週刊少年マガジン編集部が語る、漫画原作のつくり方 #週刊少年マガジン原作大賞
現在、週刊少年マガジン編集部とnoteが共同して、マンガの原作を募集するコンテストを開催しています。(応募受付は、2023年9月30日23:59まで)
関連企画として、週刊少年マガジン編集部の土岐暢さんをゲストにお招きし、コンテスト開催の目的や漫画原作を魅力的にするコツなどをうかがいました。
コンテストでは「連載部門」と「企画書部門」の2つの部門で投稿を募集します。すでに応募の準備を進めている方だけでなく、応募を迷っている方や漫画原作にはじめて挑戦する方にとっても、この記事が参考になればうれしいです。
週刊少年マガジン編集部とは?
コンテスト開催の目的
多種多様なクリエイターと出会いたい
——なぜ週刊少年マガジン編集部とnoteが、共同でコンテストを開催することになったのか、教えてください。
土岐 週刊少年マガジン編集部は「週刊少年マガジン」のほかに、「別冊少年マガジン」という月刊誌も手がけており、2015年からは「マガジンポケット」の配信・運営も開始しました。
掲載媒体の増加に伴って作品数も増え、マンガの題材や表現自体の幅も年々広がっている印象です。これは弊誌に限らず、業界全体に同様の流れがあるかと思います。
週刊少年マガジン編集部は、少年読者をワクワクさせるたくさんのマンガを世に送り出してきました。その理念は今も変わりませんが、近年では『東京卍リベンジャーズ』や『ブルーロック』など女性読者に人気な作品も多く、作品の多様化に伴い、読者層の広がりも実感しています。編集部としては既存の読者像を大事にしつつ、もっといろんな方に週マガを読んでもらいたい。そのためにも、さまざまな才能とお付き合いしていきたいと考えています。
以前からnoteさんでは、多種多様なクリエイターが活躍しているイメージがありました。これまで弊誌を選択肢として考えていなかったクリエイターのみなさんとも出会えるのではと考え、コンテストの共催を決めました。
週刊少年マガジン編集部が運営する3つのレーベル
——今回のコンテストは、「週刊少年マガジン」という媒体ではなく、週刊少年マガジン編集部として開催されていますね。
土岐 先ほども少し触れましたが、週刊少年マガジン編集部は「週刊少年マガジン」「別冊少年マガジン」「マガジンポケット」の3つの媒体を運営しています。各作家さんが特性に合わせて掲載媒体を選べるような形です。
所属の編集者は35人ほど。それぞれ担当の漫画家について、媒体をまたいで仕事をしています。僕も現在は「週刊少年マガジン」と「マガジンポケット」の作品を担当しています。
——3つの媒体のそれぞれの特徴を教えてください。
土岐 「週刊少年マガジン」は “王道” な作品が多いです。ただ、一口に “王道” と言っても、時代の変化をうまくキャッチしていく必要はあって。
たとえば「週刊少年マガジン」は伝統的にスポーツ漫画が強い雑誌です。スポーツ自体の大まかなルールはそうそう変わりませんが、スポーツ漫画の切り口には新しさが求められます。
弱小校が成り上がっていく野球漫画が圧倒的多数だった中、強豪校でのポジション争いをフィーチャーした『ダイヤのA』、「ストライカー300人によるサバイバル」という攻めた設定の『ブルーロック』など、スポーツ漫画だけをみても、読者に新しさを感じてもらうための工夫がある作品が多いと感じますね。昔ながらの “王道” にアイデアをかけ合わせ、新しい王道を描く作品を「週刊少年マガジン」では大募集しています。
「別冊少年マガジン」は、かつて『進撃の巨人』を連載していた雑誌です。ベテランの先生方と新人作家さんの熱気が混ざりあっていて、手前味噌ながら面白い雑誌ですね。若い作品だと『菌と鉄』『姫騎士は蛮族の嫁』などが人気です。
月刊誌なので、1話分のページ数がやや多いのが特徴。その分、大きな展開が起こらなければいけないし、読みごたえがなければいけない。読者が「1ヶ月先まで待てない!」と感じるような強烈なアイデアが求められます。
「マガジンポケット」は、読者にオリジナル作品の最新話を追ってもらうことをコンセプトとしたマンガアプリです。そのため、読者がつい課金したくなるストーリー性・つい追いかけたくなるようなキャラクター性が求められます。最近はヤンキー漫画の『WIND BREAKER』や、純愛ものの『薫る花は凛と咲く』が好評で、エッチなものやサスペンス、異世界系も人気が高いです。もっともジャンルが幅広いのは『マガジンポケット』かもしれません。
——人気作品をつくるうえで外せない要素は何だと思いますか?
