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「noteを書く事で自分を見つめ直す」アイスホッケー日本代表・三浦優希選手が発信を続ける意味

2018年にnoteを始めて、投稿してきた記事は140本。アイスホッケーの日本代表選手である三浦優希選手は発信に力を入れているアスリートの一人です。昨シーズン、日本人選手としては初めてNCAAトーナメントに出場する快挙を成し遂げ、現在はNHL入りを目標に活動を続けています。

三浦選手が発信する際に意識していることとは、そしてnoteを書き続ける発信とは別の意味、アスリート引退後の意外な夢についてお話を聞きました。

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物心ついたと時には家とアイスリンクを往復

-アイスホッケーは、他のスポーツに比べると触れる機会がそう多くはないように思いますが、三浦さんがアイスホッケーをはじめた経緯を教えていただけますか?

父親がホッケー選手だったので(孝之さん・1998年の長野五輪に出場)、2〜3歳くらいから本当に気づいたら始めていたっていう感じでした。
出身は東京の東大和市なんですが、近くにアイスリンクもあったので、それもよかったと思いますね。物心ついたときには、毎日家とリンクを往復していました。

小中学校では地元のクラブ(東大和ジュニアアイスホッケークラブ)でプレーをして、そこから早稲田実業高校に進学してアイスホッケー部に所属していました。

-アイスホッケー部がある高校はあまり多くないですよね。東京だとかなり少ない?

少ないと思います。ほかに北海道の高校からもオファーをいただいたんですけど、あくまで東京で日本一になりたいと思って。
ジュニアチームのころから小学生選抜として他県の代表と試合していたんですけど、やはり北海道が強くて、東京代表はなかなか勝てなかったんですね。それもあって、当時東京出身の選手は、北海道の高校に進学して経験を積んで大学は東京に戻るという流れが多かったんです。でも、だからこそ自分は東京のチームでも日本一になれるということを証明したかった。
それと、当時は父が早稲田実業学校のコーチをやっていたので、父に教わりたいという思いもありましたね。

高校2年生で海外に挑戦

-そんな早実を2年生のときに自主退学してチェコに渡られましたよね。きっかけや、チェコを選ばれた理由を教えていただけますか?

父も日本代表だったので、小さいころから海外でプレーしたいという思いはあったんです。海外のアイスホッケーもよく見ていたんですが、特にチェコで見たホッケーが、自分の大好きなプレースタイルでここでホッケーがやりたいと感じました。

アメリカは、どちらかというとパックをとにかく前に運んで激しくプレーをするスタイルなのですが、ヨーロッパはパックを大切に扱うというか、サッカーだとバルセロナのような、ポゼッションして開いて綺麗に崩していくみたいなホッケーがすごく美しいなと思って、いつかここでホッケーをやりたいと思ってはいました。

早実に進学して留学制度があることを知りまして、2年生の夏休みにその制度を利用して2週間、チェコのクラブチームに行ったんです。そうしたら留学の最終日に、監督に「うちのチームに残らないか」とオファーをいただいて。いったん日本に帰ってビザの準備などをして、11月にはチェコに再び渡りました。

推薦という形で早実に入学してホッケー部に入ったので、自主退学は自分のエゴではあったんですが、早実ではチームメイトやコーチ、先生や父兄の方々まで、皆さんこころよく送り出してくれました。退学後は日本の通信制の高校に転校して、チェコで勉強を続けながらその高校を卒業したのですが、この方法も早実の先生が紹介してくれたんです。皆さんには今でも感謝の気持でいっぱいです。

-チェコでのプレーを終えた後はアメリカに渡られて、U-20トップリーグで1年間プレーをし、そこでの成績が認められて大学に進学されましたね。

はい、U-20、ジュニアリーグともいうのですが16歳から20歳ぐらいの年齢の選手が集まるリーグなんですけど、大学に入るための準備期間みたいなもので、そこでプレーをしている選手は大学からスカウトされてNCAA(アメリカの大学スポーツリーグ)に進むという流れが多いんです。僕もそこで大学からオファーをいただくことができたので、翌年に進学しました。

-先ほどもヨーロッパのスタイルが好きだとお話されていましたが、ヨーロッパに残ってプレーするっていう選択はされなかったんですか?

