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わたしの赤ちゃんは、人間になった
ついこの間まで赤ちゃんだったはずの長男が、来年小学生になる。
初めての子育ては毎日精一杯で、あと半年なのにまだ全然実感が湧かない。
わたしはこの6年、何をしていたんだろうね。
旅行が好きな我が家。
なかなか思うように旅行もできないご時世だけど、それでも感染者が少なくなったタイミングを狙って、行けるときに行ける場所へ出かけることにしている。
今年の春は、 子連れに人気のリゾナーレ那須へ。
星野リゾートの「リゾナーレ」ブランドは、感心するほど家族連れにターゲットを絞っていて、まあよく考えられていること!
大人の「のんびり」と、子供の「ワクワク」が両立できるので、去年に続き2回目の宿泊を決めた。
長男は、昨年、虫取り網と虫かごを持って森の中を探検したのがよっぽど楽しかったらしく、出発前からとても楽しみにしていた。
森をお散歩したり、薪を割ってマシュマロを焼いたり、コック体験でケーキを作ったり。
去年はほとんど答えられなかったアクティビティのクイズは、答えをしっかり覚えていて、張り切って答えていた。
2泊3日の滞在はあっという間。
最終日の午前中は、農業体験で畑づくりをして、まもなくチェックアウトと言うところで長男がぐずりだした。
帰る準備をしようね、と言っても動かない。
トイレはどう?と声をかけても、なんだかんだ理由をつけて渋っている。
楽しくてついつい予定を詰め込んでしまったけれど、子どもの身体には負担だったんだろうか、とぼんやり反省しながらも、
「どうしてそんなにご機嫌ななめなの?
長男が楽しくないんだったら旅行はもうやめにしようか。」
とこぼしてしまった。
長男は聞いているのかいないのか、俯いたまま、座った椅子の足をポーンポーンと蹴っている。
疲れと空腹で不機嫌になっているんだろう、お昼ご飯まで持つだろうか、と考えながら、わたしは急いで荷物を詰めた。
いよいよお部屋を出る、というときになって、長男がとぼとぼわたしのそばへやってきた。
「ママ、あのね。
長男、帰りたくなくて悲しくなっちゃった。」
そう言いながら、ポロポロ泣き出す長男。
予想外の理由で、呆気に取られるわたし。
子どもの不機嫌の理由なんて、空腹か、眠いか、うんちか、もしかしたらどこか具合が悪いかだと思っていたのに、目の前の長男は「さみしくて」泣いている。
わたしから生まれてオギャーと泣いた赤ちゃんが、5年かけて人間になったのだ。
「そっかあ、話してくれてありがとう。
気持ちを言えてすごいね。
ママ、長男が楽しくないのかと思っちゃったんだよ。」
と言って、長男を抱っこする。
小柄な方だけど、体幹がしっかりしていて、もう赤ちゃんではないのが分かる。
「ママもね、小さい頃、ディズニーランドから帰るのが寂しくて泣いちゃったことがあるんだよ。」
と小声で言うと
「ママも?」
と目を丸くする長男。
寂しくて泣くのが、恥ずかしいことだと思ったらしい。
うんちが出なくて泣いていた子が、「恥ずかしさ」を感じるようになるなんて。
人間の成長って、たまげたものだ。
また必ず来ようね、と約束して那須を後にした。
生まれたばかりの頃は、一心同体のようだった子が、全く別の人間になっていくようす。
それが不思議で嬉しい。
子育ての面白さって、こういうところにあると思う。
毎日同じようなことの繰り返しで、立ち止まっているようにしか感じなくても、時間は流れていて、経験は重なっていて、細胞は分裂している。
時間の無駄とか、お金の無駄とか、生きる価値とは、なんてことを、ふとした時に考えてしまったりもするけれど、生きているって、そもそも無駄なのだ。
目の前の不安や悩みは尽きなくても、生きているだけで、昨日と同じなんてことは絶対にない。
どんなに偉い人だって、赤ちゃんとして生まれ、老いて、そして死んでいく。
意味なんてない人生で、こんなにもわたしの心を揺さぶって、強くしてくれるもの。
わたしから生まれてきた、小さくて愛しい人間の人生に関われたことを、わたしは誇りにおもう。