ハロウィン
私はとある大学の教育学部に通っている二年生なのだが、一年生から続けている塾のバイトで起こった出来事について、皆さんに聞いてほしい。
普段私は、水曜日のみ塾に行っているのだが、最近は人手不足のため、金曜日も塾のバイトに行くことになっている。11月1日金曜日は、夕方くらいからバイトが始まった。二対一で授業を行うのだが、今回の一コマ目の二人の生徒さんは初対面で、中学生の男女であった。男の子の方は、授業の時間になっても現れず、塾長に確認すると、学校で疲れたため、塾に行きたくないと母親に訴えているが、母親はその子に塾に行ってほしいため、家で大ゲンカをしているという。いや、気まずー。
仮に本人が塾に来た場合、事情を知ってしまっている私はなんか気まずいなと思いながら、女の子の方の授業を進めていく。この子は他の兄弟も塾に来ているそうで、何度か兄弟で話している姿を見たことがあったので、「よく一緒にいるよね~」と言ってみると、「よくケンカしてて、弟たちが私に逆らってきたら、髪の毛を一本ずつ抜いてます~。」という変わった返答が返ってきた。”いや、さすがにこわすぎる”と思い、「髪の毛なくなっちゃうんじゃない?」と言ってみると、「私は薄毛なんですけど、弟たちはまだまだあるので大丈夫です~。」と言っていた。”やっぱり怖いな”と思っていると、10分遅れくらいで、男の子が到着した。男の子は少しだけ照れ臭そうにしながら、席に座った。授業の流れについて話しをしていると、男の子の方からハロウィンの話をしだした。
昨日がハロウィンだと聞いて、時間の流れの速さに驚いていると、彼は100円ショップに行って、黒色のアフロのかつらと、顔に貼るシールと、マントを買ったことを教えてくれた。「合計880円もしたんだよー。」と笑顔でこちらの顔を覗き込んでくる。ハロウィンということで、近所の家を回ったのだろうと思い、何軒ぐらい回ったのか尋ねると、「一軒だけだよー。」という答えが返ってきた。時間がなかったのかなと思い、どんな感じの家だったのかを聞いてみると、「まず、チャイムを鳴らしたら、おじいちゃんとおばあちゃんが出てきたんですよ~。それで、”トリックオアトリート”って言ったら、『こんなことって本当にあるんだね。申し訳ないけど何も用意してなくてごめんね』って言われたんです。」と言う。いや、完全に行くべき家を間違えてるだろと心の中で思っていると、「それでも、その二人が家にあるお菓子を探してくれたんですー。」と言う。結局、何を貰ったのか尋ねると、「それで何分も探した結果、黒豆せんべいをくれたんです。でも、僕の仮装には880円かかってるんで、全然元が取れなかったー。」と少し悔しそうにしていた。いや、880円も仮装にお金をかけて、得たお菓子が黒豆せんべいなのは、ガチでかわいそすぎる。でも、おもろい。
彼にとってある意味一生の思い出になったのではないだろうか。