「AI原始時代」に活用しないともったいない。Notionとnoteが考えるAIがビジネスに与える影響
ChatGPTをはじめとしたチャットAIが大きな話題となっています。このような技術が他サービスと組み合わさると、どういった進化が起きるのでしょうか。また企業やビジネスパーソンは、どう活用していけばよいのでしょうか。
今回は「AIとビジネスの新時代」をテーマに、Notion Labs Japan合同会社 ゼネラルマネージャーの西勝清さんと、note株式会社 執行役員CDOの宇野雄さんに「AIがビジネスに与える影響」についてお話しいただきました。
今回のAI熱狂を生んだ「技術の進化」と「インターフェース」
――これまでに何度かAIのブームはあったと思いますが、今回のブームのポイントをどこにあると見ていますか。
西さん(以下、西) 2つあると考えていて、1つは技術的な部分で大規模言語モデル(LLM)のクオリティーが上がってきたこと。もう1つは、その技術を「チャット」というインターフェースに落とし込んだこと。この2つにより、これだけ多くの人が使って盛り上がるブームになったのではないでしょうか。
宇野さん(以下、宇野) 私も同じ意見で、ChatGPTが史上最速でアクティブユーザー数1億人を超えたというニュースがありましたが、「初めて1億人が触る気になれるAIが出てきた」とも言えます。ありとあらゆる分野の人が使えるものであり、それを実現する上でチャットというインターフェースは大きかったのではないかな、と。
――そんななか、NotionとnoteでもAI機能の搭載が進んでいます。まずはNotionから教えていただけますでしょうか。
西 Notionでは、AIの力を活用してユーザーの作業スピードや品質を向上する「Notion AI」を実装しています。たとえば議事録の内容をAIが読み込み、要約やアクションアイテムを抽出してもらう、提出する資料の内容をAIに修正してもらうといったことが可能です。
Notion AIは、2022年11月にプライベートアルファ版をリリースし、100万人ほどの方に使っていただきました。このとき、ユーザーの利用実態から2つの気づきがあり、それを2023年2月リリースの正式版に反映しました。
1つは、Notion AIは著者ではなく編集者の役割になるということ。ユーザーの使い方を見ると、全部AIにやってもらうより、自分のやることをサポートしてくれる専任アシスタント的なAIを期待している人が多いとわかったからです。もう1つは、インターフェースをチャット形式にしたこと。これもユーザーが望んでいるとわかり、途中から変更しました。
――プライベートアルファ版が出たときのスピード感はすごかったですよね。まだChatGPTが話題になる前でしたから。一方、noteのAI機能についても教えてください。
宇野 noteでも先日、「note AIアシスタント(β)」を実装しました。
記事のタイトルやアイデア、書き出しをAIが提案するほか、SNS投稿文を作成するといった機能もあります。今年2月に第一弾で一部ユーザーに公開し、4月12日から全クリエイターが利用可能に。個人の方は25個の基本機能を、法人向けのnote proでは33個の機能を使えます。
私たちがずっと考えてきたのは「noteらしいAIの使い方ってなんだろう」ということです。どの機能を入れるかというブレストは相当時間をかけてきましたね。
――ChatGPTとの差別化や違いという意味では、どんなポイントが挙げられますか。
宇野 一番の違いは、noteに最適化されたAIということです。ChatGPTはプロンプト(指示)を正確に出すことがポイントになりますが、noteはあくまでクリエイターの創作を支えるプラットフォームで、クリエイターにプロンプトのスキルを上げることを頑張ってほしいわけではありません。
プロンプトに悩まなくていいように、noteでの創作だけを考えてAIを使う。すると、裏側で専用のプロンプトが自動で走り、クリエイターを助けるスタンスになっています。
西 Notionも、汎用型のChatGPTとは違う「NotionらしいAIの使い方」を持っています。
まずはNotionの中ですぐに使えること。外部のツールに出して……という手間はありません。また、Notion AIがNotionの当該ページに書いていることを理解することを通して、質問してくるユーザーがどんな人かをAIが理解していくのも特徴で、将来的にはそのワークスペース全体を理解することを想定しています。さらに、今後プロジェクト管理をサポートする機能も出すので、この点もChatGPTとは異なってきますね。
AIが仕事を代替するのではなく、人間のバディとして伴走する
――ここから伺いたいのは「AIはビジネスや仕事にどういう影響を与えるのか?」ということです。お2人はどのように見ていますか。
西 大きく3つの影響があると思っています。
1番のインパクトは「生産性向上」です。いろいろなITサービスで生産性向上という言葉を聞いてきましたが、これだけ体感できたことはほとんどありませんでした。文章の要約やアクションアイテムの抽出はクオリティーが高く、シンプルに作業を短縮できます。
2つ目は「品質向上」で、たとえば日本語や英語で自分が書いた文章をAIがよりブラッシュアップすることができます。伝えたいことがさらに伝わる文章になるため、結果的に全体の品質も向上するでしょう。
3つ目は「アイデア創出」。アイデアを出し合って叩き台を作るところを瞬時にAIが行うので、よりクリエイティブな部分に自分の付加価値を乗せることができます。
宇野 私たちも同じことが言えると思います。noteとして「AIが仕事に与える影響や変化」を考えたとき、私たちの想いを表現したくて「アシスタント」という名前を機能名に入れました。
noteは人が創作して世の中に発信することを前提としたメディアプラットフォームです。人の創作をAIが代替したら、プラットフォームの在り方も変わってしまう。AIはあくまで人を助ける役割であり、伴走するバディや編集者というスタンスです。
