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「地域をひとつにする」 奈良クラブが「#ならをつなぐプロジェクト」に込めた想い

奈良の地域活性化をめざして「#ならをつなぐプロジェクト」を発足した、日本フットボールリーグ(JFL)所属のサッカークラブ「奈良クラブ」。

note上で「#ならをつなぐプロジェクト」というハッシュタグで奈良への愛にあふれた投稿を募集し、集まった投稿をプロジェクトのホームページや奈良クラブのnoteでとりあげています。

プロジェクトページには、シンクタンク・ソフィアバンク代表の藤沢久美さん、パノラマティクス主宰の齋藤精一さん、レストラン「sio」オーナーシェフの鳥羽周作さん、奈良クラブの選手兼フロントスタッフ(サラリーガー)の都並優太選手のお手本作品も掲載されました。

また、プロジェクトのシンボルとして、2021シーズンのユニフォームの左袖広告枠にも同プロジェクトのロゴを掲出し、奈良新聞には2日にわたって全面広告を展開。いずれもユニークな取り組みとして話題となっています。

noteを活用しつつ、さまざまな取り組みを進めている奈良クラブの大里哲平さんに、「#ならをつなぐプロジェクト」の裏側にある思いと、スポーツチームのnote活用についてお話を聞きました。

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地域を盛り上げることで強くなっていく

-まず、今回のプロジェクトが発足した経緯について、教えてください。

人とのつながりの大切さに改めて気付かされた2020年を踏まえて、こんなときだからこそ「奈良が好き」という気持ちを軸に、地域に活気をもたらすようなプロジェクトを始めようと思ったのがきっかけです。

そして、そのプロジェクトの起点としてnoteを活用したいと考えました。投稿をしたりそこにリアクションをすることで、さまざまなコミュニケーションやつながりが生まれると考えたからです。

地元の人でも、これまで知らなかったお店やアクティビティ、こんな会社があったんだという発見で新しい奈良の魅力に触れることができますし、県外の人だからこそ気づける奈良の魅力を書いてもらうことで、県内の人が改めて発見するという形のつながりにもなっていくのではないかと思っています。

-チームのPRというよりは、地域を盛り上げることに重点を置いたプロジェクトですよね。どんな理念で始めたのでしょうか?

地域のチームって、その地域を盛り上げることで強くなっていく存在だと考えているんです。どれだけ地域の人たちに愛されて、どれだけ地域にとっての価値を作っていけるかという点がとても大切です。そのため、地域に活力をもたらす取り組みをあらゆる方向からやっていく必要がありました。

「#ならをつなぐプロジェクト」も、(テーマは)ほとんどサッカーに関わりがないように見えるんですが、スポーツクラブって地域でのつながりが、集客に影響をあたえたりスポンサーさんとのお付き合いにも関係している部分がすごく大きいんですね。だからこそ、自分たちからアクションをすることが大事だと思い、私たちが地域をひとつにするお手伝いをできればと考えました。

そんな、地域に寄り添ったクラブを目指すという理念をさらに強化しようというなかで、noteというプラットフォームの存在を知ったことも、今回のプロジェクトの大きなヒントになりました。

これまでは、地域のハブになることやつながりを作るためには、ホームゲームやイベントを中心として活動をしていたのですが、昨年、新型コロナウイルスの影響でリアルな活動がほとんどできなくなってしまいました。一方で、可処分時間が増えたことにより内省の時間や創作の時間が増え、さらにリモートワークの普及など、奈良でもDXの動きが出てきました。そんな背景をふまえて、SNSを活用して地域について語り合う企画を考えたんです。

「ならをつなぐ」の「つなぐ」という言葉は、サッカーのパス回し、ボールを繋ぐこととも言葉としてかかっているというのもあって決めました。

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サッカーチームはハブになる存在

- インターネット上でのユーザーの投稿を起点とした施策は、スポーツチームでは珍しいように感じますが、力を入れたポイントはどんな部分ですか?

昨年春以降、リアルで行うキャンペーンが難しくなったという背景もありますが、デジタルの方が早く動き出し、改善しながらより良くしていくことができる利点があると考えています。

それと、スポンサー企業さんとサポーターの皆さんとのつながりという観点では、我々サッカーチームはそのハブになる存在だと考えていて、これからはそういった、いわゆるメディアとしての機能についても、クラブとしてもっとチャレンジしていきたいと考えたんです。

Jリーグのレポートを見ていても感じるのですが、奈良クラブに関わらず、サッカークラブのサポーターの方々は、デジタルネイティブと呼ばれる世代よりは少し年齢層が高いです。奈良で言うと、県外就業率が高いこともあり都心部と比べるとデジタルリテラシーという観点では、遅れている部分もあるでしょう。

でも、相性の良い世代が多いからやろうというのではなく、あえて馴染みのないデジタルの取り組みへチャレンジすることにも意味があると思っています。地域を良くすることって、必ずしも既に喜ばれることをやるだけではないかもしれない。たとえばいつも応援しているチームが新しいことを始めたからちょっとやってみようかなと思ってもらえるかもしれないし、それをきっかけに少しデジタルツールを使えるようになったり、noteのような良質なプラットフォームに出会うことができるかもしれない。サッカークラブがそのきっかけになることも地域に貢献すると呼べるのではないかと思っています。

