留学先の決め方:ポイントと戦略
この記事では、お医者さんが留学先を決める際に考慮したほうがいいタイミング、研究室の探し方とどういう方法があるのかについて総論的に説明します。
1. 留学先を決めるタイミングと順序
わたしが留学したいと考えた際、まず直面したのが「留学先を決めないとフェローシップを獲得できないが、フェローシップがないと留学を受け入れてもらいづらい」というジレンマです。その結果、誰かから紹介してもらうというのを待つことになりがちです。どのように進めればよいのでしょうか。
一般的にアメリカでは、大学院生のうちに研究室や就職先を先に決め、その後ボスと一緒にフェローシップを申請するのが主流です。したがって、行き先を先に決めるのが合理的です。
日本学術振興会海外特別研究員の応募は5月ごろ、上原記念生命科学財団や武田科学振興財団の応募は9月ごろです。そのため、これらのフェローシップに応募する場合、少なくとも2か月前には内定をもらえているとスムーズです。
ただし、日本に住んでいる状態でどのように留学先を探すのか、また内定をもらうためにはどう交渉したらよいのか、という課題があります。次のセクションで詳しく解説します。
2. 研究室の選び方
(1) コネクションを活用する
最も一般的な方法の一つが、医局の教授や先輩の紹介を活用することです。教授のもとには、過去の同僚や知人からポスドク募集の情報が届くことがあります。
メリット
信頼性の高い研究室を見つけやすい。
給与が支給される可能性が高い。
先輩がいる場合、研究室の雰囲気や指導方針を事前に把握できる。
日本へ帰国する際のネットワークが強固になる。
考慮すべき点
研究テーマがすでに決まっていることが多い。
教授の信頼を得る必要がある。
タイミングによっては希望のラボが空いていない可能性がある。
(2) 学会でのネットワーキング
学会での発表は、就職活動の一環としても活用できます。特に、発表を聞きに来た研究者と直接話すことで、留学の可能性を高められます。
メリット
直接顔を合わせるため、メールでのアプローチより成功率が高い。
名刺交換やフォローアップメールで関係を築ける。
CV(履歴書)や研究計画を英語で準備し、即座に説明できるようにしておくと有利。
(3) 直接アプローチする
興味のある研究室の論文を読み、共感できる研究を行っているラボに直接メールを送る方法です。ただしこの方法は無視される可能性もありますし、たまたまポスドクを探しているというタイミングでなければ雇ってもらえません。ほかの方法として、様々な研究所や大学のウェブサイトを確認し、求人が出ていないかを探すという方法があります。先述の通り雇うかどうかは予算に大きく規定されるので、人を探している研究室は通る可能性が高くなりますから、こちらのほうがより現実的です。
こちらのポスドク候補者たちは、多数のラボに応募して、同時並行で就活をしています。返事が来ないことも多いので、同時並行で進めていくほうがよいでしょう。
3. どうやって内定をもらうのか
(1) 現地の人と競争して内定を勝ち取る
現地の人はフェローシップなしでもポスドクとして採用されているため、同じように多数のラボに応募し、並行して面接を受けるのが一般的です。
採用の決定要因はラボの予算による。
タイミング次第では、業績が多少劣っていても採用される可能性がある。
(2) フェローシップを条件に交渉する
日本からフェローシップに応募し、通った場合に採用してもらう形で交渉する方法です。
通らなかった場合、不採用となるケースもある。
逆に、フェローシップが通らなくても採用され、現地で継続して応募するよう求められる場合もある。
(3) 先にフェローシップを獲得する
日本学術振興会特別研究員(PD)を獲得すれば、3年間のうち1年半を海外で過ごすことが可能です。ただし、国内の別の機関に本所属先を移す必要があるため、医局との調整が必要になることが課題です。
(4) 無給の客員研究員からスタートする
給与なしで研究室に入る方法もあります。ただし、現地の物価を考慮し、相当の貯金が必要です。私はMD(医師免許保有者)で、日本ではそれなりの収入がありましたが、こちらでは最底辺とはいわないまでも、リッチとは言い難いです。
単身赴任なら1000万円程度貯金があれば、切り詰めて1年は生活可能。
家族帯同の場合、無給は相当な覚悟が必要。
日本学術振興会の海外特別研究員は、すでに留学を開始している人に有利と言われる。
ただし、無給で入った場合に後から給与付きのポジションに切り替えてもらうのは難しいことが多いです。ラボの予算が限られているため、既存の人員が退職しない限り新たな雇用は難しいのが現実です。
4. おまけ(金銭事情について)
フェローシップを獲得して留学する場合でも、多くの施設ではポスドクの給与が年数に応じて決まっており、フェローシップの金額だけで生活する必要はありません。通常、フェローシップで不足する分は施設が補填してくれます(事前に確認が必要です)。
例えば、私の場合(海外特別研究員)もフェローシップの額だけでは施設の標準的なポスドク給与に足りませんでしたが、経験年数に応じた標準給与を現地の施設から支給してもらっています。これは、多くの日本のフェローシップが許可している制度であり、最終的には受け入れ先のポリシーに依存します。しかし、私の知る限り、多くの人がこのように補助を受けています。
フェローシップは給与の一部を補助するため、受け入れラボの負担が軽くなり、採用されやすくなるという利点があります。
5. まとめ
留学先を決める際の重要なポイントは以下の通りです。
留学先を決めるタイミングを逆算し、早めに内定を得る。
コネクションを最大限に活用する。
学会でのネットワーキングを積極的に行う。
フェローシップの有無にかかわらず、複数のラボに並行応募する。
無給でのスタートは慎重に検討する。
留学は慎重に準備することが成功のカギとなります。自分のキャリアに合った最適な研究室を見つけ、早めに行動を起こしましょう。
次の記事では、面接試験にすすむためにどうメールを送ればいいのか、内定獲得のための面接までの手順、準備しておくもの、いま実際にこちらで見ている裏側について書きたいと思います。海外特別研究員の応募についても、もうそろそろ募集が始まるころだと思いますので、書いていきたいと思います。