ですから、「note AIアシスタント(β)」は壁打ち相手にはなるけれど、基本的に文章生成はしません。あくまでクリエイターの持つ種を大事にしたいと思いました。note proは法人向けなので、FAQなど企業活動に必要な文章の生成機能を一部設けていますが、個人が使うものはあくまでクリエイターのお手伝いをする機能となっています。
――世の中にはAIへのネガティブな意見もあります。仕事を奪われる、あるいは情報漏洩やAIが回答を間違えるといったリスクが代表的ですが、お2人はどう考えていますか。
西 AIが今後どう進化するか分からない部分も多いのですが、私はある程度楽観的に捉えています。なぜなら、いまは人間が主体でAIが編集を行う形になっており、この状況はしばらく継続するのかなと。もちろん影響を受ける仕事もあると思いますが、同時に新しい仕事も周辺に出てくるイメージを持っていますね。
宇野 僕も同じ考えです。たとえば産業革命でミシンが出たとき、仕事が無くなるより、むしろ機械生産によって縫製業が広がった。今回もAIによって市場がまず大きくなると思います。AIを使って何かを成す仕事はすでに増えていますから。確かに一部の職種の意味合いが変わるかもしれないし、無くなる職種もあるかもしれませんが、職自体は全体で増えると思います。
また、機械化が進んでも人が作ることに意味を見出していれば、そこに仕事は残るし、むしろそれを価値にする人も出てくるはず。手ごねハンバーグなんかも、わかりやすい例ですよね。機械で出来るけど、人が作ることに価値がありますから。
――ちなみに、AIにネガティブな印象を持つ方に対して、それぞれのサービスでおすすめするAI機能はどんなものですか。
西 Notion AIの場合は「要約機能」ですね。時間の関係上、資料を全部読めないけど内容を知りたいときには有効だと思います。私も最初にNotion AIを使ったとき、要約機能の質の高さに驚きました。あとは「アクションアイテムの抽出」ですね。たとえば議事録において、次に取り組むべきタスクが明確になっていない場合に使用します。この抽出機能によって、次の行動を簡潔にまとめてくれるので、非常に便利です。
宇野 note AIアシスタント(β)でおすすめしたいのは「書き出しを提案」です。指定したテーマについてAIが書き出し案を出すものですが、noteで何か書きたいと思ったとき、テーマは決まってもなかなか書き出せない方が多いので、それを後押ししたいですね。
AIは、有能な専任の「部下」と捉えてみる
――AIの回答が間違っていたり、無駄なアクションアイテムを提示したり、ということはありませんか。
西 AIのアウトプットが100%納得いくものかというと、現状はまだまだですね。ただ、それでも自分でやるよりはずっと早いと思います。
――つまりAIはまだ完璧じゃないけど、まったく使えないものでもないと。たとえるなら「部下」のような存在なのかなと。AIが間違えるとすぐさま信頼できないという悲観論が出るけど、部下として考えたら、当然ミスをすることはありますよね。それをふまえても、いまのAIレベルの仕事をしてくれる部下がいるならありがたいと。
西 そのイメージが正しいと思いますし、すでにAIがある程度納得できる質のアウトプットを出せているからこそ、今回のブームが来ていると感じますね。
――最後に、AIに対して企業やビジネスパーソンはまず何に取り組むべきでしょうか。
宇野 とにかく触れてみることではないでしょうか。怖い部分もたくさんあると思いますし、特に企業はセキュリティ面でのリスクもある。大手を振って使いましょうとは言えません。いまはまだ火を手に入れた原始時代に近くて、火傷するかもしれないけど、便利でもあるという状況です。
とはいえ、誰でも触れる状態なのだから、この辺なら大丈夫かなというところから触ってみるのがよいかなと。趣味の範囲でも構いません。そのうちに世の中も変わるし技術も進化していくはずです。
――我々はAI原始人であり、だからこそ「火傷するから全員禁止」はもったいないのかもしれませんね(笑)。西さんはどうですか。
西 私も使い倒すことだと思っています。Notion共同創業者兼CEOのアイバン・ザオは、AIやLLMは電気のように供給されると言っていて、だとするとAIツールは電化製品のような存在になります。
特に日本人は電化製品を作るのがうまくて、同様に「AIをどう使いこなすか」という点にも長けている。実際にNotion AIをはじめ、世界のデータを見ると、日本のAIユーザーの動きや使い方は面白いんですよね。その点で日本に期待できるかなと。
――今後、日本人らしいAIの改善や使い方が生まれていくと面白いかもしれませんね。お2人の話を伺い、いまはAIを恐れすぎずに使い方を学んでいくフェーズだと感じました。今日はありがとうございました!
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登壇者プロフィール
西 勝清さん
Notion Labs Japan 合同会社 ゼネラルマネージャー
2020年9月より日本1号社員としてNotionに入社。現在は日本代表として、営業・マーケティング活動を始めビジネスオペレーション全般を担当。Wiki、ノート、ドキュメント管理、プロジェクトマネジメント全てをオールインワンで行え、かつ柔軟性の高いツールで企業がより高い生産性を実現することをサポートしている。
宇野 雄さん
note株式会社 執行役員CDO
制作会社やソーシャルゲーム会社勤務の後、ヤフー株式会社へ入社。Yahoo!ニュースやYahoo!検索などのデザイン部長を歴任し、その後クックパッド株式会社でVP of Design/デザイン戦略本部長を務める。2022年2月よりnote株式会社 CDOに就任。 東京都デジタルサービスフェローの他、数社でデザイン顧問/フェローも請け負う。 著書に『はじめてのUIデザイン(PEAKS)』『フラットデザインで考える 新しいUIデザインのセオリー(技術評論社)』など。
モデレーター
徳力 基彦
noteプロデューサー/ブロガー
interview by 徳力基彦 text by 有井太郎