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No.1198 「文明あんの?」台本と一言

あらすじ

東京から青森の中学校へ転校してきた相田くん。彼はあまりクラスに打ち解けられていない。ある日、彼は先生に呼び出される。彼には周囲とのコミュニケーションにおいて、明確に悪いところがあり───。

登場人物

相田くん:東京から青森へ転校してきた中学生。同級生への絡み方をめちゃくちゃ間違えている。たぶん田舎の人と関わったサンプルが少なすぎてミスっているだけであり、根っから悪い奴とか、根っから田舎嫌いとかではない。なんで青森に来たんだろうね。親の転勤とかなのかな。となると家は電力系? JR? 裁判所とかかも。どっちみち「田舎いじりのラインを間違えてる奴」ではある。まぁ中学生くらいって人生のサンプル少ないからしゃーないとこもあるよナァ

田名部:相田くんのクラスメイト。田名部は青森にとても多い名字なので、県民なら「青森の名字だ…」と思えるポイント。樋口、工藤、中村あたりと迷った。たぶんとても素朴な子。特に名言してないが、前髪をヘアピンで止めている女子な気がしている。なんせ俺の知る田名部サンプルは全員そうだったから。そういう一族の掟があるのだろう。違う田名部がいたらごめんな。

クラスのみんな:青森の中学校のみんな。雪ん子たち。全体的に色白、目が大きい、丸顔。相田くんが転校して来てからというもの、だんだんに「青森には文明がないのかもしれない」と思い始めている。イメージは学年100人くらいの公立中学校、青森だとかなりデカい方です。

先生:青森県出身、大学だけ東京で、今は地元で中学校の先生をしている。たぶん東洋大学あたりの出身。大学生の頃に相当嫌なことがあったらしい。基本的にはヘラヘラしてて優しい先生なのだろうが、憎しみが領域展開すると朗らかに歯止めが効かなくなる。怒らせたらねちねち面倒くさいタイプだろうな。

動画

台本

形式:一人コント
配役:先生役

● 相田を呼び出して。職員室にて。
相田、お前クラスに打ち解けてえんだよな? んだよな? クラスに打ち解けようっていう意志はあるんだよな? んだよな?

…いや先生びっくりしてさ。東京から青森への転校生。この時点でね、クラスの人気者になるんだろうなって思ってたの。

だって、青森の中学生って東京の話大好きだからさ。「新宿行ったことある?」とか。「渋谷ってどんな場所?」とか。おめえのことみんな質問攻めにするんだろうなって思ってたの。

でもさ、正直おめえ今クラスで浮いてるよな。
…もう一回聞くけども、打ち解ける意志はあるんだよな? んだよな。

…先生さ、おめえのクラスでの振る舞い見ててさ、気になることがあってさ。おめえ休み時間とか、放課後とか、よく言ってるよな。

「ここって文明あるの?」
「青森って文明あるっけ?」
「青森って文明来てる?」
「青森にも文明は届いてるんだ?」
「あれ、文明あったっけか?」

…おめえさ、打ち解けてえんだよな? 本当に打ち解けてえんだよな? 打ち解けたい奴がするコミュニケーションではないよな。文明の有無を問うてくる転校生、めちゃくちゃ怖いよな。

青森の中学生ってみんな純朴だからさ、毎日文明の有無を問われたことで、だんだん「ないのかな? 青森って文明ないのかな?」みたいな空気になり始めてるのよ。

それでこないだな、田名部が先生に相談してきたの。「先生、青森って文明あるんですか? 自信がなくなっちゃって」って。「大丈夫だ、文明あるよ」って。誰かを追い込むのはよくないからな。あれ、やめろ。な?

いや、確かにな、そういうノリ、そういう絡み方があることはね、俺もわかるのよ? 俺、大学が東京だったからさ、大学生の頃よく言われたの。「おめえの地元文明あんの?」とか、「お前の地元文明来てないだろ?」とか。よく言われたのよ。

ただな、ただな、よく聞け。そのノリ、正しくは「”お前の地元”、文明あんの?」って言われて「あるわ!」なの。それが正しいノリな。

で、おめえのは「”ここ”文明あんの?」
…現地でやる奴いないのよ。現地で文明の有無を聞き出したら調査隊だからさ。そんな奴仲良くなれないよな。おめえそういうことをやってるんだよ?

