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小説「パンゲア紀行文」壱

『起草』

錆びれた看板は文字を既に手放して、むき出しになった配線が、横長の長方形の左の方から、首吊りロープのようにちょうど良い高さに、輪っかをこしらえて佇んでいた。
荒み切った町々に吹く風はひどく冷たく、無機質に、無感情に、そこら中に吹きつけている。
霧雨は風に靡いて、汚れ、ひび割れたガラスの
片片にさらさらと優しく降りかかった。
これは、五月、パンゲア大陸のエクメーネ(人間の居住域)の北限より、人生の締めとなる旅に出た、或る旅人の記憶である。


旅人は、名も知れぬ廃墟に差し掛かったようだ。

「やぁ、さびぃ、さびぃ……」
一人呟けど、この言葉の一欠片すら、この町々をさらに錆びれさせる要素になるように
感じられる。何故わざわざ、遠目にこの廃墟の町が見えた瞬間に、この町に行くことを決めたのだろうか。

やがて全てを呑み込む緑と顔を合わせて、どうか私もその美しさの一部にしてくれよ、という、
幻めいた逃避行の申し込みをしたかったのかも知れない。あるいは、廃れていくとともに清められていくようなこの場所で、澄み切った自然的な美を求め、穏やかな夢を見たかったのかも知れない。いずれにせよ、多分、私自身が、
飄々と、俗気なくなりたくてたまらなかった
のだろう。
行くあてもなくただ歩き、呼吸し、周りを見渡して立ち止まって、そういう行動の中に、私と自然との有機的な繋がりを感じたかったのだ。

ゆさゆさと歩いていくと、そこらじゅうにのしている草木が、まるで大木をつくるように高塔に絡みついているのを見つけた。
私はそこへ行く。
つい最近まで、病床に臥していた身にはちときついのだけれども。

                ……続く


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