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給付金で考えた非常時の国と地方の関係考


新型コロナウイルス感染症が拡大した令和2年度以降、政府からは、必要な経済対策として、毎年度毎年度、“臨時”の給付金が打ち出されました。


  • 令和2年度 特別定額給付金(国民一人・10万円)

  • 令和3・4年度 住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金(住民税非課税世帯等一世帯・3万円)

  • 令和4年度 電力・ガス・食料品等価格高騰緊急支援給付金(住民税非課税世帯等一世帯・5万円)

  • 令和5年度 価格高騰支援給付金(住民税非課税世帯等一世帯・3万円)

  • 令和5年度 住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金(住民税非課税世帯等一世帯・7万円)

  • 令和2年度 子育て世帯への臨時特別給付金(児童一人・1万円)

  • 令和3年度 子育て世帯への臨時特別給付金(児童一人・5万円)

  • 令和4年度 子育て世帯への臨時特別給付金(児童一人・5万円)

  • 令和5年度 子育て世帯への臨時特別給付金(児童一人・5万円)

その目的や、対象、経済規模については、しかるべく審議を経て決定されていることですから、それはそれとしてよろしいのですが、その実行手法については、国会において議論の俎上に上がっていません。


給付金とはどのようなものか

これらの「給付金」は、いずれも時の政府が実施を決定したものですが、国が直接国民に給付するわけではありません。実行(対象者に給付)するのは、区や市などの自治体です。

しかし、例えば、令和2年度の特別定額給付金では、人口10万人の自治体なら、給付金だけで100億円。プラス事務手数料が必要になります。当然、これだけ巨額の予算を自治体が捻出することはできません。

国は各自治体が給付金を給付する場合に、原則10割の事業費補助を行うとして、自治体はこの国からの補助金を担保に予算を組んで、一旦自己資金で給付を実行し、のちに国の補助金で自己負担分を相殺します。

選ばざるを得ない自治事務

さて、これら一連の給付金は、法律に根拠のない(国の)予算事業です。そのため、国は自治体に対して実行を命令や強制することはできません。自治体が行う事務は、法定受託事務以外はすべて自治事務で、自治体の事務処理に対する国の関与は法律又はこれに基づく政令で定めなければならないことになっているからです。

さきの10万円給付は、国から自治体への法定受託事務ではないですし、法令で事務が定められ、そのために国が負担金を出すというものでもありませんから、事業の性格は自治体が自主的に行う自治事務です。国も一連の給付金は、市町村が事業主体として実施し(自治事務)、国は補助事業というスタンスを貫いています。

あれ、でも、これらの給付金は、「政府」が、国民生活を鑑み、事前に自治体側への相談もなく決めた国の施策ですよね?そのうえ、国が直接給付するのではなく、給付は自治体が実施するよ、国は補助だよと決めて、さらに国が決めた対象に国が決めたように給付しないと補助の対象にならないとしていますよね?これは本質的に自治事務なのでしょうか。

形式上は、自治体の自治事務なので、給付金を実施するか、国へ補助金の申請をするかは、国の強制ではない、自治体の自由意志だということなのでしょうが、このような性格の事業は自治体にやらない選択の余地などありえません。

令和2年度の特別定額給付金の際は、政府は早く準備できた自治体を発表して、政府の取組が進んでいることを示すような発表を行った結果、人口規模が大きくて準備に時間を要する自治体が住民から非難されるということがありました。政府から直接指示しなくとも、かなりコントロールできるのです。

危機管理の法制度につなげてほしい

このような手法を用いることは、まったくの否定はできないものの、地方自治の本旨からみれば、非常時の例外的な手法であるべきだと思います。今回の一連の給付金のきっかけとなった「新型コロナ禍」は、非常時の例外としては理解できます。

しかし、近時の給付金のやり方は、遡ること14年前の2009年のリーマン・ショック後の「定額給付金」から始まっています。このときも、その時代としては未曾有の経済危機という非常時の例外であったかと思いますが、その後の国が法定外の自治事務をつくり自治体に実施させるやり方を標準化することにつながりました。あのときから、未曾有の経済危機に対して国民を支援するような法や制度を検討する時間は十分あったのではないでしょうか。

何十年に一度にあるかという、滅多にあってはならない非常時の例外のやり方としては受け入れることできます。しかし、こうして毎年のように経済対策が必要となる経験を経た今となっては、一連の給付金を顧みて、将来の経済危機にも備えた法制度を設けるべきです。現在国では非平時に着目した地方制度のあり方が検討されていますが、その中で、国と自治体の責務を明確化する必要があることは言うまでもありませんが、非常時こそ国と地方の直接のコミュニケーションが重要になるので、そうした仕組みを設けていただきたいと期待します。



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