市原ちぃ恋
「あおばだい ちぃ恋」
午後十時を過ぎるとほとんど人影のなくなる商店街。
坂道になっていて、二車線の道路の両脇にお店が並んでいる。昼間でも少し寂しい感じのする商店街。坂道の頂点は路線バスがUターンする為の大きな空き地になっています。
その空き地にいこうと、彼がいいだしたのです。自転車で。午後の十時に。もうすぐ、三十代も折り返しを迎える二人が。家から近いとはいえ、自転車をこいであがるのはもちろん、自転車をひいて歩いて坂道を上るのも面倒くさいのに。
それ以上に問題なのはその目的です。到底、正気とは思えません。
かなり馬鹿げていました。だいたいお気づきかと思います。そうなのです。彼は自転車でその坂を滑るように、下りたいと、しかも二人乗りで。などといいだしたのです。止めさせようと試みましたが、結局、面倒なので行くことにしました。二人乗りで、夜。いい大人が坂を滑るように下ることにしました。
アパートを出て自転車を引いて坂道を上がる彼の後ろを私はトボトボ歩いていきました。
四月の終わりの夜風はまだまだ少し肌寒く感じられました。
彼はいいました。
「ごめん。寒いね。帰ろうか」
だからいったのに。とも思いましたが揉めるのは面倒なので、静かにうなずきました。
二人でトボトボ歩きながら、私はふと
坂道を二人乗りで降りるのも楽しかったかもな。などと思いました。
今日は満月。きっとそのせいだと思うことにして。
青葉台の小さな恋のお話です。