はい、チェコを離れてアメリカに行くタイミングで、クラブチームからもプロ契約オファーを出していただいて、当時もそれが自分にとって一番の目標だったのでとても嬉しかったんですけど、一方でNHL(アメリカのプロアイスホッケーリーグ)でプレーしたいという想いはずっと抱き続けていて。

それに、シニアチームの練習に参加させてもらった際などにさまざまな選手と話して、トップクラスの選手のほとんどは10代のときに北米プレー経験があるということを知りました。やっぱりそういう選手たちは球際の強さとかプレーのレベルも上だったんですね。だから、自分がこの先どこでプレーするにしても、北米でプレーした経験は自分を助けてくれるのではないかと思って北米行きを決めました。

アメリカでは4年間プレーをさせてもらえて、最後の年はカンファレンス優勝して全国大会にも進むことができて、とても貴重な経験をさせてもらうことができました。

-ヨーロッパとアメリカの生活の違いというか、アメリカで苦労した部分ってありますか?

ホッケーで言えば、やはりチェコにいるころよりも要求されるプレーも周りのレベルも高くなりましたし、北米の激しいプレースタイルに適応することがなかなかできなくて、試合にもあまり出られなかったり、出場しても結果が残せないっていうこともあって、そこは苦労しましたね。

もちろん最初は英語もあまりできる訳ではなかったし、大学の勉強もけっこう大変だったんですけど、そこは時間が経つごとに要領もわかってきたり慣れてきたりして、生活しながらひとつひとつ乗り越えていった感じですかね。

-そうか、大学に通われながらプレーされていたんですよね。大学では何の勉強を?

「キネシオロジー(運動生理学)」です。身体の構造をはじめとして、筋肉や骨などムーブメントも学びました。あとは僕はその中でもスポーツ&フィットネスマネジメントを専攻していたので、スポーツビジネスや心理学を含めスポーツに関わる内容を幅広く学べて、そこはとても楽しかったです。

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三浦選手がnoteを始めたきっかけは?

-三浦選手のnoteアカウント開設は2018年の9月。noteを始めたきっかけを教えてください。

大学1年生か2年生のときですね、自分の言葉で発信を始めたいと思ったのがきっかけです。

それこそnoteにも書いたことがあるんですけど、海外に出てから、ホッケーを続けられることの特別さ、ありがたみを日ごとに感じるようになって。僕は自分の夢に向かってチャレンジができていますが、海外に出たいと思っても実現できない人がいる。ましてアイスホッケーは国内では比較的マイナーなスポーツですから、そもそも練習がなかなかできないとかチームメイトが見つからない、いいコーチに出会えないといった理由で上達できない人がたくさんいるんです。

自分がいかに恵まれた環境にいるかを感じるようになったときに、ならば自分が今受けている恩恵を自分の中に閉じ込めておくのではなくて、多くの人に伝えていくべきなんじゃないかと思ったんです。

海外にいることが多い僕にとってはインターネットでの発信がベストだと思ったんですが、どのプラットフォームを使おうか考えていたときに、五勝出拳一さんに「アスリートとして発信するならnoteがいいと思いますよ」とお勧めいただきました。

もともと僕もnoteの存在を知っていたし記事を読んだりもしていたんですけど、noteのクリーンさというか居心地の良さみたいなところが自分にもフィットするし、読んでくれる人もあたたかい印象を受けそうだなと思ったのが、noteを選んだ理由です。

-三浦選手の投稿数は140本を超えていますが、noteを始めた当時と現在で、何か変わった点はありますか?

最初の頃は自分がどういう人間なのかとか、どういう経験をしてきたのかとか、経験をメインに書いていましたね。でも、ここがnoteはすごいなって思ったところなんですけど、読んでくれる人の幅がとても広くて、さまざまな人に読んでもらっているということがわかってくるうちに、たとえばユーススポーツの育成問題についてとか、自分が大学で学んだことや課題に感じていることを書くことも増えてきました。

基本的に自分の正直な思いを書くということはずっと一貫しているんですけど、トピックに広がりが出たというか、ホッケーから学んだことや時には全く関係ないところからヒントを得たことを書くようにもなってきました。そういう意味では僕自身がnoteを通して成長させてもらっていると思っていて、いつもnoteには本当に感謝しています。

-ありがとうございます。文章を書くのは昔から好きでしたか?

はい、それも続けられた理由としては大きいと思っています。実は海外に出始めたときから、お世話になった方々に近況報告メールみたいなものを1ヶ月に1本を送っていたんです。最初は学校の先生や親戚、友達みたいな身近な数十人から始まったんですけど、出会った方や応援してくれる方にメールアドレスを聞いて送り続けているうちに、最後のほうには300人くらいまで増えて。

毎月1回しっかりとした文章を書く経験をしていたので、書くことが苦じゃないというか、むしろ書くことのメリットを強く感じるようになりました。文字にすることで思考の整理にもなるし、自分が何を考えているのかが改めてわかることもあるので、書くことへの抵抗は全くなかったんです。あとは読書、本とか活字に触れることもとても好きだったというのもありますね。

-noteを始める前から定期的なアウトプットをされていたんですね。noteで書く内容はどうやって決めているんですか?

