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忍殺TRPG×のびのびTRPG「ドーリー・アイアン」
これは何?
これは、のびのびTRPGザ・ホラーというボードゲームでシナリオの大筋を決て、ニンジャスレイヤーTRPGのシステムで肉付けしたものです。
前回までのあらすじ
登場人物
アイアンアイドル
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休日の朝に放送されているメガコーポ資本の玩具販売促進アイドルアニメを見て育ったティーンエイジャーにある日ニンジャソウルが憑依した。自分は画面の中の煌びやかなアイドルのようになれないと感じていた彼女は、この力があれば憧れの姿に近づけるかもしれないと歓喜した。と同時にこれまで自分と同列だった人間の命を思うがままにできることに楽しさも感じていた。しかしアイドルに影や裏の顔はタブー。この他者の命を弄びたいという欲求とアイドルとしてマイナスイメージを付かせてはいけないという葛藤の末、彼女は「悪人なら殺してもOK」という歪な結論に着地した。弱きを助け悪しきを殺すこの行為を彼女は「ライブ」「対バン」などと称している。慣れない裁縫でオリジナルの簡易的なライブ衣装を作り、それを普段着にしている。背中に付けたジェットパックユニットからホログラムで極彩色の翼を出し、脚部のヒキャクからスピーカーを展開して1人でもライブ可能なようにカスタムしている。熱狂しているアイドルアニメのアーケードゲームの重課金者。ダブったコーデカードをスリケン代わりに投げる。
マユ
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モータル。大学生のハッカー。無所属の地位で手に入る現状最上位クラスの電脳を付けている
マリー
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モータル。大学生。冷静で、生き残ることを重視している。心臓はクローム製で自動蘇生装置も付けている。オーガニック派だが、とある顛末から薬物にハマっている
アカリ
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モータル。大学生。銃器が好きで撃ってもいい機会を常に探している。目はマルチターゲット照準付サイバネアイ
◇◇◇◇以下本編◇◇◇◇
ネオサイタマから少し離れた土地にある、地下ブラックマーケット。
ツキジ・ダンジョンとまではいかないが、一般商業施設の地下よりは地下。天井に蓋をされている以外は地上の商店街とほぼ同じ道幅で、迷路のように市場が広がっている。ここは出処不明のアイテムを違法に売買する、スラッシャー御用達のマーケットだ。
アイアンアイドル一行は、そこへ仲良く補充品の買い出しに来た。
アイアンアイドル以外の三人は最初からこのような場所に来ていたわけではない。ニンジャであるアイアンアイドルと繋がって幾つもの死線を潜り抜けるうちに、いつの間にやらお金の使い道はムラサキシキブ化粧品の新作メイク用品から弾薬やオーパーツじみた回路基板になっていた。そんなこんなで今日も四人で新しい装備品を探している。
「このチェーンソーどう?」
アカリが錆びたラックから取り出したのは、サイバネ義手の手首から先に装備するバズソー。すかさずツッコむマユ。
「これチェーンソーじゃないって!しかもこれわたし達じゃ付けられないし。」
ムーと膨れるアカリは、上の棚の奥にあった特大の筒を取り出し、担いでマユに向ける。
「じゃあこれでどうだ。KABOOM!」
「ちょっと危ないって!友達にバズーカ向けないで!」
きゃっきゃとじゃれる二人から一歩引いて、マリーは一人で物色をしていた。すると、別行動をしていたアイアンアイドルが戻ってきた。彼女の顔には焦りのようなものが見て取れる。
「どうかしたか?アイアンアイドル=サン」
「わかんない…けど、今日のここ変だよ。ずっと奥まで行ってきたけど。閉まってる店が多すぎる。それに今日わたしずっと…」
アイアンアイドルは首元のチリチリとした冷えるような急かされるような感覚の正体がわからずに、片手で擦って自分を誤魔化す。
そう、今日のブラックマーケットは違っていた。ほとんどの有人店は閉まっており、開いているのは無人の店ばかり。目に入る人間は住みついたホームレスばかりだった。アイアンアイドルが違和感の原因を掴めないうちに、ブラックマーケット全体に合成マイコアナウンスと音質の悪い蛍の光が響き渡る。
『トコシチョウ・マーケットを御愛願いただきまして、誠にありがとうございました。本日をもちまして閉鎖いたしますドスエ』
この地下空間に居る人間全員、アイアンアイドル達四人と多数の路上生活者が天井に等間隔に設置された館内放送スピーカーを見上げる。そう、このブラックマーケットは地上のカチグミ向け商業施設群に目障りと判断された為、今日を以て終業するのだった。それを知らなかったのは路上生活者と運悪く買い出しに来た一行だけ。更にアナウンスはこう言葉を続けた。
