかりんが食いつく。
「まぁまぁ落ち着いてくださいよ。だって最期にする気はないんですから。
きっと大丈夫ですよ。」
ツッコミを入れる二人を私が落ち着かせる。
「でも、もしもの事だってあるかも知れないし・・・」
「大丈夫ですよ。きっとあの人なりの覚悟です。それは受け取らないと。
それに・・・」
私は、少し誘惑するような声を出して言った。

「生きて帰ったら、報酬としてたっぷりいただきますから♡」

そう言い残して、脱衣所へ向かっていった。

ゆかりんが風呂へ向かって少し後。
場の雰囲気はゆかりの色気づいた態度に呆気に取られ、静まり返っている。
いつまでも報われない想いを抱え続けると、どこかで狂ってしまう。
かつて人間の恋人がいたアタシも、それを強く実感する。
だからアタシはマスターの肩を叩き、話す。
「いい加減覚悟決めなよ。マスター」
「えぇ・・・。あなたが言うと説得力が上がりますよ。マキさん。」

◇2025年1月5日・A国X州Y市研究施設◇

「わはははは!女遊びをしながら飲む酒はうまい!」
ここは、Y市のとある研究施設。テロリスト「ユートピア・クリエイター」の長は、ここで何やら女遊びをしていたようだ。
いや「遊び」という言葉で彼の行いは表せない。
豪華な食事と明らかに高級そうな日本酒の前には、大量の人間の女性が、裸で並ばされている。いずれも虚ろな目を浮かべ、ただ命令に従う。
彼らの暴力にはなすすべもなく、諦めるしかないのだ。
テロリスト「ユートピア・クリエイター」は、今の腐った現政権を打破し、彼らの思う「ユートピア」創設のために行動を起こしている。
しかし彼らの活動は、ユートピア作りには程遠い。Y市の全てを乗っ取った彼らは、地獄絵図という言葉さえ生ぬるい世界を築き上げた。
街の食料を独占しては9割を自分のものとし、女という女を攫っては順繰りに犯し、飽きたら捨てる。更には自分のためだけにコロシアムを用意し、男たちはそこで殺し合いをさせる…といった具合だ。
そしてユートピアクリエイターに所属する人間はただ一人。それが長だ。
それ以外はイエスマンとして作られたロボットで構成されている。
彼には悪の誇りなどありはしない。ただ欲望のままにすべてを支配し、全てを独占する。ただそれだけだ。
「ますたー。本日ノ成果デス。」
黄髪の美少女のヒューマノイドが、機械的な声でタブレットを見せる。
彼女のボディは、まるで弦巻マキと瓜二つ。これはY市にいたマキのボディを攫い、電子頭脳を改ざんしたのだ。そうなれば元々の人格は消えてなくなり、対象の都合のいいように書き換えられてしまう。いわば精神の殺害だ。
タブレットに表示されたグラフィックには、様々な情報が移されている。

最新型戦闘用ロボットの生産量・・・1000体
最新武器の生産量・・・1000セット
全魔物の洗脳・・・完了

「ガハハハハ!見事だ!ではお前に褒美をやろう!」
そう言い、彼をマキのボディを抱き寄せ、バストパーツを揉み始めた。
彼女はまばたき一つせず、彼の荒っぽい愛撫に体を委ねる。
そして気がつけば彼は盛り始め、いつの間にやらおっぱじまってしまった。
30分。満足そうな顔を浮かべ、巨体を畳の下に委ねる。
「ふぅ・・・これこそ天国だ。人間も、ロボットも、意志ある物は全て思うがまま。最高だぜ。」
彼はまた「ガハハハハハ!」と笑い出す。
脳みそはドーパミンとオキシトシンで満たされ、狂ったように笑う。
もはや酩酊状態だ。ただ一人の欲望のために使われるしか無いその状況に絶望するしかなかった。
しかし――

「オラァ腐れテロリストぉ!随分と派手によろしくやってんなぁ!」
どでかい声で青年の声が響き渡る。
突然の爆音に誰もが驚き、モニターの方に目を向ける。
激しいノイズの後、ファンシーな背景と共に青年の姿が映し出される。
「な、なにもんだてめぇは!」
「うっわ~ひっどい光景。きったねぇ性欲丸出しじゃん。
うちのボイロ達にゃみせらんねぇなぁ。」
「おい!名を名乗れってんだよ!」
「ん?うわぁ全裸かよ。さてはこの場で盛ってたな?気持ちワリィ…。」
「だ、か、ら!名を名乗れっつってんだろうが!」
早口で次々と放たれる罵倒に苛立ち、青年に大声で怒号を放つ。
「日本のロボットポリスナビゲーターだ!テメーに死刑宣告をしにきた!」
「・・・はぁ?死刑宣告?」
高らかで急激な宣言に困惑を隠せない。
「テメーは一つの街を占拠し、数多の人間を殺し、数多のロボットを破壊した!大量殺人とかその他諸々大量の罪で殺害を命じられている!
よって!現在我が軍の精鋭を乗せた戦闘機が、貴様を直接処刑すべく向かっている!降参するなら今のうちだ!」
「はっ!何敵の前で作戦をペラペラ喋ってんだ。侵入者を出迎えろぉ!
ノコノコ現れたバカどもを血祭りにあげるのだ!」
「彼ラハドウシマスカ?」
そう言い、よろよろと起き上がったマキは、並ばされていた女性達を指差す。
「フン、放っておけ。代わりなどいくらでもいる。」
「分カリマシタ。」
無慈悲な返答に、彼女は何もを疑うことなく了承する。

