あなたのリクエスト
7日前のこと。
自動車学校へ向かう送迎車の中だった。
いつもそうするように運転手さんとあいさつを交わすと、シートの背にもたれて目を閉じた。学校から自宅が遠いので、たいてい私が一番最初に乗車する。そこからたくさんの生徒さんを迎えに行き、到着までは40~50分ほどかかる。
運転席の後ろの後ろの席。ラジオから流れる曲たちに記憶がよみがえる。B'zの『love me I love you』。スーツ姿の稲葉さんが札幌の大通公園やラーメン横丁やらを練り歩くPV。プリンセス プリンセスの『KISS』。真夜中の音楽番組で、加奈ちゃんがパンク服の作り方を教えてくれてた。懐かしい。
窓の外は晴れ。日ざしを感じながらしばしうとうとしていた。懐かしい音楽も手伝って、とても心地がよかった。
そのとき。
イントロが流れ、空気がかわった。歌声。
目を閉じているのに、視界があかるくなる。
体の奥のカタマリが、ほどけて溶けていく感覚。
じぃわぁぁぁぁぁぁぁ、っと。
ぶぅわぁぁぁぁぁぁぁ、っと。
どぉわぁぁぁぁぁぁぁ、っと。
それほど音質がいいとは言えないラジオ。歌詞もうまく聴きとれない。それでも、言葉にならないものが染み込み、またちがうなにかがあふれるようにこみあげて、閉じていたまぶたから涙がにじんでくるのがわかった。「わぁぁ…」 と思った。「いい…」 と。
こめられたものが、想いが、伝わった気がした。
曲の終わりに再び紹介されたグループ名だけは聞き取れたのだけど、正確に聞き取れたのか判別できずにスマホで検索した。男性7人組のアイドルグループであることがわかった。
『7ORDER(セブンオーダー)』
………知らない…。
最初にそう思った。(すいません)
顔も、名前も、ひとりもわからなかった。
胸を熱くした車中の余韻を残して、なんだかふわふわしながら学校へ到着した。湧きあがるふわふわそわそわしたものをおさえられず、ふわふわそわそわわにわにしながら、わずかにふるえる手で、ツイッターをひらいていた。
伝えなければと思った。感謝を。
ラジオにリクエストをしてくれた方に。
届いたことを、届けたかった。
ラジオ局と、番組名と、セブンオーダー。
3つのハッシュタグをつけて、素晴らしい曲を聴かせていただいた感謝を言葉にした。あれはなんだったのだろうか。感動からの妙な緊張感。手はずっとふるえたままで、そのときふと思った。
だ、だだだ大丈夫かな、ここここ言葉をちゃんと選べただろうか、こういうことを感動したからと興奮した勢いのままにつぶやいては自分でも気づかぬうちになにかよからぬこと失礼にあたることをぺろっっっと言ってしまってやしないだろうか酔っぱらった人が真夜中につぶやいたことを翌朝後悔するあのパターンでも私はシラフなのだけどだって自動車学校へ行くのだからそれ以前にそもそも酒のめないじゃないか私、と、つぶやいたそばからモーレツに心配になったが後の祭りというものだ。
そうしてどうやら、私のしょうもない心配などとるに足りなかったのだと知る。7ORDERを応援するファン方たちはみなさん心が広く、たくさんのいいねやリツイートをしていただいた。メッセージも届いて驚いた。ありがとうと、わざわざ感謝を伝えてくださった。うれしかった。
不思議な気持ちになる。
あの日、あの時間。本来ならば私はそこにいない。1月の終わり、同居する74歳の父の心と体に不具合が起きた。付きっきりで見守るために2月から休職をしていて、このような状況にならなければいつも通り仕事へ行っているはずの時間だったから。
偶然と言えば偶然。
タイミング。運命。シンクロ。
ご縁。ギフト。いろんな言い方がある。
都合よく考えればきっとそのすべてで、そう考えると、父と私の身に起こったことにもちゃんと意味があったのだと思える。幸福に繋がるなにかが。
あれから7日が経った。
私の手元には新しい1枚のCDがある。
ラジオで聴いた『夢想人(ドリーマー)』が収録されているセカンドアルバム『Re:ally?』だ。やったぞ。幸運なことに初回版を手にすることが叶った。うれしい。CDとDVDとブックレット。ほくほく。パラパラ。ふむ、あなたたちが7ORDERなのか。いいなぁ、きれいな人たちだなぁ。むむ。なにやら興味深い紙まで封入されていた。
『応募抽選特典応募券』というものだ。
『応募抽選特典応募券』?
『応募抽選特典応募券』???
『応募抽選特典応募券』?????
ん。彼らのことがもっと好きになった。
あらためて伝えさせてください。
ラジオにリクエストをしてくださったあなた。
あなたのリクエストのおかげで、これから先の支えや道しるべとなり、胸を熱くする素敵なグループに、音楽に、ファンのみなさんに出会えました。感謝しています。ありがとうございます。
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