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【メインストーリー】はじめての恋 碧編

 その日は、いつものように家族ぐるみの食事会が碧の家で開かれる予定だった。

17歳の碧にとって、そういった集まりは特別なものではなく、ただの親の付き合いの一環でしかなかった。

碧は庭にあるベンチに腰掛け、ぼんやりと外を眺めていた。

午後の穏やかな陽射しが庭に差し込み、色とりどりの花々が風に揺れている。

特に何かを考えるわけでもなく、いつものように流れていく時間を感じていた。

そんな中、玄関から親たちの楽しそうな声が聞こえてきた。

どうやら客人が到着したらしい。
碧は特に興味を示さず、庭に目を向け続けていた。

しかし、ふと聞こえてきた柔らかい声に、思わず振り返った。

「はじめまして、とっても素敵なおうちですね。」

そこに立っていたのは、艶やかな黒髪が美しい少女だった。

碧は一瞬、その場で固まった。
彼女の瞳は美しくまるで宝石のように輝いていた。

「あ…、ありがとう。」

碧は少し戸惑いながら答えた。

彼女がこの場にいることをまったく知らなかったため、どう接していいのかわからなかったのだ。

「庭の花も綺麗だから、よかったら見ていって。」

自然と口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。

普段はこういった集まりで、他人と積極的に話そうとはしないのに。

少女──麗奈は、微笑みながら頷いた。

「ありがとう、ぜひ見てみたいです。」

碧は庭を案内した。

花々が揺れる中、麗奈が一つひとつの花を見ては感想を口にする。

その声は穏やかで、どこか心を落ち着ける響きがあった。

「本当に綺麗な庭ですね。お花も丁寧に手入れされてて素敵です。」

「うちの母が花が好きなんだ。だから、いつもここにいる時間が多いんだよ。」

碧は少し照れくさそうに言いながら、咲き誇る花々に目を向けた。

麗奈は足を止めて、小さな花に目を留めた。

「この白い花、可愛いですね。」

「それ、ジャスミンだよ。香りもいいから、近づいてみるとわかると思う。」

碧はそっと花を指さしながら言った。

麗奈がそっと顔を近づけると、柔らかな香りが広がった。

「本当だ。素敵な香りですね。」
彼女の表情が嬉しそうに緩むのを見て、碧の胸が少しだけ高鳴った。

「そういえば…」
麗奈が少し首を傾げながら言った。

「さっき、もう一人同じくらいの歳の方を見かけたんですけど…」

碧は少し驚きながらも笑った。

「ああ、それ、蓮二のことだと思う。僕の双子なんだ。」

「えっ、双子なんですか?」
麗奈が目を丸くして驚く。

「うん。でも、僕と蓮二は性格が全然違うんだ。あいつはいつも明るくて、僕よりもずっと人懐っこい感じかな。」

「そうなんですね。」

麗奈は柔らかく微笑んだ。

「でも、碧さんも優しそうな雰囲気で素敵だと思いますよ。」

その一言に、碧の胸は一気に熱くなった。

初めて会ったばかりの人に、そんな風に言われるのは初めてだったからだ。

碧は少し照れながら、視線を花に向けた。

「…ありがとう。」
それだけを言うのが精一杯だった。

二人はその後も、穏やかに会話を交わしながら庭を歩いた。

その時間は、碧にとって特別で、忘れられないものとなった。

麗奈という存在が、自分の中で大きな何かを占め始めたのは、きっとこの時からだったのだろう。

はじめての恋 碧編 終わり

次は蓮二編!


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