イノベーションの終焉
世界は長らく画期的なイノベーションを生み出していない。1940年代のマンハッタン計画や、1960年代に人類を月へ送り込んだアメリカ。そのかつての栄光に対し、近年の「破壊的イノベーション」と呼ばれるものは、タクシーやホテル産業といった既存ビジネスの「美味しい部分」をサイバー空間に切り取り、映し出したにすぎない。
資本主義の本質が「資本で資本を増やすこと」と「すべてを商品化すること」にあるとすれば、これは必然の結果だろう。これらのテーゼは、世界の無限性を前提としている。しかし、封建制の終焉以降、商品化できるものはすでにほとんど商品化されてしまった。イノベーションとは、この商品化の過程で生じる副産物にすぎない。ゆえに、もはや商品化の対象が尽きれば、イノベーションもまた途絶えるのだ。
1990年代以降、膨大な資金がテクノロジー業界へ流れ込み、技術=テック、科学=テック、イノベーション=テックという構図が定着したのも、インターネットが一種の「別世界」として現実空間とは異なる、もう一つのアクチュアルな領域を生み出したからだ。インターネット黎明期、人々はその向こう側に霊的ともいえる感情を抱いていた。それは『Serial Experiments Lain』や『STEINS;GATE』のような作品に表現され、2ちゃんねるなどのカルチャーにも影を落としている。そこは新しい土地であり、もう一つの地球だった。少なくとも「インターネットの住人」と呼ばれるタイプの人たちはそう信じていた。インターネットの誕生は、人類に新たな商品化の素材を提供した瞬間でもあった。
もはや、真のイノベーションは生まれない。次に必要なのは、新しい「地球」を見つけることだ。