「ビールで人を惹きつけ、ホップの街を興す」初めて行った、遠野での旅で考えたこと
「ホップ」とはなんだろうか。
それは、ビールの原料の一つ。
そして、岩手の遠野という街の名産品の一つである。
そしてまた、遠野が遠野として、これからも存続、繁栄する一助となるものでもある。
私は、仙台で育ち、東北大学に通っている大学3年生だ。
ホップって何?という好奇心から、インターンシップに応募して、そして遠野を訪問した。
気づいたことは、モノとモノがつながって一つずつより大きな影響を与える、ということだった。
8月9日、キリンビールのインターンシップで、遠野に足を運び、成長中のホップを実際に触り、遠野を「ビールの里」にしようと活動している方の話を聞いた。
今回の旅で、考えもしなかったこと、想像すらできなかったことにたくさん出会った。
ホップについて、遠野というまちについて、そしてビールが人を動かすということ、テーマ別に学んだこと、感じたことを書き記していく。
遠野に行った理由
私は小学生の時に、キリンビールの仙台工場を見学した。
だから、ビールの原料は水、麦芽、ホップであることは知っている。
麦芽は、大麦を発芽させたもの。甘みがあって、パリパリしている。
ホップは……そういう植物。
私は、ホップが何なのか知らないことに気づいていたが日常生活に支障はないので放っていた。
それから時はたち、大学からのメールを読んでいたら、その一つにキリンビールのインターンシップの募集を見つけた。
内容で気になったのは、「地域を創る人に聞きに行く ホップ産地の遠野訪問」という回。
遠野って、日本の、あの遠野物語の遠野?
そこがホップの産地?
遠野という地域を“創る”?
疑問点がたくさん湧き上がってきた。
ホップって外国のものだと思っていたから、隣県で生産されているとわかって驚いたし、しかも場所はカッパで有名な遠野。
遠野でホップが生産されていることが、さも当たり前のことのように書かれていたから、よけいに驚いた。
そして、子どもの頃の工場見学を思い出した。
ホップってなんだろう。
この疑問を解決できる機会は、今だ!と思い、インターンに応募した。
知ったこと① ホップについて
写真で見たときは、シャリシャリしてそうと思った。
しかし、実物をもぎ取ってみると、全然痛くない。
むしろふわふわしていた。
ホップは、ビールの上品で爽快な苦みや香りのもとになる。
その成分は、ホップの中にある黄色い粒に含まれている。
ホップを割って、その断面図を見てみると、花びらのようなものの付け根の所にたくさん黄色い粒がついている。
これが、ホップの香気・苦みのもと、ルプリンだ。
ちなみに、いま(8月9日)はまだ、ホップの香りは青く、あと数週間すれば、ビールに最もよい香りになるそうだ。
それでも、この割ったホップをすりあわせ、鼻を近づけると、クリーンで若々しいハーブの香りがした。ツンと鼻につくのではなく、やわらかい香りで、甘いみかんを思い出させるが、ホップの香気そのものには甘みはない。
全然きつい匂いではなく、香水とかにあってもおかしくない、とても良い香りだ。
粉を触ると、黄色い粉がつくが、ベタベタすることもなく、指がしっとりした。
100%自然由来の、爽やかな香り付きアイシャドウ、なんて考えてみたが、さて商品開発できるだろうか……。
抗菌作用が含まれていたり、熟成させれば、認知症や脂肪減少に効くそうなので、ホップはビールに入れるだけではもったいないと感じる。
食べたらどうなるか、と聞いたら、すごくにがい、と答えてもらった。
匂いからは全然想像できないが、ビールの苦さを思い出せば、合点がいった。
なめてみたい、と思ったが、ビールのあの苦さを直接舌につけるのには勇気がいることだった。
今度、畑に行く機会があれば、日和らないで、強い意志でなめてみよう。
今回いった畑は、IBUKIという品種の畑だった。
ホップにも様々な品種がある。
MURAKAMI SEVENもそのひとつだ。
最近の品種で、ホップ博士の村上さんによって作られ、遠野で育った日本産ホップだ。
「村上」という名字がビールの名前にも入っているので、お酒好きな村上さんへのプレゼントにMURAKAMI SEVENを使ったビールは喜ばれそう。
ちなみに、ビールの名前は「MURAKAMI SEVEN IPA」。
遠野にまた行って、遠野醸造で、飲んでみたい。
知ったこと② 遠野というまち
遠野では、ホップを栽培して60年近い歴史を持つ。
1963年にキリンビールと契約栽培を結んで、日本有数のホップの産地となった。
遠野と言えば、柳田國男の『遠野物語』を高校の倫理の教科書で知った。
資料集にあったカッパ淵の写真も見たが、うっそうと木々が茂った山奥の怪しい水場という印象だった。
実際に遠野を訪れると、山々に囲まれ、広大な田んぼがあって、昔ながらの造りの家が点在する、のどかな日本の田舎の風景があった。
