特撮系小説”スーサイドアクト”「パイナップルと合うものは?」
前の話。読まなくてもなんとかなる。
「ご飯にする?お風呂にする?それとも、ア・タ・シ?」
「誰だお前は」
トロオドンこと本田竜は、帰宅するとわけのわからない出迎えを受けた。
腰まで伸びたピンクのツーサイドアップ、エプロンにおたまという恰好の全く知らない女が片足をルンと上げて質問を投げかけてくる。
「みてみて!これ!作ったのあなたのために!ラーメン!パイナップル入りだよ?チャーシューも豚から育てたの!」
「お前は誰だと言っている。答えろ」
「わたしはビーストキラー!本名は~…結婚してから教えたげるね♪ アツ、ツツツ…ちょ、ラーメン置いていい?熱い」
ビーストキラーと名乗った女はゴトンとどんぶりを床に置き、あぐらをかいて啜り始める。
「お前は何をしている?どうやって入った?何の用なんだ?」
滅多なことで感情を乱さないトロオドンだが、不法侵入してラーメンを床で啜る若者の奇行にはたじろいでいた。
麺をちゅるんと小さな口に入れ、咀嚼し飲み込んでから話し出すビーストキラー。
「見てたよあたし。おじさん、怪物相手にすごかったぁ~ッ!」
割り箸で感情を表現するその姿は中年男性のようでもあった。
「チンピラを殺したと思ったら怪物も殺すんだもん!わたしはチンピラ殺そうと思って行っただけなのに、すごいね!その時鍵落としてたからこうやって届けに来てあげたの、ハイこれ。この部屋の鍵」
トロオドンは素性のわからない侵入者から差し出された物を安易に受けていいのかと手を出しかねていると…。
「だぁ~いじょうぶだって!おじさんを取って食べたりなんかしないから!早く受け取らないとこの鍵束、ラーメンの具にして食べちゃうよ~?チャリチャリチャリ~ほら~?早く~?」
手を出そうとした瞬間、ちゃぷんと鍵をスープに落とされた。ビーストキラーはそれを箸で掬いあげ口に含み、受け取ってくれと言わんばかりに口を開ける。
「何がしたいんだ……」
会ってものの数分だが憔悴しきるトロオドン。ビーストキラーは口から鍵を出し、それをスープに戻して話し始める。
「おじさんとタッグを組みたいの」
「はぁ…タッグ…」
「おじさん鏡の中の人助けなかったでしょ?それって、怪物殺すことにしか興味ないってことだよね?」
「まぁ…そうだが…」
「あたしと同じ!あたしたち良い関係になれるよ!どうかな!?」
「どうって…」
鍵を返すのに不法侵入をしてラーメンを作って口から鍵を取らせようとする初対面と共に戦おうと言われて、了承する者は少ない。トロオドンもそうだった。
「まず…」
「まず??」
らんらんと目を輝かせYESの返答を待つビーストキラー。
「出て行ってくれないか…ここは俺の家なんだ」
「そうだよね、考える時間が要るよね!末永いお付き合いのことだもんね!じゃあ待ってるね!これあたしの連絡先!」
どんぶりを持ち麺を啜りながら退出するビーストキラーを目で見送ったあと、トロオドンはその場にへたり込んだ。
「…どんぶり、うちに一個しかなかったのにな……」
嵐の様に過ぎ去っていった女の後には、ドッと疲れが来た。
朝から何も食べていない。彼の鼻腔をラーメンスープの香りがくすぐる。
ビーストキラーが持ち込んできた寸胴鍋の蓋を開け、茶碗にスープを取り分けて啜る。
「…!」
美味だった。怪物と戦った後の腹によく染みる。何故か入っているパイナップルの果肉も不思議と悪くない。炊飯器から米をよそい、スープに浸して食べる。
彼女のしていた事は言うまでもなく奇行だが、彼のために温かい料理を作ってくれたというのは紛れもない事実だ。愛した者を失ってから初めて食べる手作りの料理は、彼の獣の様に鋭い判断力を鈍らせた。
次の日。トロオドンがベッドで目を覚ますと、隣で女が寝そべって彼を見つめていた。ビーストキラーだ。
「あ…お前。お前なんでいる…?」