自分の感情が強く動いたとき、と決めています。喜びでも、悲しみでも、怒りや疑問でも、自分の感情がパンって動いたときは、他の人に伝えた方がいいことだと思っていて。なので日記のようなものよりは、見聞きしたことについて問題意識や疑問を感じたときに、これについて書こう、と思うことが多いです。
他にも、僕はわりと失敗談を隠さず出しているほうなのですが、うまくいかなかったことに対してそれを隠さず全て伝えようということは心がけています。

noteを書く事で自分を見つめ直す

-文章で人に伝えるにあたり、気をつけてることはありますか?

まず一番に、嘘をつかないことです。書き方や言い方は気をつけますけれど、批判が来る可能性も受け止めつつも、基本的には自分が思ったことを正直に表現することを心がけています。

あとは読む側の目線に立つことでしょうか。どうしたら読んでくれる人がもっとこの文章を楽しんでくれるかなというのは素人なりにけっこう考えていて、一つの文でも言い方や表現方法を変えたりといった工夫をしています。

-読者目線に立つってすごい重要ですよね。三浦選手の文章は第三者的な視点が入ってることにいつも驚きます。

ありがとうございます。たしかに「客観視をすること」は自分の強みかなと思っています。わりと、第三者がこれを聞いたり読んだらどう思うかを考えることが多かったり、あとは単純に自分を第三者目線から見るようなこともできているかもしれません。

むしろ僕はnoteを書くことで「自分は今こう思っていたのか」を知ることが多いですね。たとえば試合で結果が出なかったときに、考えたことをバーッてnoteに書き出すんです。そうすると今こういうことに悩んでいたのか、じゃあここをクリアすれば解決できるかもしれない、と気づくことがある。で、そこもさらにnoteに書く。すると最終的に書き終わったときにはすごくすっきりして、自分が自分に励まされた気持ちになっていたりして。そんな客観的な視点からの再確認をnoteでできていて、そのあたりが読者が共感してくれる文章につながっているのかなと思います。

-noteを書く事で自分を見つめ直すことになっていると。

はい。あとやはり経験って事実であり具体例なので、他の人にとって完全に参考になることは少ないと思うんです。なのである程度抽象化し、幅を広くして伝えるようにしています。
たとえば試合でシュートミスをする経験って、ビジネスマンの人はそんなに多くないかもしれない。けれど、やろうとしたことが思うとおりにいかなかったといったところまで抽象度を上げて、より幅広く読んでもらえるようにする工夫はしていますね。アスリート向けに、プレーミスしたときの自分はこんなことを考えているといった内容も書きますが、専門性と共感性のバランスは心がけています。

-試合中のミスをビジネスマンの失敗に通じるところまで抽象化するというのは、なかなか難しいと思うんですけど、そういった技術はどうやって身につけたんですか?

やはり最大の転機は海外に17歳で出たことで、居心地のいい環境を出て海外に行って苦労したことで、違う環境で育った人の気持ちが想像できるようになった部分はあります。
あと、今考えても大きい経験だったと思うのが、2014年、noteを始めた年ですが慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科のSports X Leaders Programに参加させていただいたことですかね。ONE TAP SPORTSというアスリート向けのコンディショニングツールを提供されている株式会社ユーフォリア代表である橋口寛さんという方が主宰されていたプログラムだったのですが、そのときに、スポーツに携わるさまざまな業界の人、アスリートやビジネスマン、経営者まで多くの人と交流ができて、アスリート以外にも、スポーツを見る人や支える人などさまざまな立場の人がいると学ぶことができました。

-20歳でその経験はすごいですね。たしかに競技者はどうしても競技者同士で接することが多くなりがちですが、いろんな人と出会って話を聞いた経験が生きているんですね。

はい、それはすごくありがたかったと思っています。ホッケーだけをやっていたら出会えなかったような人とも会えて、なかなかできない経験もできた、発信してきたことが大きな理由のひとつなので、本当に発信を続けてきてよかったなと思っています。

-発信、noteをやっててよかったことは、他にもありますか?

単純に僕のこと知ってくださる方が増えたっていうこともありますし、それと、海外にいて自分の思いを伝えるにあたって、Twitterだとどうしても身近すぎたり読者以外の人の目にも触れてしまう部分があるんですけど、noteの読者はただ目に入るのではなく意思をもって僕のページを読みに来てくれているので、noteを通して応援してくれる人が増えていく点がとても大きいですね。僕はTwitterもメインで使用してるんですけど、noteとTwitterの相性もすごくいいなって思っています。

-「noteを読んでます」と言ってくれるファンの人もいますか?

