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ヨソヨソしくされる職業

むかしむかし、わたしが結婚前、
フツーの会社員だったとき、
フリーのライター、校正者、写真家、
イラストレーターなどの方たちと
仕事上のお付き合いがあり、
夫もその中の1人でした

結婚後、子育てが一段落して、
とある地味な会社での短期バイト中、
協調性がないのに雑談が大好きな
30代後半 男性社員Aさんに

「ご主人のお仕事は何ですか?」

と聞かれました

わたしはパソコンを打つ手を止めて

「自由業です」

と答えましたら、

「ええっ…. そうなんですか…」

とAさんは驚き、少し動揺して
急にヨソヨソしくなり
スーッと離れていきました

そして、しばらくしてから
わたしの周りに誰もいなくなったのを
見計らったように近づいてきて、
距離感おかしいでしょ、というくらい
やけに近づいてきて、
聞かれたらまずいかのように耳元で、
とっても小さな声で、

「あの… ご主人って… 」

と話しかけてきました

「夫?」

「はい、ご主人… 」

「わたしの夫の話ですか?」

「はい、のえみさんのご主人…」

「わたしの夫が?」

「ご主人… 」

「が、何でしょうか?」

せっかちな大阪人のわたしは
小さな声で口ごもるAさんに
ちょっとだけイラついて
キツい口調になってしまったかも
しれません

そんなわたしが怖くて萎縮したのか
Aさんは少しためらってから

さっきよりも小さな声で
でも、はっきりと、


「ヤクザなんですか?」


わたしはびっくりし過ぎて
バイトという立場を忘れて
敬語を使うのを忘れて

「違うけど、なんで?」

とたずねました


「僕は自由業といえば
 ヤクザしか思いつきません!」


なんでそうなるのか
さっぱりわかりませんでしたが、
Aさんの謎の思い込みによると、
「自由業 = ヤクザ」らしいのです

どうやら、わたしは
極道の妻と思われていたようです

背中一面の般若の刺青でも
チラッとお見せできれば、
もっとAさんを驚かせることができて
もっと面白かったかもしれませんが
残念ながら、堅気のわたしの背中は
無地です


最近、ヤクザの隠語が「ヤのつく自由業」
ということを知りました
Aさんの謎の思い込みの根源はこれです



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