「だって鍵、返してないもん」
「あぁ…」
彼は掌で目を擦り、長い息を吐く。息を吐き切り、勢いをつけてベッドから起き上がる。
「起きた?じゃ早速怪物殺しにいこ!ホラホラホラ!ハリアップ!」
「待て。まだお前と相棒だのタッグだのを組むと決めたわけじゃない。それに」
「それに?」
「俺はまだパジャマだ」
「じゃ早く着替えてよ!」
「お前もそのマイクロビキニはなんとかしろ。人前に出れない」
「え、出れるけど?ま、仕方ないなぁウブなんだから」
ビーストキラーは彼の衣装ケースを勝手に開け、リネンのシャツとデニムを着る。トロオドンは話しながら着替える。
「怪物を殺しに行くと言ったが、案件はもう受注しているのか?」
「案件?何のこと?」
「怪物の案件といえば桐緑の懸賞金リストだろ?…知らないのか?」
「あーそういうやつね!あるね!あたしは使ってないけど」
「使ってない?じゃあお前、報酬なしで働いてるのか?」
「働いてるんじゃないよ~楽しんでんの!」
「それに、あのアプリで情報を得ないでどうやって怪物たちに辿り着いてるんだ?」
「わかるの。あたしには。そういう能力だから。怪物の考えることがわかる。声が聞こえるの。だから場所もわかる。おじさんと同じ、ベルデだから」
「そういうことか…」
彼女の言っていることは恐らく真実だと思われる。なぜだかそう思える。ベルデのおよそ三分の一がテレパスタイプだ。その中に怪物特化のテレパスが居てもおかしくはない。
彼女の力を使うことで怪物の場所が地道な聞き込み無しでわかるなら、怪物を殺し救ってやれる手間が多いに省ける。一日に何度も救済を与えることも可能かもしれない。
しかし一つ疑問が残る。
「昨日お前は『怪物を殺すなら良い関係になれる』って言ったな?でもお前はどうやってあいつらを殺すんだ?パッと見、変身したところで奴らに勝てそうにないが」
「秘密の武器を持ってるんだ!ここにね」
彼女は人差し指でこめかみをトントンと叩く。
「それに、あたしは変身なんて無粋なことしないよ。知ってる?あれは思考を読みにくく、読まれにくくなるの。それじゃ痛みで苦しむあいつらの思考をハッキリ読めないでしょ?あと変身原器買うほどのお金もないしね」
「なるほど。わかった。秘密の武器とやらで自分の身は守れるんだな?」
「もちろんだよ!」
「ならお前とタッグとやらを組む」
「ほ、ほんと!?」
「ただし。怪物を殺すのは俺だ。その横で断末魔を聞くのはお前の自由だが、殺すのは俺だ。いいな?」
「もちろんだよおじさん!」
「それともう一つ。…ありがとう。昨日のスープは旨かった。俺のことはトロオドンと呼んでくれ」
「ローちゃんだね!今度は牛の血スープで作ってあげるから、楽しみにね!」
きゅるんとポージングするビーストキラーを見ながら、彼は今自分が会話し、利用し合おうとしている存在のわけのわからなさに我の事ながら飽きれていた。
「出かけよう。あいつらを殺しに」
「アイ!キャプテン!」
そこから2人は桐緑の懸賞金リストから適当な暴走案件を受注し、探索に向かった。
タクシーに乗った者が消えている。
原因を突き止め、これを排除せよ。
国道沿いを散歩する2人。
ワゴン販売の苺飴を買い(トロオドンに払わせた)、駅の複合商業施設まで歩いたところで…。
「おい、タクシーを探すんじゃないのか。建物の中に入ったらもう車は関係なくなるぞ。それとも怪しい運転手がこの中にいるのか?」
「バレたか…ローちゃんの服をコーディネートしてあげようと思ったんだけどな」
「お前ほんとに怪物の場所がわかってるのか?もし俺に言ったことが嘘なら…」
「わ~か~るって!ほんと!ショッピングモールは確かに関係ないけど、この辺にいるんだって!こっち!」
駅のタクシー乗り場まで歩き…
「あれ!あれが怪物だよ間違いない!」
