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アプリマーケティング研究所・鶴谷さんに聞く、直接課金で運営する専門メディアのつくり方
スマホアプリやネットサービスの運用ノウハウを掲載する「アプリマーケティング研究所」は、ニッチなテーマながら月間10万人近くの読者をあつめる人気の専門メディア。代表の鶴谷智洋さんが基本1人で取材から記事公開まで担当しています。
特徴的なのは「バズることが目的達成につながるわけではない」と考え、コアファンを重視する戦略をとっていること。当初、広告モデルではじめたサイトはいま、熱心な読者からの直接課金によって支えられているそうです。
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アプリマーケティング研究所が直接課金モデルを選んだ背景や課金してもらうコンテンツの考え方ついて、代表の鶴谷さんに聞きました。
最初は見よう見まねでつくったサイト
ーーアプリマーケティング研究所はどんな経緯で生まれたメディアなのでしょうか。
鶴屋智洋さん(以下、鶴谷):もともと会社員として3年ほど働いていて、やることを詳しく決めずに独立した後に、なんとなくおもしろそうという感覚で、2013年からはじめたのが「アプリマーケティング研究所」というサイトでした。
最初はWordPressに3000円で買ったテンプレートを入れて、お金をケチって安い「.net」ドメインを取ったほどで、ここまで長く続けることを想定していませんでした。
ライターや編集の経験があったわけでもなく、業界に詳しかったわけでもなく、マーケティングが好きでおもしろいから、勢いのあったスマホのアプリをテーマにした、という感じです。素人が見よう見まねでつくった「メディアっぽいもの」からはじまりましたね。
ーー独自のWebサイトでスタートしましたが、現在はnoteで運営されています。どうして切り替えたのですか。
鶴谷:いくつかの課題が見えてきたので、noteを導入しました。たとえばレンタルサーバーを借りていると、記事が極度にバズったときなどにサーバーが止まるケースがあります。そうすると記事の公開日などに予定を入れづらいんです。手動対応が必要になりますから。
あるいは瞬間的にSNSで記事が話題になったときのために、サーバースペックを上げておく必要が出てきます。そうなると通常時はオーバースペックになってコストが嵩みやすいという不安がありました。
またセキュリティにも気を払わないといけません。プラグインのバージョンが古くなると脆弱性が高くなって、サイトに変なコードを仕込まれたりする恐れもあります。
自分でサーバーを借りるのは、じつは小規模運営のメディアにとってはむずかしいことも多いです。そういう点もあって2019年頃にnoteへの完全移行を決めました。
広告収益は月10万円にも届かないが……
ーーnoteでは定期購読マガジンを運営していますね。広告での運営ではなく、直接課金を始めようと思われた理由はなんですか。
鶴谷:シンプルに広告収入のビジネスモデルだと稼ぐことができなかったからです。
最初の数年くらいは、無料で公開した記事に広告(アドネットワーク)を入れていたのですが、アプリのマーケティングという領域は、とてもニッチで興味の対象が限られる領域なので、PV数を広告収益に転換する「広告収益モデル」との相性があまりよくなかったんです。
アドネットワークでの広告収益は、これまでの10年間で一度も月10万円にも届いたことがありません。さすがに、主力のマネタイズ手段がこれではなかなか難しいですよね。
そこで思いきってnoteの定期購読を試してみたところ、スタートから4ヶ月目で広告収入の7倍以上稼げるようになりました。具体的には広告収入2万円程度に対して、定期購読収入は15万円以上でした。
PV数を伸ばして「広く浅く」マネタイズするより、ごくごく一部の関心の高い層から購読料をいただく「狭く深く」のモデルのほうが、相性が良かったのだと思います。
本屋の雑誌コーナーの棚にはないような、ニッチなジャンルのメディアをつくるなら、こうしたサブスクモデルのほうが成立する可能性は高いのかもしれません。
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ーーnoteの定期購読マガジンを取り入れたことで、運営スタイルは変わりましたか。
鶴谷:はい。1つはPV数にとらわれずに、コアな読者に向けて記事をつくりやすくなりました。
PV数でマネタイズするモデルだと「PV数」の優先度が嫌でも高まります。なぜならそうしないと生き残れないからですが、すると必然的に「バズる記事をどうつくるか」「もっと感情を刺激するにはどうすればいいか」という方向に意識が向くことになります。
PVモデルをレストランで例えるなら、流行ってるチーズをつかった映え特化の料理ばかり無意識に出してしまう感じで、マスにウケる企画から逆算して考えるほうに力学が働きやすい。そのためコンテンツに触れる人は増えるものの、一回限りになることが多いという構造を持っていると感じます。
一方で、定期購読モデルは「濃く支持してくれる人」をどう集めるかが重要です。これは無理に多くの人に支持されなくても良いということでもあり、コアな読者の視点からコンテンツをつくりやすくなるということでもあります。
レストランで例えるなら、フランスでしか売っていない珍しいチーズなどを出しても、そこにお客さんがお金を払ってくれる感じです。雑誌やアルバムのようにコンテンツがパッケージングされるので、連続したコンテンツを見てもらいやすい特性もあります。
2つ目は量より質を追求しやすくなることです。
定期購読マガジンのサブスクモデルでは一定の読者が集まると、1つの記事にかけられるコストを増やすことができます。時間をかけてリサーチをしたり、図解やイラストにお金をかけたコンテンツをつくりやすくなりました。
ただ、良いものを出せなければ定期購読者は減少しますし、必然的に1ヶ月単位での満足度やコンテンツ量を意識することになるので、毎月締め切りを抱えるような大変さもあるなと思います。