土岐 すべてに共通するのは「エンタメ感」でしょうか。これは部員間でも共有されているかなと思います。エンタメの定義はいろいろあるのかもしれませんが、とにかく「読者の感情を強く動かせるかどうか」が大事です。
かっこいい、可愛い、切ない、怖いなど、どんな感情でも構いませんが、読者の心が作者の意図する方向に動いていれば、それが「エンタメ」と言えると思います。
漫画原作にこだわる理由
——今回のコンテストは、なぜマンガやネームではなく、漫画の文字原作を募集するのでしょうか?
土岐 「週刊少年マガジン」は、多くの文字原作者さんに支えられてきた歴史があります。70年代には『あしたのジョー』『巨人の星』の梶原一騎先生、90年代には『金田一少年の事件簿』の天樹征丸(樹林伸)先生、最近では『シャングリラ・フロンティア』の硬梨菜先生など、とてもみなさん全員をご紹介できませんが、本当にたくさんの文字原作者さんが雑誌を盛り立ててくれています。
「週刊少年マガジン」は今も昔も文字原作者さんを大変リスペクトしていて、ぜひ新しい才能と出会いたいと思っているんです。
また文字原作は参入障壁が低いのも、魅力のひとつです。マンガをいきなり描くのは難しいと思いますが、自分のアイデアを試してみたい方や、いままで本気で創作にトライしてこなかった方なども、挑戦しやすいのではないかと思います。
——文字原作者は、漫画家と比べて求められることは異なりますか?
土岐 原作者さんしか知らない知識、アイデア、キャラクターがギュッと詰まって、原作者さんの個性が色濃く出ていることは求められますね。
しかし、単に個性が目立っていればいいというわけではないです。ただ奇抜なだけのアイデアだと読者の共感を得にくいので、「読者の期待を超える」ということを意識することが重要です。
——「読者の期待を超える」ということですが、具体例はありますか?
土岐 僕が担当している『はじめの一歩』を例に挙げます。このマンガでは、いじめられっ子の高校生・幕之内一歩が、鷹村というボクサーにジムへの入門を認めてもらうため、鷹村の出すテストに挑戦するシーンがあります。
「一週間後までに落ちる葉っぱ10枚を掴めるようになってみろ」と条件を出され、最初は上手くできない一歩でしたが、努力の末に自分なりのコツをつかみ、10枚キャッチを見事成功させます。これだけでもエンタメ感は十分ありますが、実は鷹村は「両手で10枚」のつもりで試験を課していたのに、一歩は左手だけで10枚キャッチを成功させた、ということが最後に明かされます。
これを見ると「一歩ってもしかして天才なんじゃないか!?」と、彼の成長譚をさらに追いたくなりますよね。一歩の魅力を描くことで読者に期待をさせて、その期待をさらに上回ることに成功していると思います。
週刊少年マガジン編集部が求める作品とは?
——いま求められている作品があれば、教えてください。
土岐 特定のジャンルはなく、ファンタジー、ラブコメ、スポーツ、サスペンス、本当に何でも大歓迎です。
——読者のターゲット層はありますか?
土岐 中・高校生くらいの少年読者をターゲットにしています。ただ前述の通り、最近は女性の読者さんも増えてきていて、年齢・性別を問わず読者層が広がっています。
漫画原作のつくり方
マンガができる流れとは
——通常はどのような流れでマンガがつくられるのでしょうか?
土岐 コンテストで受賞された文字原作者さんには担当編集者がつきます。その後、企画書や数話分のプロットを編集長や媒体チーフに提出し、連載可否が決まります。そこから漫画家さんの選定に入り、ネームや原稿が完成して……というのが一連の流れですね。これが一般的ですが、あらかじめ作画してほしい漫画家さんを決めて「あてがき」のような形で進行するケースもあります。
キャラクター同士の会話に委ねすぎない
——マンガの構成を考えるうえで、コツはありますか?
土岐 初めて文字原作を書く場合、キャラクター同士の会話だけで情報を伝えようとしてしまいがちなので、注意が必要です。登場人物が2人で会話するシーンや主人公の一人語りは、もちろん場合によってはアリなのですが、あまりに長尺だと読んでいて飽きてしまいます。
キャラクターがまったく喋らないと魅力も出しにくいので、バランスが大事ですが、「構成段階で会話に依存していないか確認する」→「最終的にマンガになったときにどう見えるか」を検討すると良いと思います。
——構成でいうと、冒頭のつかみも大切でしょうか?