実は昨年似たような取り組みをしたことがあって、コロナ禍で「ならじかんプロジェクト」という企画を実施しました。自社のWebサイトで実施したのですが、工数がかかるのと、広がりを作っていくことに課題が残りました。そこでオープンな既存のプラットフォームを検討し始めて、ほぼ迷うことなくnoteに決めました。

UI・UXが優れている、誰でも使えて、誰でも簡単にきれいな記事が書けるという点がやはり一番のポイントで、他のSNSやECサイトとの連携も綺麗だしスムーズでもあり、とても汎用性が高いプラットフォームだと感じました。デジタルツールにあまり馴染みのない方々でも使えるのがnoteだと感じたんです。

今後は地域への経済効果を視野に入れて、「#ならをつなぐプロジェクト」の価値を上げ、人が集まるようにして、県内のお店にnoteのアカウントを開設してもらい、ECサイトとの連携で物販につなげてもらうことなどができればと思っています。そうすると、ホームページが無い小さいお店でもECで販売できたり、売り上げアップにつなげられるかもしれない。そのような点も考慮すると、ほぼ「note一択」という感じでした。

個々のお店が始めるには、まだハードルが高かったり説明に時間がかかったりするかもしれませんが、プロジェクトが盛り上がってくれば、説明もしやすくなるはずですし、これから1年かけてじっくりやっていきたいと思っています。

-プロジェクトのお手本作品として、様々な方に寄稿いただいていますが、この方々にお願いしたのはどういった理由からですか?

まず、奈良県にゆかりのある人にお願いしたいと思っていまして、そのうえで県内在住の方とか、外から見た奈良県について語ってくれる方とか、さまざまな視点から奈良について書いていただきたいと考えていました。

藤沢久美さんは奈良のご出身で現在は拠点を東京に移されているので、外部から見たふるさと、という視点で書いていただけそうという点と、Jリーグの理事をされていることもきっかけでした。

齋藤精一さんは、奥様が奈良のご出身ということと、昨年、「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」という自然に包まれながらアート作品を鑑賞するイベントを奈良で実施されていたこともあり、県外の人から見た奈良の魅力を教えていただきたいと思い、お願いしました。

鳥羽さんはもともと、奈良クラブのスポンサー企業であったことと、ユニフォーム発表に合わせて実施した新聞広告にも協賛していただいたご縁があり、奈良にお店を出される予定なのもあって依頼しました。県外から奈良に移って知った魅力を知るという観点から奈良クラブの選手である都並選手に書いてもらいました。

他にも調整中の方や、今回タイミングが合わなかった人はいらっしゃるのですが、県内で育って今も県内で活躍している方にも今後参加いただきたいですね。もちろん、お手本になる素敵な記事を書いていただける方、というポイントはとても重視していました。

- 現在集まっている投稿作品についてはいかがですか?

奈良クラブについて書くよりも、奈良という地域の魅力についてフォーカスしたものを書いてくれると嬉しいなと思っていたのですが、そうそう、こういうのを書いて欲しかった!と思うような、奈良愛にあふれる投稿が寄せられています。これから、奈良クラブのファンだけではなくまだ奈良クラブと関わりのない方も違ったきっかけで書いてくれるように、広げていければいいなと思っています。

自分たちで全て書くのではなく、整理した情報を届ける

- このプロジェクトを始めるにあたり、奈良クラブさんはnote proの運用をスタートしています。スポーツチームのnote活用について、お考えのポイントがあったら教えて下さい。

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奈良クラブはリソースがあるチームではないので、なんでも手をつけるのではなく、実施する内容を絞らないと中途半端になってしまうんですけど、クラブの一歩踏み込んだ情報を届けられるという点で、スポーツチームがnoteを活用する意味は大きいと思っています。なによりもシンプルに使いやすいですし。

それと、まだまだ使い切れていないのですが、マガジン機能やサークル機能もいろいろな使い方がありそうで、できることの幅が広いという点もポイントです。たとえば、チームを応援してくれてるお店にnoteアカウントを作ってもらって、奈良クラブのアカウントのマガジンでピックアップしていく。全ての記事をチーム内の人間が書くのではなく、皆さんに書いていただいてチームでそれをまとめて一つの読み物にするという、まとめサイトのようなものを作りたいですね。キュレーションするだけで整理された情報が届けられるっていうのは、大きなメリットです。そういった意味で、あまりコストをかけられないチームが始めるにはいいと思います。まだ気づいていない使い方もあるような気がしますね。

- 例えば川崎フロンターレさんはマッチデープログラムの販売に使っています。

ちょうど同じようなことをやろうとしていました!イベントのお知らせやマッチデープログラムをnoteでやりたいんです。自社サイトに比べて工数がかからないことと、ちゃんとアーカイブされるので以前のイベントも見返すことができることもメリットと感じていて。そういう機能をnoteに集約できるのは大きなポイントですね。

