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毛利文香さん(Vn)&原嶋 唯さん(Pf)デュオリサイタル

(画像:トッパンホール2022年12月5日発行
 「毛利文香&原嶋 唯」デュオリサイタル
  プログラム表紙より引用。
  (c)TOPPAN HALL 12 K I   )


衝撃です。

終演後、感動が止まらずに立ち上がれませんでした。

毎週のように本当に素晴らしい演奏に触れているのに、この感動の度合いは、おそらく58年の人生で最高のもののひとつであることは間違いありません。

アンコールが終わったとき、涙腺が緩むと共にマスクの下で自然に漏れた「すごい…」。

それと同時に鳥肌がずっと立ち続けて、余韻の底に沈められて動けないのです。

遅まきながら、毛利文香さんを知ったのは、2ndヴァイオリンの山根和仁さん、ヴィオラの田原綾子さん、チェロの上野通明さんと組んでいる、エール弦楽四重奏団の公演の模様を放送した今年3月のNHK「クラシック倶楽部」。

私は上野通明さんの個性的な演奏が好きで、彼の演奏が観られる、と思って番組を視聴したのですが、そこで強く惹きつけられたのが、エールの田原綾子さんとこの毛利文香さんの演奏でした。

エール弦楽四重奏団の公演は、主に神奈川県内で行われていて、平日の午後開演とサラリーマンには厳しいスケジュール。

それとは別に、田原さんと上野さんが参加する室内楽祭という公演が見つかって、こちらは観られました。
が、毛利さんは参加しておらず。

毛利文香さんは、Trio Rizzleという、田原綾子さんとチェロの笹沼樹さんを迎えたトリオでも活動しているのですが、こちらも縁がなくて生演奏を聴けずにいたところ、このトリオを育ててきたトッパンホールさんがついにやってくれました。

今回のリサイタル企画。

毛利文香&原嶋唯デュオリサイタル。

例の如く、トッパンホールの会員になりまして、チケットを買ったところ、驚くべきことに、またまた最前列の真ん中という、信じられないベストポジション。

開演前にスマホで席から撮影


今年はなんだか嬉しいことがいっぱいです。

公演についてお話します。

プログラムは、

•ベートーヴェン: ヴァイオリン•ソナタ第10番
•イザイ: 無伴奏ヴァイオリン•ソナタ第1番
          (休憩)
•ブロッホ: ヴァイオリン•ソナタ第2番
                <神秘の詩>
•フランク: ヴァイオリン•ソナタ

ベートーヴェンの10番は、優しいヴァイオリンの最初の音色からいきなり心を掴まれました。

曲の持つ美しい旋律を最大限に引き出す、美しい音色と見事な演奏。

音を聴いて初めて色を感じました。
村上龍さんではありませんが、とても透明に近いブルー。

一転して、イザイの無伴奏一番。
これは凄いの一言。
私の脳内で衝撃の嵐が吹き荒れ続けます。

毛利さんのイザイは、その身体ごとヴァイオリンを持った竜の化身のようになり、弓をその限界まで使った音量、曲を表現するに最高の音色、激しいボウイングに、弓の毛は切れ、クライマックスでは弓先が外れて弓がその手から離れてしまい、危うく落としてしまいそうになるハプニングもありましたが、それでも演奏を止めることなく、弾き切ります。

亡くなった音楽評論家の宇野功芳さんがもしこの演奏に生で触れていたら、間違いなく「鬼神もたじろぐ凄演」と絶賛していたと思います。

さっきベートーヴェンを弾いたヴァイオリンと弓は変わってないよな…。

曲想がそうだとはいえ、同じ楽器とは全く思えない音色。
これは完全なる漆黒。

休憩。

その演奏に圧倒された私は、余韻を引きずりながらロビーで休憩しました。

ベートーヴェンは美しく、イザイはあまりに凄かった、今日は来て本当によかった、などと考えながら、あらためていただいたプログラムを広げます。

音楽ライターの方が、今回のベートーヴェン以外の作曲家3人の意外な関係について書かれていて、これは勉強になりました。

トッパンホールの客席後方から

さて、いよいよ後半です。

ブロッホの神秘の詩。
解説によれば、ブロッホ自身「異宗教の共存を含む理想、信仰、熱意、希望の作品である」(冒頭画像下に記載のプログラムより引用)と友人への手紙に書いているのだそうです。

この曲を聴くのは初めてでしたが、まさに静かな神への祈りをイメージさせる演奏。

先ほど"鬼神もたじろぐ"漆黒の音色を奏でた楽器で、さらに1曲目のベートーヴェンの美しさとは違う、大きな教会の冷気を連想させる音色。
色は白銀。

曲想だけではない、曲に魂を込めて表現している一流の演奏家だからこそなせる、この色彩=ヴァイオリンの音色(ねいろ)の変化。

溜め息が出るばかりでした。

そしていよいよ、最後となるフランクのヴァイオリン・ソナタ。

ヴァイオリンの音が発せられた瞬間、アンバーの色が浮かびます。

教会の冷気を感じていたはずの私は、突然、1886年のパリに連れて行かれました。

音色の暖かいこと。
中音域で弾いているからだけじゃない、この音色でなきゃフランクじゃないというばかりなのです。

これは演奏テクニック?
確かに、弦にかける重さや弓のスピードを変えるだけで音は変わります。

それはよくわかっているのですが、ここまで音色が変わるのは、何故なのか。

しかもこれ以上があるのだろうか、という余りにも芸術的な表現力。

本編4曲を聴いて、もうひとつ感じた確かなことがあります。

原嶋唯さんのピアノです。
ヴァイオリンとピアノのためのソナタは、ヴァイオリン・ソナタでピアノは伴奏なのではなく、やはり「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」なのです。

原嶋さんのピアノ演奏に刺激されるかのような毛利さん。
毛利さんのヴァイオリンを聴いて自分の音楽と共鳴させる原嶋さん。

2つの才能が相互に絡み合ってひとつの芸術音楽をその場で高め合って創造していく様子を、ここまでリアルに体験できたこの日は、人生の宝物として、死ぬまで忘れない。
忘れたくありません。

アンコールに応えてくれた曲は、はちみつの黄金色と生クリームの色を混ぜたような、甘い色でした。

トッパンホールのロビーのクリスマス装飾と、アンコール曲のご紹介をしてこの記事を終わります。

最後に、帰り道で雨の中歩きながら、今日の演奏を思い出して、また鳥肌が立ち続けたことを記録しておきます。

2022年12月5日公演 12月6日記事公開

ではまた。

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