土岐 はい。ただ、インパクトがあれば何でもいいわけではありません。建物が爆発したり、人が死んだりするシーンは絵的にインパクトがありますが、それが本当に物語とマッチしているかは考えた方がいいですね。冒頭部分の描写には意図を持たせることに加え、主人公もしっかりと見せられるといいと思います。
——「主人公を見せる」というのは、具体的にどういうことですか?
土岐 最初に「読者を楽しませるのは、このキャラクターです」と提示する必要があります。そのキャラクターがおもしろければ、読者はキャラを好きになり、その「好き」が物語を読み進める原動力になります。
キャラクターの人生を考えて、より魅力的に
——漫画家はキャラクターとストーリーのどちらから考えるのが一般的ですか?
土岐 作家さんによってさまざまですが、ストーリーから考える方が多いように感じます。
ただ、ストーリー偏向で考えすぎるとキャラクターが疎かになることがあって、それを避けるためには「キャラの考え方・ものの見方に乗って物語を追える」よう、しっかりとキャラのリアクション・価値観を示していくことが重要です。
——マンガはキャラクターが大切だと聞きますが、新人作家に向けて何かアドバイスはありますか?
土岐 担当の新人さんがキャラクターに詰まってしまったときは、「キャラの人生を考えてみよう」とよく言うかもしれません。人間は、人生のさまざまなタイミングでいろんな経験をしますが、キャラクターにもそういった肉付けをしていくと、作者自身もキャラをよく考えるようになり、人間らしさや実在感が増すと思います。
発想段階では、たとえば「シャイな性格」などベタで大まかなくくりでOKです。ただ、シャイにもいろいろありますよね。女の子に近づくと失神してしまう人もシャイだし、一見フランクに喋れるけど実は背中に滝汗をかいている人もシャイだと思います。肉付けの中で、そのキャラ独自の個性が生まれていくといいですね。
企画書は読者へのラブレター
——コンテストで、企画書部門を設けた理由を教えてください。
土岐 僕は企画書は読者へのアピール、ラブレターだと考えています。マンガの帯や表紙におもしろそうなことが書いてあると、書店で手に取って、買ってみようかなと思いますよね。
少ないテキストで人を惹きつける能力は、“センス” と呼んでもいいでしょう。センスに自信のある方、ぜひチャレンジしてみてください。また、日々のお仕事などで時間があまり取れない方々にもコンテストに参加してもらいたく、この部門を設けさせていただきました。
——企画書であらすじを書くときは、どのように書けばいいでしょうか?
土岐 あらすじは、よくコミックスの裏に載っているものをイメージしてもらえればいいかなと思います。作品の見どころを提示し、読者を引き込むためのものです。
あらすじは両部門ともに「300字まで」ですが、1話のすべてを書く必要はありません。ただし、審査員を読者と見立てて、途中で読むのをやめないか、おもしろい展開を期待してくれるかどうかに意識を向けてもらえればと思います。
キャッチコピーはジャンル紹介
——キャッチコピーを考えるコツはありますか?
土岐 普段から僕自身が意識しているのは、コピー内で作品のジャンルをきちんと伝えることです。たとえば主人公が婚約破棄される話だとしても、その後に「めっちゃくちゃ私のことを愛してくれる、イケメン獣人現る!」という話だとしたら、それは「イチャラブ」ですよね。
——「悪役令嬢で婚約破棄されましたが、獣人に溺愛されて困ってます」のようなキャッチコピーですよね!?
土岐 はい。その作品は悪役令嬢がイケてる獣人から「好き」と言われて、困っている(うれしい)というのが、本来描きたいこと = 作品の魅力だと思います。
なので、読者に伝えるべきは「甘々」な部分です。もちろん、一番インパクトがあるのは婚約破棄の部分だと思いますが、一番重要なのは意外とそこではない。その作品を読んでもらうにあたって、「こんなおもしろさを提供します!」という意気込みがコピーで伝えられるといいと思います。
——婚約破棄は重要ではないけど、おそらく第1話のつかみにはなりますよね。作品のジャンルとつかみがキャッチコピーで伝わるといいのでしょうか?
土岐 そうですね。婚約破棄をされた相手への復讐劇なのか、それとも、その後の幸せな生活を描く作品なのか、あるいはそれ以外なのかは、明確に伝えた方がいいです。読者がコピーに期待して買って、読んだら全然違う話だったら満足感を得られませんから。きちんとその作品で出したい味を抽出することが大切だと思います。
——最後に応募者へメッセージをお願いします。
土岐 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。今日お伝えしたことが創作の一助となることを祈っておりますが、全部無視してもおもしろければもちろんOKです(笑)。楽しんで取り組んでいただけたらうれしいですし、我々も楽しんで審査させていただきます。ご投稿、お待ちしております!
※ 敬称略
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