サイクリングをしたら、涼しい気候と空気の良さも相まって、とても気持ちよさそうだ。
駅の近くに行けば、商店街や建物が建ち並び、人通りも多い。
また、遠野醸造というビールを造る施設で有りながら、住民の憩いの場所にもなっているブルワリーもある。
クラフトビールとおいしい料理が提供されて、ビールを詰めて持ち帰ることもできるなんて、人生の質が大幅アップすること間違いなしだ。
遠野って実は魅力が多い街なんだ!そう思ったが、遠野に移住して「ビールの里プロジェクト」を進めている田村淳一さんの話を聞くと、一筋縄ではいかない現状が分かった。
ビールの原料であるホップを作っている農家は、実は年々減っている。
農家の高齢化が進み、後継者がいないからだ。
しかし、ホップを栽培しよう!と新しく遠野に住み着き、農家を始める人もいる。
ところが、新規就農者は、売り上げは上げづらいのにコストは相対的に高く、経済的に自立が難しい。
追い打ちをかけるのは、ホップの加工処理などをする施設や機械の老朽化だ。
農家数が減っている今、農家ひとりに対する負担は大きくなってしまう。
様々な課題を抱える中で、地域おこし協力隊として給与を保証されながら、多様なバックグラウンドを持つ人材が遠野のために活躍している。
知ったこと③ ビールが人を動かす
遠野からホップ、ホップからビールが作られる。
そしてビールはただの飲み物ではなく、人を呼び込み、人同士をつなげる力がある。
私がキリンビールの工場見学に行ったのも、父がビールを好きだからであるし、遠野に行けたのも、ビールの原料を知りたい、と切望したからだ。
飲み会を企画すれば、予定していたより人が多く参加することはよくあるし、親戚で宴会を開けば、家族の絆が深まる気がする。
ビール好きなら、遠野で行われていること、イベントやツアーを知ったら、行きたくてたまらなくなるのではないだろうか。
例えば、ホップ畑で、青空の下、長テーブルを囲んでビールを楽しんだり、ブルワリーを訪れたりするツアーや、収穫祭がある。
今は、遠野に行けない、という人でも、ふるさと納税で「ビールの里プロジェクト」を寄付先に指定して、返礼品をもらう人も増えてきている。
このようなビールの力を、田村さん達は、ホップの産地である遠野で活用して、遠野を存続、発展させていこうとしている。
ビールの力は、単に飲むのが好きな人だけでなく、その原料の産地を活性化させようと働く人にも波及する。
田村淳一さんは、地域のために働きたいという硬い意志をもった人だ。
問題を抱えた地域は日本各地に山ほどあるはずだが、田村さんが遠野に来たのは、ビールが好きという気持ちがあったからでもある。
田村さん自身も、ビールの力に引き寄せられて、遠野に来て今も活動しているのだと感じた。
このようにビールによって動かされた人は、遠野に来たり、経済的効果を生み出したり、農業の活性化に寄与したりする。
そのおかげで、伝統芸能の担い手や、ホップ以外の農家など、今まで遠野を形作っていた人達が、これからも活動できて、その結果、遠野の風景も未来に伝承されていく。
持続可能なホップ栽培を目指すことと、持続可能なまちづくりが同時に動いていると知って、世の中は様々なものが重なり支え合い連動してできているんだと実感した。
ホップはビールと。
ビールは楽しいイベントと。
イベントは観光と。
観光は経済と。
経済は産業と。
産業は風景と。
風景は……etc.
ホップは単体ではパンチが弱く、これだけで地方活性化に寄与できるとは考えにくい。
でも、ビールとつながることで、ビールに付属していたストーリーやファンを獲得できる。
ホップとビールがくっついたら、これに関係するストーリーやファンが新しくできて、今まで以上にストーリーは深く、ファンは多くなっていく。
こうして結びつきを繰り返していけば、それぞれの単なる総和以上のものができあがりそうだ、と感じた。
今回は「ビール」がたくさんのものを引き連れているから、ホップから町おこし、にまで規模を大きく考えられたのだろう。
私はいま、ホップとビールのファンである。
遠野でのインターンシップを終え、ビールも、ホップも、奥深いとわかり、これらに対する興味が以前とは比べものにならないほど高くなった。
ビールを飲むとき、原料をチェックしたり、銘柄による味の違いを捉えようとしたりしているし、遠野のホップ畑で栽培されていたIBUKIを使った、「採れたてホップ一番搾り」も早く味わってみたい。
そのあと、ホップとビールを楽しむ次のステップは、ビールのイベントやツアーに参加することだと思う。
楽しい体験、記憶、感情を結び付けて、より深い経験にすることができるからだ。
友達や家族を誘って、ぜひ、また遠野に行ってみたい。
そうすれば、遠野を活性化するのに、私が一役買えるかもしれない。
#杜の都のビール学舎