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《短編小説》真っ黒な虹



真夜中に目が覚めると、初めて見る母親がずっと靴を叩いている
隣にいる父親はテレビに毛布をかけて大音量で音だけを聞いていた
母親が靴を叩きながら、もうすぐ駅に着くからメガネを捨てなさいと言うので、仕方なく口からメガネを出して冷蔵庫に戻した
駅に着くとドアが開いて大量に蠢めく人間が降りて行くので、私もそれに押し出されるように外に出た
少し歩くと、ゴミ箱の中に人がいたので、その人からお金を借りた
空には近所に住んでいる中年の夫婦が浮かんでいて、おはようって言ってる
今日は雨の予報だから仕方がない
そのまま校長の話を聞いていると、私の身長ぐらいの大きさの女の顔がものすごいスピードで追いかけてきた
私は全速力でゆっくり走った
何十回目かの踊り場を通り過ぎた辺りで階段を踏み外して夢を見た

私は夢を見るのが嫌いだ。
毎日ほとんど同じ内容で楽しいことは何もおきない。
子供の頃は多少は楽しかった気がするがあまり覚えていない。
今日の夢もいつもと変わりなく、いつもと同じ服に着替えて、会話の無い両親と会話の無い朝食を食べて、人が充満してる電車に乗って、同じ服を着ている人が集まる建物に集まり、偉そうな人が黒板に書いた字を、自分のノートに書き写して、休憩時間には同じ服を着た人達が私の弁当をゴミ箱に捨てたり、鞄を窓から捨てられる。
こんな悪夢が毎日突然やってきて、夢の中で横になって目を瞑るまで続く。
私は夢を見るのが嫌いだ。

ある日、山に買い物に行って道に迷っていると、空に東京都ぐらい大きな宇宙船が飛んでいた
宇宙船はところどころグラグラと光っていて、お腹が空いた
もう時間が無かったので、本棚の土を掘っていると、小さなタワーマンションにひよこが絡まっていた
タワーマンションからひよこをほどいて持って帰って鏡の前にしまっておいたら、ボキボキと羽ばたいて空に落ちていった
その後、足がグルグルしていたから、しばらくエレベーターに乗ってドッジボールをていたら、突然回りに何もなくなって、びっくりしてまた夢を見た

いつもの同じ夢が始まった、ただ今回は少しだけいつもとは違っていた。
今日は雨が降るらしい、少し心が弾んだ。
雨は昼ぐらいから降り出した。
それから淡々といつもと同じ夢を窓の外の雨を見ながら過ごして、ようやく帰れると思った放課後、同じ服を着た人達が少なくなった教室にトイレから戻ると、私の机の上に、買ってからまだ一回も使っていない折り畳み傘がバキバキに折られて置かれていた
廊下にはその様子を伺いながらニヤニヤ笑う同じ服の三人
これが夢じゃなかったら三人の顔面に椅子でも投げていたが、夢だから仕方がない
この折り畳み傘は私の好きな黄色で、人が少なくて珍しく気分が良くなる雨の日を楽しむために買った傘
嫌がらせには慣れていた、だからいつもはわざわざ反応せずに気丈に振舞っていた、それがあいつらには気に食わなかったのかもしれない、
そのせいでどんどんエスカレートしていって、今回のこともあいつらにとっては今までの延長線、ただ私からしたら一線を超えていた。
今まで騙し騙し膨らんでいた風船が弾けたような感覚。
悔しいのか悲しいのか、感情はよくわからないが涙が溢れていた。
それと同時に鮮やかなな黄色い傘の色が消えた。
そして少し遅れて回りの景色の色も消えて、白と黒だけの世界になった。
もう夢とはいえ限界だった。
下品な顔でニヤついてる三人の横を走って通り抜け一番近くの階段を登り、屋上まで走った。
屋上に出るとさっきまで降っていた雨が上がり、夕日に変わる前の白い太陽が憎たらしく私を照らした。
眩しくて顔を逸らすと、反対側にはゾッとするような真っ黒な虹がかかっていた、何故かその虹にすごく心を奪われて、少しでも近くで見たくなってフェンスを登った。
見たことないくらい大きくて、鳥肌が立つほど恐ろしく、すべてを忘れるくらい美しかった。
もっと近くで見たいと思って手を伸ばしたときに夢から覚めた。

私はその日から夢を見なくなった
夢から覚めた世界はカラフルで人や動物や建物すべての物がまん丸でボンボンと弾んでパチパチと弾けていた
私はそれを空から見上げながら空気とぐちゃぐちゃに混ざって漂った



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