『なお、この地下空間は再利用にあたって害虫・害獣の駆除が必要ドスエ。一時間後に全て爆発焼却重点。お帰りの方はエントランスまでお急ぎ下さいドスエ。』
アイアンアイドル一行は危険を察知し集合して、言葉を交わすでもなく地上へと繋がるエレベータへと走り出した。曲がり角を右へ左へ。走る道の端や壁には赤い光が多数点滅しており、一時間後にはそれらが爆発しアビ・インフェルノ・ジゴクになるであろうことは一目瞭然だった。
ようやく地上行きのエレベータの見える一本道へ到達した。エレベータの前には時代を感じさせる巨大なアーチ。アーチの上には、「またおこしください」「トコシチョウ」とミンチョ体のブロックがあり、それら含めアーチ全体が爆発物の赤い明滅で光り輝いている。
一行から数百メートル離れたそのアーチが、爆発し崩れた。熱風が一行のおでこを露出させ炙る。地上行きのエレベータが完全に塞がれた。続いてあちこちからの小規模な爆発音が耳に届き、振動は遅れて足へ届いた。
「一時間後に爆発って話は!?」
アカリが膝をついて崩れる。彼女らが知る由は無いが、難しい話ではない。放送原稿を作った段階では一時間後に一斉に爆発が起きる予定だったが、工事の段階でその話が無くなった。工事体制は杜撰だが、目障りなブラックマーケットの最期にいくら死人が出ようとカチグミ商業施設側の知った事ではないのだった。この状況において唯一冷静なマリーが対策を考える。
「他に通用口があるはずだ!従業員用とか搬入用のルートが。マユ、調べてくれ。おい、マユ!」
「……ゥェア!そうだよね!ちょっと待ってアクセスして図面を…」
急にマユが泣き始める。
「うぅ…アクセスできない!崩落でオシャカになってる…電波のが…う…」
マリーが代案を練る。
「アイアンアイドル=サン!さっき奥まで見てきたって言ったよな。それらしい場所は無かったか!?」
【アイアンアイドル、ニューロンで判定、難易度hard】
6,2,5,4,2:成功数:2
「エート、あったかも!でも遠い!」
マリーがどうしたものかと首を捻った視線の先に…うち捨てられた旧式の車!マリーとアイアンアイドルはマユ、アカリを元気づけ、四人は車へ走る!
【車を走らせることができるか、四人のワザマエダイスを合計して判定、難易度ウルトラハード3】
2,4,2,6,6,5,3,6,3,2,1,1,4,2,1,4,4:成功数:3
四人は車のフロントや側面を遮二無二バンバン殴る!蹴る!エンジンがかかった。皆が乗り込み、ハンドルをアイアンアイドルが握った。
「みんな!シートベルト締めて!」
鈍色のリアバンパーを半分落としながら急発進で進む車!直後、車の停められていた地面が小爆発した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
運転席のアイアンアイドルは、アクセル全開で走りつつ道の赤く明滅している爆発物をニンジャ動体視力で避ける。右左折でドリフトを繰り返す度に車内ではモータルの悲鳴が上がり、空き缶やタバコの吸い殻など車内のゴミが宙を舞う。そんな動きにも慣れた頃、マユは爆発を止められないかと再びネットワークへのアクセスを試みる。
場面カード:携帯が繋がる
判定をダイスで行い、成功なら光カードを、失敗なら闇カードを一枚得る。
→判定失敗。闇カード「記憶喪失」
「繋がれ繋がれ繋がれ…ンアーッ!」
高速移動中の車内で先程までとは違う、尋常ならざる悲鳴が上がる。
「……え!ウワーッ!何ここ!何今の爆発音!っていうか誰ですか貴女達!?」
「どうしたマユ!」
「マユ何があったの!?」
「みんな着いたよ!ここ!」
急ブレーキ!モータル三人は前へつんのめる。マユ以外は急いでシートベルトを外しドアを開け外に出る。
「え、なんですか?ちょっと誰か説明を…」
KRATOOM!
付近の建物が爆発し崩落すると、マユは疑問を発するのをやめ車外へ出た。アイアンアイドルが皆を先導し、従業員用エレベータへ乗り込む。記憶を失ったマユもとりあえず付いて行き、地上へ向けたエレベータの中で記憶がさっぱり無い旨を説明した。驚く皆から状況説明を受ける。
「ほんほん、違法な地下マーケットに来たら?何も悪いことしてないのに全部爆発ですか?わたし達は友達で、この方はニンジャアイドル?結構なコンセプトですね。……で、どれが本当のことなんですか?爆発は本当だとして」
状況が突飛すぎてどの説明も信じてもらえないのを、なんとか伝わるよう一から話していると…。上昇を続けていたエレベータが停止した。ドアが開くと、タタミ七枚程度の明るい直線廊下。そしてその先にはフスマ。一行がエレベータから出ると、
『非従業員の侵入を検知ドスエ。シャナイ級データ秘密保持機構作動。従業員の方は今すぐ通行証を見える位置にオネガイシマス。』
アナウンスと共に前方から赤いレーザー光線が遅く迫ってくる。レーザーは四本。直線で描いたトリイの形で、縦の柱に当たる二本のレーザーは左右にゆっくりと往復している。危険を検知した一行はエレベータに戻ろうとボタンを連打するが、もうドアは開こうとしない。ハッキング要員のマユが頼りにならない今、このトラップを停止させる術は無い。レーザーを確実に避けフスマに到達するしかない!