あの絡みだけやめてくれたら。きっとみんなおめえに聞きたいこととかいっぱいあるからさ。あれだけ辞めれるか?

よかった。わかってくれたなら。これで、これから学校生活きっと楽しいから。

● 先生、相田くんから目を逸らして、回想っぽいトーンになる。
しかし、懐かしいなぁ。先生よくされたもん。あの絡み。あれなんなんだろうな? 「お前の地元、文明あんの?」って。

いつも思ってたよ。「なかったらどうするんだろうな」って。

文明がなかった場合、その場で殴ってもいいもんな。「文明あんの?」「ねえよ? ないけれども? 文明が来てなくて…ごめんな?」ってやれるのに…。なんで聞いてくるんだろうって。わざわざピンチを自分で作って。

文明の有無を聞いてくるときさ、あいつら「文明あんの?」ってちょっと殴りやすい顔になるんだよ。「文明あんの?」当てるだけで倒せる。「ねえよ! ねえよ!」っていくらでもできるのにな。

別に財布とか抜いてもいいしな。文明ないんだから。文明ないからごめんね、って財布抜いても良い。別に文明ないんだから。

文明ない場合、何してもいいんだから。「ごめん、文明ないんだ」って言いながら、相手のあばら骨をガッて開いて、そこにチューリップを植える。ごめん、こういう地域なんだ。お前のあばら骨をガッてやって、チューリップを植える。ごめんな、こういう地域だ。何やってもいいもんな? あばら骨ガッて開いて、チューリップを植えて、それを猿に見せる。そういう地域だからごめんな? そしたら翌年雨が降るんだよ。そういう地域なんだ。ごめんな? あばら骨ガッて開いて、チューリップを植えて、猿に見せる。そのへんの猿に。

あ、だいぶビビってるな? 怖がらせてごめんな。そうなんだよ。青森って文明ないんだよ。

ひとこと

・初出は2022年頃。田舎出身であることをTwitterでかなり嫌な感じでいじられたことがあって、「う〜!! ぎ〜!!」などと思ったが、テーマとして良いなと思ったのでコントにした。
・早々に「前半は中学生の相田くんへの指導なのだけど、後半はその手のノリ一般への文句」という大枠が決まった。チューリップのくだり以降はまだなかった。そこ行く前に「おお、ごめん、ごめん相田、今のはお前関係ない、大学時代のストレス」と言って終わる感じだった。
・ライブでは2022年にそこそこやったが、2023年にはあまりやらなくなっていた。なんせ地味なネタだし、学校の先生が職員室に呼び出すネタは他にも大量にあるため。これをやるなら他のネタでもいいなと思えるネタがあった。

・だが、2024年から再びやり始めた。内容的に、地方遠征でやっても映えるし、東京でやっても別の味が出るし、あちこちでやるべきかなと思ったため。青森県出身の旅芸人がやるべきネタだとも思うし。
・せっかくなのでこのネタにパンチを足そうと思い、最終盤の先生が覚醒して以降、いっそのことめっちゃ怖くすることにした。映画「ミッドサマー」が好きなので、ああいう白昼のお耽美グロホラーを入れたかった。そこから「あばら骨×チューリップ」のくだりが生まれた。
・九月はミッドサマーが好き。「グリーン・インフェルノ」「ウィッカーマン」などのいわゆるフォーク・ホラー映画は全般的に好き。
・思ってたより怖くなったことで、「いまのは大学時代のストレスなんだ〜」オチが使えなくなった。色々入れ替えたりもしたけれど、「青森って文明ないんだよ」に落ち着いた。優しい終わりから喧嘩売る終わりになってしまった。殴りかねないんだぜ、という脅しじゃんね。

・実は勝負ネタにしよっかなと思っていた時期もある。さすがに地味さ陰湿さが勝つかなというのでやめた。仕掛けの作動が遅い、前半と後半で別ネタになるなど、賞レース的には評価低いだろうなとも。
・そうしているうち、だんだんに旬を終えたネタな気がしている。なにせ最近は「地方いじり」のコミュニケーションもフェーズが変わってきて、「群馬には機械がまだ来てない」みたいな地方蔑視ジョークを、あまり見聞きしなくなってきたから。ネタ元にあたるコミュニケーションがなくなってきたので、このコントも存在意義をゆるやかに薄めつつある。
・したがって、たぶんもうそんなにライブではやらない。いま思えば、ある種の時事ネタだったんだと思う。

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