予定外の人生
4月2日(日)。よい風呂の日。
朝9時、私は銭湯にいた。本当なら6時の開店とともに一番風呂にすべりこみ、7時には喫茶店で優雅にコーヒーをすすっている予定だった。目が覚めたら7時だった。うむ。アラームをかけ忘れていた。
江國香織さんの『アメリカンな雨のこと』というエッセイはこんなふうにはじまる。予定外のこと。彼女にとってのそれは、デパートの屋上でめぐり会った愛犬の" 雨 "と暮らしはじめたことで、私にとってのそれは、銭湯で働くことだった。
銭湯。私の人生に銭湯のお風呂がやってきた。勤務初日のその日から、勤め先の銭湯のお風呂にほぼ毎日はいっている。仕事でも休みでも、旅先以外は毎日。手帳のウィークリーページには毎日必ず1時間「おふろ♡」という予定が書きこまれている。お気に入りの青い蛍光ペンまで引いて。
これまでの人生において、わざわざ♡マークをつけて手帳にお風呂の予定を書いたことはない。日々の銭湯のお風呂が、私の中で圧倒的に特別で愛おしい時間になっているとしみじみ感じる。不思議だ。それまでとなにがちがうのか。私のこころとからだに、いったいなにがもたらされているのだろうか。
高校時代からその多くを飲食業に従事してきて、おおよそこれからもそうなのだと思っていた。はずだった。海抜6mの喫茶店でコーヒーをすすりながら、窓の向こうの新釧路川のゆるゆるにゆるやかな水面を眺めていると、もうそれだけで、あぁ お風呂にはいりたいなぁ、と、欲してしまうのだった。
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