直接課金のメディアに大事なのは「コア起点」の企画
ーーコアな読者に向けて記事を企画するにあたって、気をつけていることはありますか。
鶴谷:マスから逆算するのを、思いきってやめること。多くの人に薄く広く認知されるよりも、狭く深くを意識するイメージです。
コアから起点になってマスに広がっていく、というのは良いのですが、マスから逆算するとコアな人が満足できなくなってしまいます。課金してくれるのは「コアな人」です。
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今度はパン屋で例えてみると、ネットでバズりそうな映えるパンをつくるのが、マスから逆算のイメージです。SNSで話題になって一見さんが集まり行列ができるかもしれませんが、コアな常連さんは満足できなくなり離れてしまうかもしれません。
一方で、地味でうまいカツサンドをこだわってつくるのがコア起点のイメージです。これは地元の人や生活動線にパン屋がある人が、ずっと定期的に買いに来てくれます。この状態から評判が評判をじわじわ呼んで、遠方から来てくれるファンが増えていく、というコア→マスの流れが理想です。
ーーただ、マスにウケたい欲求を抑えて、コアファンにフォーカスするのは勇気がいりますよね。
鶴谷:そうだと思います。この2つには、コアなファンの満足度は無視して広めることを優先するのか、コアなファンの満足度を下げないままに広めるのか、という違いがありますので、ある程度は選ばないといけません。
多くの人がマスは無意識に選べるのに、コアに絞るのは勇気がいるんです。
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僕の場合、1つ印象に残っている事例があります。以前に「ホストの恋愛ゲームの記事」を書いたところ、ツイッターで2700リツイートほど拡散されたんですね。これは一見すると成功しているように見えます。
ただ、この記事を最後まで読むには500円くらいの課金が必要なのですが、そこまで多くリツイートされても1件くらいしか課金につながりませんでした。話題になる=売上が伸びる、というわけではないということ、バズるの延長に必ずしも「売れる」がないことがわかります。
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少し話はずれますが、コンテンツを「消費型と投資型」というイメージで分類したときに、投資型のほうが買ってもらいやすいのかなと考えています。
例えば、「寿司屋さんの大将日誌」は消費型、「寿司屋が解説するスシの握り方」は投資型というイメージです。ノウハウや分析や知見などが該当します。
アプリマーケティング研究所の場合、アプリの立ち上げストーリーは「消費型」なので無料公開に。成功した施策事例などは「投資型」なので一部は会員限定にしています。
他には、決算発表の資料から要点をまとめて解説するのも投資型だと思います。これは「時間や手間」を買うことにも近いからです。
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投資型のほうが買ってもらいやすい理由は、コンテンツに対してのコスパを長期で計算するから、心の中のハードルが下がりやすいのかもしれません。日記は読んだら基本それっきりですが、プロの寿司の握り方は一生つかえるよね、みたいな感じです。
僕もSNSで、好きなイラストレーターさんが「絵で食えるまでにやったこと」みたいな内容を会員限定のプラットフォームに投稿していると読んだりするのですが、これも投資型のコンテンツで、何かを学びたいと思うから課金ハードルが下がるからかなと思います。
ただ、これは情報メディアの場合の話です。「人」に関心のベクトルが向いている場合は、ちょっと異なります。
たとえば、好きな作家さんのボツ原稿を読みたい、好きなアイドルの日常生活のなんでもない写真を見たいといった欲求は、当然ありますよね。
今後は特定領域における小規模メディアや個人の発信が増えていく
ーーここ数年、個人や小規模で運営するメディアが成り立つ事例がみられます。
鶴谷:そうですね。いまはスマホやツールの発達によって、編集・加工・撮影など多くの工程が、ある程度の水準までであれば1人で完結できるようになっています。
たとえば、AIツールに書き起こしてもらった一般ユーザーのインタビューをChatGPTに投げて要約してもらえば、簡単にリサーチ結果をまとめることもできます。
アプリマーケティング研究所も、図解やイラストの製作は外部の方に手伝ってもらっています。iPadにラフイメージを描いてチャットで送り、イラストレーターの方にリモートで描いてもらうなどして、足りないスキルを補完しています。
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取材に1人で行って、スマホで撮影すると「スマホで撮ってたんですね!」と言われたり、記事を自分でつくってますというと「そうだったんですか!?」と驚かれることがあります。
でもこれもよくよく考えると、スマホに高画質のカメラが搭載されたり、加工アプリで簡単に編集できたり、AIが文字起こししてくれるツールが出たり、あるいはnoteをつかって誰でも気軽に決済の仕組みを取り入れられるようになったり、そういうツールの進化の恩恵があって1人でもメディアの運営ができるようになりました。
それと同時に読者の興味も細分化して、専門性を持った個人を熱心にフォローする人が増えている印象です。最近ですと、IT全般の話題を扱うメディアよりも、AIの専門家の記事を読みたいといったニーズはあるんじゃないでしょうか。
ありきたりですが今後は、特定の領域における小さな専門誌のような感じの、小規模メディアや個人の発信が増えていく可能性は高いのかなと思っています。
アプリマーケティング研究所さん
note:https://markelabo.com/
Twitter:https://twitter.com/appmarkelabo
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