はい、特にここ2、3年で本当に増えたと思います。noteを読んで僕に連絡をくださって、実際にそれをきっかけにお会した方もいるし、もともとホッケー選手として僕のことを知っていたけどnoteを読んでもっと好きになったと言ってくれる人とか、逆にnoteから入ってきて僕がホッケー選手ってことを知って応援してくれる人も増えてきて、そういう意味では本当にいろんな人の入り口になっていると思っています。

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日本人史上二人目のNHLプレーヤーに

-今後の活動についてもうかがいたいんですが、どういうアスリートになりたいと考えてらっしゃいますか?

まだ模索中ですし明確に決まってない部分もあるのですが、今はどちらかというと「オリンピックに行くこと」「NHL選手になること」という、競技者としての目標を達成するためにより多くの時間を使いたいと考えています。

自分で発信もしていますし、アスリートが競技外でも価値を発揮する必要性は感じているんですが、今は改めて競技に集中することが大切だと思っていて。現在24歳なのですが、競技者として残された時間は決して長くないので、今はできる限り競技に集中したい。とにかくトレーニングを積んで、次の舞台で結果を残すっていうのが、一番大事なのかなっていう気はしてます。

2022年に北京五輪がありますが、日本代表は予選で敗退しているので出場できません。なので現在は次の2026年ミラノ五輪に照準を向けています。そこに向けて、今年からプロ選手のキャリアが始まるので、北米の、それが難しければヨーロッパの高いレベルでプレーを続けて、日本代表に還元したいと考えています。やっぱりNHLに行きたいですし、そのためには北米の傘下チームに入って結果を出すことが大事なので、それに向けて今は準備しています。

-NBAやMLBには日本人選手がいるけど、NHLにはいませんよね。実現すれば史上二人目です。

そうですね、アイスホッケーでも海外でプレーをすることがスタンダードになればいいなと思っています。若手でも少しずつ海外に出る選手が出てきたんですけど、そういった選手たちが日本に戻って、日本代表で海外組がチームの8割を占めるくらいになったらいいなと。世界と戦って勝っていくためには常に世界レベルでプレーをする選手が必要ですし、自分がまずはその形を作りたいなという思いはありますね。

-そうなればオリンピックも見えてきますね。

はい、父親が参加した1998年長野五輪以来、日本代表のアイスホッケーチームはオリンピックに出てないので、オリンピック出場は何としてでも実現したいと思っています。

-2026年だと三浦選手は29〜30歳ぐらいですよね。アイスホッケー選手の年齢層ってどれぐらいなんですか?

基本はやっぱり35歳ぐらいまでですかね。もちろん中には40代で現役の選手もいますが、基本的に30代で引退する選手がほとんどだと思います。僕はできるかぎり現役でいたいなと思ってて、それこそ40、50歳になってもホッケーをやっていたいんですけど、もちろんホッケーは引退してからのキャリアもすごく重要な意味を持っているし、そこも考えてはいます。

引退後の夢は小説家?!

-アスリート引退後の方向性はどのように考えてらっしゃるんですか?

アイスホッケーが上達したい人の力になりたいという思いがあるので、大学生や高校生の支援や指導はこれからも続けたいし、もっともっとその規模を広げていきたいです。
他にはそれまで自分が積み重ねてきた経験を体系化するようなことができたらいいなと。そしてそれをもとに海外に行きたい人や何かにチャレンジしたいと思ってる人の後押しができればいいなと考えています。

あ、あともう一つ、文章を書く仕事をしてみたいですね。

-えっ?文章ですか?

はい、noteでの発信をきっかけにして、文章を書いてさまざまな人に提供することを仕事としてやってみたいなと思ったんです。僕自身がすごく文章に支えられてきて、だからこそ文章で恩返ししたいなと思っているので、どういった形になるかわからないんですけど……

-三浦さんの文章力ならできると思いますよ。どんな内容をイメージしてらっしゃいますか?

やっぱり一番に思いつくのは、経験を体系化することやチャンレンジすることについて、自分なりに伝えていきたいですね。他の人について書くよりは自分の話を形にする方が好きだし、人の感情を揺さぶることができるのは自分自身から生まれる言葉のような気がするので。

あと、自分の文章を突き詰めていきたいという意味で、小説も書いてみたいなと思っています。僕自身が小説を読むのがとても好きで、推理小説は1日で1冊読んでしまうくらいなので、いつか自分でも書いてみたいなと。・・・あまりこの話を外でしたことはないんですけどね。

-そうなんですね!それは面白そうだなあ。こっそりnoteで書いてみてください。隠しアカウントでもいいと思いますよ。

名前伏せたりして(笑)。ちょっとそれはやってみたいな。

-楽しみにしています!

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名称未設定のデザイン

(写真提供:三浦優希さん)