ビーストキラーが指差したのは何の変哲もない黄色いタクシーだった。
「そうなのか…?まあ、信じよう。運転手を引きずり出すぞ」
「そうじゃないって!見ててね…」
ビーストキラーはこめかみに指を当て、精神を集中する。怪物の思考と波長を合わせる。
人、肉、捕食、消化、獲物、血…曖昧で断片的な情報の渦が頭に流れ込んで来る。その渦を苛烈な業火で煮やし、全てを干からびさせるイメージを加えると…。
黄色いタクシーは咆哮をあげた。すると、エンジン部から頭が、運転席と助手席から腕が、後部座席の両ドアからは脚が生えた。ちょうどタクシーの底面を体の前面、そして体の背面をタクシーの天井部分とするカメのような醜い怪物が、うつ伏せで気絶していた。
「なるほどタクシーそのものが怪物だったんだな」
「そういうこと!でもこんなので擬態できなくなるなんて、よわよわだね!」
トロオドンは腰からリボルバーマグナム型の真っ白な変身原器を取り出す。
急に怪物が出現したことで逃げ惑う人々を尻目に、二の腕から生やした半透明な赤い羽を弾倉に込める。
引き金を引くと彼は緑の霧に包まれていき…そして霧が晴れた時には全身が深緑のアーマースーツで覆われ、胸・腕・脚・指にはレモンイエローの硬質なプレート、頭部は肉食恐竜の牙の意匠が施されていた。
これは変身完了であると同時に、彼にとっての救済タイムの始まりの合図だった。
「ひゅ~ッ!ローちゃんかっこいいー!怪物をぶちのめせ~!!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるビーストキラー。怪物はぐったりとして動かない。ならばトドメを刺してやるのみ!
トロオドンは自分と同じカラーリングに変化し倍化したマグナムの、弾倉を3度回転させる。回す度に力が溜まっていくことを表す電子音。最大までパワーを溜めると、引き金を引くまで場を盛り上げるような古代の打楽器の音楽が鳴り続ける。
引き金を、引いた!
『ジュラシックショット!』
怪物は爆散!爆炎の熱風が過ぎ去ると、彼は変身を解除した。爆発の中心地にはミニチュアの車の変身原器がバチバチと音を立てて落ちている。それを踏みつぶした。
「ローちゃん!」
駆け寄ってくるビーストキラー。抱きついてくるかと思いきや…トロオドンの鳩尾へボディブロー!
「ゴフッ…何をする」
「一撃で殺したからあいつの苦しみ味わえなったじゃ~ん!次からはもっと痛ぶってから殺してよね!」
「次からはそれを事前に、言葉で言えって…グ…」
「じゃあ次はいよいよ!ショッピングモールでローちゃんの服ね!帰ったらまたご飯作ってあげるから!」
「ウ…お前、住む気じゃないだろうな…それはやめろよ…」
原因となっていたタクシーの排除を確認。
報酬金額は指定の口座に振り込み済み。
以上
雰囲気のおまけ
敵(6ポイントスクラッチ)
キャラ名:カゴ
筋力:3+4 体力:3+4
知力:2-1 精神力:2-1
器用さ:1-1 命中:0
異能力:0(一般人)
タクシーに擬態して捕まえた一般人を消化吸収する怪物。
(12ポイントスクラッチ)
キャラ名:ビーストキラー(小鴨千紗)
筋力:1 体力:1
知力:2+2 精神力:4
器用さ:3 命中:7
異能力:3(テレパス系)
動物や変身原器と合一した者の特殊な思考回路を読み、時には精神攻撃を加える事もできる非人間特化のベルデ。
彼女自身トリックスターな一面が強く、次に何をするかが常に読めない。
キャラ名:トロオドン(本田竜)
筋力:2 体力:2
知力:1 精神力:1
器用さ:2 命中:3+4
異能力:1
(遠隔系のベルデ)
鬱々とした毎日を送り、自殺をしたはずだがベルデとして蘇った。
腕から生える半透明な羽を射出する、遠隔タイプのベルデ。
強盗や人助けを繰り返すことで金を集め、変身アイテムを手に入れた。
全ては暴走した者に死という救済をもたらすため。