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【たどりつける秋の】

冷たさを感じる気持ちのいい風。その風に身体をおされているようで、僕は人通りと街灯の少ない夜道にもかかわらずほんの少し浮かれてしまった。
僕はゆっくり歩きながら思う。
もう1人の僕以外の何かや誰かがいるとしたら、たとえそれが妄想であったとしても寄り添ってくれるものなら何よりも嬉しい。形のないこの手をすり抜ける風であったとしても、傍にいてくれるのなら。

人生の儚さを知ってしまった僕に、もう癒しなどはほとんど意味はない。だから暖かで穏やかな春が必要なわけではない。キラキラと眩しい太陽の夏は相応しくはなく、耐えるには厳しすぎる冬ではあまりにも悲しい。僕が求めるのはちょっとした頭痛がサマになり嘘が魅力的な秋。

僕はゆっくり歩きながら思う。
人生の儚さを知ってしまった者だけがたどりつけるところがある。
それは毎年訪れる秋の奥底。秋の奥底はその者を癒えぬ傷ごと包みこみ、ほんの少しの愛を与える。

人生の儚さを知ってしまった僕に、もう癒しなどはほとんど意味はない。秋の奥底にたどりつければそれでいい。



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