ほかには、「#ならをつなぐプロジェクト」のハッシュタグと、もうひとつ共通のハッシュタグを入れてもらって、サポーターさんに書いてもらったり。テーマが奈良クラブに寄りすぎてしまうと、サポーター以外の方にとって敷居が高くなってしまうので、テーマはバランスをとりながらですが、まずはいつも協力してくださるサポーターの皆さんと一緒に多くの人を巻き込むプロジェクトにしていきたいと思っています。

人や企業をつなぐ取り組みができれば

- 今回のプロジェクトのユニークな点として、今季のユニフォームの袖にハッシュタグを入れました。

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ユニフォームについて、ポイントが3つあるんです。

1つはクラブとしてコミットする姿勢が一番見える場所であるユニフォームで、広告枠を1つ減らしてでも大切にしたい考え方だということを一目でわかるようにしたかったんです。それだけ「地域を盛り上げる」ことにコミットしていく意志があるクラブであると伝えたかった。

広告枠が1つ減っているので、ビジネスの観点だけでいうと機会損失といっても差し支えないと思います。でも、地域を盛り上げることに投機して、盛り上がった地域から還元される方がクラブの存在意義として本質に近いと思います。こんなときだからこそ地域の人や企業、お店に少しでも役に立つ取り組みがしたいという考えが、2つめのポイントです。

3つめは、ユニフォームにハッシュタグを入れたので、それをきっかけに参加してくれる人を増やしたいです。ユニフォームを見た人がハッシュタグについて調べて、1人でも多く記事を書いてくれて、そしてそれが話題になってもっと多くの人に今回のプロジェクトを知ってもらうというゴールを目指しているんです。

- 2月の新体制発表会に合わせて、奈良新聞に広告も掲載しましたね。

新聞広告は、発端は、新しいユニフォームのデザインです。

デザインは博報堂ケトルさんにお願いしたのですが、地域の人に支えられていることや、そんな人たちのハブになることでクラブの価値を上げていきたいということをお話していて、そこから出てきたのが「つながる、強くなる」というコンセプトでした。

そのコンセプトをユニフォームにも反映していただいて、肩を組むと奈良のシンボルである鹿が浮き上がるデザインになりました。奈良クラブは勝ったときにサポーターさんと選手で肩を組んでラインダンスというのをやっていて、サポーターの皆さんはその瞬間を楽しみにスタジアムに足を運び、精一杯応援してくれています。社会全体が、コロナ禍でつながりの大切さを実感した中で、また肩を組んで喜びあえる日が来ることへの願いもこめていることもあり、「つながる」ことをひときわ大事にしたいという思いを、ユニフォームの発表と併せて表明しようと決めました。

「#明日つながる新聞広告」というネーミングで、奈良新聞で、2日間にわたって全面広告を掲載したのですが、その2日間の広告をつなげるとコピーがつながって意味を成し、ユニフォームの鹿が浮き上がるデザインになっているんです。つなげて初めて意味が出るという「つながる」にまつわる仕掛けができました。

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2月12日・13日の奈良新聞に掲載された「#明日つながる新聞広告」

そして今回、レストラン「sio」さんが広告の協賛をしてくれたんですが、「こんなことがしたいんです」とお話したら、もう前のめりで「めっちゃいいじゃないですか!」と快諾いただいて、さらに「僕たちは家族になる」というかなり熱いnoteも書いてくれました。sioさんも奈良新聞さんにもいろいろ協力いただいて、そういうつながりから実現できた、良い企画だったんじゃないかなと思っています。

それと、広告には、noteのロゴと一緒にプロジェクトのハッシュタグと特設サイトのQRコードも載せて、デジタルだけだと知ってもらえない人に向けて動線を作ることは意識しました。プロジェクトへのアクセス数が増えても、そこでいきなり自分もnoteを書こうという動機にはなかなかつながらない部分もあると思うのですが、一度プロジェクトを見た人が、別のところでまた目にすることで、どこかのタイミングで、書いてみようかなと思ってもらえるような、そんな継続への取り組みの種まきにはなったんじゃないかなと思っています。こういった取り組みをどんどん継続的にやっていってタッチポイントを1人でも増やして、より多くの人とつながっていければいいなと思っています。

実際に”ならをつなぐ”事例を生み出していきたい

noteを起点にはじめたプロジェクトですが、#ならをつなぐプロジェクトを合言葉に人や企業をつなぐ取り組みができればと思っています。先日、奈良の素材を使った飴を作っている「ならBonbon」さんと、老舗の奈良漬店の「森奈良漬店」さんをつなぎ、奈良漬を使った「みるく飴」の開発、販売をしたのですが、そういった事例もどんどん増やしていきたいと思っています。

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奈良クラブの大里哲平さん

奈良クラブのプロジェクトに込められた、地元と「つながる」ことの思い。
これからもさまざまな挑戦をしていくのが楽しみです。

大里さん、ありがとうございました。