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"幻"に愛おしさを求めて/八月マボロシ号「幻日天使」

昨年7月4日に投稿された「エンジェル」以来1年ぶりとなる、八月マボロシ号さんによる新曲。

"幻"に触れる

3分18秒の大半を詞のないメロディーが占め、ゆっくりと時間をかけて私たちを"幻"へと誘う。
「醒めない夢の中」で囁きの反響に浸る。
夜が明けるかのように、また静けさの中に余韻を残しつつ"幻"が解ける。

これは私が「幻日天使」を聴いて初めに抱いた感覚である。
 

思えばこの「幻日天使」に表されているテーマの一つとして"幻"(=消えてなくなるもの)が挙げられるのだが、不意に重ねてしまうのは投稿者・八月マボロシ号さんである。

冒頭にも述べたが、八月マボロシ号さんによる「エンジェル」には大変感銘を受け何度も繰り返し聞いていたが、数ヶ月の後に投稿者により非公開となってしまった。
ニコニコ動画に投稿されたボーカロイド曲には往々にしてあることだが、八月マボロシ号さんは自身の作品一覧を公開しているにも関わらず、ほとんどの曲が非公開となっている。

これは「何かを失う瞬間がもっとも愛おしいという気持ちで作曲します」(八月マボロシ号さんニコニコ動画プロフィールより引用)という文章から、その理由について一応の納得をすることができる。
何かを失う瞬間、つまり"幻"が解けるときの儚さに感じるわずかな愛おしさが最も尊いということなのだろうか。

そして、テーマとしての"幻"はこの「幻日天使」の歌詞にも表れている。

貴女を愛してるって言えない僕らは亡霊
明けない梅雨の中
置き去りの天使はまだ還れない
貴方にごめんなさいが言えない僕らは罪人
醒めない夢の中手を伸ばすだけじゃ救われないんだよ

詞の解釈などは読者の皆様に委ねるとするが、私はこの短い詞の端々に、諦めや後悔、幻想などといった感情を見出した。

"幻"を感じる

これらの"幻"をテーマとした「幻日天使」は、八月マボロシ号さんだけが表現し得る独特のメロディーに彩られてさらにその深みを増している。

作品の特色を他との比較に委ねるのは全くナンセンスであることを承知しつつここで例を示すとすれば、



「Ark of the blink」/ぐらんびあ (2020年1月1日)


「シンセな海」/メサダP (2020年1月31日)


この2曲で使われている技法が「幻日天使」のそれに近い。響くように丁寧に仕上げられた音は、より清廉、より静謐な雰囲気を生んでいる。

以上、一貫したテーマと作者の特長からこの「幻日天使」の感想を書き連ねた。

「何かを失う瞬間がもっとも愛おしい」

この作品もいずれ非公開となることだろう。
私が今感じたことをここで素直に述べるのは"幻"を幻でない存在にしてしまいかねない。しかし、愛する音楽に一瞬の幻だけで終わってほしくない。この文章はそういった動機で書き始めた。



もう一度八月マボロシ号さんの新曲を溢れんばかりの感想とともに記事に書き連ねる日が来ると信じて、気長に待つとしよう。

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