左右に往復する縦のレーザーが両端に到達しトリイの形になった時、アイアンアイドルはその空白の中心を難なく通過。マリーはZBRをキメて己を奮い立たせ、通過。アカリは多少怯えつつも、サイバネアイに最適ルートを表示させそこを辿るように通過。残るはマユのみ!
「ア、アイエエエ!なんなんですかこれは!」
レーザーを通過した三人は「今!今!…今!」と、大縄跳びに入る瞬間を伝えるようにレーザーを潜るタイミングを叫ぶ。意を決したマユ、服の端を焼かれながら通過!一行は無事トラップを通過し、外へ繋がるフスマに到達した。アイアンアイドルがフスマに手をかけ開けようとするが…開かない。厳重にロックされている強化フスマだ。ニンジャの持つマスターキー、カラテでフスマごと殴り飛ばすことを試みる。結果はフスマを少し歪ませるだけだった。再び殴る。殴る。その度少しづつ形を変えていく強化フスマ。そんなことをしていると…エレベータの方から再びレーザー!それも先ほどのような四本線のトリイなどではない、完全にランダムな網目模様!どこにも人体が通過できる隙間は無い!
「ちょ、ちょっと!来てますよまたレーザーが!来てるって!」
「アイアンアイドル=サン!早くしてくれ!」
「助けて助けて助けて…」
アイアンアイドル、視認できぬスピードでフスマに打撃!
「イイヤヤヤーッ!」
徐々に崩壊していく強化フスマ。しかし間に合わない!
「「「アバーッ!」」」
アイアンアイドルは眼前のフスマを蹴ってバック宙!装備しているジェットパックで滞空補助をしつつレーザーを躱す。着地後、サイバネレッグと背中の推進剤で全力加速!あと一歩で壊れそうなフスマに体当たりをかける!CRAASH!受け身も取れずゴロゴロと転がった後、半身を起こし後ろを振り返る。さっき聞こえた悲鳴は嘘であってほしい。いや嘘だったかもしれない。しかしそこにあるのはネギトロと化した親友達の肉、血、髪の毛。
「ハァ…あ〜」
アイアンアイドルは溜息を吐いて、コミックの様に頭をポリポリと掻く。ニンジャであるが故か、生き物を殺め過ぎたからなのか、はたまた体を機械に置換しているからなのか。彼女の心は閾値を超えると冷たくフラットになる。それは限界を経験する毎に顕著になる。彼女の心は鉄になる。
「いたた…ヨイショ!…また友達作り直しか〜」
その鉄が彼女を守る鎧。その鎧を塗装したものがアイアンアイドル。冷徹な自分が恐ろしくて必死に塗り付けた虚飾。鋼鉄を自分にも見えない様に飾りつけて出来た、華美な人型。
◇◇◇◇本編終了◇◇◇◇
今回のシナリオの元となった、のびのびTRPGザ・ホラー側のカード構成
場面カード:悪い予感がする…
クライマックスカード:自爆装置
場面カード:カーチェイス
場面カード:携帯が繋がる
物語の冒頭を決めるイントロダクションカードと、結末を決めるクライマックスカードの枚数が少なくてだいたいやってしまった。
その為今回は場面カードをイントロダクションカード代わりに使った。
後書き
元々このシナリオはモータル三人を死なせるために書き始めた。ニンジャとして復活させるためにこれまで名声も多めに与えていた。
場面カードでカーチェイスをすることは決まっていたから、車のエンジンがかからなかったらアイアンアイドルがニンジャ筋力とヒキャクパワーでモータル三人の乗り込んだ車を押す予定だった。全員のワザマエダイスを足して難易度ウルトラハード3で振ったら、なんと成功した。
マユに付与された闇カード「記憶喪失」も上手く効いてないし、モータル三人の死に様も雑。ただただ死なせたかっただけのエピソード。一番酷いかも。
このエピソードは無かったことにしてもう一度みんなが死ぬエピソードを書いてもいいし、これを正史にしてもいい。皆がモータル時代のエピソードをさらに書いてもいい。全ては自由なのだ…。
…という後書きを書いてから、モータル三人のアンセレクテッドニンジャレザレクション判定を行った。マユ、マリー、アカリの成功数は1、2、0。「こうなったか〜、アカリは一旦退場だな」と思った。そしてニンジャとして復活する前のアイアンアイドルの悲しみを書こうと思ったら、これはこれで筆が乗った。こうなるともう二人復活させない方が納まりがいいなと思い今回のエピソードでは死んだままにした。
どこかでニンジャとなって復活したマユやマリーが出てくるかもね!姿を変えたアカリとかももしかしたら…?(今のところその予定はまったくないけど)
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