◇同日某時刻・Y市周辺上空◇

Y市周辺上空。高層ビルの間には、光の道が形成されている。
そのはるか上空では、数十機の戦闘機が占拠された施設へ向かっていた。
パイロットはロボットポリスの精鋭たち。彼らは皆、マスターの新たな教育によりメキメキと頭角を現していた。
「皆のもの!作戦は分かっているな!」
七瀬楓が檄を飛ばす。
「「「「はい!!!!」」」」
「これより無人機のステルス迷彩を解除する!各自ステルス迷彩を起動し、私が指定したルートに従って潜入せよ!囚われた人々を救出するのだ!」
「「「「はい!!!!」」」」
そう言い、数十機の戦闘機は分散した。あとに残るは無人の戦闘機だけだ。
襲いかかるミサイル。しかしそれに向かうのは無人機だけ。
無人機に搭載されたAIは、襲い来るミサイルを華麗にかわす。
「ええい!もたもたするな!とっとと撃ち落とせ!」
次々とミサイルが発射される。何一つ精鋭が乗る戦闘機には向かわない。
「頑張れ皆!何とか撒いて同士討ちを誘うんだ!」
何故か無人機を応援するマスター。気合の入った演技に、テロリストは気づかない。
「ガッハッハ!無駄だよ!このミサイルは最新鋭のホーミングミサイルだ。狙った獲物は逃さない。どこまでも食らいつき、一撃でターゲットを破壊する!無駄な抵抗はやめるんだな!」
「クッ…さながらハイエナのようだな…。」
ここまで演技をしてると言うのに気づかねーとは、やっぱ馬鹿だなこいつ。
マスターは心の奥底で罵倒した。実際、彼は何も考えていない。自分の味方が優勢になっているのを楽しんでいるだけだ。
すると、七瀬からチャットが届いた。
「エネルギーロードが完成した。後は手筈通り頼む。」
彼は演技の傍ら、以下のように返信する。
「了解。じゃあゆかりを出撃させてくれ。確認したら奴との通信を切る。」
「了解。任せたぞ。」
そう返してしばらく時間が経つ。
すると、もう一つのモニターにはバイクに乗ったゆかりの姿が。
「(よし、そろそろ頃合いだな。)」
マスターはキーボードを叩いて司令を送る。
「速度を落とし、撃墜されろ・・・と。」

◇同日某時刻・A国X州Y市研究施設◇

(ドカーン!)
無人機の爆発音が響き渡る。
「み、皆ああああああああ!」
「ガッハッハ!素晴らしい花火だ!パイロットの命も吹き飛んだぞ!」
「く、くっそおおおおおおおお!」
悔しがる「フリ」をするマスターに、テロリストは追い打ちをかける。
「どうした?貴様らの精鋭は何も変わっておらんではないか?
ただゴミのように散っていっただけではないか。
ガッハッハ!やはりダメな奴は何をやってもダメだな!
ガーハハハハハハ!」
無惨に散っていった命を嘲笑うように、彼は高らかに笑う。
マスターは拳を強く握る。
「おのれぇ・・・!覚えてろよ!この屈辱は忘れない!いつか必ず、倍返ししてやるからなああああああっ!」
そう言って、彼は通信を切るのだった。

◇同日某時刻・マスターのお家◇

「ふぅ・・・あいつホントバカだな。こりゃ三日天下だ。」
「どうしたんですか?マスター?」
「ん?あぁ、作戦が意外なほど成功してちょっと拍子抜けしてる。」
高層ビルが立ち並ぶ大都会の上空。バイクのエンジン音を鳴らしながら、私はマスターと会話する。
「あのテロリスト、そこまでおバカなんですか?」
「組織犯罪の長ってのはそこまでバカじゃないらしいが、あの組織は機械と恐怖で従えた人間で構成されてる。最悪レベルのバカだわ。
ドーパミンとアルコールで頭やられたんじゃねぇのか?」
「なんでそんなんであそこまでデカいテロを起こせたんですか…?」
「さぁな。だがやるべき事は一つだ。今はミッションに集中してくれ。」
「あっ、はい!蛇行運転はマズいですもんね!」
そう言って前に向き直る。
「よし、そろそろ見えてくる頃だな。」
「あっ…。」
見上げると、元気に活動してる目標の研究施設が見えてきた。
この中にあの外道どもが…。兜の緒を締めるように、覚悟を決め直す。
「よし、それじゃあ潜入できたら通信をかけてくれ。次の指示を伝える。」
そう言って、マスターは通信を切る。

季節は冬。冷え込んだ空気は私を蝕む。
クリスマスムードだった都会は活気をなくし、ただ冷えた風が吹くだけだ。
その全てを取り戻すため、私はここにいる。
私はバイクのスピードをあげ、目標に向かって突っ走る。

2025年1月5日、人々は元の日常を取り戻しつつある。
けれども、全てを失い、助けを求める人たちがここにいる。
今ここに、誰も知らない大いなる戦いが幕を開けようとしていた。

To Be Continued…

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